第128話 益々名声が上がってしまう勇者ナツキ

 ルーテシア帝国とヤマトミコの停戦と経済協力に関する話は魔法伝書鳩で帝都に伝えられ、皇帝アンナや元老院議長アリーナの知るところとなった。


 宣戦布告し軍事侵攻してきた敵を、まさかの経済協力を約束させるという逆転ミラクルに帝都は沸き返っていた。

すでにミーアオストクやガザリンツクは、次々と新しい店が立ち並び活気に満ち溢れているというから二重の驚きだ。勝手に経済侵略したのを利用しただけだが。


 帝国西部戦線で圧倒的科学技術力や軍事力をもつゲルハースラントを倒した上に、更に極東へ侵攻したヤマトミコまで倒すという前代未聞の大活躍なのだ。


 今や勇者ナツキの名声は帝国どころか世界中に鳴り響いていた。



 勿論、手紙で報告を知ったアンナは大喜びである。


「さすが余の勇者さまじゃ。はあぁ♡ やっぱりナツキは凄いのじゃ。一度ならず二度三度と余を救ってくれる。かっこいいのじゃぁ♡」


 アンナが完全に恋する乙女になてしまっている。まだ幼いのに一丁前に女の顔だ。


「なあ、アリーナよ。また新しい勲章が必要じゃな」


 アンナが隣で心ここにあらずといった感じのアリーナに声をかけた。


「は、はい。あっ、そうですね。用意しましょう」

「次は爵位も最高位の侯爵で異論なかろう?」

「はい、これほどの武勲です。問題ありません」

「ちょっと待つのじゃ。更に上の大公はどうじゃ?」


 アンナが大公の称号を口にした。


 大公とは帝国に於いて至高の存在にして神聖不可侵の皇帝に次ぐ、一国の王に等しい存在である。その権威と権力は絶対で、周辺国の王より実質のところ格は上であるとされていた。


「ナツキ様を大公に…………」

 何故かアリーナが夢現ゆめうつつだ。


「ああぁ、ナツキ様が大公に……。絶大な権力をお持ちになられたら、もう私は何をされても逆らえません。どうしたら良いのでしょう。私は35歳……彼の親世代と同じ年齢かもしれないのに……ぶつぶつぶつ」


「アリーナ?」


 何やらアリーナが独り言を呟いており、怪訝な顔をしたアンナか声をかける。


「はぁああぁん♡ いけません私。親子ほど年の離れた少年に尻を打ってもらうだなんて。そんなの恥ずかし過ぎますわ。でも、この心の昂りは止められそうにありません。もうペロッと尻を出し、ナツキ様の激しい鞭を頂きたくて止まれないのです……ぶつぶつぶつ」


「ちょっと、アリーナ!」


「で、でも、これはアンナ様を守る為です。そ、そうです、ナツキ様はアンナ様の夫となる方です。神聖不可侵のアンナ様の尻を打つなど許されません。私が全て受けて、ナツキ様の欲望のはけ口に……ふっ、ふふふっ……ぶつぶつぶつ」


「アリーナ!!」


「でもでも、アンナ様の夫と変態不倫だなんて許されませんわぁって、は、はい! なな、何でしょうかアンナ様」


 大きな声で注意され、やっとアリーナが妄想の世界から戻って来た。知的で凛とした彼女の顔が、今はよだれが垂れグヘヘと下品な感じだ。


「どうしたのじゃアリーナ。そなた変な笑いを浮かべておったぞ」


「ああ、アンナ様ぁ、申し訳ございません。決して寝取られではありません。これには重要な使命がですね」


「そなたが何を言っておるのか分からないのじゃぁ」


 挙動不審なアリーナに、アンナが呆れた顔をする。


 忠誠を誓う君主アンナと、激しくも淫らなお仕置きを期待するナツキとの間で、イケナイ女バツイチ子持ちアリーナの心は揺れていた。


 ◆ ◇ ◆




 一方、停戦して平穏な日常を取り戻したミーアオストクは、かつてない程の活気に満ち溢れていた。

 普段は街も寂れ人々の表情も険しいのに、今は明るく笑い声が溢れている。



「勇者ナツキのおかげで俺たちの暮らしも楽になるようだぜ!」

「おう、ナツキ様はスゲぇ男だな」

「仕事も増えて金も稼げるようになるみたいだしな」

「ヤマトミコの恐ろしい女武者も勇者ナツキが倒したとか聞いたぜ」

「なにしろグンシンとショーグンを、軽くひねってっちまったって噂だ」

「「「おおおおおおおっ!」」」


 街の男たちも噂している。景気を良くしようとしているのも喜ばれているが、最も噂されているのは天下無双のサムライガールを倒した武勇だろう。


 同時に女性からも注目の的である。


「きゃああっ! ナツキ様って、ベッドでつよつよらしいわよ♡」

「そうそう、聞いた聞いた。瞬殺なんですってね♡」

「一度あやかりたいわ~♡」

「声かけてもらえるように着飾ってみたの。どうかしら?」

「抜け駆けは許さないわよぉぉ!」

「「「きゃぁああああ~ん♡」」」


 こんな感じだ。



 そしてヤマトミコによる経済協力も進んでいた。


「うむ、この通りはどら焼き店と蕎麦屋を入れるのだ」

 桐がアレコレと部下に指示を出している。


 揚羽は実務を羽柴はしばきり明智あけち桔梗ききょうに任せ、街の再開発を進めていた。


 そんな二人のところに、ひょっこりナツキが顔を出す。


 ぴょこっ!

「桐さん、桔梗さん、おつかれさまです」


 停戦し協力関係になったとはいえ、この無邪気で無意識に入り込んでくる感覚は、ヤマトミコの二人には新鮮だった。


「ナツキ殿、人たらしスキルは無いはずでござるが……その人たらしぶり。不思議でござるな。もしかして、女たらしスキルでも持っているとか……?」


 桐が不思議な顔をする。

 このナツキときたら、年上女性をたらし込むのが天才的なのだから。


「お、女たらしじゃないですよ。そんなことしません。でも、お姉さんたちとは仲良しですが……」


 ナツキが女たらしを否定する。七人も彼女がいるので説得力は皆無だが。



「そ、そうだ! 桔梗さん、もう大丈夫ですよ」

「へっ?」


 突然ナツキに話を振られた桔梗がポカンとする。


「揚羽さんのアタリが厳しいと聞きましたから、もっと部下に優しくするようにキツくお仕置き……じゃない、注意しておきました」


 揚羽が変なあだ名をつけたり部下の扱いがブラックだとの噂を聞いたナツキは、キッチリ姉喰いスペシャルで彼女を躾けたのだ。

 結果、何度も堕とされた揚羽が少し優しくなったのである。



「うわぁああああぁ、ナツキ殿のおかげでしたか。今日は拙者の顔を見ても労りの言葉をかけてくれたのですよ」


 桔梗が泣いて感謝を述べる。


「以前は顔を合わすなり『辛気臭い』だの『金柑デコ委員長』だの言われて」

「た、大変だったんですね……」

「そうなんですよ。聞いてくだされ」


 すっかり桔梗がナツキに取り込まれている。彼女には姉喰いスキルを使っていないのに、さりげないナツキの優しさで好意を持たれてしまったようだ。


 こうして、桔梗の謀反は未然に防がれた。上司の横暴で謀反を起こそうとしていた裏切りの女武者は、一人の少年の労りによって心が癒されたのである。


 ナツキはヤマトミコの歴史をも変えたのだ――


 ◆ ◇ ◆




 やがて極東の経済協力計画も決まり、双方の軍を引き揚げることとなった。正式な決定は皇帝アンナと姫巫女との間で取り交わされる予定だ。


 帰りの船に乗ろうとしている揚羽がモジモジしている。


「そ、その……おい、ナツキ」

「何ですか揚羽さん」


 港に見送りに来ているナツキが聞き返す。


 その揚羽ときたら、何度もキツいお仕置きで躾けられ、今ではすっかりナツキに従順になってしまった。


「やはり我の婿にならぬかナツキ? ヤマトミコに来れば百万石を与えて大大名にしてやろう」


 ヤマトミコ独自の石高となるが、これを大陸通貨ゴールドに換算すると、百万石は年商約3000万ゴールドである。

 帝国平民の平均給与が10ゴールドに満たないのを考えると、想像を絶する大金だ。


 だが、そんな好条件を出されても、欲に目がくらんだりしないのがナツキだったりする。


「ごめんなさい。ヤマトミコには行けません。ボクは彼女を大切にする男になるんです」

 キリッ!


 胸を張ってそう答えるナツキ。彼にとっては大金より彼女とまったりする時間が大切なのだ。


「ううっ、報酬じゃなく我の婿になって欲しいと言っておるのに、まったくこの朴念仁ぼくねんじんの鈍感男めが……」


 あからさまに不満な顔をした揚羽が口を尖らせる。



「じゃあ、私の婿になるのだ! 子種をよこせ。最強の子供をつくるぞ! だぞ!」


 何処から出てきたのか、突然ささめが現れた。まさに神出鬼没だ。


「こ、子種とかダメです。結婚しないとエッチは禁止ですから」

「だから結婚するんだぞ! だぞぉおっ!」


 ささめがグイグイ迫る。ずっと己が信じる正義の為に戦い禁欲生活を続けていた彼女が、ナツキとの戦いで何かが目覚めてしまったのだろう。


「ほら、行くぞ! 船に乗れ! だぞ!」

「ダメです。行けませんから」

「そう言うなよ。私が婿にしてやるから」

「余計ダメです~」

「わはは、私は尽くす女だぞ♡」

「結婚は無しです。今度ヤマトミコに遊びに行きますから」

「ううっ、しょうがないな……。ホントは婿になって欲しいのに。だぞ」


 ささめも不満いっぱいで拗ねてしまう。最強の軍神でも恋の駆け引きは苦手なようだ。


 目の前で撃沈したささめに、揚羽が声をかけた。


「上杉殿、まだ残っていたのであるか。もう帰ったとばかり思っていたが」

「織田ぁ! ナツキを婿にするまで帰れぬのだ。絶対絶対欲しいのだぁ!」

「あの、我は一応将軍なのだが……」


 相変わらず揚羽が呼び捨てにされる。第六天魔王でも軍神は苦手なようだ。




 ヤマトミコの船団がミーアオストクの港から出航する。船団が水平線の向こうに消えて行くのを見守ったナツキがホッと息を吐きだした。


「ふうっ、これで一件落着ですね」


 そう漏らしたナツキだが、周囲の女たちには全く一件落着していないのだ。さっきから後ろで目をギラギラさせて嫉妬している彼女が四人いた。


「ナツキぃいいいいっ! さっきから結婚とか子種とか何なのよぉ! 浮気は絶対許さないし!」


 真っ先にマミカがナツキに縋り付く。この女、昔の頑なに好きだと認めなかったのが嘘のようだ。今ではなりふり構わぬデレデレである。


「ま、マミカお姉様、行きませんから。婿に行かないから安心してください」


「なっくぅ~ん♡ もう誰にも渡しませんわよ♡ わたくしだけのなっくんですわぁ♡」


 マミカに抱きつかれて絶体絶命なところに、後ろからクレアまで抱きついてきた。


 前からマミカにガッチリだいしゅきホールドされたまま、後ろからクレアのしっとりスベスベの肌で密着される。二人の美女にサンドイッチされ、もう天にも昇りそうな感覚だ。


「ぐああああっ! 逃げちゃダメだ! でも、もう限界かも――」


 オヤクソク展開で昇天しそうになるナツキだが、まだ密着したいのにできない彼女が二人いる。


「御主人様ぁ! たまには私にも優しくして欲しいのでありますよぉおお!」

「ナツキ君! 最近おあずけばかりだよ。もっと私に構ってよぉ♡」


 レジーナとロゼッタがナツキの腕を掴む。


「ごめんなさいぃいいっ! 最近マミカお姉様とクレアちゃんが激し過ぎて、当分の間おあずけ・・・・です」


 ガァアアアアアアアアアアアアーン!


 こうして彼女たちの欲求不満が更に高まってゆくのだった。


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