第10話 魔法は

 やばい、殺される。

 奴らを見た瞬間、脳内の思考がそれだけで埋め尽くされた。


「……パトリニア君」

「な、何、だ?」

「魔獣を一番手っ取り早く追い払う方法は、魔法を使う事なんだ。……君、見習いとはいえ、魔法使いだよね?」

「ま、まあ……」

「どの程度、魔法を使えるんだい?」

「…………」

「パトリニア君?」


 言うべき、だろうか。

 ……言うべきなんだろうなぁ……。


「一つ、だけ、です……」

「一つ? えっ、一つ!?」

「…………」


 無言のまま、僕は小さく頷いた。


「……そうか……。うーん、ちょっとした誤算だな、これは。……使える魔法って、基礎魔法のどれかってことかな?」


 基礎魔法。

 火、風、水、土の四種類の魔法のうち、最も使用しやすく、習得難易度の低い魔法の事だ。

 魔法使いであれば、誰でも当たり前・・・・・・・に使えるし、それを応用して、新たな魔法を生み出したりもする。

 ……でも……。


「違い、ます……」

「……なるほど。君に魔法を教えた師匠に会って、なんで教えてないのかを問い詰めたいところだが、今はそんな余裕もないね」


 師匠、という言葉を聞いた瞬間、激しい目眩に襲われた。

 …………。


「あ、あの、僕には、なにも、期待、しないで、ください……。魔力を、使えるだけの、無能、なので……」

「……パトリニア君?」


 足から力が抜け、崩れるように地面に座り込んだ。


「お願いです、僕に何も期待しないで。魔法以外なら、何でもやりますから。だから、だから……」

「パトリニア君!? ちょ、えっ、ど、どうしたんだい!?」


 ガタガタと震え出した僕に、ヴァイオレットが心配そうな顔で近づいてきた。

 ……だが、それが間違いだった。


「グルルルルルル……!! ガウッ!!」


 低い唸り声とともに、魔獣がヴァイオレットめがけて跳びかかってきた。


「なっ!? チッ、もうちょっと待ってくれれば、ちゃんと遊んであげるってのに……!!」


 丸薬を投げつけられ、跳びかかってきた魔獣はすぐに倒れた。

 だが、その後ろからも五体の魔獣が迫ってきていた。


「ハァ……。今はパトリニア君とお話ししたいんだけどねぇ……。……パトリニア君、ちょっとだけ待っててね。すぐ終わらせるから」


 優しい声色でそう言いながら、ヴァイオレットは懐からいくつか丸薬を取り出した。


「さてさて、魔獣くんたち? 私が遊んであげようじゃないか。ルールは簡単。私を殺せれば君たちの勝ち。それじゃ、よーい……」


 ヴァイオレットが言い終わるよりも先に、一番大きな魔獣が跳びかかってきた。


「……フライングもルールに追加すればよかったかな」


 そう呟きながら、ヴァイオレットは丸薬を魔獣に投げつけた。


「……おい、魔獣ども」


 ひんやりとした、魔獣とはまた違う恐怖を覚えるような声で。


「早く来なさい。可愛がってあげるから」


 ヴァイオレットはそう言い放った。

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