●書籍化決定!スキル授与神官の最強村づくり~「外れスキルを授けたお前は左遷だ!」と辺境の地に追いやられた少年神官。 村人に神スキルを授与し伝説の村を作り上げてしまう。
第30話 【SIDE:王都教会】聖者の理屈
第30話 【SIDE:王都教会】聖者の理屈
「こ、これはドライド
「……」
王都教会の一室にて。
ゴルベールは窓辺に立ち外を眺めていた
白髪の男は振り返らない。
彫像のように身動き一つせず、沈黙を守ったままだ。
外に目を向けているため表情も窺うことができなかった。
(くっ……。この御方に黙っていられると緊張感があるな……)
自分よりも立場が上にある者の沈黙というのは、どうしてこうも圧迫感があるのか。
ゴルベールは固唾を飲み込みながらそんなことを考えていた。
ドライド枢機卿――。
現王都教会の最高権利者であり、ゴルベールの上職に当たる人物だ。
遠征から帰還し、今こうしてゴルベールが呼び出されたという状況になっている。
「あ、あの……。ドライド枢機卿?」
ゴルベールは堪えきれなくなって、ドライドへと再び声をかける。
ドライドからすぐに反応がなく、また沈黙が続くのかとゴルベールが思った矢先だった。
「やあすまない。少し、考え事をしていたものでね」
「い、いえ……」
ドライドはゆっくりと振り返りゴルベールへと視線を向ける。
浮かべた柔和な笑みとは対象的に、糸目のように鋭い目つきが妖艶な印象を抱かせた。
顔立ちは年齢不詳といった感じで、見ようによっては三十代そこそこのようにも見えるし、六十代と言われても納得することができるだろう。
(考え事をしていた、か……。よもや私の失態を知り、どのように処罰するか考えていたのではあるまいな。いや、帰還されたばかりでそれはない、か……?)
ドライドの放っていた不思議な圧によって、ゴルベールの思考は悲観的な方向へと流されていた。
「この度は長らくの遠征、お疲れ様でございました。と、ところで、今回の遠征ではどのような――」
「ゴルベール大司教」
「はひっ……!」
ドライドがただ一言発しただけだというのに、ゴルベールはみっともなく裏返った声を上げた。
「そのような前置きはいらないよ。さっそく本題に入るとしようじゃないか」
「ほ、本題でございますか?」
「うん。まずは君が失脚したエーブ辺境伯から個人的な献金を受け取っていたという件だ」
「……っ!」
ゴルベールは思わず尻もちをつきそうになった。
ドライドの細い目に射抜かれたかのように、ゴルベールの顔は青ざめていく。
「どうしたんだい? 今日は暑いくらいにいい陽気の日だというのに」
「あ、いえ……。その……」
全てバレている。
ドライドが怪しく口の端を上げたのを見て、ゴルベールは察した。
「なぜ発覚したのか」よりも先に「どうするべきか」という思考がゴルベールの頭を覆い尽くす。
情けなく額を床に擦り付け、許しを
例えそれを行動に移したとしても、大げさなどではない。
ドライドが過去、不始末を働いた人物を処罰してきたことをゴルベールは知っていたからだ。
「申し訳ありません、ドライド枢機卿っ! つ、つい魔が差してしまい、その……」
「おや、誤解させてしまったかな? その件に関して別に私は何とも思っていないよ」
「……は?」
「君が誰よりも金や権力を欲していることは知っている。しかし、執着は何も悪いことではないさ。人は何かに執着するからこそ生きられるのだからね」
ドライドは笑みを浮かべたままで言葉を続ける。
「時折、世間には執着そのものを悪だと訴える者がいるが、私にとってみれば謎だよ。自分が飢えれば他の生き物を殺してでも腹を満たそうとするのが人間だというのに。生への
「それは、確かにその通りでございますな……。はは……」
「金や権力への執着? 大いに結構。私は君のその心構えを評価しているつもりだよ。だから別に、君が個人的に受け取っていた献金については糾弾するつもりもないさ」
「あ、ありがとうございます! そのように仰っていただけると私としても――」
「
時が凍る、とはまさにこのようなことを言うのだろう。
ドライドの糸目が僅かに開き、ゴルベールの心臓が大きく跳ねる。
「さて、私が築き上げてきた王都教会に、多くの民から不信を
「あ、あぁ……」
ゴルベールはパクパクと口を開閉させ、呻き声を漏らすのが精一杯だった。
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