第四章

第11話 アラフォー、セレファニスタへ

「着いたな、セレファニスタ」

「賑やかですね~」

「前見た時からあまり変わっておらんの」

 あの日から更に3日。私たちはセレファニスタに足を踏み入れた。夜だというのに賑やかで活気がある。眠らない都市、ともいうべきか。とにかくギルドに行こう。ヴィルベルも冒険者として登録したいところだ。


——王都ギルド本部

 メタラシアのギルドも大きかったがセレファニスタのそれは更に大きい。思わず息を飲んでしまった。中に入ると複数のクエストボードに多数の受付ともはや規模が違う。部門ごとに分かれてもいるようだ。新規登録の受付でヴィルベルを登録し、クエストボードを見て回る。ランクの高いクエストはあるがヴィルベルがいる以上受けられないし、あまり美味しいクエストもない。

 受付に聞いてみると迷宮探索が良いとのこと。なんでも推奨ランクとレベルこそありすれどこの階層に挑んでもよいという状態らしい。つまり自己責任というわけだ。

「第一層から第三層は人気なので最大参加人数に制限がかかります。転送ゲートの関係がありまして」

 受付が言うにその階層は整理券をとらないことには入れないほど人気だという。だがそれは昼間の話だ。

「夜は入って大丈夫なのか?」

「制限はありませんが……危険度が跳ね上がりますので誰も入りませんね」

 なるほど、都合が良い。絶好の狩場だ。

 受付に礼を言い、迷宮入り口となる転送ゲートへと足を運ぶ。パネルに転送先と人数を入力し早速迷宮へ。アイナもヴィルベルもなかなかに乗り気だ。

 さぁ、どんな迷宮かな?


——


「ふむ……平原かの」

 降り立ったのは見渡す限り平原。迷宮の第一層としてはなかなか変わっているのではないか。

「何もいませんね」

「確かに様子が変だな」

 ゴブリンやスライムの一匹でも出ていそうなものだが夜だからだろうか?

「む! 下じゃ!」

——ゴゴゴゴゴ!

「うおっ!」

 地面から次々に魔物が湧いて出てくる。なるほど危険度が跳ね上がるとはこういうことか。完全に囲まれている。

「ブラックアサルト!」

「エアロバレット!」

 連射の効く攻撃で応戦。一匹一匹は大したことはない。だが数が多いな……

「我にたてつくとはの……ぬんっ!」

 ヴィルベルの腕の一振りは強力。衝撃波で魔物が吹き飛ばされている。変態だが実力はとんでもないものだ。しかしそれであっても手数が足りない。くっ、範囲攻撃ができれば……

「Dさん、少しだけ時間を稼げますか? 『サイクロン』なら持続的に範囲攻撃できます!」

「分かった!」

 アイナが準備に入る分、ブラックバレットも用いて手数を稼ぐ。腰ダメ撃ちは精度が下がるが仕方ない。

「ええい! うじゃうじゃと!」

——カッ!

——ドオオオン!

「ヴィルベル、私たちを巻き込まないでくれよ」

「分かっておるのじゃ! ……もう湧いてきおったじゃと!? ぐぬぬ……」

 ヴィルベルの強力な広範囲ブレス。それでも湧いてくる。きりがないぞ。

「準備完了! 『サイクロン』×10!」

 複数の大竜巻が魔物を吸い上げ切り刻んでいく。凄い魔法だ。

「くうっ……魔力が……!」

「私のを使うんだ!」

 こんな魔法を使っては流石のアイナも魔力が足りなかったのだろう。眷族化で受け渡しが可能になっていて良かった。そしてすかさずハイマナポーションを飲む。魔力がいくらあっても足りない!

「そっち側はどうだ、ヴィルベル」

「何発かブレスを撃っておるが消したそばから湧いてくるのじゃ!」

 ヴィルベルのブレスがどれだけ撃てるのかは分からない。マナポーションも多めに持ってはいるが魔物の数が数だけに油断はできないだろう。

 いつまで持つか……


——二時間後

「ぐうぅっ……」

「アイナ!」

 長時間に及ぶ魔力の行使、やはり持たないのだろう。サイクロンが消えかけている。

「アイナがマズいのう……よし、お主ら我の背に乗れ!」

 いうが早いかヴィルベルがドラゴンの姿に変わる。とにかくアイナを抱えてヴィルベルの背へ。

「よいか? しっかり掴まっておれよ!」

——キュイイイイ!

 ヴィルベルにとんでもない魔力が集まってくる。これは……

「我が奥義の一片を喰らうがいい! 『魔龍炎獄漆黒哮まりゅうえんごくしっこくこう』!」

——ゴオオオオ!

 黒い炎が辺り一面、この迷宮の隅々にまで届かんとする勢いで広がっていく。見渡す限り火の海だ。

「これで多少は大丈夫じゃろ」

「凄いな、ヴィルベル」

「まさかここで使うなどとは思わなんだがな」

 経験値が入ってくることを考えると確実に倒せているはずだ。これでまだ湧いてくるようなら一体何が起こっているのか、ということになる。と……?

「参ったなぁ……まさかこれを突破されるなんて……」

 目の前にふわりと現れた少年。まさか……

「初めましてだね。僕はこの階層のマスターだよ。ああ、身構えないで。これを突破できる人相手に僕の勝ち目はないから。あはは」

 このマスター曰く、夜の平原には多量の魔物を配置し、攻略させないようにしていたらしい。だがヴィルベルの火力の前にそれは打ち砕かれたようだ。

「イレギュラーなんだよね……迷宮を攻略したら何か宝箱でもあるんだけどこれの突破は考えてなかったからなぁ……」

「それなら根回しが欲しい。私たちが夜に攻略に入るという事を他のマスターに伝えて欲しいんだ」

「それでいいならやっておくよ。ついでに帰還もしておこうか?」

「ああ、頼む」

「はーい。それじゃあね~」

 とにかく帰還してアイナを休ませよう。

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