第4話 魔法部を作りたい (1)
「それで魔法部って今から作るんだろ?どうすんだ?」
魔法部を作ることになったのはいいが俺は新しい部活の作り方なんて知らなかった。
「私もよくわからないです……」
「そうか……」
来栖も知らないようだ、何か考えがあるから俺を誘ったわけじゃないのか。
「まあ今日は帰ってまた今度、月曜にでも先生に聞いてみるか」
「そうですね」
今日は解散ということになり、二人で昇降口に向かった。こんな時気の利いた会話ができればいいのだが、話し慣れてない俺には話の種が何も思いつかなかった。きっと来栖も話すことが浮かばないのだろう、二人して無言のまま若干の気まずさを持ちながら歩く。
一度無言になった状況を破るのはなかなかの勇気がいるというものだ、来栖も寮生活ではないようでそのまま気づいたら何も話さずに校門の場所まで来ていた。そして俺は駅に向かうために左に曲がろうとした。
「あっ……私右側の駅なんです」
この学園には二つ最寄駅がありそれぞれ路線が違うので人によって使う駅は異なるのだが、来栖は俺とは反対側の駅のようだった。
「じゃあ俺こっちだからまた月曜」
最後まで碌な会話が出来なかった自分に呆れ、来栖と別れ駅に向かって歩き始めた。
「音宮さん! ありがとうございました!」
後ろから大きな声をかけられ、振り返ると来栖が笑顔で手を振っていた。彼女の笑顔を見てきっと今度会う時はもっとしっかりした話ができるような気がした。
何事もなく家に着き、思うのはなぜあの時俺は魔法部なんてものに入ることを決めたのかという疑問だった。いつもの自分なら関わりたくもないはずであり、仮にそんなことに関わる選択をしたら後悔をするはずだった。しかし今でもめんどくさそうとは思っているのだが後悔という感情は不思議と湧かないのであった。
月曜となり今日から通常授業だ、朝礼時間は朝8時40分となり間に合うためには通勤ラッシュの電車に乗らなければならない。そんなこんなで学校に着く頃にはすでに家に帰りたい気持ちになっていた。
魔法科と言っても授業は通常の高校と変わらない、ただ二年になってから魔法を使う授業が始まるだけである。そして特に変わったこともなくそのまま終礼も終わり放課後となり来栖に話しかける。
「じゃあ職員室に行くか」
そんなわけで職員室に行く、職員室についてもほとんどは知らない教員であるため話しかけづらいためさっき終礼で別れたばかりの千羽先生を探し、先生の席へ向かう。
「千羽先生、少しお話が……」
「音宮君に、来栖さんいいですよ、何ですか?」
「僕たち新しく部活を作りたいんと思ってるんですけど、どうすればいいですか?」
「あら、新しい部活ねぇ確か活動場所の確保と顧問になってくれる先生を見つければよかったはずよ、この中だと顧問の先生を探すのが大変ねぇ、基本はもう何かしらの顧問になってるから」
部活を作るハードルは意外と低いと感じたが顧問を探すのが案外大変らしい。
「顧問ですか……あまり先生方のことも知らないので探すのは大変そうですね……」
確かに来栖の言う通りであり、どの先生がどんな人柄なのかもわからないし、全く知らない人に頼むというのも難しい。
「そこで! 内容次第では私がやってもいいわよ!」
「でも先生だって他の部活の顧問なんじゃないですか?」
これは当然の疑問であり、先ほどの千羽先生の発言が矛盾している気がしたのでそう質問した。
「私は野球部の顧問をやらせて貰ってるんだけど、もう一人の野球部の顧問の山谷先生がメインで私は在籍させてもらってるだけって感じなのよ、やることは引率ぐらいね、だから掛け持ちできるわよ」
難点と考えられた顧問探しがすんなり決まりそうになり先行きは明るいかと思われた。
「ところで何部を作りたいの?」
「魔法部です」
当然されるであろう質問には来栖が返した。
「へ?魔法部?それは一体何をするの」
「魔法を楽しむ部活です」
千羽先生はポカンとしてる。こちらの話に耳を傾けていた何人かの先生も思わずこちらに振り向いていた。その光景はまるで来栖の自己紹介の時のようで再び彼女が世界から孤立したかのように思えた。
ただ勢いでここまで来たがそもそも魔法を使うなと言われているのに魔法部を作るなんて許されることではないので彼らの反応は至って普通なのである。
「やっぱりダメですよね」
「そうねぇ、流石にそれは部活には基本関わってこない生徒会も許してくれないと思うわ」
俺は変えようがない現実を受け入れると、あまりことを荒立てたくなかったので適当に会話を終わらして職員室から出ようと考えた。
「えぇ!ダメなんですかぁ」
ただ彼女は現実が見えていなかったのだろう、魔法部がダメと言われたのが予想外みたいな声を上げた。そして周りの教員達がざわざわしてくる、放課後直後なのでまだ職員室には多くの教員がいた。
「魔法部だって?そんなのダメに決まってるだろ……何考えてんだか」
「今まで何を教えられてきたのか……」
周りからは呆れや馬鹿にしたような呟きが聞こえた。中には俺たちを嘲笑してる者もいた。俺はこういう奴が嫌いだったが立場というものも理解していた、ただの魔法科の生徒では教員に言い返すことはできないのだ。
周りの馬鹿にしたような視線によって、来栖も自分が否定されていることを理解し俯く。
こうやって自分と異なる人間を下に見て馬鹿にするのが人の性なのであろう。俺も思い出したくもない過去をまた思い出してしまった。こうしてはみ出し者は他人を信用することはなくなり、今度は自分が周りを馬鹿にして生きていく。俺の曲がった性格はそうして形成されたのかも知れない。
そして次第に頭の中はいかに早く職員室から抜け出すかという思考に占拠される。そんな時だった。
「やめてください! 皆さんなんですか寄ってたかって、教師が生徒を叱ることはあっても馬鹿にするなんてどんな理由でも許されないですよ!」
俺の目の前にいるどの生徒にも舐められそうな若い女教師は気迫のこもった声でそう言い放った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます