第146話 クレア

 ナツキがカレー食品会社と同時に手掛けていたリゾート開発が、夏を前にやっと軌道に乗り始めていた。


 以前は寂れていたビーチは綺麗に整備され、カリンダノールの商店街には数々の店が立ち並んでいる。特区として再開発されたナツキの領地は活気に満ち溢れていた。


 この一大リゾート地となったビーチには、帝国中、いや、世界中からバカンスを楽しむ観光客が訪れているのだ。



「大成功ですね、クレアちゃん」


 水着姿のナツキが、一緒に遊びに連れてきたクレアに声をかけた。


「帝国の貴族もジャンジャンお金を落してくれて街も潤っています。これで領民の皆さんも収入が増え喜んでくれるはずです」


「そ、そうですわね……。あ、あの、なっくん?」


 笑顔で歩くナツキとは対照的に、横にいるクレアは恥ずかしそうにモジモジとしていた。

 そう、毎度おなじみ。クレアはスッポンポンなのである。


「はぁ♡ はぁ♡ な、なっくん……。これ、裸じゃないとダメなのかしら? み、見られてますわ。他の方から見られてますわぁ♡」


「はい、ここはヌーディストビーチですからね。クレアちゃんには帝国の伝統文化を存分に体験してもらいます」


「はぁぁああぁ~ん♡ なっくんは水着を穿いていますわよ。わたくしだけ裸なんて恥ずかしいですわ♡」


「ボクは訳あってポロリする訳にはいかないんです。今回はクレアちゃんだけ裸になってもらいますね」


 今日も今日とてナチュラルに鬼畜なナツキだった。



 ヌーディストビーチと銘打めいうってはいるが、まだ観光客は水着を着用している人が多い。

 そんな中で一際美人で目立ちまくるクレアが裸になれば、一躍注目の的なのは当然の成り行きだ。


 もうお馴染みだが、やっぱり周囲の人々から歓声が上がる。


「うおおおお! 憧れのクレア様が裸に」

「クレア様、なんてエロいお方なんだ」

「人妻になったのにエッチ奴隷なんて……」

「うおおっ! 何でクレア様は毎回オカズを提供してくれるんだ」


 女性客も憧れと興奮で大盛り上がりだ。


「はぁ♡ クレア様お美しいわ」

「さすが帝国一の美貌の持ち主ね」

「率先してヌーディストビーチを楽しんでおられるのね」

「でも、何だか恥ずかしそうにしているような気が?」

「あんたバカね、クレア様はナツキ様とプレイの最中なのよ」

「「「きゃああああああ! 羨ましいわ!」」」


 実際その通りなので何も反論できない。



 このとんでもない状況に、やはりクレアが謎の高揚感で壊れ気味になる。極東でも裸になったが、今回はナツキと一緒ということで、より興奮度合いが違うのかもしれない。


「なっくぅ~ん♡ もう我慢できませんわぁ♡」

「ああっ、クレアちゃん。ダメですよ、外でエッチなのは」

「エッチなのはなっくんですわぁ♡ こ、これ、何の調教ですのぉ♡」


 お外で調教しているようでいて、ナツキ本人は完成したばかりのヌーディストビーチを楽しんで欲しいだけなのだ。大真面目である。

 無意識にエッチなのは全く前と変わっていない。


「クレアちゃん、日焼け止めを塗った方が良いですよ。綺麗な肌が日焼けしちゃいます」

「はあぁああぁん♡ まだ見せなければいけませんのね♡」


 ここで陥落寸前のクレアに更に追撃をかけるのがナツキである。


「ほら、そこのビーチチェアに寝てください。ボクが日焼け止めを塗りますね」

「こ、ここ、こんな人の多いところでぇ♡ なっくんのエッチぃ♡ 限界ですわぁ♡」


 クレアを優しくビーチチェアに寝かせると、両手にたっぷりと日焼け止めローションを取り、それをニュルニュルと塗り始めた。

 ただ、超魅惑的なクレアの裸を見るのが恥ずかしいのか、ナツキは目をつむったままだが。


 にゅるっ、にゅるっ、にゅるっ、にゅるっ、にゅるっ、にゅるっ――


「クレアちゃん、手が邪魔です」

「はあああぁ~ん♡」


 イケナイところを隠していたクレアの手を、ナツキが外してしまう。俗に言う丸見えである。


「ほら、脚も開いてください。太ももも塗りますね」

「ああぁ、なっくんがとことん鬼畜ですわぁ♡」


 真面目に日焼け止めを塗っているナツキだったが、途中からクレアの色気で邪心が芽生えてしまう。クレアがエッチ過ぎるのだから仕方がないのだ。


 くううううっ――――

 今日もクレアちゃんがエッチで目のやり場に困る。

 どうしてボクのお嫁さんはこんなにエッチなんだぁああああっ!

 見ちゃダメだ! 見ちゃダメだ! 見ちゃダメだ!

 でも見ちゃうよ!

 あっ、でも結婚したのだから見ても良いのかな?

 よし、見よう!


 ナツキは見る結論に達した。


「く、クレアちゃん……」

「くぅううぅん♡ な、なんですのぉ♡」

「クレアちゃんの裸……凄く綺麗です」

「嬉しいですわ♡ 嬉しいのですが、ここじゃ恥ずかしいのですわぁぁああぁん♡ はうぅぅぅぅ~ん♡」


 極限の羞恥でクレアが陥落した――――




「――――んっんぅんんぅ~ん。ここは……」

「目が覚めましたか? クレアちゃん」


 失神したクレアが目を覚ますと、そこは海の家に設置されている個室プライベートルームだった。

 目を開いたクレアは、心配そうに顔を覗いているナツキと目が合った。


 観光客用に整備された海の家は、広いご休憩コーナーや飲食コーナーや、ナツキたちのいる海が見える個室プライベートルームまで完備している。



「わたくしは……はっ、そう言えば裸ですわ」


 ハッと気づいたクレアが自分の体を見るが、そこにはビキニタイプの水着が着せられていた。


「あの、ボクが水着を着せました」

「なっくんが?」

「はい、だって……他の男性にクレアちゃんの裸を見られるのが嫌で……」


 ビーチに入ってからナツキが自分で剥ぎ取ったはずなのに、今になって他の男に見せたくないと言い出すとか少年心ボーイズハートは不思議なものだ。


「クレアちゃんは裸になりたがるけど、あ、あまり他の男性に見せるのは……。伝統文化は尊重したいのですが、やっぱりこれってボクの独占欲ですか?」


「え、えっと……そ、それでよろしいですのよ。自分の妻の裸を他人に見せてはいけませんですわ」


「そうですよね。もうヌーディストビーチには連れてきませんね」


「えっ、あ、あの……ま、また……来ても……」


 もうしないと言われると、裸になりたがるのがイケナイ女のクレアである。一度知ってしまった高揚感は、そう簡単に忘れることはできない。


「えっ、脱ぎたいのですか?」

「ああぁ、そんなストレートにいわれますとぉ♡」

「わ、分かりました。たまには……」

「そうですわ。たまにはですわよね♡」


 結局どちらもヘンタイさんなカップルだった。


 ただナツキは気付いていない。あの真面目で品行方正で常識人のクレアを、こんなにヘンタイさんにしたのはナツキなのだと。

 作戦の為とはいえ、エッチ奴隷にしたり羽箒はねぼうきでくすぐったのが原因なのだから。


 そしてナツキは知らなかった。この気品漂うクレアが、実はとんでもないドスケベお姉さんなのだと。


 ◆ ◇ ◆




 存分に海水浴を楽しんだ二人は、再び海の家に戻って来た。泳いで疲れた体を一緒に横になって癒している。



「うふっ♡ なっくぅん♡」

「クレアちゃん」

「なっくぅん♡ ギュッてして欲しいのですわぁ♡」

「はい、ぎゅぅ~っ」

「はうぅ~ん♡ 極上ですわぁ♡」


 海の見える個室プライベートルームで抱き合いながらゴロゴロする二人。恥ずかしくて目を背けたくなるくらいにラブラブだ。



「お料理をお持ちしました。きゃっ!」


 注文した料理を運んできた女性店員が慌てて目を逸らす。そしてイチャイチャする二人をチラ見しながらテーブルに料理を並べた。


「ご、ごゆっくり~」


 良いものを見せてもらったと言いたげにニマニマとした店員が、ドアを閉め戻って行く。勿論この後、ナツキとクレアがイケナイコトしていたと、他の店員と噂話に花を咲かせるのだ。



 そんな店員も全く目に入っていないクレアは、更に熱く燃え上がってしまう。恋する帝国乙女は止まらないのだ。


「なっくんなっくんなっくぅぅ~ん♡ 悪い子のなっくんはキスで口を塞いでしまいますわぁ♡」


 ムッチリとした柔らかなクレアの体に包み込まれたナツキが情熱的なキスをされる。


「んっちゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅっ♡」

「んぁ、く、クレアちゃん……料理が来ましたよ」

「なぁっくぅん♡ わたくしの料理はなっくんですわ♡」

「ボクは食べられませーん」

「ああぁん♡ もう食べちゃいたいですわぁ♡ ちゅっ♡」

「ああ……柔らかい……クレアちゃんの良い匂いが……」


 しっとりスベスベで吸い付くようなクレアの肌に密着されナツキがダメ人間にされそうだ。お互い水着とあってか、破壊力は想像以上である。


「ふああぁ……ダメにされちゃう。クレアちゃんにダメにされちゃう」

「ダメになって良いのですわ♡ わたくしの胸の中ではダメになって良いですのよ♡」

「くあぁ、クレアちゃんの甘やかしが凄過ぎる。こんなの我慢できないよ」

「良いですのよ♡ 良いですのよ♡ 全て身を任せてくださいまし♡」


 じっくりたっぶりとクレアの甘やかしを受けたナツキがダメになってしまった。もうフニャフニャで骨抜きだ。


「ほぉらっ、次は昼食ですわよ。なっくん」


 続けてクレアの『あーん』が始まった。今日は二人っきりでバカンスとあってか、とことんイチャラブするつもりなのだろう。


「んっ♡ なぁっふぅ~ん♡」


 料理を口にくわえてキス顔で迫るクレア。しかもナツキを抱きしめガッチリロックしている。


 クレアの両脚はナツキの腰に回し完全に固定。片腕はナツキの背中に回し撫で回す。大きく柔らかな双丘はグニュっと押し付け包み込む。


 これぞクレアの恐るべき甘やかし術、『超密着だいしゅきホールド口移しあーん』なのだ。


「す、凄い。こんなの抗えない。クレアちゃんが凄過ぎる」

「うふふふふっ♡ 今日は逃がしませんことよ♡」

「ああ、またダメになっちゃう」

「ダメになって良いですのよ♡ んっ、ふぁーん♡」

「んっ、もぐもぐ……」

「これからは、なっくんの食事は全部口移しであーんですわよ♡」


 クレアの一存でナツキの食事が全て『口移しあーん』にされてしまった。ただ、城にいる時は他の嫁と喧嘩になりそうではある。


「んっ♡ ちゅっ♡ あむっ♡ れろっ♡ ちゅぅぅ~っ♡」


 このクレアというお姉さん、食事をしながらチュッチュするのは普通なのだ。今日もクレアは通常運行である。




 やっと口移しの食事が終わったかと思えば、続けざまにクレアが何やらアイテムを取り出した。

 ヤマトミコで人気がある豚の形をした陶器だ。


「それ、何ですか? クレアちゃん」

「こ、これはヤマトミコのお香ですわよ。なっくんは気にしないで良いですのよ」


 少し挙動不審なクレアだ。

 それもそのはず、この豚陶器の中で燃やしている香は、ヤマトミコ軍のきりから受け取った男を欲情させる媚薬入りのお香なのだから。



 もくもくもく――


 部屋に仙薬の甘い香りが漂い、ナツキの様子もおかしくなる。


「ああっ、何だか体が熱い。どうしちゃったんだろ、す、凄く興奮してきちゃったような……」


 媚薬がナツキに効いている。ただ、クレアに誤算があっとすれば、クレア本人が超絶ドスケベだったことだろう。


 普段は倫理観や常識で無理やり抑えているのだが、本来のクレアは超ドスケベで超ドヘンタイなのだ。むしろ媚薬はクレアに効いてしまっていた。


「な、ななな、なぁっくぅぅ~ん♡ イケナイコトしますわよぉ♡」

「うああああっ! クレアちゃんが壊れた!」

「今日は帰しませんことよ! イケナイコトたくさんしますわよぉぉぉぉ♡」



 その日、ナツキは自分の嫁がドスケベさんだと知った。それも想像を絶する程に。


「うわあああっ! クレアちゃん、聞こえちゃいます。薄い壁の向こうに他のお客さんや店員さんがぁああああ!」


「聞こえても良いのですわ♡ むしろ聞かせましょう♡ わたくしとなっくんの、愛とイケナイコトの軌跡シュプールを♡ ふぁあああぁああああああ~ん♡♡♡」



 クレアがドスケベさんという噂は瞬く間に広まり、裸で歩く噂と共に帝国中に知れ渡った。その噂も相まってカリンダノールのビーチリゾートは大人気観光地となったのだ。

 ナツキのリゾート開発は大成功だ。クレア様様である。


 ただ、ドスケベなお嫁さんと結婚したナツキの苦労は続くのであった――――


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