第127話 見果てぬ夢、永遠のまほろば

 ナツキが進む。ヤマトミコ征夷大将軍揚羽に向かって。その瞳は曇りなく真っ直ぐ前を見ていた。


「織田揚羽さん、ボクと勝負してください!」


 堂々とナツキが宣言した。一騎打ちを。

 応えようする揚羽だが、家臣が腕を掴み止めに入る。


「揚羽様、危険でござる。あの軍神上杉ささめ殿を倒すほどの勇者ですぞ」

 元々丸い目を更に丸くして桐が言う。


「私が代わりに相手します。揚羽様はお下がりください」

 槍を用意した白梅が駆け付けた。



「是非に及ばず!」


 語気を強めた揚羽が掴まれた腕を払う。あくまで自ら相手をするようだ。


「試合はまだ終わっておらぬ。先鋒は帝国の勝利。中堅は邪魔が入り帝国の失格とする。上杉ささめも棄権とし一勝一敗。この我が大将として、帝国の勇者と決勝戦を行うのだ!」


 まだ勝負にこだわる揚羽に、桐が必死の説得を試みる。


「揚羽様、おやめください。敵は上杉殿を倒したウルトラレアスキルの勇者でござる。あの男は百年に一人……いや、千年に一人の英雄かもしれません。ここでもし揚羽様に何かあったら、せっかく天下統一したヤマトミコが分裂し、再び戦乱の世が訪れるやも……」


「我が負けると申すか! サル!」


「そ、そのような……。もしもの話でござる。あの男は謎が多すぎます。それがしのスキルでも全てを読み取ることが不可能でござる。なにとぞ」


「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり――」


 揚羽が遠い目をした。


「人生は短く儚いものである。ならばどうする。いたずらに時を過ごし、老いてから若き日々を懐かしむ人生なぞ我には我慢できぬのだ。たとえこの世が無明の荒野であっても突き進み光を掴む。それが、この織田揚羽という女なのだ!」


 揚羽の心情に触れ、桐は掴んでいた手を離した。


 そう、この女はそういう人間なのだ。一瞬の煌きに人生を燃やし消えゆく巨星。第六天魔王と呼ばれようと、己の道を突き進む乱世の覇王であった。


「揚羽様……そこまで仰るのならば、もう止めませぬ。必ず勝利を」


「うむ」



 ナツキと揚羽が向かい合った。


「ナツキといったか、おぬしはどうする? 我は何の勝負でも良いぞ。剣か? それとも格闘か?」


 揚羽が試合内容を選ばせてくれるようだ。

 ただ、ナツキは予想外の返答をする。


「そうですね、ベッドでお願いします!」

「ぶふァっ! べべ、ベッドだと!」

「はい、ベッドの上で戦います」

「えっ、べ、ベッドって、おぬし分かっておるのか?」


 覚悟を決めて戦いに挑んだ揚羽だが、ナツキの強気なお誘いに動揺する。

 せっかくカッコよく決めたのに、変な展開で恥ずかしくなってしまう。これでは無明の荒野ではなく、無用の硬派だ。


「わ、我は良いぞ。それより、おぬし……どうなっても知らんからな」

「はい、ボクは、力ではお姉さんたちに遠く及びませんが、ベッドでは負けませんから!」


 ドヤァァァァー!


 ナツキ、ベッドでつよつよ宣言。この男、やっぱりちょっとズレている。だが、本人にエッチな気はなく大真面目なのだが。



 ベッドでちちくり合いそうな二人に、黙っていられないのは彼女たちだろう。

 当然、マミカたちが猛烈な勢いで異を唱える。


「ちょ、ちょっとナツキぃぃーっ! べ、ベッドとか許すわけないでしょ! アタシ・・・という彼女がいながら、他の女に手を出すとかアリエナイしぃ!」


「そ、そうですわ。なっくんは、わたくし・・・・の彼氏ですわよ。他の方とベッドインとか許しませんわ!」


 マミカに続きクレアもナツキに縋り付く。愛しいナツキが他の女とイチャつくとか許せるはずもない。


「マミカお姉様、クレアちゃん、離してください。揚羽さんとはベッドの上で戦うだけですよ」


「ベッドで戦うとかアリエナイし!」

「ですわ!」


 なおもグイグイ迫る二人に、ナツキは暴露してしまった。ベッドでの戦いを仕込まれた元凶となった女の名前を。


「フレイアさんが言ってました。特訓はベッドの上でやるものだって。ボクがリリアナに入ったばかりの頃、フレイアさんは一晩中ボクをベッドの上で攻め続け特訓してくれたんです」


「またあの女かぁああああああっ!」

「何ですってぇええええええっ!」


「そしてシラユキお姉ちゃんも、試合はベッドの上でするものだと言いました」


「シラユキもかぁああああああっ!」

「シラユキさん、何やってますのぉおおっ!」


「ボクは基本に立ち戻ってベッドで決着させようと思います。それが帝国伝統なんですよね」


 完全に誤解である。


 確かに貞操逆転帝国であるここでは、男が女の部屋に入ったらベッドに連れ込まれても文句は言えない。

 しかし、それは男女の恋愛関係の話であり、決して決闘のことではないのだ。



「ほら、大人しく待っていてください。後でご褒美あげますから」


 ぽふぽふ――


 ナツキの手がマミカの頭をぽふぽふする。熱愛中のカップルがするアレだ。


「あんっ♡ そ、そんなんで誤魔化されないんだからね。アタシはチョロい女じゃないし。んぁ♡ あふっ♡ しゅ、しゅごっ♡ 頭撫でるなぁ♡ はぁああぁん♡ それダメぇ♡」


 ナデナデナデナデ――


 当然、もう片方の手でクレアの頭をナデナデする。


 七人の姉たちから女を堕とす技を教え込まれたナツキに怖いものは無い。もはや歩く女を堕とす機動兵器のようだ。


「んくぁああぁん♡ 極上ですわぁ♡ ダメですのにぃ♡ 浮気はダメですのにぃ♡ このままでは何でも許してしまいそうですわぁああぁ~ん♡」



 二人が今日何度目かの陥落をした。本当にダメ人間にされそうで心配である。


「ねえねえ、わ、私は? ふんす♡」

「御主人様! 当然、私にも?」


 当然のように自分にもナデナデがあるのだとロゼッタとレジーナが迫る。まあ、当然と言ったらオヤクソク展開なのだが。


「あの、今は試合があるので後にしましょう。二人はおあずけ・・・・です」


「うがああああぁ! またなのぉおおっ! もう、ナツキ君のいじわるぅ♡ 我慢できないよぉ♡」

「ぐはああぁ! 御主人様の放置プレイがキツ過ぎでありますぞぉ♡」


 当然のように鬼畜プレイでおあずけだった。



 ザッザッザッ!


「揚羽さん、お待たせしました。行きましょう」

「ああ、その勝負受けてやる。ベッドの我は手強いぞ」


 ナツキと揚羽が二人で城に入って行く。


 初心うぶでドーテーボーイだが何故かベッドでつよつよのナツキと、女小姓おんなこしょうを何人も蕩けさせている百戦錬磨の揚羽だ。

 二人の後ろ姿が、世界の大局を決めると言っても過言ではない。


「ふっ、おぬしもふざけた男子おのこよな。夜伽よとぎで我に勝てるとでも思ったか」


「揚羽さん、ボクは姉の躾には厳しいんです。帝国式お仕置きを徹底的に叩き込みますね」


 バタンッ!

 二人は扉の向こうに消えて行った。




 そのa few数分後minutes――later



 バタンッ!

 二人が部屋を出てきた。ナツキに手を引かれた揚羽の顔が赤い。


「ふっ、んぐっ……。せ、征夷大将軍、お、織田揚羽が宣言する。や、ヤマトミコは勇者の提案を受け入れることにした。お゛おっ♡」


 ヒクヒクヒクっ! ビクビクビクっ!

 ガッ、ガクガクッ!


 何かに耐えるような顔で宣言する揚羽の足腰が震えている。膝がガックガクだ。


 まさかの即堕ち2コマだった。



「良かったです、話の分かる人で。犠牲を出さずに済みました」

「ぐぐっ、く、くそぉ……我はまだ負けては……」


 ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン!

 皆がいる正面からは見えないように、ナツキが揚羽をお尻ペンペンする。


「揚羽さん、ボクの言うこと聞いてもらいますよ」


 ナツキが揚羽の耳に顔を近づけてささやく。姉喰いペンペンや姉喰い腋ペロマリーアタックをくらって敏感になっている揚羽にはたまらない。

 ペンペンの一発一発が体の芯に火を点け、耳元でのささやきが特殊効果立体音響で脳に響くのだ。


「ぐぐぅ、や、ダメだ! 部下の前ではやめろぉ♡」

「お願い聞いてくれますか?」

「ぐふぅ♡ 聞く、聞くからやめろぉ♡」

「良かった。あっ、やっぱりもっと躾けておこうかな?」


 ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン!


「くはぁあん♡ バレる、バレるだろぉ。部下にバレちゃう♡」

「大きな声を出すとバレちゃいますよ」

「だ、ダメだぁ♡ 部下の前では威厳のある上司なのにぃ」

「もっともっとですね」

「言ってないぃ」

「何でも言うこと聞いてくれますか?」

「聞くぅ♡ 何でも聞くからもうやめろぉ」


 部下の見ている前でこっそりお仕置きするという鬼畜プレイだった。もう無意識でやっているのなら逆に恐ろしい。


「はあぁ♡ 何て男だ! こんな恐ろしい男に勝てるわけがない。我を屈服させるとは、おぬし魔王を統べる魔神かぁ♡」


 まさかの第六天魔王までナツキが倒してしまった。最近のナツキは神懸っている。いや、悪魔懸かるの方が正解か。




 こうしてナツキの作戦通り、征夷大将軍の揚羽に、停戦と共に二国間の経済協力を約束させた。


 帝国は広大な極東の土地や建物を貸し、ヤマトミコは資本を投入する。ミーアオストクやガザリンツクに行ったように、新たなヤマトミコ文化や店を作り経済発展させるのだ。

 もちろん従業員は現地の帝国民を使い報酬を出す。


 貿易や商売で儲けを出したいヤマトミコと、寂れた街で仕事がなかった極東ルーテシアの利害が一致する。大規模な経済構想。

 ここに、ヤマトミコ極東ルーテシア経済協力機構が発足した。



「早くアンナ様やアリーナさんに伝えて経済協力機構を進めないと。忙しくなりますね」


 大真面目な顔でそう話すナツキだが、周囲の女が限界突破してぐったりしている。


 姉妹シスターズ恋人ラバーズまで属性がついた彼女たちは、ダメ人間にされかけポワポワしたり、欲求不満でグネグネする始末。堕とされた揚羽とささめはヒクヒクしていた。




「ぐっ、し、しかし……おぬしも変わった男よな。帝国を動かすほどの力を持っていながら、我らを滅ぼさずに友好や協力を結ぼうとするとは」


 揚羽が眩しそうな顔でナツキを見つめ言った。


「揚羽さん、ボクは人が人を虐げたりするのが嫌なだけです。互いに協力し合えるのなら、それに越したことはないでしょう。極東の経済圏が発展すれば、皆が笑って暮らせる国が作れるかもしれませんよ」


「自由経済……相互発展……皆が笑って暮らす国……。まさか……」


 夢を追う少年のような顔になった揚羽が呟く。


「かつて大英雄ドルジ・バンドラは大陸を武力で支配し大帝国を築いた。だが、今目の前にいる少年は、別の方法で世界を統合し統べる大英雄なのやもしれぬ……」


 見果てぬ夢、揚羽が求め続けた国造り。

 まほろば・・・・と呼ばれる夢の国。


「世界には凄い男がいたものだ。この男となら、永遠のまほろばも夢ではないかもしれぬな。ふふっ、ふふふっ」



 こうしてヤマトミコ征夷大将軍織田揚羽が仲間になった。ナツキの言うことを何でも聞く女だ。

 ナツキを畏れと尊敬を込め大英雄と仰ぐ揚羽だが、何故か彼を見つめる熱のこもった目が妖しい。


 危機は去ったが、別の意味で貞操の危機かもしれなかった。






 ――――――――――――――――


 即堕ち2コマだけど、揚羽さんは乱世の魔王で凄い女なんですよ。本当ですよ。

 ナツキの姉堕としテクがずば抜けているだけです。きっと。



 もしちょっとでも面白いとか、部下の前で我慢する揚羽さん可愛いとか楽しんでいただけましたら、よかったら☆☆☆のところに★を入れてもらえたらモチベが上がって嬉しいです。何個でも思ったままで構いません。フォローやコメントもお気軽にどうぞ。

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