僕の心配

結局午後の始業開始にギリギリに間に合った僕は、滑り込みセーフで席に着いた。僕は仕事スイッチに切り替えて、部屋を見回した。最初に来た時よりも随分積んである書類が減った。


個別の対応をしていた請求書を、一括に集約して、選別し、分かりやすくしたせいで、不当請求も明らかになった。今までの会計が随分ザルだったのもよく分かった。



騎士団は国の機関でお金がある。そこに付け込んで業者もやりたい放題だったみたいだ。僕が分類書式を作ったお陰で、ひと目で色々分かる様になった。同時に資金部の浮いた過剰金を、食堂の調味料に注ぎ込む事も出来て、料理の味が向上した。


この世界でも、胡椒や、塩の様な調味料は値段が張るんだ。僕はウィルに紹介してもらって食堂の料理長と顔馴染みになった。僕が他所の地域の出身だと知ると、彼は僕の提案する調理法に関心を示した。



それから僕はニンニクに似た味の野菜の使い方などをコツコツ伝授したりと、異文化交流ならぬ、異世界料理交流を続けている。僕もせっかくなら美味しいものが食べたいからね。


資金部のリーダーも食堂の味が急に上がって、喜んで僕に資材管理を任せてくれた。という感じで、仕事は順調そのものなんだ。僕も自分の知識が色々役に立つことが分かって仕事が楽しい。



ふと、僕の席のそばに誰かが立った。僕が計算の手を休めて顔を上げると、そこにはひとつ上の同僚のニックが微笑んでいた。


「ハルマ、少し休憩したら?昼から戻ってきて、もう二時間になるよ?」


僕はいつの間にかそんなに時間が経ったんだと少し驚いて、壁に掛かる時計を見た。資金部は二時間おきに強制的にティータイムが設けられている。



休憩を取ることで効率を上げているんだ。僕はニックにお礼を言うと、背伸びして席から立ち上がった。その時不意に僕のお腹が涼しくなって腹チラしてしまった。


ニックは顔を赤らめると、先に行くねと言い残して慌ててティーテーブルへ歩いて行った。僕は何かあったかと自分を見下ろした。すると僕のシャツから覗く素肌にばっちりキスマークの様なものがついていた。



そう言えばさっき、ガゼボでウィルが僕の上半身にしつこくキスしていたんだった。僕は見られてしまった事に動揺しつつ、またこれが僕の評判を下げはしないかと心配になった。


手元の上着を羽織って、僕は小さくため息をついた。ウィルのせいで、僕にとんでもない二つ名がついてるとは、後で知ったのだけど、この時知らなくて本当に良かった。もし知っていたら、居た堪れないにも程があったろうから。

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馬の皮をかぶった大学生ですが、何か? コプラ @copra

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