第5話 添い寝か、もしくは……

「お、お前、謀ったな!?」

「別に謀ったつもりはないさ。ただ、君がいつになったら気付くのかを、観察していただけさ。にしても、今の今まで気付かなかっただなんて……クックックッ」


 こ、こいつ……!!


「それで、どうするんだい? このまま森をさ迷い歩くのか、森を抜けるまでの間だけでも、私と一緒にいるのか」

「……分かったよ」


 そんなもん、あって無いような選択肢じゃねえか。


「よしよし、いい子だ。それじゃ、明日は早く発つから、ささっと寝ようじゃないか。……あ、君がしてほしいなら、添い寝でも……」

「絶対にやめてください。僕は、その辺で寝ますんで、近寄らないでください」


 そう言って僕は、少し離れた地面の固そうな場所に行き、ヴァイオレットを睨みながら寝転がった。


「……むぅ。そこまで拒絶しなくても良いじゃないか」




 …………ん。

 小鳥のさえずり、木漏れ日が閉じたまぶたに当たる感触。

 ……もう朝か。

 ……ん?

 すぐ近くから、小さな寝息が聞こえる。

 それに、後頭部になんとなく違和感が……。


「……うわあああぁぁぁあああ!?」

「ひゃっ!? ……あぁ、なんだ、もう起きたのか。おはよう、パトリニア君」

「お、おはようじゃないだろ!! 何してんだ!?」


「何って、膝枕だけど?」


「当然のことみたいに言うな!!」

「おや、そんな態度でいいのかい? 君が随分とうなされてたから、わざわざ、膝枕をしてあげたというのに?」

「……関係ない。それに、昨日寝る前に、近寄るなって言ったよな?」

「あれー、そうだっけ?」


 あまりにも白々しすぎるだろ。


「というか、パトリニア君、早く準備始めなよ」

「……準備?」

「おや、もう忘れちゃったのかい? ほら、街に戻りたいんだろう?」

「……あ!!」

「ほら、思い出したんだったら、早く準備をしなよ。まったく、君は悠長に喋りすぎなんだよ」


 元はといえば、誰のせいだと……!




「……準備、終わったぞ」

「ん、分かった。にしても、随分と時間がかかったね」

「魔道具の点検とか、色々あるんだよ」

「……ふぅん。ま、いいや。それじゃ、早速出発といこうか」


 ……一瞬だけ、ヴァイオレットの瞳が怪しく輝いた……様な気がした。

 なぜだろう、嫌な予感がする。


「そんなにゆっくり歩いてると、街に着く前に日が暮れてしまうぞー!!」

「えっ、あ……」


 いつの間にやら、ヴァイオレットとの距離が随分と開いてしまっていた。

 こんな森の中ではぐれるだなんて、冗談じゃない。

 朝の光にやんわりと包まれている森の中を、僕は慌てて駆けだした。

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