第9話 魔獣が

「あー、よかった。君が取引を受けてくれなかったら、どうしようかと思ってたよ」

「あっそ。……ほら、葉っぱの量が足りてるか、確かめてくれ」


 ナイフと枝をヴァイオレットに手渡した。


「あ、そうだね。えーっと……。……うん、大丈夫、足りてるよ。それじゃ、パトリニア君、これからよろしくね」

「…………」

「ねえ、握手しようとした手を無視するなって、何度言えば分かるんだい?」

「そんなことはいいから、早く街に帰るぞ。今度こそ、ちゃんと案内してくれよ」

「はーい、分かったよ……。でも、少しだけ待ってくれないかい?」

「どうかしたのか?」

「うーんとね、ちょっとだけまずいことになっちゃってるねぇ……。……パトリニア君、私の後ろに隠れて」

「は? 何言って……」

「いいから、早く!」


 ヴァイオレットの気迫に押され、僕はさっと背後に回った。

 その直後――


 ――グルルルルルル。


 地面が揺れるような、低い唸り声がどこからか聞こえてきた。

 何が起こってるんだ!?


「うーん、どうやら、ちょっとばかし騒ぎすぎたようだねぇ。……魔獣がよってきた」


 見れば、ヴァイオレットの視線の先に、何か黒い影のようなものがいた。


「ヒッ!!」

「静かに。刺激すると、襲われる」


 影のように見えたそれは、夜の闇のように黒い毛皮を持った、巨大なオオカミのような生物だった。

 あれが、魔獣……!?

 本で見たことはあったが、あんなに禍々しいとは……。


「ガルルルルルル」

「おやおや、随分と気が立っているねぇ。そんなに縄張りを荒らされたのが気に入らなかったかい?」

「ちょっ、どうするんだよ!?」

「どうするって、追い返すしかないよ」

「だから、どうやって……」

「だから静かにって! ……ほら、動いた」


 ヴァイオレットがそう言ったと同時に、魔獣がこちらへ走ってきた。

 やばい、殺される……!!


「ほら、これでも食べな!!」


 素早く懐に手を入れ、ヴァイオレットが何かを投げつけた。

 すると、一瞬で魔獣の動きが止まり、力なく地面に倒れた。


「ふぅ、やっぱり、シビレヅタちゃんはよく効くねぇ」

「た、助かった……」

「クックックッ、君のテンパってる姿、可愛かったよ」

「なっ!?」

「さてさて……、君を揶揄からかうのはここまでにして、次を警戒しないとだねぇ……」

「……次?」

「おや、魔獣の習性を知らないのかい? 魔獣というのはね――」


 そこまで言って、ヴァイオレットがさっと視線を前方に向けた。

 ……あ。


「――魔獣は、群れで生活するんだよ」


 本能的な恐怖を呼び起こすような唸り声をあげ、十数頭の魔獣が姿を現した。

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