第152話 アンナ&アリーナ

 皇帝アンナに呼ばれたナツキは帝都ルーングラードに赴いた。そう、神聖不可侵にして絶対的権力者の幼女皇帝は、長い間ナツキに会えないとご機嫌斜めになってしまうのである。


 最近めっきり女っぽさを増したアンナだが、まだまだ幼さを残しイケナイ女にはなっていない。まだエロエロ帝国乙女ではなく、清純で子供らしいギリギリのお年頃なのだ。



 宮殿に入ったナツキをアンナ自らが出迎える。


「ナツキぃ~っ♡ ずっとずっと待っておったのじゃぁ」


 ぎゅぅぅっ!

 いきなりナツキの胸に飛び込むアンナだ。


「アンナ様、お待たせしました」

「もうっ、遅いのじゃぁ。余の婿なのに全然戻って来ぬのだからな」

「色々やることがありますから。ちゃんとお利口さんにして待っててくださいね」

「ナツキが言うなら待ってるのじゃ♡」


 スリスリ――


 アンナがナツキに抱っこされたままスリスリしている。この大陸の大部分を支配する権力者の幼女ときたら、ナツキの言うことなら何でも聞いてしまうのだ。



「ほら、アンナ様が良い子だからナデナデしてあげます」


 ナデナデナデ――


「ふぁああぁ♡ 気持ち良いのじゃぁ♡」

「ふふっ、アンナ様は可愛いですね」

「て、天国なのじゃぁ♡」


 ナツキに頭を撫でられて、アンナが夢見心地になってしまう。決して如何わしい雰囲気は無い。幼気いたいけな子供を可愛がっているだけである。


 ただ、もう少し成長すると意味が変わってきそうではあるのだが。



「ナツキよ、聞いてくれなのじゃ。先日どら焼きという菓子を食べたのじゃぞ」

「あっ、それヤマトミコの名物ですね」

「そうなのじゃ。姫巫女が送ってきたのじゃ」

「仲良くなって何よりです」


 まるで兄妹のように……いや、血の繋がっていない義理の兄妹のように仲良く話す二人に、さっきから嫉妬のこもった目でジッと見つめる女がいた。

 そう、元老院議長のアリーナである。


「ナツキ様……そろそろムラムラしましたか?」


 唐突にイケナイ話をするアリーナ。教育上よろしくない。

 ナツキが彼女の方を向く。


「あ、アリーナさん、突然なに言ってるんですか」


「いえ、ナツキ様の下半身が限界にきましたら、遠慮なく私の尻を打っていただこうかと思いまして。いつでも準備は整っております。ナツキ様の溜まりに溜まった欲望を、全て私の尻にぶつけ――」


「わぁーっ! わぁーっ! アリーナさんが少しは遠慮してください。なに冷静な顔して変態発言してるんですか」


 アンナの前なのにお構いなしだ。この女、欲求不満過ぎるのかもしれない。



「ナツキよ、アリーナにも優しくしてやるのじゃ。彼女の話はよく分からぬが、離婚してからずっと独り身で大変みたいなのじゃ。きっと寂しくて不安定なのだと思うぞっ」


 アンナがアリーナを庇っている。


「陛下、この私を気遣っていただけるだなんて痛み入ります。このアリーナ、身命を賭してナツキ様の無慈悲な調教を受け切ってみせます!」


「お、おう……任せたのじゃ」


 よく分かっていないようなのだが、アンナが全て任せてしまった。これでアリーナは皇帝のお墨付きを得たナツキのエッチ奴隷である。



「えええ……アンナ様がそう言うのでしたら……。どうしてこうなった……」


 渋々ナツキが納得した。一歩間違えば親子くらい歳の離れたアリーナなのだ。禁忌的で背徳感がいっぱいで気が引けるのも仕方がない。


 ◆ ◇ ◆




 翌日、ナツキはアリーナに連れられ彼女の自宅に呼ばれていた。何でも『新しいパパを娘に紹介します』という展開になったそうなのだ。


 今まで数々の強敵おんなを堕としてきたナツキでも、このシチュエーションには緊張しきりである。



「ううっ、娘さんにどう説明したら良いのかな……」

「ナツキ様、手と足が一緒に出てますよ」


 ナツキが変な歩き方をして、アリーナから冷静にツッコまれてしまう。


「も、もう行くしかないのか。ボクが新しいパパになる」

「その意気です、ナツキ様」


 不安が残るまま、二人はドアを開け自宅に入った。




 すぐに室内にいるアリーナの娘と対面することになる。ナツキは考えておいた挨拶をした。


「あの、この度アリーナさんと結婚することになったナツキ・ホシミヤです。よろしくお願いします」


「はぁ? うち、新しいパパなんて認めてないんですけど。エロ勇者だかハーレム王だか知らないけど、いきなり現れてパパですなんて言われても、『はいそうですか』なんて言えるワケないっしょ」


 常に冷静沈着で才女のアリーナには全く似ても似つかないヤンチャっぽい娘が現れて、さすがのナツキもたじろいだ。


 歳はナツキと同じか一つ下くらいだろうか。ただ、背伸びした派手なメイクや短いスカートはギャルっぽい感じだ。



 ナツキが横のアリーナに耳打ちする。


「あの、歓迎されていないみたいですよ」

「恥ずかしがっているだけですよ、ナツキ様」

「そうは見えませんが……」



 何とか打ち解けようとナツキが話しかける。


「あの、お名前は?」

「クラーラ……」

「良い名前ですね」

「べつに……」


 会話が終わってしまった。



「アリーナさん、ボク嫌われてますよ」

「そんなことはありません。娘は人見知りなのです」

「えええ……」



 アリーナはそう言うが、ムスっとそっぽを向いてしまったクラーラにナツキが困り果ててしまう。


 困ったな――――

 そもそも知らない男を連れて来て『新しいパパですよ』なんて、子供からしたら迷惑なんだよな。

 親の都合を子供に押し付けるのは良くないよな。



 ぴとっ!


 ナツキはアリーナにくっついた。

 そう、この展開は迷惑な母親にお仕置きである。


「アリーナさん、ちゃんとお子さんと話し合いましたか?」

「ナツキ様?」

「親の都合で離婚したり再婚したりして、多感な時期の娘さんは迷惑しているんですよ」


 ペチン! ペチン! ペチン! ペチン!


 ナツキがアリーナと話しながら、無意識に彼女の尻をペンペンしている。毎度おなじみのアレだ。


「な、ナツキ様……あっ♡ ダメっ♡」

「家に知らない男の人が来たら、娘さんは迷惑なんです」

「んっ♡ ああぁ♡ 娘の前ではやめてぇ♡」

「ちゃんとクラーラさんの許可はとったんですか?」

「んんっほぉああぁん♡ バレちゃいます。もう許してぇ♡」


 ナツキのお仕置きで冷静沈着アリーナがふしだらアリーナになってしまった。耳まで真っ赤にしてモジモジしている。


「ほら、クラーラさんの気持ちを最優先しないと」

「はぁああぁん♡ 分りましたぁ♡ ごめんなさぁああぁい」



 目の前で繰り広げられる光景に、クラーラは信じられないといった顔をする。


「えっ、ええっ! あの常に冷静沈着で品行方正で厳しくて堅物のママが、うんと年下の男に躾けられてるぅ!? あ、アリエナイんですけどぉ」


 ナツキはクラーラに向き直る。ただし、ペンペンは続けたままだ。


「クラーラさん、親の再婚で子供に迷惑がかかるのはダメですよね。ボクはクラーラさんの味方です。言いたいことがあるのなら何でも言ってください」


「は、はい……て、てか、べつに文句は無いんだけど。ちょっと照れ臭かっただけなんですけどぉ」


「良かったです。ボクはカリンダノールやデノアに居ることが多くて、この家に来るのは少なくなると思うけど、クラーラさんが困った時は力になりますからね」


「ううぅ……エロ勇者でハーレム男って聞いてクソ野郎かとおもってたけど、結構良い人でマジヤバなんですけど」


 クラーラの表情が緩む。母親の再婚相手を警戒していたようだが、ナツキに対して心を開いたようだ。


 ただ、娘から見えない角度でペンペンをくらい続けたアリーナは陥落してしまった。



「おっ♡ 娘の前でも容赦しない無慈悲で鬼畜なお仕置き……ナツキ様は本当に素晴らしいです。んあっ♡」


「えっ、あれっ? ボク、またやっちゃいましたか?」


 やらかしまくりである。


 ただ、こう見えて元から親子仲は良いようで、アリーナとクラーラは手を取り合う。


「ごめんなさいね、いきなり連れて来て」

「ううん、ママの選んだ人なら問題無いっしょ」

「あなたのことは大好きよクラーラ」

「うん、うちもママ大好き」


 どうやら一件落着したようだ。

 だがナツキは知らない。クラーラがナツキを気に入ってしまったことに。母娘で男の取り合いのような修羅場は避けたいところだ。


 ◆ ◇ ◆




 ある日、ナツキはアンナを連れ帝都周遊に出掛けた。



 前議長のアレクサンドラから軟禁状態に置かれていたアンナは、ずっと一人玉座の間で過ごしてきたのだ。

 唯一の話し相手だった前侍従長は、アンナを哀れに思い外に連れ出そうとして粛清されてしまった。


 そんなアンナからすれば、自由に外に連れ出してくれるナツキは夢にまで見た王子様そのものである。



「うわぁ、人がいっぱいいるのじゃ。あっ、美味しそうな匂いがする」

「アンナ様、ちょっと食べてみますか?」

「うんっ!」


 人前では威厳のある振舞いをするアンナだが、ナツキの前では年相応の子供になる。今は無邪気にはしゃいでいるのだ。



「すみません、その焼き菓子を二つください」


 ナツキが店主に声をかける。


「はいよっ……っておおっ! 勇者ナツキ様ぁ! それと、こ、ここ、皇帝陛下ぁあああ!」


 アップルパイを焼いていた店主が、ナツキとアンナの姿を見て仰天した。


「た、ただいま用意いたします。お待ちくださいませ」


 平伏する店主にナツキは声をかける。


「そんなに急がなくて大丈夫ですよ。アンナ様は優しい人ですから」

「へ、へい、分かりました」

「商売の調子はどうですか?」

「おかげさまで、戦争も終わって需要も回復して潤っております」

「それは良かったです」


 ショーケースの中で一際艶やかに光るアップルパイを丁寧に箱に入れると、店主の男が差し出してきた。

 スライスしたリンゴとカスタードクリームをたっぷりと詰めて焼いた伝統菓子だ。


 ナツキは箱を受け取り金を払うと、一番大きなリンゴの入っているピースをアンナに渡した。


「はい、アンナ様」

「うわぁ、リンゴとクリームがいっぱいなのじゃぁ」


 パクッ!


「美味しいのじゃぁ♡ 甘くてサクサクなのじゃ」

「それは良かったです」


 夢中になって食べるアンナに、ナツキも店主も自然と笑顔になる。



 街ゆく人々も笑顔になっている人が多い。以前は皆しかめっ面や険しい表情の人ばかりであったのに。

 戦争や差別や困窮で、誰もが心に余裕は無く奪い奪われるばかりだったのだろう。


 しかし今は違う。戦争は終わりナツキの考案した経済政策が行われた。そして、それを実行するアリーナ政権の後押しもある。


 人々の暮らしは格段に良くなっているのだ。

 アンナも人々の変化には気付いていた。



「本当に良かったのじゃ。ナツキのおかげなのじゃ」


 アップルパイを頬張りながらアンナが言う。


「アンナ様、ボクだけじゃないですよ。皆が協力し平和を望んでいるからです。ボク一人では何も成し遂げられなかったはずです」


「ナツキは欲が無いのぉ。まあ、それもナツキの魅力の一つじゃなっ♡」


「ははっ、貧乏性なだけですよ」



 ペロッ!


 アップルパイを平らげたアンナが意味深な視線をナツキに向ける。


「そろそろ跡継ぎを考えても良いかもしれないのじゃ」

「えっ?」

「あ、赤ちゃんのことじゃぞぉ♡」

「えっと……赤ちゃんはキャベツ畑で――」


 前は性に無知なナツキだったが、今では同人誌で学んで知っているのだ。しかし、アンナの教育上キャベツ畑という話で誤魔化そうとする。


「あぁーっ、子ども扱いしてるぅ。知ってるのじゃっ♡ 子供は男女で愛し合うと生まれるのじゃ♡ 余とナツキの赤ちゃんが欲しいのじゃ♡」


「そ、そのうち……できますよ」


 あまり深く突っ込まずに話をはぐらかした。今はまだ純粋なアンナだが、もう少し歳を重ねるとエロエロな帝国乙女になるのではと心配になってしまう。


 ただ、今はこのアンナと優しい時間を過ごせればと、ナツキは考えているのだった。


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