第25話 アラフォー、受け止める
あー……やってしまった。両脇にアイナと小悪魔、私の上にリヴェラ。お酒の勢いのままにリヴェラの処女を奪い、眷族としてしまった。
「ん……おはよう……Dさん……」
「お、おはよう」
耳元で囁くようにリヴェラが言う。い、いかん。朝も相まってソレが……
「Dさん……元気……あんなにしたのに……」
「あー、いや、これは」
「知ってる……朝特有の現象……」
「そ、そうか」
「Dさん……困ってる……昨日のこと……気にしてる……」
言い当てられた。しかしなんと返したものか……リヴェラが嫌がらなかった、いや、むしろ求めてきたのは何故かなど彼女に聞くのは野暮だろう。
「私ね……貴方の魔力と触れ合って……好きになった……貴方の魔力……懐かしい……大昔に感じたはずの気持ち……分からなくなって……感じなくなった気持ち……それが蘇った……確か大昔に好きな人がいた気がする……でも名前も顔も何もかも忘れた……気持ちだけがわずかに残ってた……私は長く生きてる……だからいらない記憶は消してる……でも大事だった記憶も自然と消えちゃうの……」
無口なリヴェラがポツリポツリと話す。長くを生きる存在。大切な記憶の意図しない欠落。僅かに震えて涙声のリヴェラ。感情を表に出さない彼女が見せる揺れ動き。私は無意識に抱きしめていた。
「貴方も消えちゃうのかな……思い出は焼却されるのかな……? そんなのイヤ……消えないで……」
「私はリヴェラのように長く生きられるかは分からない。だけど少なくとも生きているうちはリヴェラの近くにいるよ。それからたくさん思い出を作ろう。消しても消えないくらい強い思い出を、さ」
月並みなことしか言えない自分がもどかしい。もはや仙人の域に達しているリヴェラにこの言葉が意味を成すかは分からない。だが言うしかない。
「うん……」
それだけ返すリヴェラ。それにどれ程の意味があるか……計り知れない。
だが少なくとも、今の彼女は魔術と錬金術の大図書館ではなく、一人の少女だ。そして私の眷族だ。
思い出、か。
——夜
あの後、ひとしきりの身支度と食事をすませ、リヴェラは塔に、小悪魔は厨房へ、アイナは工房エリアに併設した射撃練習場にと各々やりたいことへと向かった。
そして私はというと……
「お主も罪な奴じゃのう。リヴェラも落とすとはな」
「まぁ、な」
「私は良いと思う。Dさん優しいから」
「全くこのままではドリアード様とヴィルベル様にも手を出しそうだな」
ドリアードの小屋で談笑していた。もちろんおしゃべりも楽しいが目的は他にもある。
「して……ドリアードよ、『漆黒ビール』は作れそうかの?」
「材料の栽培はできる。でも元がない」
「『落陽麦』、『夕暮ホップ』が必要なんだよな?」
「どれも魔界の……人間界にあるとしても限定的で超希少なものだな」
今作ろうと取り掛かっているのはビール。なんでもヴィルベルとフレイの好物らしい。私もビール派な人間ではあるので自家製造できるならそれに越した事はないが……材料の問題が出てきた。どこに探しにいこうか?
「魔界は人間が入りにくいしのう。我も顔を出すと色々面倒じゃしな」
「かと言って人間界では……」
「人間界からいけてヴィルベル様のお手を煩わせず、魔界に近しい場所……」
「そんな都合のいい場所。ないと思う」
うーむ……諦めるには少し惜しい。そんな場所……場所……
「あるぞ! 城の地下迷宮!」
「おお。そういえばそうじゃったな」
城の地下迷宮、汚染魔力の問題さえ解決すれば好条件だ。と、なると頼りは……
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