核の炎 歴史の終わり

藍条森也

核の炎 歴史の終わり

 倉庫の奥から巨大な弾頭が取り出される。

 弾頭のボディには『核弾頭』であることを示すマーク。見間違えないようにはっきりと、描かれている。

 わたしは機器を操作し、核弾頭を所定の位置へと運んでいく。

 これで一体、何度目だろう。何千、いや、何万という数の核弾頭をこうして運んできた。しかし、それも今日で終わり。そう。この弾頭こそが最後の一発、人類最後の核弾頭。

 「……これが使われればひとつの歴史が終わりを告げる」

 そう。

 人類は二度と再び『花火』を打ちあげることはなくなるのだ。


 その場には大勢のギャラリーが集まり、歓声をあげながら今かいまかと待ちわびていた。

 人類最後の打ち上げ花火。

 その瞬間を見届けようと世界中から集まってきたマニアたちだ。

 大勢の人々が待ち望むなか、この日のために用意されたオライオン宇宙船が姿を現わす。人々の歓声はさらにさらに大きくなっていく。

 オライオン宇宙船。

 かつて、人類が手に入れた最強の推進装置。核爆弾を爆発させることにより、その反動で進む宇宙船。

 人類はありあまる核爆弾を宇宙船の推進装置として使うことで効率的な宇宙開発を可能にした。多くのオライオン宇宙船が建造され、核爆弾の衝撃に乗って宇宙に旅立った。

 そして、小惑星帯へと至り、資源を持ち帰る。

 破壊のために作られた無数の核爆弾。

 それを宇宙開発に用いることで人類は飛躍的に多くの資源を手に入れ、さらなる豊かさを手に入れた。

 もちろん、核弾頭も無限でない。

 地球を何度でも破壊出来る。

 そう言われたほどの核弾頭も宇宙船の推進装置として使うとなればすぐになくなる。しかし、それによってもたらされた宇宙資源により人類の技術は飛躍的に向上した。正物質と反物質を衝突させることで巨大なエネルギーを取り出す対消滅炉が開発された。それによって、宇宙開発は新たな時代に突入。オライオン宇宙船はその役目を終えた。

 それからは宇宙開発の記念碑的に定期的にイベントとして打ちあげられるだけとなった。

 そして、それも今日で終わる。

 最後の核弾頭が使われるからだ。

 宇宙船のエンジンが火を吹き、上昇をはじめる。

 もちろん、地上にいる間に核弾頭を爆発させることなんて出来はしない。大気圏にいる間は通常の化学ロケットで上昇し、大気圏外に出たところで核弾頭を爆破。その反動で進んでいくのだ。

 いままでは資源採掘のために小惑星帯へと向かっていたが……この最後のオライオン宇宙船が進む先は太陽。自ら太陽に跳び込み、華々しく生涯を終えるのだ。

 チカッ。

 目の前のモニターのなかで宇宙船の後部が光った。

 それは最後の核爆発。

 最後の核弾頭が使われた瞬間。

 わたしは万感の思いを込めてその爆発を見守った。

 それは、破壊のために生み出された核爆弾が人類の発展のために使われたという幸福な歴史の終わりを告げる瞬間。

 人類最後の打ち上げ花火が爆発した瞬間だった。


                   完

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