第6話 魔法部を作りたい (3)

「では魔法部を認めてくれると言うことですか?」


 先ほどの話から推察すると校長は魔法部を前向きに認めてくれるように思えた。


「私は構わないよ」


 校長は平然とそう言い切った。来栖と顔を見合わせる。無理だと思われていたことがあっさり実現できそうになり驚く。


「しかし、ここで一つ問題がある」


 校長の表情は真剣なものに戻り、次の話を始めようとした。このまま部活を作れそうだと思ったが、どうやらそう簡単にはいかないようだった。


「知っていると思うがこの学園は生徒会によって多くの物事が決められている、これはこの学園が魔道家のための社会経験の場という性質を持っているためなのだが……なんにせよあまり部活には口出ししてこない生徒会でもおそらく生徒会則を破ることになる魔法部は認められることはないだろう、特に今の生徒会長ではね」


 魔法部の最大の障害は生徒会、という校長が言ったことは当たり前のことで、俺だって分かっていたはずだったが浮かれていたのだろう、俺はそのことを失念していた。そしていざそのことを思い出した時、魔法部の現実味のなさを実感した。


「なら結局無理だと言うことですか…」


 来栖もそう認識したのだろう。結局自分の希望が潰えることに悲しんでいるようだった。


「そうとも限らない、当面の間正式なものとはならないが隠れて部活動をすることだってできる」


 確かにそれは一理あるが、この学園内で生徒会、風紀委員の目を誤魔化し続けて魔法を使うなんてことは不可能に思えた。


「そんなことはできないと思いますが」


 なので俺はその疑問を直接校長に言った。


「私は君たちに誰にも見つからないような部室を貸してそこで活動してもらっても構わないと思っている」


 校長は安心してくれていいという感じでそう言ったが、誰にも見つからない部室? 俺にとっては言っている意味がよく分からなかった。そしてそれは俺だけでなく千羽先生も来栖も同様で全員が困惑の表情を浮かべていた。


「まあ部室に関しては見てもらえればわかるが……しかしただで部室を貸すとは言わない、君たちに私が今後もできる範囲で協力する代わりにある条件を加えたい」


 校長は部室の話を一旦切り上げ、ここからが本題という表情になった。話の流れからすると校長の協力を得るためには何かしなければいけなく、

その交渉が今から始まるようだった。


「今の生徒会長を引き摺り下ろすことが条件だ」


 重くなった空気の中、口を開けた校長はそんな実現不可能と思われることを言ってのけた。事の大きさに俺も含めこの場にいる校長以外の全員は目を見張った。


「生徒会長を引き摺り下ろす……ですか?」


 ここまで俺たちに任せて会話に入ってこなかった千羽先生も驚きのあまり、ついそう聞き返してしまう。


「そうだ私にはこの学園が間違った方向に進んでる気がしてね、この流れを一旦断つべきだと思ってるんだ、京極くんはまだ2年だからおそらく来年も生徒会長だろう。だがこの学園の仕組み上私が動くことはできない。そこで君たちが彼を失脚させ、彼の息がかかってない人物を次期生徒会長にする事で事態が改善する可能性がある。その際新生徒会長のもと魔法部を正式なものにするぐらいの事はできると考えている」


 校長はそう自らの計画を述べた。しかし肝心の生徒会長の倒し方は俺らに任せているようだった。


「魔法行使ができる生徒会、風紀委員と争うのは危険が伴いますよ!」


 千羽先生は俺たちに危険が及ぶ可能性を考え校長の考えを非難する。


「当然だな……別に身の危険を感じたらやめてもらって構わない、協力関係は終わるが部室を取り上げる事だってしないだろう、ただ魔法部の目標の一つにそれを置いておいてほしい……すまないこれじゃ交渉というよりお願いだな……強いてそちらの利益をあげれば魔法部が正式な部活として活動できるようになる事ぐらいだな」


 校長はそう言うと申し訳なさそうな顔を浮かべた。このままいけば生徒会長の話は無かったことにして、その見つからない部室とやらだけを貸してもらうことができそうだった。わざわざ生徒会に歯向かうという危険な行為を俺たちがする必要はない。いくら校長が困ってようがそこは俺たちには関係のないことなのだ。魔法部が正式な物というのも正直俺には大したメリットに感じなかった。


「やります! きっと私がやりたい魔法部が正式に認められるなら私と同じような人の助けになるかもしれないから」


 なんてごちゃごちゃ色んなことを考えていた俺を無視してキッパリと言い切ったのは来栖だった。生徒会と揉める問題なんてまるで気にしてない様子は色々考え込んでいた俺が馬鹿みたいに見えた。


「君もいいのかね?」


 校長は俺にも確認をとってきた。


「はい」


 言いたいことはいろいろあったがそもそもこの部活は来栖が始めようとした物だ。彼女がやるという決意をしたのならば俺はそれを否定しない。


「そうか、すまない……本当に感謝している、部を目指すならあとは顧問だが」


「私がやります!やらせてください!」


 来栖の熱意に影響されたのか千羽先生はやる気満々という感じで自ら顧問になることを名乗り出た。


「ではここに行って校章に魔力を通してみなさい、それが現時点で私ができるせめてもの手助けだ、もし何かあったらいつでも相談してもらって構わない、できる限り力になろう」


 そう言うと校長はメモ用紙をちぎり、何かを書き込み、来栖の元まで向かいその紙を手渡した。


 やる事は終わったのだろう、そのまま退出という流れになった。


「「「失礼しました」」」


 俺たち三人はそう言いながら校長室から退出した。


 校長室から三人で出て周りに人がいないことを確認する。


「あのなぁ、面倒ごとに考えなしに首を突っ込むもんじゃないぞ、決断をする時はメリット、デメリットを考えるべきだ」


 俺は来栖に向かってそう言った。もちろん指摘しているのはそれなりの危険がありながら、生徒会と揉めることを即決した来栖のことだ。


「それはそうですけど、でもあの時校長凄く困った顔をしていたから……きっといい人だと思いますよ、だから私も協力したくなったんです」


 俺は予想外の返答に驚く。


「じゃあ校長を助けたいからあの話を受けたのか?」


 あの決断が情による物だとしたら余計良くない気がしたので俺は確認した。


「それもありますけど、魔法部を正式なものにしたいって気持ちも本当ですよ!」


 彼女はそう笑って見せた。俺はこの時自分にはない彼女の心の優しさと、自分とは違う方向に不器用な性格を感じた。そしてきっとこれが来栖なのだろうなと納得した。


ーーーーーー


 まさか魔法部なんて言葉を再び聞く機会が訪れるなんて思っていなかった。


 あの二人を見ているとまるで昔に戻ったようで懐かしい気持ちが込み上げてきた。


 ただそんな彼らに無条件に協力することができず、自分では対処できない問題を押し付けてしまったことに私は強い罪悪感を感じた。


「私もずるい大人だな……また彼らのようなことにはなってほしくないものだが」


 机の上に置かれた写真立てを見る。そこには何十年前の教師になったばかりの自分と二人の男子生徒が写っている。


 新しい魔法部の今後が良いものになることを祈りながら私は職務に戻った。

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