第137話 女秘書は闇に踊り、幼馴染は覚悟を決める

「い、いふぁいれす痛いですおふぇえさまお姉様


 懲りないナツキがまたマミカにお仕置きされている。もう、これも一種のイチャイチャのように見えなくもない。


 本来マミカはミーアオストクの守備の任があったのだが、本人がナツキと一緒にいたくてカリンダノールに滞在したままだ。


 代わりにユリアが極東行きを名乗り出て、大将軍マミカの代理としてミーアオストク守備の任に就くことになった。

 元アレクサンドラ親衛隊の隊長として、内乱の時にマミカを拘束した負い目もあるのかもしれない。


 そんな訳で、他の大将軍もここカリンダノールに滞在したままだ。結婚を控えた彼女だから当然だと言いそうな気もする。



「ナツキ、あんたまた新しい女に手を出してるし。やっぱり悪い子」


 いつの間にかグロリアが彼女候補になっているのを知ったマミカがご立腹だ。執務室での二人のやり取りを見て、いつもと違う雰囲気に気づいてしまう。


 まあ、この二人の関係を見ていたら、勘の鋭いマミカでなくても分かりそうなものだが。



 これにはナツキもグロリアも釈明を続けていた。ナツキはグロリアの話を真に受けて説明し。グロリアの方は照れながら誤魔化そうとしているように見える。


「ち、違うんです。グロリアさんは僕を指導監督する為に……」

「そうですマミカ様、私はナツキ様が破廉恥なことをしないよう指導しているのです」


「はあ? 何処に男を指導監督する為に彼女に成りたがる女がいるのよ! それは口実だし」


 マミカに言い当てられてしまい、ナツキの横に立っているグロリアが恥ずかしさで顔を隠す。図星である。


「マミカお姉様、安心してください。グロリアさんはエッチなお姉さんたちとは違います」


「誰がエッチなお姉さんだこら」

 マミカがツッコミを入れる。


「マミカお姉様は凄くエッチ……と、それは置いておきますが。グロリアさんは真に気高く貞操観念が高い人ですよ。結婚するまで純潔を守るって言ってました。キスもダメです」


 ガァアアアアーン!


 ナツキにキス禁止を言い渡されグロリアが大ショックだ。


「なな、ナツキ様……? キスもダメですか?」

「えっ、グロリアさんが前に言ってたような。結婚するまでエッチなことはダメって」

「そ、それは言いましたが……私も……ゴニョゴニョ」


 本当は思い切りキスしたいグロリアなのだが、確かに自分で言ったセリフなので今更覆せない。


「あああぁーん、私のバカバカぁ。確かに前は男嫌いだったから男性とそんなこと絶対しないって思っていました。でもでも、今は違うのにぃ。ナツキ様が他の女性とキスしているのを見せられて、私だけできないなんて酷過ぎます。ゴニョゴニョ――」


 グロリアが頭を抱えてブツブツと呟いている。

 それを見たマミカが何かを納得して「うんうん」と頷く。


「あー、う、うん、まあ一人くらい増えても良いかな。グロリアって面白いし」


 自分より年上なのに年下みたいに初心うぶなグロリアを見て、マミカがニマニマした顔をする。


 こうしてグロリアは許された。少々潔癖で奥手な彼女がナツキとエチエチする日は来るのだろうか。


 ◆ ◇ ◆




 女秘書マリーは欲求不満が爆発しそうになっていた。ナツキが旅立ちの日に、ご褒美は帰ってきてからすると約束したはずなのだ。しかし、待てど暮らせど何もされないのだから。


 自室で悶々とした時間を過ごしていたマリーが、さっきから独り言をしている。


「はぁん♡ ナツキ君ってば、本当にイジワルなんだからぁ。先生悲しいわぁ。約束を守らない子には、キッツイ教育的指導が必要よねぇ。もう先生すっごいコトになっちゃいそうよぉおおぉ♡」


 いつも凄いコトになっているマリーが更に凄いコトになるとはどういうことか。もうダメかもしれない。


「そうね、ナツキ君って怖いお姉さんが好きみたいだから、私も怖い女秘書になるしかないのかしら」


 マリーは誤解している。ナツキが好きなのは優しいお姉さんであり、決して怖いお姉さんが好きなわけではない。ただ、大将軍の彼女たちが、たまたま怖そうなイメージだっただけだ。


 シュシュッ! キュッ!

 ビシッ!


「よしっ! 怖い女秘書マリー特殊決戦形態! 行くわよ私!」


 久々にマリーが髪をアップにした。夜会巻きと呼ばれるデキる女仕様だ。

 服装もピチッとしたスーツに身を包み、タイトなスカートは短くセクシーアピールばっちりである。


「ふふっ、この大人っぽいセクシーなスーツ姿なら、ナツキ君のドストライクなはずよ! これで私も処女卒業よぉん! るんんたたらったぁ」


 ヘンテコな鼻歌まじりにスキップでナツキの部屋へと向かう。ナツキが成長し、つよつよになっていることも知らずに。




 ガチャ!

「マイロード、大人っぽいお姉さんは如何かしら?」


 突然ドアが開き、不意を突かれたナツキがビックリする。


「うわあぁっ! まま、マリー先生、急にドアを開けないでください」


「あらあらあらぁ? マイロード、一人でイケナイコトでもしていたのかしらぁん?」


 マリーがベッドに座っているナツキの隣に腰を下ろした。まるでイケナイ先生が生徒に手を出そうとしているみたいだ。


「なな、何もしていません。先生……」

「大丈夫よ。男の子が一人部屋の中ですることと言ったらアレ・・しかないでしょ♡」

「アレって何ですか……」

「アレよ、アレっ! ねっ、先生が手伝ってあげるわよん♡」


 アレと言われても何だか分からないナツキだが、イケナイコトのような気がして危険信号が灯る。


「ほぉら、服を脱ぎましょう。先生が気持ちよくしてあげるからぁん♡」


 早速事案発生になりそうだが、ここは帝国であり生徒と教師という関係でもなくなった二人は合法である。しかも偶然姉妹シスターズも部屋には不在だ。

 このままでは貞操の危機まっしぐらかもしれない。


「だ、ダメですよマリー先生。付き合ってない人はエッチなこと禁止です」

「じゃあ付き合って」

「ダメです」

「コラっ、ナツキ君!」


 主人マイロードなのに『ナツキ君』呼びに戻る。先生の時の癖が抜けないのか。


「ナツキ君、帰ってきたらご褒美しますって言った」

「ギクッ!」

「今、ギクって言ったわよね? ナツキくぅん、誤魔化してない?」


 年上女性が好みのナツキだが、何故かマリーだけは苦手だった。元教師という間柄や、昔からしっとりじっとりマーキングされていたことが原因かもしれないのだが。


「ほらぁ、約束は守らないとでしょ。めっ!」

「先生っぽくされると余計にやりにくいです」

「むふっ♡ むしろ教師と生徒だから興奮するのよっ!」

「ダメだこの先生。イケナイ女教師さんだ……」


 イケナイ女教師マリーがナツキに迫る。もう興奮で『女秘書マリー特殊決戦形態』から『イケナイ女教師マリー女豹形態』になってしまった。


「んあぁっ! ぬぁあつきぃく~ん! はぁうぁっ♡ いた、いっただっきまぁーす!」


 ガシッ! バタンッ!


 ナツキが飛び込んできたマリーを受け止めると、クルッと捻ってベッドの上にねじ伏せた。

 今のナツキはベッドでつよつよなのだ。帝国女大将軍を屈服させているのだから、マリーが勝てるはずもない。


「これをこうしてこうなって――」

「えっ、あれっ? なな、ナツキ君?」


 たまたまベッドの上にあったひもをナツキが手に取ると、それでマリーを縛り始めた。

 たまたま紐があったのであり、それで姉妹シスターズを調教している訳ではないので誤解なきよう。



「これでよしっと」

「良くないわよぉん♡ 何で先生縛られてるのぉん?」

「何だか先生が危険なので、縛ってからご褒美にしますね」

「ひえぇぇぇぇ~ん」


 せっかくナツキとイチャイチャと思っていたのに、何もできなくて嘆くマリー……だったが、実は超絶キツいご褒美だとは知る由もなかった。


「これもしますね」

「えっ、ええっ! 何も見えないわぁん♡ 先生怖いのぉ」


 たまたまベッドに置いてあったタオルでマリーに目隠しをする。目隠しまでする念の入れようなのは、さすが何事も真面目に取り組むナツキだろう。


「えっと、ご、ご褒美はこれです」


 ベッドの上で縛られ動けないマリーに、ナツキがお腹ポンポンし始めた。大好きな姉にする時と違い、少々雑な気もするが。たまにケツをペンペン叩くのはご愛敬だ。


 ポンポンポンポンポン――ペンペンペン――ポンポンポンポンポン――


「うひっ、あっひぃいいいいぃ~ん♡」


「どうしよう、またグロリアさんに指導されちゃうな。女性をペンペンしちゃダメだって。でも、マリー先生から来たんだからしょうがないよね」


「おふっ、おおふっ♡ んっほぉおおおぉ~ん♡ 教え子に堕とされちゃうわぁん♡ イケナイ先生でごめんなさいぃぃ~ん♡」


 ナツキは知らなかった。元教え子に雑に扱われる行為自体が、ちょっと変わったマリーのハートをより熱くさせていることに。

 元からナツキがドストライクだったマリーが、更に好き好き大好きナツキ君になってしまった。


 ◆ ◇ ◆




 七人の姉とイチャイチャしつつ、グロリアの嫉妬で説教をくらい、マリーの腋汗マーキングというウザ絡みをされるという日々。

 そんなスラ―ライフならぬエチエチライフを過ごしているナツキの許に、遂にあのメスガキが現れた。



「というわけで、よろしく頼むわよナツキ!」


 ある日突然、カリンダノール城に幼馴染の女子がやって来た。


 ショートカットのオレンジ色の髪。少し釣り目で挑発的な表情。生意気そうなメスガキっぽい顔をしているが、見ようによっては可愛く見えなくもない印象だ。


 そう、ナツキの幼馴染、ミア・フォスターである。


「えっ、ええっ、ミア……?」


 メイドから来客と聞いて応接室に行ったナツキが見たのは、大きな荷物を傍らに置いてイスに座っているミアの姿だった。


「どうしてここに? 学校は?」

「帝国に留学するのよ。幼年学校を正式に卒業したら、こっちの学校に入る予定なの」

「ええええええ!」


 ミアの衝撃的登場にナツキが茫然としている。


「あ、あたしはね、ナツキが最低のスケコマシでもエッチでヘンタイでビッグサイズでも構わない」


「何だか酷い言われようだ……」


「だから、あんたは手当たり次第に女を堕とすビッグサイズだけど、あたしはそれでも構わないって言ってんの。むしろ、あたしがナツキを更生させてやるんだから! あんな年増女なんかには負けないんだからね! 見てなさいっ!」


「誰が年増女よっ!!」


 ミアの背後に燃え上がるような真紅の髪の女が立っていた。いつの間にかフレイアが来ていたようだ。


「きゃああああ! 出た年増大将軍!」

「だから、まだ若いって言ってんのよ! 誰が年増だコラ!」

「わああああーん! やっぱり怖いよぉ!」


 ガチでキレ気味のフレイアにミアが捕まった。年頃の娘に年増は禁句である。

 この後、ミアは徹底的にわからせ・・・・られた。






 ――――――――――――――――


 わからせ確定のミア。生意気なメスガキには容赦はしないお姉さんたち。

 口は悪いけど意外と健気な幼馴染だ。

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