第12話 馨と葵
母親同士は幼馴染で、父親たちは大学からの友人。産まれた病院が一緒で同い年。家は隣り。何かの漫画の設定のような僕と葵。
僕が産まれた日の1週間後に、葵が産まれた。二人の幼い頃の写真には、当たり前のように、お互いが写っている。
産まれてから今まで、ずっと一緒にいる僕が、葵のことを一番分かっていると思っていた。それこそ、家族よりも誰よりも。
「おはよう。葵」
学校の校門の近くで、葵と鉢合わせした。
中学までは、一緒に登校していたのに、高校に入ってからは別々だ。最初は変な感じがしたけど、数ヶ月もすれば慣れた。
「おはよう。馨」
「・・・昨日、何かあったのか?」
いつも通りにも見えるが、どこか葵の様子がおかしい。
「・・・幼馴染って、こういう時、嫌ね。そんなに顔に出てる?」
「いや。分かるのは、僕ぐらいじゃないかな?いつから一緒にいると思ってるのさ。美紀子おばさんより、葵のこと分かる自信があるよ。朱音お姉ちゃんとは・・・引き分けかな?」
「確かにね。お母さんより、薫の方が気づくわね。お姉ちゃんは、薫の、その発言を聞いたら怒りそう」
「怒られるのは嫌だなぁ。朱音お姉ちゃん、怒ると怖いだもん」
校門から靴箱がある玄関ホールまでの距離を他愛もない会話をしながら歩く。
はぐらかされているのだろうか。葵が話したくないなら、無理には聞いたりしないけれど。
「ところで、馨。ミチルは?一緒じゃないの?」
「ミチルは寝坊だよ。間に合わないから、先に行ってて。って連絡がきた」
「そう。ミチルはたまに、大寝坊するものね」
玄関ホールに着き、靴箱の前で上履きに履き替える。履き替え終わると葵は、いつもより強く靴箱の扉を締め、そして意を決したように話だした。
「ねぇ、馨。もし、ミチルに元彼が存在して、急に馨の前に現れて、ミチルと別れろ。お前は、ミチルにとって邪魔な存在だって言ってきたら、どうする?」
「はぁ?」
思わず大きな声が出た。幸い、僕たちの登校時間が早いのもあって、周りに他の生徒はいなかった。いないからこそ、葵は話し出したのかもしれない。
「ごめん。大きな声出して」
「いいわよ。私も、急に変なこと聞いて、ごめんね」
今にも消え入りそうな表情で謝ってくる葵を見て、様子がおかしいことと関係があるのだろうかと思い、僕は自分の考えを葵に話し出した。
「ミチルの初めての彼氏が僕だから、元彼なんて想像も出来ないけど、、、。もし、万が一にでも元彼とかいう存在が現れて口出ししてきたら、正直言って、邪魔かな。僕がミチルが好きなように、ミチルも僕のことを好きでいてくれている。それでいて一緒にいたいから付き合っているのに、元彼ってだけで邪魔者扱いされてもね。僕からしたら、その元彼こそが邪魔だし」
「馨は、いつでもミチルへの気持ちをハッキリ言うわね。羨ましいわ」
僕が、ひととおり話すと、僕をじっと見ながら話を聞いていた葵が、感心していた。
「ミチルが大切だからね。こんな話を聞いて、どうしたの?何かあったことに関係する?もしかして、羽鳥さんの元カノが現れて、葵に牽制でもかけに来たの?それこそ、羽鳥さんにとって、葵は邪魔な存在だ。的な」
いくら、相手が葵だからといって、ミチルへのことを正直に話しすぎたかもしれない。急に恥ずかしくなって、誤魔化すように冗談で言ってみた。
「正解。昨日、家の近くで元カノさんに声かけられた。『誠二にとって、未成年で学生のあなたは重荷でしかない。誠二に迷惑かけないで』ですって。何も知らないくせに、言いたいことだけ言って去ってったわ」
返ってきた言葉に、唖然とする。こともなげに話す葵の表情は、言葉とは裏腹に辛そうだ。
二人だけだった玄関ホールは、いつの間にか、徐々に登校してきた生徒たちが増えてきた。
「葵、鞄を一度、教室に置いて屋上に場所を移そう。話の続きは、そこでしよう」
小さく頷く葵と一緒に、ひとまず教室に向かう。あとで、ミチルに葵と屋上にいることを忘れず連絡しておかないと。
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