第142話 何もなかった少年は恋人と家族を手に入れた

 帝都ルーングラード宮殿に用意された披露宴会場には、世界各国から参列者が集まっていた。


 今やルーテシア帝国、ヤマトミコ、ゲルハースラントなど、世界に絶大な影響力を持つ勇者ナツキの結婚式とあって、良好な関係を結びたい者たちが多いのだ。


 ただ、外交や安全保障面だけではなく、単にナツキとイケナイ関係になりたい女たちも多いのだが。



 世界各国首脳や王侯貴族が今か今かと勇者の登場を待ちわびている頃、相変わらずナツキは控室ブライズルームで嫁たちに捕まっていた。


「あの、近いです。お姉さんたち」


 やたらと密着したがる嫁たちに翻弄されながら、ナツキがジタバタしているところだ。


「もぉ、今日からエッチ解禁なのよね♡ ナツキっ」

「愛と生命の軌跡シュプールですわ♡」

「もう本気出しちゃって良いんだよね。ナツキ君♡」

「ちょっと、アタシのナツキから離れろしぃ♡」

「極刑! 極刑! 私の弟くんに触る女は極刑ぃ♡」


 徐々にナツキを取り合って激しくなるのはオヤクソクだ。


 そしてナツキの人生の師匠ミアがやって来た。


「ナツキ! あんた逃げなくて偉いわ。えへっ、それでこそあたしが見込んだ男ねっ。これからはビシバシしごいてやるから覚悟なさい」


 相変わらず生意気な顔のミアが、胸にパシッと手を当てる。胸が平なのでやり易いなどと言ってはいけない。


「まさかミアと結婚することになるなんて……。どうしてこうなった」


「はあ? 高嶺の花のあたしと結婚できるのに何よそれ。感謝しなさいよね。こんな良い奥さんをもらえたことに」


「その自信はどこから来るんだろ? やっぱりミアは凄いな。その根拠のない自信を見習いたい」


「こらぁ、根拠のないは余計よ!」


「うわわぁ、口が滑った。そ、そういえばマリー先生は?」


 ナツキが周囲を見回す。いつもならイケナイ先生がマーキングしてくるはずである。


「ああ、先生は緊張してトイレに行ってるわよ」

「えええ、あの先生も緊張するんだ?」

「普段はアレだけど、意外と緊張しいみたいね」

「そ、そうなんだ」


 普段のハチャメチャぶりとは反対に、本番では緊張で本領発揮できないマリーだった。




「「「おおおっ!」」」


 ドアが開いて入ってきた人物に、周囲の者から感嘆の声が上がった。

 神聖不可侵にして絶対的権力者、まだ幼くナツキのことを大好きな幼女が入室したのだ。


「ナツキぃ♡ どうじゃ? ナツキの為におめかししたのじゃぁ♡」


 小さな体に純白のドレスを纏った第35第ルーテシア帝国皇帝アンナ・エリザベート・ナターリヤ・ゴッドロマーノ・インペラトリーツァ・ルーテシアである。


「アンナ様、可愛いですね」

「ふあぁ♡ 嬉しいのじゃ。ナツキも似合っておるぞぉ」

「ありがとうございます」

「ふにゃぁ、余の勇者さまなのじゃぁ♡ すりすりぃ」


 アンナがナツキに抱きついて顔をすりすりする。


 皇帝陛下のお出ましとあって、他の嫁が一旦ナツキから離れるが、一部で『ぐぬぬぬ』という声も聞こえたりするのもオヤクソクだ。



「ナツキ様、私もいますよ。遂に私も彼氏兼夫ができるのですね。嬉しいです」


 突然ひょっこり出てきたトゥルーデを見たナツキが茫然とする。


「え、ええっ、トゥルーデさん? 何でウエディングドレス着てるんですか?」


「もうっ、ナツキさんってば今更ですか。アンナ様が結婚するのなら私もするに決まってますよね。言いましたよ、ゲルハースラント魂で寝取り……じゃない、奪い取ってみせるって。きゃははっ♡ ほらほらぁ、特別に私のお胸に顔を埋めてママァって言っても良いんだよぉ♡ ざこお兄ちゃんっ♡」


 魅了催淫サキュバススキルで挑発するトゥルーデだが、ナツキには全く効いていない。


「トゥルーデさん、お仕置きしますよ」

「ああぁ、ごめんなさい。冗談です。結婚は冗談じゃないけど」

「ボクとトゥルーデさんは、本気で付き合ってないから、まだ結婚は……」

「ま、待って! 少しずつで良いんです。少しずつ仲良くなって夫婦になりましょうよ」


 必死に食い下がるトゥルーデに、ナツキは根負けしたような顔になる。


「ボク……12人と結婚するの? ちょっとおかしいような……」


 ナツキの呟きに、抱っこされているアンナが爆弾発言をする。


「アリーナも結婚すると言っていたのじゃ。何やらよく分からぬが、余の代わりにペンペンされる嫁と言っておったの」


「ええええええええ! あ、アリーナさん、何やってるの。ボクと歳が近いお子さんがいるって言ってたのに……」



 唖然とするナツキのもとに、トドメの一撃となる嫁が現れる。


「「「おおおっ!」」」


 再び部屋にどよめきが起こった。

 ドレス姿の嫁で賑わう部屋に、一際目立つ白無垢しろむく綿帽子わたぼうしの女が入ってきたのだ。


「ナツキよ、久しいな。また会えて朕も嬉しいぞ」


 長いまつ毛と美しい切れ長の目をした色っぽい女、その名は第106代ヤマトミコの姫巫女である。


「ひ、姫巫女さん……。もしかして、姫巫女さんも?」

「当然じゃ。朕もナツキの妻となるのじゃ」

「あの、これってキャンセルできますか?」

「無理じゃな。そなたは朕の顔を見た。初めて顔を見せた殿方は結婚するしきたりじゃ」


 繊細で可憐なくちびるが動き、良く通る綺麗な声が響く。ただ、その声は穏やかなのようでいて絶対的な強制力のようなものを感じる。



「こ、困ったぞ。こんなに多くの女性を同時に幸せにできるのかな?」


 根は真面目なナツキだけあって、お嫁さんは幸せにしなければと本気で悩んでしまう。夜も徹底的にとことんイケナイコトする気だ。

 こう、休む暇もなく強気なお姉さんたちが現れてしまうのでは、徹底的にやる余裕がなくなってしまう。



 そんな悩めるナツキに、更に怖いお姉さんが現れてしまった。


「こら、ナツキ! 贅沢言うでないぞ。姫巫女様に見初められるのは光栄なことなのだからな! くっ、我を選ばぬとはイライラする」


 登場した時から怒っている征夷大将軍の織田揚羽だ。姫巫女を守るように後ろから付いてきていた。


「揚羽さん、何で怒ってるんですか?」

「うるさい! おぬしは本当に乙女心に鈍感なのだな」

「ええっ、機嫌直してくださいよ」

「誰のせいだと思っておるのだ! この女ったらし」


 そこにもう一人の武将が現れた。更にテンションが高い女である。


「おいナツキ、私の婿になる話はどうなった! 知らない内に姫巫女様の婿になるとか許せないぞ! だぞっ!」


 瞳の中に星が煌くヤマトミコの軍神娘、上杉ささめだ。娘と言うには歳はいっているのだが、溌剌はつらつとした雰囲気は少女のようである。


「ささめさんも来てたんですか。お久しぶりです」

「子種はどうなった! 早く夜伽をするのだぞ! だぞっ!」

「ちょ、ちょっと落ち着きましょう」

「これが落ち着いていられるかぁ!」


 興奮したささめを遮るように姫巫女が止めに入った。


「これ、ささめよ、揚羽よ、静かにするのじゃ。目出度めでたき婚礼の日であるぞ。諸外国の淑女が集まっておるのだ。礼儀をわきまえねばな」


 姫巫女の制止で大人しくはなったが、ナツキを見る目力は収まっていない。


「ぐぬぬぬぬ、我は諦めぬからな」

「だぞ、私もナツキとの子供をつくるんだぞ」


 姫巫女の手前、求婚は控えたようだ。しかし、ナツキを狙うのはやめないらしい。隙あらば寝取りそうで危険極まりない。




 嫁が14人という異常事態に、さすがのナツキも伝統文化を疑問に感じ始める。


「これ、本当に帝国伝統文化なのかな? ボクの他に重婚している人がいないし。何だか怪しい気がしてきたぞ。でも、ボクの出会った帝国のお姉さんたちは皆エッチだったよな……。うぅぅーん」


 ここまで来て今更嘘でしたとは言えない嫁たちが、何とか誤魔化そうと口々に釈明し出す。


「ナツキ少年、帝国では男は女の言う通りイケナイコトをするし、腋も舐める文化なのだぞ」

「やっぱりそうなんですか、フレイアさん……?」


「そうそう、疑問を持っちゃダメ。私を信じて」

「シラユキお姉ちゃんが言うのなら……」


「ほら、よく言うじゃない。『考えるな、感じろ、そしてイケナイコトしろ』って」

「マミカお姉様……そうですよね」



 悪いお姉さんにそそのかされてナツキが無理やり納得させられた。


「皆さん……嘘がバレたら大変なことになりますわよ……。でも、怒ったなっくんにキッツイお仕置きされちゃうのも極上ですわぁ♡」


 最後の良心であるはずのクレアも見て見ぬふりをする。むしろ、後で怒ったナツキに思い切り攻められたい気分なのだ。


 ◆ ◇ ◆




 その日、格差と貧困と戦乱により怨嗟えんさの絶えなかった帝国に祝福の鐘が鳴り響いた。


 人々も奇跡の勇者と花嫁たちを祝福し、街に笑顔が溢れている。ナツキの思い描いていた皆が笑って暮らせる世界の到来を予感させる光景だ。


 何もない少年だった。


 親もなく金もなく、天の祝福ギフトもゴミと呼ばれ、剣も魔法も使えなかったその男は、本当に戦争を止め世界を平和にしたのだ。


 今では彼の周りにはたくさんの者が集っている。



「良かった。皆が仲良くなって」


 目の前の嫁たちを眺めているナツキが呟く。


「どうしたのナツキ?」

「あんた、なに言ってんのよ」

「また余を抱っこしたいのじゃなぁ」

「たまには私を抱っこしてくださいよ」

「いや、朕も抱っこを所望じゃ」


 周囲の嫁たちが一斉に反応した。

 その嫁たちを見渡しながらナツキは胸を張って話す。


「だって見てくださいよ、この部屋の光景を。元々は敵同士で戦争していたんですよ。デノアもルーテシアもヤマトミコもゲルハースラントも。それが今では皆が笑い合って同じ部屋にいるのですから。本当に良かった」


 ナツキの話で顔を見合わせる嫁たち。本人たちも不思議な顔をしている。


「そうね、帝国の年増大将軍に攻められたらデノアは滅ぼされるって噂だったものね。ナツキのおかげよ」


 ミアが禁句を言ってしまうのもオヤクソクだ。


「おい、誰が年増だって?」

「被告人ミアを極刑に処す」

「さすがにわたくしも怒りますわよ、ミアさん」


 やっぱり姉妹シスターズからわからせ・・・・られてしまうミア。懲りない女だ。


「ああぁあーん、やっぱり怖いよぉ!」


 そんなふざけた日常にもナツキは頬を緩める。

 暫くミアにはナツキのポンポンより姉のわからせ・・・・を受けることになりそうだが。



 世界の北に位置する巨大な大陸。その大部分を占める国々を武力ではなく真面目で無意識なポンポンとペンペンでまとめてしまった奇跡の勇者がいた。


 その名はナツキ・ホシミヤ。


 初心うぶで真面目で優しいのに、ちょっとエッチで鬼畜なベッドでつよつよ男である。

 このお話は、そんな彼の姉を堕とす英雄譚えいゆうたんなのです。






 ――――――――――――――――


 ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。読んでくれた皆様に感謝申し上げます。


 本編はここで終わりますが、引き続き次章では各ヒロインの個別イチャラブストーリーに続きます。

 結婚後の、とびきり甘々でイチャイチャな振り切ったお話になる予定ですのでご期待ください。


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 星1個でも泣いて喜びます。


 お気軽にコメントやレビューなどもお待ちしております。


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