第10話 新たな神器
「なるほど。最近になって黒い水晶のような鉱物が採れるようになったと」
「そ、そういうことだ。俺たちを雇ったエーブ伯は『
酒場でリドに絡んできた男たちが目を覚ました後のこと。
男たちは始めとは打って変わって従順な態度を見せていた。
「その黒水晶は採掘した後どうしてるんです?」
「残念ながら、それは分からねぇ。ほ、本当だっ! 何でも、強い魔力を帯びているからってんで上客がいるらしいんだが、どこでそれを保管しているかまでは秘密にされてて――」
「エーブ辺境伯はどちらに?」
「まだこの街にいるはずだ。今日ちょうど、エーブ伯の所に行って報酬をもらってきたところだったからな」
どうやら男たちはドーウェルを管轄するエーブ辺境伯に雇われた傭兵のような存在だったらしい。
情報隠蔽のために雇われたならあんな公衆の面前で反応したら駄目だろうと、シルキーがもっともなことを呟くが、男たち曰く金が入って酒を浴びるほど呑んでいたから思わず反応してしまった、とのことだ。
「とにかく、この人たちは詳しいことまで知らされていないみたいだね」
「いずれにせよ領主である辺境伯が鍵を握ってるってわけか。なら次に行く所は決まりだな」
リドとシルキーが言って、頷き合った。
そして、次の目的地をエーブ伯がいるという領主館に定める。この分だと一緒にいる方が安全だろうという理由でミリィも同行することになった。
「なあ、教えてくれ。アンタは何者なんだ? どう考えてもただの神官じゃねえだろ。もしかして、王家が遣わせた特務密偵か何かか?」
エーブ伯の領主館に向かおうとしたリドに、リーダー格の男から声がかかる。
「僕は普通の神官ですよ。この近くに左遷されてやって来たんです」
「は……? 左遷って、アンタがか?」
「はい。そうですけど?」
「信じられねぇ……。こんな腕の立つ人間を追い出すとか、命じた奴の目は節穴かよ……」
シルキーがミリィの腕の中で「そこに関しては吾輩も同意見だな」と頷いていた。
***
「さて。やっぱり見張りがいるな」
領主館の門の様子が窺える物陰まで来て、シルキーが呟く。
入り口には門兵が二人。中にはもっと多くの傭兵がいるだろう。
「どうしましょう、リドさん。普通に頼んで入れてくれるとは思えませんし……」
「確かに。エーブ辺境伯に会うまで余計な騒ぎを起こしたくないし、
「『アレ』……?」
リドはミリィに頷いた後、目を閉じて右手を突き出す。
そして神経を集中させると、ある言葉を発した。
「【神器召喚】――」
一瞬、まばゆい光が立ち込めたかと思うと、リドの突き出した手には黒く大きい布のようなものが握られていた。
突如として現れたその謎の大布に、シルキーを抱えていたミリィの青い瞳が見開かれる。
「こ、これって……」
「リドが扱う《アルスルの
「神、器……?」
「まあ、分かりやすく言うなら特殊な効果を持つ優れた
「なるほど……。確かにワイバーンから助けてくださった時のリドさんの杖、凄い威力でした。特殊効果を持つ道具を二つも扱えるなんて……」
リドがアロンの杖から光弾を放ち、複数体のワイバーンを沈めた光景。ミリィはそれを思い返しながら言葉を漏らすが、シルキーはニヤリと口の端を上げる。
「くっくっく。誰が使用できる神器は二つと言ったよ」
「え?」
「リドのスキル【神器召喚】で扱える神器は軽く五十を超えるんだ。すげーだろ?」
「ごじゅ…………。リドさんって、一体何者なんですか……」
ミリィは呆然としながら、新たな神器を手にしたリドを見つめる。
「よし。じゃあこれを使ってあの館に潜入しよう」
「は、はい……。でもこの神器、どういう風に使うんです?」
「うん。まず、これをみんなで
「え……?」
――バサリ、と。
リドが《アルスルの外套》を広げ、ミリィと一緒に中へと潜り込む。
《アルスルの外套》には袖がなく、不思議と頭から被っても外の景色を見渡すことができた。
しかし二人で被るために、リドとミリィはお互いの肩が密着する程の距離にまで寄ることを強いられる。
だからと言うべきか、ミリィの心臓はドクンと跳ね上がった。
(り、リドさんがこんな近くに……! それに、密閉された空間で二人きりだと、何だかいけないことをしているような……)
「いや、吾輩もいるからな。むっつりシスターよ」
ミリィの胸中を完全に読み切ったシルキーが呆れながら囁く。
「それで、これを被っていれば気配を隠すことができるんだ。大人しくしていれば、周りからは僕たちの姿が見えなく――ってミリィ、聞こえてる?」
「は、はひぃ……」
リドが《アルスルの外套》の効果を説明するも、ミリィはそれどころではなかった。
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