第11話 あり得ない
嗚咽が零れる。
自分の無能さに。
他人に頼ってしまっている状況に。
何もできないもどかしさに。
先程から、ヴァイオレットは次々に跳びかかってくる魔獣に正確に薬を投げ続け、無力化していっている。
だが、少しずつ息が上がってきており、掠り傷の数がだんだんと増えてきていた。
僕も何かするべきなのだろうか。
他人を助ける意味なんてあるのだろうか。
僕の頭の中は、その二つの思考にぐちゃぐちゃにかき乱された。
かき乱されるせいで、何も動けなくなってしまう。
そして、そんな僕は――
――格好の標的だった。
「ガウッ!!」
短い鳴き声を上げ、一体の魔獣がこちらに駆けてきた。
それに気付いたヴァイオレットが、素早く僕と魔獣の間に割り込んだ。
そして――
――ザシュッ!!
「……ゴホッ!!」
ぼたぼたと、大量の血が地面に落ちる。
あ……。
「……この、犬っころが!!」
「ギャウッ!!」
どす黒い色をした丸薬が当たり、魔獣が泡を吹いて倒れた。
「ハァ、ハァ……。い、今のが最後か……。うぐっ、ガハッ!!」
「ヴァイオレット……?」
再び大量の血を吐き出し、ヴァイオレットは地面に倒れた。
見れば、肩口から腰まで、大きな切り傷が付いている。
「くそっ、これはさすがに、痛いな……」
「あ、え、えと……。と、とりあえず、お、応急処置を……」
明らかな致命傷を前にパニックになってる僕を尻目に、ヴァイオレットは小さな笑みを浮かべた。
「クックックッ、そんなに焦らなくて大丈夫だよ。それよりも、胸ポケットに入ってる小瓶を取ってくれないか?」
「あ、えっと……、こ、これですか?」
「うん。それを飲ませてくれ」
「えっ、なんで……」
「いいから、早く」
言われたとおり、ヴァイオレットの口に小瓶の中身を流し込んだ。
すると――
「……は?」
目の前で起こったことに、思わず間抜けな声が漏れ出てしまった。
「うーん、やっぱりまずいね、この薬は」
「は? え、や、は、え!?」
薬を飲み干した瞬間から、あれだけ大きかった傷がみるみる内に塞がっていき、消えてしまったのだ。
いや、は!?
「おや、随分と不思議そうな顔をしているねぇ……」
「い、いや、だって……はあ!?」
「ま、その反応も無理ないか。あれだけの規模の傷、普通の回復薬だと治らないからねぇ。さっき君に飲ませてもらった薬、あれは私専用に調合した、特殊な回復薬なんだよ。飲めばどんな傷でも一瞬で塞がる、奇跡のような薬さ」
…………。
聞いてなお、意味が分からない。
明らかに、回復薬の常識を凌駕している。
「よっこいしょっと。うーん、快調、快調!!」
呆然としている僕の前で、ヴァイオレットは気持ちよさそうにストレッチを始めた。
……死んでしまうかもしれない、とパニックになっていた僕は、なんだったのだろうか。
「……さて、パトリニア君」
ストレッチをやめ、真剣な面持ちでこちらを振り向く。
「さっきの話の続きをしようか」
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