第144話 シラユキ

 ジュゥゥゥゥー!


 エプロン姿のシラユキが料理を作っている。


 新雪のような銀髪は後ろでまとめ、いつもとは違う新妻スタイルの髪型だ。鋭い目つきの翠玉エメラルドに輝く瞳は、緊張と焦りで揺れ動いている。


 ジュワァァーもくもくもくもく――


「あれっ、鍋の中が真っ黒に……」


 料理作りは失敗し、そこに残されたのは炭のような料理の残骸と魂の抜けたような氷の美少女だけである。


「ぐぬぬ……はああぁ、また失敗したぁ。私もネルネルみたいに手料理でナツキを喜ばせたいのに。どうしてこうなった……」


 皿の上の失敗した料理を見つめ溜め息をはく。


「はぁぁぁぁ……あれっ!? も、もしかして、私ってポンコツなのでは?」


 今頃気付いたようだ。


「そ、そういえば、人付き合いも苦手で人と上手く話せないし、方向音痴だし、ポエムはすべってるし、戦闘でも役に立っていないような……? えっ、嘘でしょ。嘘だと言って。私ってポンコツ女なの?」


 人前では無口でクールなのに、独り言は饒舌じょうぜつなのがシラユキだ。そして色々とポンコツだった。


「はああ、どうしよどうしよ。他の女は凄く役に立ってたり甘やかし上手だったり料理が上手いのに。私ってダメな妻なのでは? こんなんじゃナツキに愛想を尽かされちゃうよぉ!」


 頭を抱えたシラユキが、あわあわと慌てふためく。


「こここ、このままではダメだよ。何とかしないと。どどど、どうしよどうしよ、どうする私」



 そこにタイミング良くナツキがやってきた。調理場で変なリアクションをしているシラユキを見てしまう。


「あっ、シラユキお姉ちゃん。料理を作っているのですか?」

「んひゃぁああっ! なな、ナツキ」

「どうかしましたか?」

「な、何でもないよ。何でもない」


 シラユキが誤魔化そうとするが、テーブルの上に置いた料理が見つかってしまう。


「あれっ、この料理はお姉ちゃんが作ったの?」

 ひょいっ、パクっ!


 皿の上の黒くなった物体を、ナツキが口に入れてしまった。


「きゃああああっ! 食べちゃダメ、ナツキ! 毒だよ。ペッして、ペッ!」

「うわああ、あっ、飲み込んじゃいました」

「はわわわわわ!」

「毒なんですか?」

「ど、毒じゃないけど……苦いから」


 毒ではなくてナツキがホッとした顔をする。


「うひぃ……ごめんナツキ……。こんなダメなお姉ちゃんで。愛しい弟くんのナツキに美味しい料理を食べさせてあげたいのに、こんな黒焦げしか作れないなんて私の存在価値無いよね……」


 急に弱気発現するシラユキに、ナツキが真面目な顔になった。


「シラユキお姉ちゃん。そんなこと言っちゃダメです」

「ふぇ?」

「お姉ちゃんは世界にたった一人の大切な人です」

「な、ナツキぃ……」


 ナツキの大切な人宣言で、あたふたするシラユキの動きが止まった。


「お姉ちゃんは凄い人です。だって、攻め寄せるゲルハースラント軍60万とパンツァーティーゲルから帝都を守った英雄じゃないですか。しかも、敵兵を殺戮さつりくするのを良しとせず、超低温魔法で気温を下げ一時退却させたって聞きました」


「そ、それは……やっとのことで……」


「シラユキお姉ちゃんは、とても優しくて良い人です。初めて会った時も、敵だったボクに情報を教えてくれて、お金まで貸してくれたじゃないですか。そんなシラユキお姉ちゃんは凄い人です。価値が無いなんて言わないでください」


「ナツキぃぃ~♡」


 シラユキがナツキに抱きついた。ナツキの『さすおね』で自己肯定感が増したのだろう。


「ふへぇ、ナツキしゅきぃ♡」


「それに料理は腕だけじゃないですよ。気持ちが大事なんです。確かにちょっと苦かったけど、お姉ちゃんが一生懸命ボクの為に作ってくれたんですよね。その気持ちだけで凄く嬉しいですよ。す、好きな人に料理を作ってもらえるのは、それだけでも幸せなことです。大好きです、シラユキお姉ちゃん」


「んっひぃぃいいっ♡♡」


 変な声を上げたシラユキが体をグネグネする。やっぱり超絶美形なのに若干キモいリアクションだ。

 そんなところも可愛いポイントなのだが。


「ふへぇ、ありがとうナツキぃ♡ 私って顔が良いだけのポンコツ女だと思ってたよぉ」

「あっ、顔が良いのは認めるんだ」


 顔が良いのは誰が見ても明らかだ。シラユキくらいの超絶美形になると、謙遜する方が違和感があるだろう。


「お姉ちゃんは顔だけじゃなく脚や髪も綺麗ですよ」

「そうなの? でも目つき悪いって言われる」

「きっと心が優しいから、色々考えて上手く話せなかったり緊張して顔が強張っちゃうんです」

「ふひぃ、うれしいよぉ♡ もっと褒めて♡」

「シラユキさんは可愛くて優しいです」

「んひぃいいっ♡」


 ナツキのことが大好きなシラユキとしては、ポンポンやペンペンがなくても言葉だけで堕ちてしまう。


「ふぇ、私もナツキのお嫁さんで良いの?」

「もちろんです。シラユキお姉ちゃんでないとダメです。ボクの大好きなお嫁さんです」

「私もナツキがしゅきぃ♡ だいしゅきぃ♡」

「ずっと一緒です」

「もうナツキに一生面倒見てもらうぅ。お外出ないぃ」

「えええ……」



 こうして、ますますシラユキがナツキに依存してしまい、もうナツキ無しでは生きられない女になってしまった。お外出ないとか、若干ヤンデレっぽい。


 やっぱりポンコツな気もするが、そこは温かく見守って欲しいところだろう。


 ◆ ◇ ◆




 シラユキの自室にこもった二人は、ベッドの上でくっつきながら本を読んでいる。この夫婦の組み合わせは、出掛けたりするより部屋でまったりする方が多いのだ。



「ナツキ、この本も面白いよ」

「あっ、これは新刊ですね。これ好きなんです」

「そうそう、この作者の面白いよね」


 シラユキがナツキを後ろから抱きしめる形でイチャイチャしている。お姉ちゃんのバックハグだ。


「ふへぇ♡ ナツキ、こちょこちょこちょ」


 シラユキがナツキの腋をくすぐる。


「く、くすぐったいです」

「ボクもくすぐっちゃいますよ。こちょこちょ」

「ふえぇ♡ だめだめぇ♡ くすぐったいよぉ♡」

「こちょこちょこちょ」

「ふへぇ♡ だめだめだめぇ~っ♡」


 部屋に二人っきりということもあり、とても人には見せられないような恥ずかしくて少しエッチな、秘密のくすぐり合いっ子を始めてしまった。


「お姉ちゃんの腋をコチョコチョしちゃいます」


 ナツキがシラユキの腕をバンザイする形で押さえつけ、がら空きの腋に無慈悲なコチョコチョ攻撃を入れる。


「ふひゃ♡ あひゃあぁぁん♡ だめだめぇ♡ そこ弱いのぉ♡」

「シラユキお姉ちゃんの弱いとこを総攻撃です」

「もぉ、ナツキの弱いとこも攻撃しちゃうぞぉ」


 今度はシラユキが反撃し、ナツキをベッドに押さえつけると、お腹から下へと手を滑らせてゆく。


「ほらほら、ナツキの大事なとこくすぐっちゃうぞぉ♡」

「そ、そこはダメです」

「ダメと言われると余計にしたくなるのだぁ♡」

「うわぁ、ダメっ」

「ぐへぐへぐへ♡ ナツキの大事なとこいただきまーす♡ あーん」


 ガチャ!

「シラユキ、ちょっと聞きたいのだけど――」


 ちょうどシラユキが大胆な行為に出ようとしたところで、突然ドアが開きフレイアが入ってきた。


「あっ…………ごめん。ノックしたけど返事なかったから」


 バタンッ!


 気まずい顔をしたフレイアがドアを閉めた。


 ガチャ!

 再びドアが開き、フレイアが隙間から顔だけ出す。


「ふっ、シラユキって意外と大胆よね。じゃ」


 バタンッ!


 少し失笑気味な笑顔を浮かべたフレイアがドアを閉めた。今度こそ帰ったようだ。



 シィィ――――――――ン……


「んくぅんんんん――――」


 イケナイ場面を見られてしまい、湯気が出そうなほど真っ赤になったシラユキが変な声を上げた。


「お姉ちゃん、大丈夫ですよ。伝統文化です」

「ふひっ、あひっ……は、恥ずかしい」


 両手で顔を隠したシラユキが、ベッドにゴロンと横になった。その隙を逃さないのがナツキである。


「お姉ちゃん、隙ありです!」

「ああぁ♡ もう好きにしてぇ♡」

「徹底的にやっちゃいます」

「らめぇぇぇぇ~っ♡」


 何事も徹底的にやるナツキだ。くすぐり攻撃も、シラユキが息も絶え絶えになるまでやり切った。

 長時間に渡って焦らされまくったシラユキは、もう全身が性感帯のように敏感になってしまう。


「ふひぃ、ふひぃ♡ もう許してぇ♡ なつきぃ♡」

「まだ許しません。ボクはお嫁さんの躾には厳しいんです」

「らめらよぉ♡ 脚も弱いのぉ♡」

「で、でも、お姉ちゃんの脚って、やっぱり綺麗ですよね」


 ナツキはシラユキの脚を持ち上げた。


 胸は控え目なシラユキだが、脚は誰もが羨むような美脚である。スラリと長い脚には煽情的にムッチリとした肉付き。完璧な曲線を描くラインは、誰もが一度は触ってみたいと思うはずだ。


「ごくりっ……」


 普段は真面目なナツキだが、火照って桃色に染まったシラユキの白い脚を見て生唾を飲み込んだ。


 シラユキお姉ちゃん――

 凄く綺麗な脚だ……。

 スベスベでしっとりしていて、触ったら凄く気持ち良さそう。

 はあぁ、触りたい……。

 お姉ちゃんのスベスベの太ももに頬を寄せて、思いっ切りスリスリしたい。

 ああ、ボクはどうしちゃたんだ!

 エッチなことばかり考えちゃダメだ。

 でも――――

 もう結婚したから良いのかな?

 ボクのお嫁さんだから、恥ずかしいことしちゃっても良いよね――



 ナツキがシラユキの美脚のとりこになってしまった。至近距離から見ていたら、誰であっても抗えないだろう。

 何しろ、士官学校時代に『シラユキに踏まれたい同士の会』なるものが密かに作られていたくらいなのであるから。


 勿論、その美脚に触れられるのはナツキ唯一人だ。


「あああ……お姉ちゃんの太もも……」

「えいっ! ナツキ捕まえた」

「うわぁ!」


 まさに飛んで火に入る夏の虫の如く、ナツキがシラユキの脚に捕まってしまう。

 蟹挟かにばさみのように、両脚でナツキの顔をサンドイッチだ。


「もがぁ、く、苦しいです……」

「ふふっ♡ 悪い子のナツキは私の脚でお仕置き」

「ふがぁ……ふぉねえふゃん、顔が……」


 スベスベの太ももに挟まれたナツキの顔が、徐々にシラユキの方に引き寄せられる。まるでシラユキの脚が獲物を捕らえた美しき蛇のように。


「ふはぁ♡ ナツキぃ、私にいっぱいサービスして♡」

「むがぁ、ふぁめれす。ふぉめえふぁんのお姉ちゃんのだぁいふぃなところが大事なところが……」

「ぐへへぇ♡ 至福……ほら、ここをマリーアタックだよナツキ」


 ガチャ!

「シラユキさん、ちょっとお話が――」


 ちょうどシラユキが大胆な行為に出ようとしたところで、突然ドアが開きクレアが入ってきた。


「あっ…………ご、ごめんなさい。ノックしたのですが返事なかったのですわ」


 バタンッ!


 気まずい顔をしたクレアがドアを閉めた。


 ガチャ!

 再びドアが開き、クレアが隙間から顔だけ出す。


「うふふっ、シラユキさんって意外と大胆ですわね。では」


 バタンッ!


 少し意味深な含み笑いを浮かべたクレアがドアを閉めた。今度こそ帰ったようだ。


 シィィ――――――――ン……


「んくぅんんんん――――」


 イケナイ場面を見られてしまい、湯気が出そうなほど真っ赤になったシラユキが変な声を上げた。


「お姉ちゃん、大丈夫ですよ。やっぱり伝統文化です」

「ふひっ、あひっ……は、恥ずかしい」

「あ、あの、ち、近いです……」


 シラユキの脚に力が入り、どんどんナツキの顔が密着してしまう。


「ふああぁ、お姉ちゃんの太ももがスベスベで我慢できないぃぃい!」


 今日も今日とてラブラブだ。


 ちょっとだけポンコツなシラユキの溺愛ぶりが凄くて苦労しそうな気もするが、そこは愛の激しい嫁と結婚したのだからしょうがない。


 毎回シラユキの変わった攻めでグイグイこられるが、最後は必ずナツキの全身高次元催淫アストラルバースト革命のイケナイコトレボリューションによって、徹底的に容赦なく執拗に攻められまくり躾けられるのだが。


「だいしゅきぃ、ナツキぃ♡ 恥ずかしいのも至福ぅ♡」

「ふぃらゆきふぁん、くっ、くるふぃいれす……」


 この後二人は無茶苦茶イケナイコトした――――


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