第12話 アラフォー、病院に行く

 迷宮から帰還するとまだ深夜だというのに整理券待ちの列ができていた。人気は本当のようだ。

 さて、宿を探さねばなるまい。宿屋通りは……ここからすぐだな。

 流石にこの時間帯に人通りはまばらだ。おかげでシャドウステップを使いやすい。あっという間に一軒の宿屋……というよりはホテルの前に到着。

——キィ

「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか?」

「いや、予約はしていない。部屋は空いているか?」

「一人部屋でしたらご案内できますが」

「分かった。それで頼む」

 部屋の鍵を受け取り客室に向かう。見た限りではなかなかに良いホテルだ。部屋を変えて王都での拠点にするのもアリだろう。

 と、客室についた。まずはアイナを寝かせて……

「ヴィルベル、お疲れ様。助かったよ」

「ま、我にかかればあれくらいなんとでもなるのじゃ。それより褒美に鎖をくれんかの?」

「ブレないなぁ。『ダークチェーン』」

「おほぉ! これじゃこれじゃ!」

 部屋の隅っこで蕩けるヴィルベルを尻目にアイナの様子を見る。外傷はないが……

「ううん、あれ? ここは?」

「迷宮から帰還してホテルを取ったんだ。大丈夫かい?」

「ちょっと変な感じがしますね……血を飲んでもらえますか?」

「分かった」

 これは副次的なものだろうが私とアイナはお互いの体調を私は赤を通して、アイナは白を通してかなり正確に知ることができる。

 アイナの血を飲む限り、身体的に異常はないが魔力の流れが乱れているように思える。これは専門家に診てもらった方がいいだろう。起きたら病院にでも行くとしようか。

「んっ……Dさん……」

「ああ。分かってる」

 まぁ血を飲んでしまえば漲るわけで。後は気の向くまま致すだけである。私たちの夜はこれからだ。


——


「ん……もう昼か」

 どうやら致した後そのまま眠ってしまったらしい。ヴィルベルも縛られたまま気持ち良さそうにしている。とにかくもアイナとヴィルベルを起こし支度をして病院に向かうとしよう。

——街中

「今日は曇天なので動きやすいですね」

「直射日光は辛いからありがたい」

「我も強い日差しは好かんのじゃ」

 曇り空は私たちにとって日中の味方だ。夜ほどでないにしてもかなりマシである。病院まではそう遠くないのも救いだ。後少し行けば……おっ、見つけた。早速入るとしよう。


 中はそれなりに混んでいる。大きな都市であるだけに一般市民や冒険者など患者は様々だ。受付を済ませて談笑しながら待つ。時間がかかるのは仕方ない。どこの世界だって一緒なんだろう。

——30分後

「次の方、どうぞ~」

 ようやく順番が回ってきた。私とヴィルベルは待機。特段大きな問題ではないことを願いつつ魔法創造だ。

「なぁヴィルベル、お前の使う魔法は人間にも使えるのか?」

「ふーむ、我の魔法に似たものなら人間でも使えよう。じゃが我と全く同じものを使うとすれば最低でも魔力回路が焼き切れるじゃろうな」

「それはヴィルベルの最低位魔法でもか?」

「じゃな。そもそも我の魔法と人間の魔法ではものが違いすぎる。我の魔法は我専用じゃ」

 ふむ……人間の魔法がレギュラーガソリンだとすればヴィルベルの魔法は航空燃料というところか。たしかに親和性はなさそうだ。

「じゃがお主の魔法にも同じ事が言えるぞ。人間のそれとも我のものともまるで異質じゃ。アイナは若干お主の魔法を使えるようじゃがな」

 ヴィルベルの言う通りだ。私の魔法は私専用、かつ私はこの世界における既存の魔法は使えないとなっている。改めて考えると眷族化によって私の魔法が使用できる様になったのはある意味予想外であったが。

「お主ならば我の魔法を真似てしまう事もできるであろうな。魔力量の問題はあるが」

「なるほどなぁ」

 ヴィルベルの魔法……使う事ができれば強力だ。いずれは習得しようか?

——ガラッ

「ふう。終わりました」

「どうだった?」

「魔力の乱れは治してもらいましたが暫くは魔力使用を控えるように、と」

「ふむ……」

 アイナが魔力を使えない、か。少なくとも迷宮探索はお休みするしかあるまい。私とヴィルベルだけで攻略できないわけではないだろうが三人で挑んだ方が良いに決まっている。……あ、そうだ。

「アイナ、確かガンロッドは銃としても使えるんだよな?」

「ええ。でも魔力を弾にしてますし魔力を使えないとなると」

「いや、もしかしたら実弾が使えるんじゃないかと思ってね」

「あっ! なら早速ロディアさんのお店に行きましょう!」

 よし、病院の会計を済ませてシャドウテレポートだ。

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