第135話 再び領地へ

 ナツキたちを乗せた馬車はカリンダノールに向かっている。帝都を出発しアレクシアグラードを経て、懐かしい港町に近づいてきた。


 カリンダノールは南部に位置しており、馬車が進むにつれ雪が少なくなっているようだ。


「それほど経っていないはずなのに、何だか凄く懐かしい聞かしますね。お姉ちゃん――」


 ナツキが彼女たちに声をかけるが、全員馬車の中でぐったりして返事がない。ナツキのご褒美ハグとご褒美キスで堕としまくったからだ。


「あの、シラユキお姉ちゃん?」


 ナツキは近くでぐったりしているシラユキを抱きかかえた。


「ふぇ♡ ナツキぃ、しゅきぃ♡」

「お姉ちゃん、もう少しですよ。ちゅっ」


 呆けた顔のシラユキの頬に優しくキスをした。サービスいっぱいである。

 スキルを使ったものではなく普通のキスだが。


「ふひぃ、しゅあわしぇ♡」


 シラユキが幸せそうで何よりだ。


「ボクも幸せです。シラユキお姉ちゃん」


 あれからナツキはアストラルなんちゃらというキスを控えていた。良かれと思い連発したのだが、まさかのクレアが粗相をしてしまい大変なことに。

 姉妹シスターズたっての願いで聞き入れたのだ。


 因みにクレアがおも――してしまったのは二度目である。(一度目はボドリエスカでナツキたちに捕まった時だ)

 恥ずかしいところを全て見せてしまうくっころ・・・・ヒロインのクレア……。実に悩ましい。


 スキルを使うのは二人っきりの時だけにと懇願こんがんされたが、まあナツキのことなので無意識に使うのはあるだろう。





 この数日前、ナツキは皇帝アンナに重婚の相談に行った。七人の彼女を平等に愛するには、どうしても避けられない話だから。



 数日前、帝都ルーングラード宮殿――――


「――――と、言う訳で帝国で重婚の許可が欲しいのですが」


 ナツキの話にアンナが目を丸くした。


「な、ななな、じゅ、重婚じゃとぉ!」

「はい、一夫多妻制になっちゃいますが、許可して欲しいんです」


 突然の申し出にアンナがたじろいだ。


「じゅ、重婚……。も、もしかして余と結婚するため……。うわぁ、ナツキのお嫁さんになれるのじゃぁ♡ しょ、しょうがないの。ナツキと結婚するのには法改正が必要なのじゃな。ふむふむ……」


 何やらブツブツとアンナが呟いている。


「あの、アンナ様? 重婚の許可はもらえますか」

「しょ、しょうがないのじゃ。そんなに余と結婚したいのじゃな」

「アンナ様は小さいので結婚できませんよ」

「な、なんじゃとー!」


 アンナの勘違いだった。


「よ、余と結婚せぬのなら許可は出せぬのじゃぁ」

「アンナ様、そこをお願いしますよ」


 抱きっ、ぎゅぅぅ~っ!


 一度は突っぱねたアンナだが、ナツキに抱っこされ満更でもない顔をする。


「ふあぁあっ♡ ナツキに抱っこされると全て許してしまいそうになるのじゃ♡」

「お願いします」

「むぅ、しょ、しょうがないのじゃ。余をお嫁さん候補にしてくれるなら許してもいいのじゃ♡」


 アンナがちゃっかり花嫁候補になろうとする。ヤマトミコの姫巫女にも勝手に婿にされているので、ナツキは二人……いや、トゥルーデを含め三人の結婚相手なのかもしれない。


「いきなり結婚は無理ですよ。ちゃんと恋人同士として健全な交際をして、心が通じ合ってからです」

「それで良いのじゃ♡」

「わ、分かりました」


 何となく曖昧な口約束で重婚許可が下りたようだ。こんなんで良いのだろうか。後でモメそうな気もするが。



「アリーナ?」


 アンナが、横で黙って成り行きを見ていたアリーナに声をかけた。


「はい、問題ありません。今回は特例として許可しましょう。法改正は必要ないと思います。ナツキ様は帝国を救った大英雄ですから、誰も異論をはさむ者はいないでしょう」


 相変わらず知的な表情でメガネをクイっとさせながらアリーナが話す。


「ナツキ様に於かれましては交際女性が多いですから。その一角に私を加えて頂けるのは光栄です」


「えっ?」


 アリーナの話が変な方向にゆき、ナツキが驚いた顔をする。


「新しいパパが自分と歳が近いのには私の娘も驚くでしょうが、それは致し方ありません」

「へ?」

「んんっ♡ 神聖不可侵であるアンナ様に鞭打つなど許されません。代わりに私の尻を差し出し打たれる覚悟です」

「は?」

「んああぁ♡ いけませんナツキ様。娘にだけは秘密にしてください。私がふしだらなメス犬だとは」


 知的でクールな印象のアリーナが、一気に耳まで真っ赤にしてクネクネし出した。ふしだらアリーナだ。


 こうして、若干の行き違いがあったものの、重婚の許可は下りた。ナツキのハーレムが確定した瞬間である――――





 南に進んでいた馬車の車窓から海が見えてきた。カリンダノールに入ったようだ。


「海だぁああーっ! お姉さん、海ですよ。海」


 ナツキが声を上げると寝ていたフレイアが目を覚ました。


「うるさいわねぇ、んんぅーっ」

「フレイアさん、カリンダノールですよ」

「ナぁツぅキぃ~! さっきはよくも堕としてくれたわね!」


 グイッ!

 フレイアがナツキの腕を掴む。


 最近ナツキに堕とされまくっているフレイアが反旗を翻した。たまには年上彼女の威厳を見せたいのだろう。


「シラユキ、そっちの腕を掴んで」

「うい」


 反対側にいたシラユキに声をかけ、二人でナツキを捕まえてしまった。


「フレイアお姉さん、シラユキお姉ちゃん、急に何するんですか?」


「姉の威厳を守る為よ! ナツキの領地に戻るのに、私たちが堕とされまくってたら変な噂が広がっちゃうでしょ」


「くふふふっ、ナツキに屈服される姉ポジも良いけど、たまには攻めたい気分……」


 二人に捕まってジタバタしていると、クレアが目を覚ました。丁度いいタイミングだろう。


「皆さん、これは……?」


「クレア、ナツキをやっちゃうわよ!」

「ふへへっ、皆でイタズラしちゃう」


「フレイアさん、シラユキさん、そういうことでしたら♡ うふふふっ♡ なっくぅぅぅぅーん♡」


 口に手を当てて微笑んだクレアがナツキに飛び掛かる。やる気満々だ。


「クレアちゃん、ダメですっ! うあっ、くすぐったい! わああぁぁぁぁ!」


「「「こちょこちょこちょこちょ」」」


 ナツキが三人がかりでくすぐられる。ここぞとばかりに腋や腹や足など触り放題だ。

 この騒ぎで他の姉も目を覚まし、結局全員からくすぐられることになってしまう。


 今まで散々堕としまくったから自業自得だろう。


「うわぁああああっ! 許して、お姉ちゃぁぁーん!」


 ナツキの絶叫を残しながら、馬車はカリンダノールに入った。


 ◆ ◇ ◆




「ナツキ様、お帰りをお待ちしておりました。って、あの……何だかお疲れのようですが」


 城の前で出迎えたグロリアが驚きの顔になる。


 久しぶりに主と再会する感動のシーンのはずが、馬車から降りるナツキはぐったりしているようだ。


「あっ、グロリアさん。ぶ、無事に戻ってきました。出迎えありがとうございます。うわぁ」


 馬車から降りたナツキの足元がおぼつかない。七人の彼女から体中くすぐられたからだろう。


「うわぁ!」


 ナツキがつまづいてグロリアに抱きついた。


「きゃあっ、なな、ナツキ様、いけません」

「ご、ごめんなさいグロリアさん」

「はあぁあん♡ ダメです。人が見ています」

「わざとじゃないんです」

「ダメぇ♡ こんなところでぇ♡」


 もみっ、もみっ!


「バカぁ! どこ触ってるんですか! ナツキ様のエッチ! 変態! クソガキ勇者!」

「えええ……」


 真っ赤な顔で罵倒するグロリアが懐かしい。ナツキは久々に彼女のツンツンな態度を見て顔がほころんだ。


「なに笑ってるんですか、ナツキ様」

「ふふっ、グロリアさん。ただいま」

「おかえりなさいませ、ナツキ様。もうっ、おいたが過ぎますよ」

「グロリアさんの顔を見たら安心しました」

「ううっ、そ、そんなことを言っても何も出ませんからね」


 怒っている素振りなのに内心嬉しそうなグロリアがそっぽを向く。その顔は少しにニヤけているようだ。



 グロリアと再会の余韻に浸っていると、何やら城の中が騒がしくなる。しっとりじっとりヒロインの襲来を予感させる雰囲気だ。


「ナツキくぅ~ん! 先生ねっ、ずっとずっと待っていたのよぉ~ん♡」


 城の中からマリーが飛び出してきた。その姿は、旅立つ時のデキる女マリーではなく、昔の淫らマリーに戻っている。


「わああぁ、マリー先生。冬なのに腋汗がぁ!」

「ナツキ君と会えて汗かいちゃったのよぉ♡」

「わわ、腋を押し付けないでぇ!」

「マーキングマーキングぅ」


 すっかり元のマリーに戻ってしまい、ナツキがしっとりマーキングされてしまった。まあ、すぐ姉妹シスターズに引っぺがされるのだが。


 ◆ ◇ ◆




 城の執務室は綺麗に掃除がされていた。留守の間もグロリアやメイドが整理整頓してくれていたのだろう。


 ナツキが執務室のイスに座ると、それまでの想いが一気に込み上げてきた。それほど月日も経っていないなずなのに、懐かしさと不思議な感覚でいっぱいになる。



 一人部屋を眺めながらナツキは呟く――


「ボクは戻って来たんだ。色々なことがあったな。戦争で家を焼け出された人々……犠牲になった人々……。戦争を止めるのには成功したけど、決して忘れちゃいけない記憶だ」


 ナツキは戦いの記憶を思い起こしていた。


「もう悲惨な戦争が起きないように国際的な協力関係を作ったけど、まだまだこれからだよね。経済的な連携を深めて戦争を起こさせない仕組みにしないと。トゥルーデさんや姫巫女さんも良い人みたいだし何とかなるよね」


 因みに言うこと聞かないとペチンペチンなので、エッチ方面では強権的なナツキだった。



 ただ、ナツキは忘れていることがあった。ご褒美を約束してしまったマリーと、密かに恋の炎を燃やすグロリアの件だ。そして、もう一人……。


 カレー会社とリゾート開発の立ち上げに奔走するナツキに、恋と嫉妬とえちえちに暴走する乙女の手が伸びようとしていた。


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