第151話 ネルネル

 カリンダノールから東に行った穀倉地帯を北に少し上った湖畔に小さな家がある。質素な作りのバンガローだが、内部は快適に調度品が整えられていた。



「んっ、お姉ちゃん……」


 ベッドで寝返りを打ったナツキが寝言をムニャムニャと言う。


 そう、ここはネルネルが別荘として建てた家である。戦時中に彼女が語っていた夢が叶ったのだ。静かな湖畔に建てた家で大好きな人と暮らすという夢が。



「ナツキきゅん、朝だゾっ♡」


 まだ寝ているナツキをネルネルが揺り動かす。


「うーん、そんなにペロペロできませぇん」

「何の夢を見ているんだナ……」

「ううっ、臭い足を舐めさせないでぇ」

「こらっ、それは禁句なんだゾ」


 ポカっ!


「いたっ! あれっ? 朝ぁ……」

「朝だゾ、ナツキきゅん」

「あっ、ネルねぇだ。特訓は終わりましたか?」

「それは夢なんだナ」

「夢? ブーツで蒸れた足を嗅がされたような?」

「そ、それはもう忘れるんだナ。黒歴史だゾ」


 昔のヘンタイ趣味を思い出したネルネルが恥ずかしがる。


「ボクはネルねぇの足なら頑張って舐めます」

「そ、そういうこと言うと舐めさせたくなるからやめるんだナ」

「えいっ!」

「うわぁ」


 ナツキがネルネルを引っ張って布団に引き入れた。


「わわわっ、何をするんだナ」

「ネルねぇと一緒でボクは幸せです」


 ずきゅぅぅぅぅーん♡ きゅんきゅん♡


 まだ寝惚けているナツキが愛の告白をして、ネルネルのハートがキュンキュンしまくっている。

 初めて恋に落ちたその時から、この年下男子に翻弄ほんろうされっぱなしなのである。


 ぎゅっ! ぎゅっ!


「ネルねぇも一緒に寝ましょう」

「ぐひゃぁああっ♡ 朝から刺激が強いんだナぁ♡」

「ネルねぇ、もう離しません。ちゅっ」

「きゅうぅ♡ お、おはようのキッスがぁアぁぁ!」

「ちゅっちゅっ!」

「も、もも、もう、朝のイケナイコトをするしかないんだゾぉ♡」


 ネルネルが性欲全開になったところでナツキが完全に目覚めた。


「ふぁああ、あ、おはようございます。ネルねぇ」

「ずこぉおおおおーっ!」


 あまりのショックでネルネルが古典的なズッコケをしてしまう。

 その気にさせておいて途中でおあずけ・・・・するのがナツキだ。


「あれっ? どうしたんですかネルねぇ」

「くはっ、な、ナツキきゅんは本当に沼らせ男なんだナ」

「沼? 何ですかそれ」

「知らないなら良いんだナ」

「ほら、ボクがネルねぇを運びますね」


 もみっ! もみっ!


「うっきゃぁああっ♡ 当たってる、当たってるんだナっ♡ お尻とか色々触ってるんだゾっ♡」

「ほら、暴れちゃダメですよ」


 もみっ! もみっ!


 ネルネルをお姫様抱っこで運ぶナツキだが、無意識に彼女の大事な部分に手が触れている。ムラムラしているところに追撃を加える鬼畜さは健在だ。


「ふふっ、ネルねぇは軽いから抱っこできます」

「くぁああぁん♡ もう好きにして良いんだナぁ♡」


 散々焦らされてネルネルが完全降伏してしまう。されるがままだ。

 こうして、朝っぱらからイチャイチャしまくりで一日がスタートする。




 テーブルに着いたナツキのところに温かい朝食が運ばれてきた。


「今日の朝食はナツキきゅんの好きなクリームスープなんだゾっ♡」

「うわぁ、朝早く起きて作ってくれたんですか?」

「ナツキきゅんの為なら毎日でも作るんだゾっ♡」

「ありがとうございます、ネルねぇ。いただきます」


 ナツキがスプーンを手に持ち、目の前のスープを一口すくって口に入れる。


「おいしいっ! ネルねぇは料理上手ですね」

「ぐひゃひゃぁ♡ それほどでもあるんだナ♡」


 こんなことを言うネルネルだが、以前は全く料理が作れなかった。ナツキに恋してからというもの、彼に美味しい手料理を食べさせたいと練習に練習を重ねて上達したのだ。


 ろくに料理も作れず家事も壊滅的な他のお嫁さんとは大違いである。



「ぱくっ、ぱくっ……ごくん。ごちそさま。とっても美味しかったです」

「うひぁ♡」


 一気にスープとパンを平らげてしまったナツキを見たネルネルが大喜びだ。


「今度はボクも作りますね」

「た、楽しみなんだナ♡」

「ふふふっ、ネルねぇは今日も可愛いです」

「ぐはぁ! ふ、不意を突かれたゾ。うひっ♡」


 グネグネと変な動きをするネルネルをナツキは可愛いと言う。個性的なところも好きなのだ。


「な、なな、ナツキきゅんもカッコいいんだゾっ♡」

「えっ、そうですか? 少しは男らしくなったのかな」

「そうだゾ、ナツキきゅんは男らしいゾ♡ よ、夜とか……」


 ネルネルは意味深なことを言うが、当のナツキはソッチ関係には気付いておらず、腕に力を入れて力こぶを作っている。


「ふふっ、ドヤ顔で小さな力こぶを作っているナツキきゅんも可愛いんだナ♡」

「えっ、何か言いましたか?」

「カッコいいって言ったんだゾ♡」

「えへへぇ」



 こんなラブラブな日々が送れるのも、ネルネルの高度な戦略が関係していた。


 カリンダノールの城にいては他の嫁とナツキの取り合いになるのだ。

 そこでネルネルは、すぐに別荘の建築に取り掛かった。度々この隠れ家のような別荘にナツキを連れ込み、二人っきりで甘々な時間を過ごしているという訳である。



 話の途中で急に静かになったネルネルをナツキが気にする。


「ネルねぇ、どうかしましたか?」

「ナツキきゅんには感謝してるんだナ……」

「えっ」


 ネルネルは真っ直ぐな瞳でナツキを見つめる。


「あのまま前議長の命令通りにしていたら、わたしたちは取り返しのつかないところまで行っていたんだナ……」


「ネルねぇ……」


「せ、戦争は泥沼化し、犠牲者は増え続け、やがて戦いは世界大戦へと広がり、もう後戻りできない破壊と殺戮の地獄に……。わ、わたしたちは、手を汚し続けて……」


「違います! 皆さんは良い人です。決して無抵抗の人や一般兵を殺戮しようとはしませんでした。ボクは知っています、たとえ敵軍であっても大魔法で直接全体攻撃しようとしなかったのを」


「あの時、帝国に現れた勇者がナツキきゅんで良かっタ……。ナツキきゅんは民を救っただけじゃない、わたしたちも救ったんだゾ」


「ネルねぇ!」

 ギュッ!


 ナツキがネルネルを抱きしめる。


「ボクは、そんな良い人なんかじゃない。口では皆の為とか平和の為って言ってたけど、本当は自分の為でもあったんです。ずっとゴミスキルって言われてたから、どうしても活躍して皆を見返したくて。人から認めてもらいたくて……」


「ナツキきゅんは良い人だゾ。世の中の人の大部分は利益がなければ動かないんだナ。人は損得で動くのは当然なんだゾ。で、でも、ナツキきゅんは違うんだゾ。目の前で困っている人がいたら、損得を考えずに動いてしまうお人好しなんだナ。ちょっと騙されやすくてお人好し過ぎて、ほっとけないんだナ」


「ネルねぇ、ボクの方こそありがとう。ボクを認めてくれて。好きになってくれて」


 抱きしめた体が熱い。融けてしまいそうなくらいに。


「ナツキきゅんと出会えて良かったんだナ。も、もう……思い残すことは無い……んだナ……ガクッ!」


 ネルネルの体から力が抜け、腕がだらりと垂れ下がる。



「ネルねぇ? あのっ、ネルねぇ……。ネルねぇ、しっかりして! ネルねぇええええええっ!」


 ネルネルの顔は天使のように安らかな顔をしている。


「ネルねぇ! 嘘でしょ! 起きてよ! 冗談だと言って! ネルねぇ! うわぁああああっ! ネルねぇ!」


「ぐうっ……ぐうっ……」


「――――っ、えっ?」


 ナツキがネルネルの口元に耳を近づけると、静かな寝息を立てているだけだった。


「ネルねぇ……紛らわしいです」


 急に真面目な話をした後に紛らわしい寝落ちをされ、涙を流して動揺していたナツキが口を尖らせる。

 変なフラグは回避された。


 ◆ ◇ ◆




 少しだけ一緒に昼寝をした二人は、湖畔の遊歩道を散策に出掛けるのだった。



「もう、ビックリするじゃないですか」

「悪かったんだナ。早起きしたり真面目な話をして脳細胞を使ったんだゾ」

「どんな脳細胞ですか」


 ふざけ合いながら湖畔を歩く。


「でも、ナツキきゅんは不思議な人なんだナ。敵国だけでなく味方まで仲良くさせて……。前は大将軍同士も仲が悪かったはずなのに、いつの間にか仲良くなっているんだゾ」


「もしかして姉喰いスキルのせいですかね?」


「人と人を結び付けるスキル……気持良くなるようでいて、実はそんな効能ガ?」


 いまだ姉喰いスキルの全容は明らかになっていない。繋がりをもった相手のスキルを使用したり、進化して掛け合わせるようにしたり、新たな能力を作り出したり。

 ただ言えるのは、ナツキのえちえちは世界を救うということだ。



 グイッ!

「ほら、ネルねぇを抱っこしちゃいます」


 ナツキがネルネルを持ち上げる。


 いつも年上女性に攻められることの多いナツキとしては、自分より小柄な女性を見ると甘やかしたくなるのだろう。


「うわぁ、年下男子に抱っこされるのは恥ずかしいんだナ♡」

「大きいお姉さんにするのは大変だから特別です。他のお姉さんには内緒ですよ」

「ぐひゃひゃぁ♡ 小さくて得をするとは思わなかったんだゾ♡」


 ネルネルを後ろから抱き上げているのだが、大事なところをモミモミするのはいつも通りである。やはりナツキは無意識にエロかった。


 もみっ! もみっ! きゅんっ♡


「きゅっ♡ ううっ♡ 今朝の焦らしプレイといい……今のモミモミといい……ナツキきゅんは、とんでもない沼らせ男なんだゾっ♡ この焦らしと堕としの交互調教に耐えられる女はいないんだナ」


「どうかしましたか? ネルねぇ」


 ナツキがネルネルの顔を覗くと、完堕ちしたかのように瞳がハートマークになっていた。


「も、もも、もぉおおっ我慢できないんだナ♡ ここでイケナイコトするんだゾイっ♡」


 ぐにゃぁぁぁぁ~っ!


 久しぶりにネルネルの触手が現れた。ナツキの体に絡みつき手足を広げさせてしまう。


「ね、ネルねぇ、これは?」

「覚悟するんだナ♡ 今日はド変態な気分なんだゾっ♡」

「ええええ…………」


 カポッ!

 ネルネルが靴を脱いで足を突き出した。


「ぐへぇ♡ 足の指の隙間まで丁寧に舐めさせるんだゾぉ♡」

「もしかして、臭い特訓ですか!」

「臭いって言うナぁああああっ!」


 この後、滅茶苦茶ヘンタイでイケナイコトをされた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る