第12話 不味いし辛いし……

 …………。


「話、ですか? 一体、何の……」

「しらばっくれなくたっていいじゃないか。ねぇ、パトリニア君。君、本当に魔法を習ってたの?」

「……何の冗談ですか? 言ったじゃないですか、魔法使い見習いだって」

「見習いとはいえ、普通は基礎魔法の一つや二つ、習得しているもんだ。それに、さっきの反応。明らかに異常だった」

「…………」

「ねぇ、パトリニア君。君は一体、何を抱えているんだい?」

「……それ、言わないといけないのか?」

「いいや、強要はしない。だが、これから一緒にいるとなれば、知っておく必要があると思ってね」

「……ヴァイオレットさん。人にはな、踏み込んではいけない領域ってものがあるんだぞ?」

「私がそういうことを気にするタイプと思うかい?」

「…………」

「ま、意外と気にするんだけどね。分かったよ、これ以上はもう聞かない。……でも、いつかは話してくれよ?」

「それは……分からない」


 まあ、信用してる人にも話したことないから、絶対にないだろうけど。


「……そうか。……さてと、パトリニア君。ダフネの葉も集めたことだし、そろそろ出発しようか」

「出発……? どこにですか?」

「え? 街に戻るんじゃなかったの?」

「……あ!」

「クックックッ、その反応、完全に忘れてたね」

「……そ、そんなのはいいから、今度こそ、ちゃんと案内してくれよ!?」

「はいはい、分かってるよ。えーっと、現在地から考えて、街までは……丸一日ってところかな」

「うげっ!! またそんなに歩かなきゃなのかよ……」




 ――パチパチ。


 爆ぜる火に小枝を投げ込みながら、暇を持て余す。

 ……疲れた。

 もう、歩きたくない。


「おや、随分とグロッキーだねぇ」

「だ、誰のせいだと……」


 コイツが、植物のトラップがあることに気付いていながら、ギリギリまで教えないせいで、スタミナが余計に削れまくった。

 ちくしょう、僕で遊びやがって……!


「まあまあ、そんなにツンツンしてないで、これでもの見なよ」

「……なんですか、これ?」

「その辺で採れた薬草を煎じたお茶」

「…………」

「おや、無言で突き返してきて、どうしたんだい?」


 前に薬を盛られたのに、スッと飲めるわけないだろ。

 それに、気軽に飲むには怖すぎる説明をしたせいだろ。


「……ふむ、そんなに私の調合したお茶が気に入らないのかい?」

「気に入らないとか、そういう次元の話じゃない」

「ふーん……。……それなら、これでどうだい?」


 そう言ってヴァイオレットは、一気にカップの中身を飲み干した。

 そして――


「うげぇぇぇええええ!!」

「ちょっ、なにやってるんだよ!?」




 ああ、くそっ、せっかく焚火で優雅な気分になってたのに、こいつのせいで台無しだ。


「ご、ごべんね、まざか、こんなにまずいだなんて……」

「こんなに、ってことは、まずいって分かってたのかよ!?」

「ま、まあ、体にいい薬草を適当に混ぜただけだったからね。味は良くないとは思っていたんだよ……」

「……そんなもん、出してくるなよ」

「だから、ごめんってば……。ほら、これあげるから、許してくれないか?」

「……なんだ、これ?」


 ヴァイオレットに渡されたのは、小さな赤い木の実だった。


「これはね、焼いた肉の味がする不思議な木の実なんだ。さっき歩いてるとき、偶然見つけてね。栄養価もそこそこあるから、非常食にオススメなんだよ」

「へ―。……食べてみていいか?」

「もちろん」


 丁度一口分だし、確かに非常食にはちょうど良さそうだ。

 ……いただきます。


 ――パクッ。


「…………」

「お味はどうだい? ん?」

「なんの味もしな、い……!? ……うおぉぉおおおお!!?!?!?!!?」


 噛み潰した途端、果汁が中から溢れ出してきた。

 それも――


 ――激辛のやつが!!


「辛っ!!」

「ククッ、アッハハハハハハァア!! ひ、引っかかった!! その木の実はね、スパイスにも用いられるような代物で……痛っ!?」


 爆笑するヴァイオレットを、口を押さえてない方の手で引っ叩いた。

 こいつ、いたずらの限度を知らないのか!?

 もう、こいつの事は絶対に信用しない。

 僕は、そう固く決心した。

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