第21話 バルガス公爵との作戦会議


「おお、リド君。来てくれたか。早かったな!」

「ご無沙汰しております、バルガス公爵」


 夕刻、ファルスの町の領主館にて。

 ソロモンの絨毯でラストア村を出発したリドたちは、その日の内にバルガス公爵の元へと到着していた。


「お、お父様。うっぷ……。ただいま戻りましたわ……」

「おいおい、どうしたエレナちゃんよ。えらく疲れてんな」

「ちょっとした絨毯酔いですわ……」

「絨毯酔い?」


 ソロモンの絨毯の高所高速移動を体験したことで、エレナとシルキーはぐったりとしていた。

 ちなみにミリィはいつもと変わらない様子でピンピンしている。


 リドがここに来るまでの経緯を話すと、バルガスは大きく口を開けて笑い出した。


「ハッハッハ! 絨毯で空を飛んできただと? それも今日の内にラストアからファルスまでやって来た? 相変わらずリド君のやることは規格外だな!」

「すいません、バルガス公爵。急ぐにはあれしかなくて……」

「いやいや、ありがてえ話だよ。こっちとしちゃあ早く援軍がほしかったところだしな。それにしてもエレナちゃんの高所恐怖症は相変わらずだな!」

「笑い事じゃありませんわ……」


 いつもより元気のないエレナの肩を、バルガスがバンバンと叩く。

 それに合わせてエレナに抱えられたシルキーも揺らされ、同じくやつれていたシルキーはとても迷惑そうな顔をした。


「しっかし、左遷されるとは大変だったなリド君。オレも娘と一緒にゴルベール大司教と会ってきたんだが、ありゃあ中々の節穴っぷりだったぞ」

「そ、そうなんですか……」

「まあ、それはそれとして、だ」

「今はこの近くにいるというモンスターを何とかしないとですね」

「ああ。娘から話は聞いてると思うが、普段人里には現れないはずの高位モンスターがぞろぞろ現れやがってな」


 バルガスは執務机の上に大きめの地図を広げ、モンスターの出現箇所について説明していく。


 幸いにもファルスの町にモンスターが侵入してくる事態は避けられているようだが、バルガスの説明によると、日に日に町の近くにモンスターが迫っているらしい。


 今は自警団や町に逗留とうりゅうしていた冒険者たちがモンスターを対処しているものの、状況は切迫しており、気丈に振る舞っているバルガスの目元にもクマができていた。


「このままだと数日の内にモンスターが町を襲いかねねぇ。何とかして食い止めなきゃいかんのだが……」

「お嬢さん曰く、統率している親玉のモンスターがいるのではないかというお話でしたが?」

「ああ。オレはそう踏んでいる。モンスターの出現箇所もこの町の南西に偏ってるしな」

「南西……。『サリアナ大瀑布だいばくふ』がある方角ですね」

「その通りだ」


 バルガスが神妙な面持ちで頷き、リドは地図の南西方面に記された巨大な滝へと視線をやる。

 元々は自然豊かな景勝地として知られていたが、近年ではモンスターの多発化に伴い一般人の立ち入りが禁じられた場所だ。


「恐らく、サリアナ大瀑布の奥地に何かがいる。だから、リド君たちには敵の本丸を叩いてもらいたい」

「はい。分かりました」

「すまねえなリド君。オレも力になりてえが、残念ながらこの有様じゃな」


 言いながら、バルガスは失った腕の肩口をもう一方の手でポンポンと叩く。

 それを見て目を細めていたエレナの様子に、ミリィだけが気付いたようだった。


「決行は明日だ。今日はもう陽も落ちてるしな。今日はこの館に部屋を取らせたから、リド君たちはそこで休むといい」

「承知しました。それでは、また明日」


 リドたちは互いに頷き合い、各々の部屋へと向かうことにした。


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