ウィリアムside黒い瞳
ベッドの傍らで見下ろすハルマは、眠っているのかぐったりとしてピクリともしなかった。まるで精巧な人形の様に見えるその姿は無防備で、儚げに感じる。
騎士団の制服を仕立てるために王都に出掛けたこの結末が、こんな展開を迎えるとは思いもしなかった。もちろん少しはハルマと近づけたら良いとは思ってはいた。
私に全幅の信頼を寄せるあの真っ直ぐな眼差しで見つめられ続けたら、勘違いしてもおかしくはないだろう。ハルマからは信頼以上のものを感じていたのも確かだった。
それなのに、こ慣れた誘いで私を誘惑したハルマが、私の感じていた純粋な青年だったと分かった時の胸を満たすその喜びはいかばかりだったろう。その時に私自身もハルマに惹かれてたと自覚せざるを得なかったんだ。
…今は、ハルマ自身を味わってしまった。この甘くて癖になる様な心臓のときめきと、終わらない昂りを連れてくるハルマとの交わり。なんだ、これは。思い出すだけで熱くなるこの高まり…。
私は辺境伯の跡取りとして、武芸に浸かって、誘惑のままに深入りしない身体だけの関係を繰り返してきた。それは多くの騎士達にとって、普通の行動だったし、辺境の武官たちも若い頃は皆そうだった筈だ。
そんな生活にもどこか飽きが来てたのは間違いなく、最近の私は新しい新馬のフォルとの馬駆けの方が心を満たされていた。親友のケインが、そんな私に馬は恋人にはなれないのだと揶揄う始末だったほどだ。
その可愛いフォルがあの日、私を振り落としてモンスターと姿を消した。あの時の気持ちは今も整理がついていない。私はいずれ新しい馬を相棒にするのだろうけれど、あのフォルの様な馬には、もう二度と会えないのはどこかで分かっていた。
突然現れた妙な青年はフォルと同じ、もの問いたげな黒い瞳を持っていた。私の喪失感を抱えた胸に、その瞳はスッと入り込んで来て、私はハルマの動向が妙に気になる様になっていた。
他の騎士より私を優先するハルマに、心くすぐられるのは勿論だったけれど、どこかで私もハルマに頼られたいと行動していたのではないだろうか。
そして今、私のものにしたハルマの頬を、そっと指先で撫でる自分の心に湧き上がるのは、愛しさ…なのだろうな。ピクリと震える瞼がゆっくりと開いて、その甘やかな黒い瞳に私はどんどんと囚われていく。
「…うぃる。」
ハルマの唇から紡がれる、自分の名前に喜びが押し寄せて、私は屈んでハルマにそっとくちづけた。
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