僕を思うウィリアム

僕が仲間の馬達に夢中になって、自分の無事を伝え終わった頃、僕は後ろでウィリアムとロイさんが僕を見つめているのを感じた。


僕はすっかり二人が居ることを忘れて、馬達と馬鹿みたいにふざけ合ってしまった。僕は一瞬目を閉じると、息を吸い込んで思い切って振り返った。


案の定、ウィリアムとロイさんがひどくビックリした顔で僕を見つめていた。ロイさんが誰に話すともなく呟いた。



「これは驚いた。初対面の相手にこんなに馬達が寄ってきて懐くとは…。しかもこの騎士団の馬のリーダーがちゃんと挨拶に来ていた。信じられない光景だ。」


うーん、きっと僕が馬だったって聞いたら、納得して頷いてくれそうだけど、それはそれで後が困る。僕にだってどうしてそうなったか説明できないし、場合によっては魔物扱いされて成敗されちゃったりして…。


僕はブルっと恐怖に震えると、強張った笑顔でロイさんに言った。



「子供の頃、馬が身近だったんです。だからかな。昔から馬には好かれることが多くて。」


うん、嘘ではない。好かれてるかはともかく保馬さんだったのは本当だ。僕は懐かしの栗ちゃんを思い出してクスッと笑いながらウィリアムを見上げた。


ウィリアムは僕を怖いくらいじっと見つめていたけれど、僕と目が合うと顔を逸らしてロイさんに言った。



「フォルの事は私もツテを使って探してみるよ。邪魔したな、ロイ。行くぞ、ハルマ。」


背を向けて歩き始めたウィリアムに僕は慌てて言った。


「あのっ、僕を乗せてくれたあの栗毛の馬に、人参をあげたいんですけど…。」


ウィリアムはフッと微笑むと、ロイに向かって言った。


「そうだな。きっと馬達も魔物討伐に続いて、フォルの探索で疲れてるだろう。ロイ、いつもより人参を増やしてやってくれ。」



ロイはニコニコして、頷いた。僕は同期のビッツとの約束が果たされた事にホッとして、柵の向こうでこちらを見つめている馬達に手を振ると、いななきを背にしてウィリアムの後を追って歩き始めた。


またここに来たいなと思いながら、ぼんやり歩いていると、ウィリアムが僕を見つめながら優しい表情で呟いた。


「確かにロイの言う通り、ハルマはフォルみたいだ。その黒い髪に、瞳。しかもあいつは馬らしくない馬だったからな。私はフォルが生きてると思っているけれど、もう二度と会えないかもしれない。


寂しいけれど、ハルマがここに居てくれると、慰められるよ。本当に。」



僕はウィリアムが、馬だった僕のことを本当に大事に思っていてくれたんだと知って、心が温かくなったんだ。ありがとう、ウィリアム。僕は馬だった頃も、人間である今も貴方のことが好きだよ。





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