ビッツside妙なアイツ
俺はこっそりアイツを眺めた。アイツに会ったのは半年前だ。あの時俺たちは知らない人間たちに囲まれて、不安で、嫌な気持ちだった。牧場ではリーダー格の俺でも、落ち着かなくて、馬丁の側に居たかった。
馬丁になだめられて周囲を見回す余裕が出来た頃、俺はアイツを見た。アイツは堂々としていて、格の違いを見せつけていた。馬体は俺とそう大差なかったけれど、優雅な歩みでその場を楽しんでいた。
俺は負けたくなくて、アイツの後をつけ回しながら、様子を伺った。アイツは余裕があるどころじゃなかった。何て言うか…、変な奴だった。
アイツは白いマントの人間に随分愛想良くしていた。そしてその人間たちに、あっという間に気に入られていたんだ。俺は思わずアイツの真似をしてしまった。なんとなくそれが正解な気がしたからだ。
久しぶりに見るアイツはますます変な奴になっていた。醸し出すオーラが変だった。俺は思わず後ずさってしまったくらいだ。仲間のようで、まるで違うモノの様な…。
でも、そう感じるのは俺だけみたいで、俺とアイツが連れて行かれた立派な馬場でも誰も何も言わなかった。俺は自分が変なのかなと思ったけど、俺のその時の勘は間違っていなかったって、ずっと後になって分かったんだ。
仲間や、先輩の中でもアイツはソツなくあっという間に皆の信用を得て行った。俺は羨ましいとか思うより、ちょっと怖い気がした。先輩にも俺がアイツを苦手なのがバレていて、揶揄われたけれど、上手く説明は出来なかった。
そしたらあの事件だ。怪物が俺たちを襲って来た時は、魔物退治の後で神経が昂っていたとは言え、思わず悲鳴をあげてしまった。それなのに、アイツはたった一頭で敵に立ち向かっていった。
その時の俺の気持ちは、絶望と希望と、憧れと悲しみと…、揺れ動いて苦しいくらいだった。アイツ以外の仲間が馬場で顔を付き合わしてアイツが死んでしまったと噂してるから、そのことが俺を落ち込ませた。俺はアイツを尊敬してたのかもな。
だから次の日、美しい泉で見たことのない人間が、俺に直接話しかけて来た時の驚きったらないぜ。しかも自分の事をアイツだって言うんだから。俺は混乱して、一方で怖くって、早く馬場でその人間になってしまったアイツを降ろしたかった。
それなのに、しばらくしたらその人間がやって来て、みんなに自分はアイツだって言うんだ。しかも俺にその事を証明しろって言う。しぶしぶ俺は彼はアイツだって言ったけど、みんなが直ぐにそれを受け入れたことに本当にびっくりした。
いやいや、考えてもみてよ。アイツは馬だったけど、今人間だぜ?あり得ない事だよな?そんな俺にリーダーが言ったんだ。
『ビッツ、あり得ないかもしれないが、だからどうだって言うんだ?フォルが人間なら、きっと俺たちにもっと人参を沢山くれる筈だ。そんな良い話、なかなかないぜ?』
俺はリーダーの頭の良さに思わず感心して頷いた。そんなうまい話が隠れていたとは気づかなかったぜ。
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