第148話 姫巫女

 熾天宮してんのみやの奥、御簾みすの内側で第106姫巫女はニヤリと笑った。


「くくくっ、作戦通りじゃ。いくらナツキが百戦錬磨の女ったらしだとしても、朕の殿方を堕とすテクニックで骨抜きじゃ。何しろ、この恋愛戯画ラブコメで勉強したのじゃからな。ふふっ♡ うふふふふっ♡」


 もう不安しかないが姫巫女がヤル気だ。


「待っておれナツキよ。朕のテクでメロメロのグチョグチョのチョメチョメにしてやるからな。ふへへへっ♡」


 元から色っぽい姫巫女の目つきが更に色気を増す。

 国賓としてヤマトミコに来たナツキ最大のピンチである。


 ラブコメで勉強した女のテクとやらを期待したい。


 ◆ ◇ ◆




 ナツキとレジーナがヤマトミコに滞在して二週間。二人は高天原たかまがはらだけでなく武蔵国で寿司を食べたり、フジヤマを観光したりと新婚旅行を満喫していた。


 因みに上泉道場だが、激しいイケナイコトの声やらギシギシ音やらが筒抜けで、ご立腹の新陰片喰しんかげかたばみに追い出されてしまった。


 人の家でハッスルし過ぎである。



「ふうっ、毎晩レジーナが激しくて疲れました」


 さすがのナツキもお疲れモードだ。旅行の疲れより夜の疲れの方が大きい。


「ぐあっはっはっは、旦那様、私と結婚したからには突き合って……付き合ってもらうでありますよ♡ わ、私は激しいのが好みと申しますか……♡ うへへ♡」


「くっ、レジーナはおあずけ・・・・にしたいのに、いつの間にかペースを握られてしまう」


「甘いでありますね、旦那様♡ 私の超秘儀スキル『華麗なる歌劇ヒロイン』に踊らされているのでありますよ。ふえぇっはっはっは」


 そんなスキルは無い……はずだ。


「うーん、ボク……レジーナって、おバカな人だと思ってましたが――」

「おもってたんかいっ!」

「でも、本当は凄く頭の良い人かもしれないと思い始めました」


 ナツキがジト目になる。


「いつもふざけてるけど、あれワザとバカなふりしてる気がする。実は頭が良くて計算高いお嫁さんなのかも?」


「くっくっく、能ある鷹はうりを隠すと言うアレですな」


「やっぱないか。レジーナだし」


 爪と瓜を間違えている発言で、やっぱないという結論に達した。結局、レジーナの頭が良い疑惑は不明のままだ。

 ただ、新婚旅行でイケナイコトし過ぎて、カリンダノールに戻ってからマミカたちからお仕置きされそうな気はする。


 ◆ ◇ ◆




 新婚旅行を終えたナツキは一旦レジーナと別れ、一人で熾天宮してんのみやで行われる歓迎式典に臨んだ。


 宮中晩餐会が催され、そこには姫巫女や征夷大将軍織田揚羽を始めとして主要人物が参列した。


 晩餐会を終えたナツキは熾天宮してんのみや内を散策する。少し気晴らしをしたい気分なのだ。



「ふうっ、やっぱり堅苦しい式典や晩餐会は苦手だな。大公になっちゃったけど、ボクは普通の庶民だし」


 ナツキはデノアの定食屋を思い出していた。どんなに金持ちになっても、貴族社会に染まることなく庶民派なのがナツキなのだから。



 そこに揚羽がやってきた。


 いつもの勇ましいプレートアーマー式南蛮具足ではなく、あでやかな赤を基調とした生地に木瓜もっこう柄の着物姿である。


「ナツキよ、この後は姫巫女様との会談だったな……」

「揚羽さん。確かそうです。二人っきりと聞いてますが」


 少し逡巡しゅんじゅんしてから揚羽が切り出した。


「姫巫女様には気を付けろ」

「えっ?」


 驚くナツキに揚羽が説明を始める。


「姫巫女様の能力スキルは、この世に一人だけの『神意』という恐るべきもの。代々ヤマトミコの民を統合するものである。戦術極大気象魔法神風顕現を起こす鍵となる力だ」


「大丈夫ですよ揚羽さん。姫巫女さんは悪い人じゃありません。ちょっと話し合うだけですから」


「い、いや、我が言いたいのはそういうことではない。な、ナツキのアソコがだな……。い、イケナイコトして……」


 この織田揚羽という女、見た目は獰猛な虎のようなのに、ナツキの前では猫のように可愛くなってしまう。散々ナツキに躾けられてこのザマである。


「ナツキ! わ、我と夜伽をせよ! やはり姫巫女様に渡すのは嫌だ。我の男にしたい」


「あ、揚羽さん。ダメですよ、こんなところで。悪い揚羽さんはこうです!」


 ペチンッ、ペチンッ、ペチンッ、ペチンッ――


「うひぃ♡ や、やめぬかぁ♡ こ、こんな場所で。おぬしは本当に凄い男子おのこだな、ああぁ♡ やっぱり我の夫にしたいぃぃいいっ♡」


 宮殿内の庭だというのにナツキは止まらない。


 獰猛な虎のような女が、猫……いや、ワンコのように躾けられてしまった。今ならお手やち〇ち〇もしそうである。


 ◆ ◇ ◆




 そして姫巫女との会談の時間となった。


 ナツキは熾天宮してんのみやの奥に通され、部外者は立ち入ることができぬ姫巫女の私的な部屋へと向かう。


「ここじゃ、ナツキよ」


 そう言って姫巫女に通された部屋は、何故か彼女の寝所だった。畳の上に布団が一組敷かれ、その上には枕が二つあった。



「えっと……姫巫女さん?」


 ナツキが姫巫女の顔を見る。


「こ、これはじゃな……そ、そうそう、ヤマトミコの伝統文化なのじゃ。より親しくなる為に、布団の上で語り合うのであるぞ」


 長いまつ毛で色っぽい流し目をして、繊細な芸術品のようなくちびるに指を当て姫巫女が話す。


「な、なるほど。伝統文化ですね! ボクはヤマトミコの伝統文化を尊重します」


 やっぱりナツキは騙されやすかった。女の嘘は無条件で信じ込んでしまう。


 ぽふっ!

 ナツキが布団の上に座った。


「それで、何を話し合うのですか?」

「ふふっ♡ うふふっ♡」

「姫巫女さん?」

「まんまと罠にかかったな、ナツキよ♡」

「ええっ!?」

「朕の超高度なスキルを見せてやろうぞ」

「ま、まさか……神意……」


 ガサガサゴソゴソ――


 緊張感漂う中で、姫巫女が小道具を準備し始めた。


「あぁ~ん、遅刻遅刻ぅ」


 そう言いながら食パンをくわえた姫巫女が、布団の上で走る真似をする。意味が分からない。


「きゃあっ、いったぁあい。何するのよぉ」

「えっと、姫巫女さん?」

「何よあんた、私のパンツみたからって良い気になるんじゃないわよ」


 シィィィィィィーン――――


 あまりの恥ずかしい言動に、ナツキが固まってしまった。


「――――っ!」

「えっと……?」

「い、今のは忘れるのじゃ!」

「は? あっ、はい」


 再び姫巫女が小道具をガサゴソする。


「お、おかしいのじゃ。恋愛戯画ラブコメを読んで会得マスターした朕の恋愛テクは完璧なはず……。も、もしやセーラー服を着ていなかったのが敗因か? まて、婿殿はブレザー派かもしれぬ……」


「あのぉ……姫巫女さん?」


「そうじゃ! お風呂に入っているところを偶然扉を開けてしまうラッキースケベならば。まてまて、そのテクは風呂に行かねば使えまい。これは困ったのじゃ」


 ぐだぐだになった姫巫女に、ナツキがトドメの一撃をさしてしまう。


「ふふっ、それマンガの真似ですよね。姫巫女さんって実は初心うぶだったんですね。誤解してました」


 ガァアアアアアアアアアアーン!

「はぅああぁ! 初心うぶな少年に初心うぶって言われたぁ……。もうダメじゃぁ……」


 ナツキの一言で姫巫女が大ダメージを受けた。


「あの、元気出してください。姫巫女さん」

「はうぁ、せっかく頑張ったのにぃ……」

「ぷっ、ぷはっ、くすくす」

「わ、笑うなぁ! この不埒ものがぁ」

「あはは、姫巫女さん面白いです」


 完全に空回りする姫巫女に、ナツキの笑いが止まらない。


「トワ……」

「えっ?」

「朕の本名は大天永遠オオアメノトワ結比売命ムスビヒメノミコトじゃ。トワと呼ぶが良い」


 ヤマトミコでは代々彼女の家系が『姫巫女』の名を継いでいるのだ。だが、姫巫女の本名を知る者は少ない。


「トワお姉さん」

「そうじゃ♡」

「よろしくお願いしますね」

「うむ、夜伽じゃ。子をなすぞ」

「えっと、それはダメです……もっと親しくならないと」

「ほれ、こうして添い寝するとコウノトリが運んでくるのじゃ」

「トワお姉さん……」


 ナツキは、『このお姉さんボクよりお子ちゃまだぞ』とか思ったが、彼女を傷つけないように黙っていた。


「ほれ、もっと近う寄れ。抱っこを所望じゃぞ♡」

「こうですか?」


 ギュッ!


「んぁ♡ これは良いものじゃ♡ 心が蕩けるようじゃ♡」

「トワお姉さんって、見た目はエッチなのに純情ですね」

「これ、不調法者が。夜伽の最中に無粋であるぞ」

「そうですね。まだ真剣交際してないからイケナイコトはダメだけど、ご褒美は頑張ります」


 いつものようにナツキが暴走する。姫巫女も他の女と同じように姉喰いの餌食になるのは言うまでもない。


 ポンポンポンポンポンポンポンポン――


「おっ♡ おふっ♡ や、やめよ、くおおっ♡ またその手つきかぁ♡ おかしくなっちゃうのじゃぁ♡」


「頑張ります!」


「が、頑張り過ぎなのじゃぁああぁん♡ おっ、おほっ♡ 何なのじゃこの男子おのこはぁ♡ やっぱり毎晩鳴かされちゃぅううううっ♡」


 ナツキにポンポンされまくって姫巫女が堕とされてしまった。もう戻れないナツキの無意識なポンポンやナデナデ調教の始まりである。


 初心うぶな二人なので跡取りをつくるのはまだ先になりそうだが、当分の間はポンポンやペンペンで堕とされまくりそうな予感がする。


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