第129話 アンナちゃんの笑顔はナツキだけのもの

 極東での一仕事を終え、ナツキたちが帝都に戻ってきた。

 季節はすっかり冬である。どんよりした空からは白い雪が降り続ける中での凱旋であった。



 帝都大通りに詰めかけた人々も、勇者の凱旋に大歓声で応えている。


「勇者ナツキ万歳!」

「救世主だ!」

「ナツキ様ぁ! こっち目線ください♡」

「きゃああああっ! ナツキ様ぁ、好きぃ!」


 勇者を称える歓声や、ナツキに興奮する貞操逆転乙女たちの声が響く。


「皆さん、帰ってきました!」

「「「きゃああああああ~ん♡」」」


 ナツキが手を振ると黄色い歓声が上がった。もう、すっかりお馴染みの光景だ。帝国に於いてナツキは、抱かれたい男ナンバーワン……いや、イケナイコトしたい男ナンバーワンなのだから。



「皆さん喜んでくれていますね。って、お姉さんたち、苦しいです」


 そうナツキが言うのも無理はない。街頭に並ぶ女たちの歓声が上がる度に、一緒に馬車に乗っている姉妹シスターズからギュウギュウ抱きしめられているのだから。


わたくし・・・・のなっくんですわ! 誰にも渡しませんことよ!」

「絶対ダメぇ! ナツキはアタシのなんだから!」

「ナツキ君! ナツキ君! ナツキ君! もう我慢できないよ!」

「御主人様! そろそろ放置プレイは限界であります!」


 かなりマジな顔でナツキの手足に縋り付く四人の女。


 この帰還の最中、愛の言葉で蕩けさせられたり、ポンポンで天国に昇らされたり、無意識なお仕置きで焦らされたりと、ナツキの姉堕ち技をくらい続けていたのだ。

 ちょぴり暴走してしまうのも仕方がない。


 ここは彼氏として可愛い彼女の嫉妬ジェラシーを受け止めエチエチされるべきだろう。



 ガラガラガラガラ――


 ナツキを乗せた馬車が宮殿に到着すると、待ち構えていた三人の彼女が飛び込んできた。


「ナツキぃぃいいぃっ♡ 会いたかったぁ!」

「ふぁああぁん♡ 私の弟くぅ~ん♡」

「待ちくたびれたんだゾっ、ナツキきゅん♡」


 フレイアとシラユキとネルネルの三人にナツキが抱きつかれる。ただ、他の四人にも引っ付かれているので大変だ。


「ま、待ってください。落ち着いてぇ! ぐえっ! 苦しぃぃぃぃ~っ!」


 たちまち揉みくちゃにされるナツキ。もう、良い匂いと柔らかな体に包まれ女体地獄のようだ。

 世界中歴史上の英雄を探したとしても、七人の美女の肉布団状態の男などナツキくらいだろう。この状態でエッチを我慢とか、凄い精神力だ。




 ペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチペチ――


 たちまち七人の大将軍がお尻ペンペンで躾けられてしまった。馬車がガタガタ揺れていて誤解を生みそうな光景だ。


 ペチペチペチペチペチ!


「フレイアさん! 再会が嬉しいのは僕も同じですが、ちょっと落ち着きましょうよ」

「んひぃ♡ もう許してぇ♡ こんなの耐えられなぃ♡」


 ペチペチペチペチペチ!


「シラユキお姉ちゃんもですよ! 悪い彼女にはキツいお仕置きです」

「おっおほぉ♡ これ至福ぅううっ♡」


 ペチペチペチペチペチ!


「ネルねぇまで! キツめにしますね」

「ぐひゃぁあぁん♡ もう限界なんだゾぉ♡」


 ガタガタガタガタガタ――

 ピタッ!


 一通りお仕置きが終わって、ガタガタ揺れていた馬車の振動が止まる。宮殿前に駆け付けている民衆から見たら、まるで帰還した勇者ナツキが早速大将軍に寵愛ちょうあいを与えている場面に見えてしまっただろう。



「一体、中で何をやっているんだ……?」

「あああぁん、勇者ナツキ様ったら激しいわね♡」

「馬車の中で何が……ごくりっ」

「す、スゲぇ……あの恐怖の大将軍たちを一方的に」

「ああ、そりゃナツキ様はスゲぇ聖剣アレをお持ちなんだぜ」


 何が凄いかは不明だが、観衆からはザワザワとナツキの噂で持ち切りだ。



 ガタッ!


「もうっ、ボクは大好きな彼女の躾には厳しいんです。悪いお姉さんには執拗に容赦なく徹底的にお仕置きするって決めたんです」


 そう話しながら馬車から降りたナツキの後ろには、真っ赤な顔でモジモジした彼女たちが続く。


 帰って来るなり姉喰いペンペンが数段強化されているやら、自然に『大好き』だの『彼女』だの嬉しい言葉が出てくるやらで、嬉しくも恥ずかしくて皆デレッデレなのだ。




「うぅん♡ 何なのよぉ、久しぶりに会ったナツキがやたらエッチなんだけど」


 宮殿の廊下を歩きながらフレイアが呟くと、隣にいるマミカが答えた。


「アタシもビックリだし。何かあったの?」

「バベリンで彼女だと認めたのはあったわね」

「それだけじゃないでしょ。スゴいやる気だし」

「私たちとバベリンで別れて極東に行く間に何か……」


 後ろで何か話したそうな雰囲気だったロゼッタが、おもむろに二人の会話に参加した。

「実は、極東へ向かう途中で寄った宿屋で……」


 ロゼッタの意味深な告白に、他の彼女たちの視線が集まる。


「そ、その……ベッドで一緒に寝た時なんだけどさ。ナツキ君が私に愛の告白プロポーズをしてね♡ 彼氏として何か目覚めたみたいなんだ。はぁ♡ 熱い抱擁をされ、激しくねっとりと体を隅々まで揉まれて……くぅううぅん♡ 凄かったんだよ」


 大きな体をグネグネしながら惚気話をするロゼッタに、周囲の女たちから殺気が立ち上がった。


「へえ、ロゼッタ、遠征の途中でイケナイコトしてたんだ?」


 そう呟くシラユキの目がヤバい。完全に極刑モードだ。

 いつもなら止めるはずのフレイアまで同調している。


「これは許されないわね。やっちゃいなさいシラユキ」


 恥ずかしそうに惚気話をしたロゼッタであったが、周囲からの殺気で言い訳を始める。


「待ってよ! 最後までしてないから。健全なマッサージだから」



 しかし話はそこで終わらない。ベッドでイケナイコトというワードで、マミカとクレアも重要なことを思い出した。


「ベッドでイケナイ……って、フレイアぁああああ! あんたアタシのナツキに変なこと仕込んだでしょ! 聞いたわよ。特訓と称してベッドで一晩中イチャイチャしたって!」


「そうですわ! シラユキさんもです。決闘はベッドの中でするものだと言ったそうですわよね! わたくしのなっくんとベッドでイケナイ決闘をしたそうじゃありませんの!」


 思わぬ飛び火でフレイアとシラユキも面食らう。今更昔のことを持ち出されるとは思っていなかったのだ。


「そ、そんなこともあったわね。まあ、私が最初にナツキを仕込んだのよ♡ まだあどけない何も知らないナツキ少年を、私色に染めるように……。うふふっ♡」


「くふふっ、お風呂に入っていない私の腋を、ナツキはペロペロして……。ぐへっ、ぐへへへっ♡ 恥ずかしいのも至福♡」


 開き直って暴露するフレイアに、腋ペロマリーアタックされた思い出に浸るシラユキだ。


 これはマズい。ナツキ姉妹シスターズ一触即発かもしれない。せっかく戦争が終結したというのに、まさかの姉大戦が勃発しそうである。


 この七人が本気で戦ったら、世界大戦よりも恐ろしいことになりそうだ。



「お姉さんたち! 喧嘩しちゃダメです! まだ懲りてないんですか? 悪いお姉さんにはキッツイお仕置き……は、おあずけ・・・・にします」


 ガァアアアアアアアアアアアアーン!


 ナツキの一言で皆が静かになった。散々ペンペンしておいてからの、昂ったところをおあずけ・・・・という鬼畜プレイだ。

 もしかしたら、ナツキは三度世界を救ったのかもしれない。


 ◆ ◇ ◆




 大広間に通された一同が皇帝アンナに謁見えっけんかと思われたその時、突然ナツキの後ろから小さな少女が飛び掛かって来た。


「ナツキぃ♡ 会いたかったのじゃぁ」


 小さな体全体で愛情表現するようにアンナが抱きつく。まるで幼女の特権と言わんばかりだ。


「わぁ、アンナ様、ビックリしました」

「ナツキを驚かそうと隠れていたのじゃ」

「アンナ様、前より明るくなりましたね」

「ナツキのおかげなのじゃ♡ 余の勇者さまぁ♡」


 ちょっと見ない内に、アンナが随分と女の顔になっていて、周囲で見守る大将軍たちも気が気ではない。


 そう、女子というものは恋を知り大人に成るものなのだ。幼女だからと侮ることなかれである。



「「「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」」」


 まさか皇帝を掴んでひっぺがす訳にもいかず、姉妹シスターズがグッと我慢する。子供にNTRされる訳はないと高をくくっていたはずだが、少女の成長は体より内面が早いのだ。

 そう、今のアンナはおませ・・・さんである。



「アンナ様、もうそのくらいで」


 大将軍たちの視線を感じたからなのか、それとも本人が嫉妬しているだけなのか、アリーナがアンナを抱き寄せようとする。


「イヤじゃぁ、もっとナツキとくっついていたいのじゃっ♡ すりすりぃ~」


「アンナ様、アリーナさんの言うことも聞きましょうよ。大事なお話がありますから」


 ナツキが優しくアンナの頭を撫ながら言うと、素直に彼女は頷いた。


「分かったのじゃ。ナツキがそう言うのなら戻るのじゃぁ」


 アンナが大人しく席に戻る。


 神聖不可侵の皇帝がナツキの言うことを何でも聞く幼女になってしまった。完全に恋する乙女状態だ。


「アンナ様が楽しそうで良かったです。やっぱり笑顔が一番ですね」


 この事態を何も分かっていないナツキが呑気に呟く。皇帝アンナを思うがままに動かせる人間とは、世界を支配できる力を持っているのだ。


 それに気付いているアリーナが、ナツキを見て微笑んだ。


「ああ、アンナ様の想い人がナツキ様で良かったです。善良でお優しいナツキ様なら安心ですから。あ、後は私の尻に鞭打ってもらうのみ……」


 変態プレイは外せないらしい――――





「――――と、なっております」


 一通り説明を終えたアリーナが、メガネをクイっと上げワンレンボブの髪をかき上げる。


 彼女の話では、今回新たに新設された聖インペラートル七翼騎士大勲章と、カリンダノールと合わせミーアオストクからガザリンツクの極東一帯の支配権を持つ大公の爵位を授与されることになった。


 晴れてナツキは、一国を支配する王に等しい存在になったのだ。

 ただ、この時に説明されなかったある件が、後に大きな意味を持つこととなる。


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