第141話 永遠の誓い(もう逃げられないとも言う)

 またしてもキス寸前まで行ったグロリアに邪魔が入った。あと一歩なのにツイていないヒロインである。


「話は聞かせてもらったわ。ちょっと待ちなさい、ナツキ」


 ドアを開けて入ってきたのはミアだった。学校が終わって真っ先にナツキに会いに行ったのだが、執務室の中では良い雰囲気になっていて入るのに躊躇ちゅうちょしていたという次第である。



「ミア、立ち聞きしてたの?」


 またナツキがジト目になる。


「ち、違うわよ! 二人が良い雰囲気で入るタイミングを見計らっていただけなの」

「それを立ち聞きって言うような?」

「そ、そうとも言うわね。偶然だけど」

「でも、いつも変なタイミングで入って来るよね」

「たまたまよ! たまたまなの」


 ナツキとミアが言い合っていると、真っ赤な顔でプルプルしていたグロリアがキレた。


「もうっ! もうっ、もうっ、もうっ、もぉぉぉぉっ! 何でミアさんは、いつもいつも大事なところで邪魔しに来るんですか! せっかく初めてのキ……キスがぁ……。もぉもぉおおっ!」


「そ、それは、ごめんなさいだけど……。あたしだって……」


 つるぺたバトルが始まりそうになったところでナツキが仲裁に入る。


「ミア、グロリアさん、喧嘩はやめて」


「誰のせいよ! ナツキが手当たり次第に女を堕とすのが悪いんでしょ! このエッチ、スケベ、変態、ビッグサイズ!」


「そうです、ナツキ様が悪いんです! こ、こんなに私の心を掻き乱して。ナツキ様のせいで私までエッチな気分になっちゃったんです。もぉおお♡ 責任取ってください! この女の敵のクソガキ勇者ぁ!」


「ええええ……」


 何故か二人が団結してナツキが責められてしまう。



「そうよ! 前にグロリアさんが言ってた通りだわ。ナツキは胸の大きい女にばかりデレデレして、あたしたちのような小さい女には急に鈍感になるんですもの! あんたわざとでしょ!」


「そうです、ナツキ様は胸の大きい人ばかりイチャイチャしてます。エッチなのはいけません! 私も指導監督する立場から、ナツキ様にはキツいお仕置きをしなければなりません」


 ナツキがメスガキと合法ロリ姉に挟まれ絶体絶命だ。どちらも似たようなツルッとペタペタな胸でサンドイッチされてしまう。


「い、痛い、顔に肋骨ろっこつが当たるよ! ミア」


 ぎゅぅぅぅぅ~っ!


「ほら、これですよグロリアさん」

「ですね、一緒にナツキ様を躾けましょう」

「胸が小さい子の良さを教え込んでやるんだから!」

「もう胸が小さい子しか愛せないように躾けましょう」


 ぎゅぅぅぅぅ~っ!


「わぁああああああああ! 助けてぇ!」


 ナツキが余計なことを言うので更に二人を熱くさせてしまう。こうしてナツキは二人の胸の間でプレスされてしまった。

 つるぺたサンドイッチだ。




 悪乗りした二人が散々ナツキにお仕置きしたのだが、途中で我に返ったグロリアが恥ずかしさで自滅してしまうまで、そう長くはかからなかった。

 今はナツキに慰められているところだ。


「はぁああ……まさか私が破廉恥なことを……。どんどんエッチになっている自分が怖いです。もう他人に注意できません」


「グロリアさん、元気出してください。エッチなのは帝国の伝統文化ですよ」


 ポンポンポン――


「ナツキ様のせいじゃないですか。もうっ! あと手つきがエッチです。どさくさに紛れてお尻を触らないでください。ああぁんバカぁ♡」


 やっぱり無意識にナツキの手が伸びアチコチ触ってしまう。姉妹シスターズ七人から昼夜問わず仕込まれた姉堕技はオートスキルで発動するようだ。

 もう危険極まりない。




「ところでミアは何しに来たの? 何か話があったんじゃないの?」


 ナツキが話を戻す。


「そ、それよ! あんたに言いたいことがあって入ってきたのよ」

「何でそれがサンドイッチされることに……」

「うっさいわね。聞きなさいよ」


 パシッ!

 胸にパシッと手を当てミアが言い放つ。


「いいっ、ナツキ! 結婚するからって調子に乗ってんじゃないわよ! あんたには他に堕とした女がたくさんいるでしょ! その人たちを放ったまま結婚できるなんて思うんじゃないわよ! 責任取りなさいよ!」


「何でさ。責任といっても全ての人と結婚できるわけないし……」


「何言ってるのナツキ! 逃げちゃダメよ。男なら、ビシッと全員と結婚しないさよ! 他にも彼女候補とか求婚相手とかいるでしょ! 例えばほら、高嶺の花の、あ、あたしとか」


「――――そうかっ! 逃げちゃダメだっ!」


 ナツキが盛大に誤解した。


 昔からナツキにとってミアは幼馴染というだけでなく人生の師匠のようだった。普段は生意気でアタリがキツいメスガキ女子なのだが、ここぞという時に人生の教訓を教えてくれるのだ。


 まあ、実際は誤解なのだが。それとなくミアが自分をアピールしているのに、鈍感なナツキが勝手に暴走しているだけである。



「そうだ、逃げちゃダメだ! 元先生で気まずいし腋汗が凄くてマーキングされちゃうけど、マリー先生も大事な家族みたいな存在だよね。逃げずに向き合うべきだった!」


 何故かドヤ顔になってそう宣言するナツキだが、自分をアピールしようとしていたミアは納得がいかない。


「ナぁツぅキぃ、あ、あんたねぇ……」

「ありがとうミア。グロリアさんだけでなくマリー先生にも伝えてくるよ」

「な、な、なな、なんですってぇえええええええ!」


 ミアがブチ切れた。


「何であんたはいつもそうなのよ! 昔からずっと片想いして、それとなく好きだって伝えてんのに。あんたは全く気付かないんだからぁ! ねえ、わざとなの!? わざとやってんの! バカナツキぃいいいい!」


「わああああああああああ! ごめんなさぁああぁぁい!」


「いいっ! あんたはあたしと結婚するのよ! 絶対に逃がさないんだから! あたしの旦那様にしてビシバシこき使ってやるから覚悟なさいっ! た、たまには優しくしてあげても……い、良いけど」


「お、横暴過ぎるぅ!」


 こうしてナツキはミアにとっちめられ、無理やり結婚の約束をさせられた。もう逃げられない。


 ◆ ◇ ◆




 そして、あっという間に結婚式当日――――


 奇跡の勇者ナツキの結婚式とあり、世界中から嫁と参列者が集まることになる。もはや一大面白イベントだ。


 控室ブライズルームに通されたナツキは、ウエディングドレスに着替えた花嫁たちを眺めていた。

 通常は花嫁が一人のはずなのに、右を見ても左を見ても多種多様な個性を持つ女でひしめき合っている。



「お姉ちゃんたち、とっても可愛いです」


 ナツキの言葉で嫁将軍たちが一斉に振り向く。


「ナツキぃ♡ それアタシのことだよね?」


 マミカのドレスは髪と同じピンク色の花が刺繍されており、派手な容姿なのに可憐な印象を与えている。


「マミカは退きなさいよ。私に決まってるでしょ」


 そう言ってグイっと前に出たフレイアは、真紅の模様が散りばめられたドレスだ。胸の谷間が大胆に開いており、ナツキがチラ見してから目を逸らした。


「くふふっ、永遠とわを誓った片翼の鳥は運命に導かれつがいとなる。凍えた世界に閉じ込められていた私は、愛しき君と扉を開け、今、光の中へ融けて行くエターナルストーリー」


 ポエムを詠みながら恍惚の表情を浮かべるシラユキは、何故か黒いレースのドレスである。ちょっとよく分からないが独特の感性だろう。

 白銀の髪がドレスに似合っている。


「ナツキきゅん♡ わたしのドレスはどうなのかナっ♡」


 闇の大将軍なのに純白のドレスを着たネルネルだ。出会った頃とはまるで別人のように可愛くなっている。


「むふぅーっ♡ どうかなナツキ君? 私も特注品で作ってもらったんだ」


 長身爆乳巨尻というロゼッタは、特注品のドレスを着ている。ムッチムチの胸や太ももが見えまくっていて、ムッチリ女性に弱いナツキとしては正視できない。


「なっくん♡ わたくしのドレス姿はどうかしら?」


 何を着ていてもスッポンポンでも神懸ったように美しいクレアが、華麗なドレス姿で一際美しく輝いている。これでは誰もが圧倒されてしまいそうだ。

 願わくば、式本番で脱がないことを祈るばかりだろう。


「御主人様、今日はボクがエスコートするからね。任せてくれたまえ」


 王子様系女子になったレジーナが優雅なポーズで挨拶する。

 ドレスではなく男装なのだが、その内に秘めた魅惑のエチエチボディは隠しきれない。脱ぐと凄い彼女の尻や胸の辺りがはち切れそうで心配だ。



「皆さん可愛いですよ。こんな可愛くて綺麗なお嫁さんと結婚できるなんて、ボクは幸せです」


 ナツキの素直な感想に嫁将軍たちがデレデレになる。参列者の前では威厳を見せなければならないのに、もうデレッデレで無理かもしれない。


 そんな中、さり気なくナツキの視界に入ろうとしている健気な女が一人。グロリアである。

 さっきからナツキが大将軍改め嫁将軍ばかり褒めていて不満げだ。わざと視線を遮るように横切ったりといじらしい。



「あ、あの、グロリアさんも可愛いです」


 何度も何度も視界を横切るグロリアに、さすがのナツキも声をかけた。

 まるで少女のように可愛らしいドレスが、小柄で細身の彼女によく似合っている。


「な、ナツキ様、あまり浮かれてばかりではいけませんよ。世界各国から来賓らいひんが来ているのですから」


 顔は嬉しそうににやけているのに、口では厳しいことを言うグロリアだ。ただ、続けて心の声が漏れまくるのはデフォである。


「うふっ♡ もうもうっ、ナツキ様ったら。か、可愛いだなんて困ります♡ い、いけません、嬉しくて顔が緩んでしまう。気を引き締めねば。で、でも、結婚したら、私もナツキ様と初夜を迎えるのでしょうか? だ、だだ、ダメです! エッチなのはいけません! あああ、でも、夫婦なら許されるのですよね……。もうっ、私はどうしたら……ごにょごにょ」


「グロリアさん、全部聞こえてます……」



 ここまでは想定内だったが、この後更に強引な嫁がナツキに迫る。

 事ここに至って、ナツキは貞操の危機を感じ始めていた。


「ボク、どうなっちゃうんだろう……。伝統文化だと教えられてここまで来たけど、何かおかしいような?」


 今更気づいても、もう遅い。


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