第126話 世界とヒロインを革命する英雄
圧倒的強者である上杉ささめに向かって行くナツキ。戦力差は誰が見ても明らかである。
しかし、そこにいる大将軍の誰もが確信していた。ナツキなら何とかしてくれると。頼りになる男なのだと。
それは離れて成り行きを見ている羽柴桐も感じていた。
「なっ! 何だあの少年は! 有り得ない……。そ、そんなまさか」
いつものらりくらりとした桐が焦っている。人たらしスキルでナツキの能力を読み取ったのだ。
レアスキル『人たらし』
精神系魔法の一種で、人の心を掴んで
それと同時に、相手の能力を読み取り分析する力もあった。
桐は、このスキルで強い者とは争いを避け上手く取り入り、有能な者を味方に付け戦国の世を生き抜いてきたのだ。
「何だサル、あの少年がどうかしたのか?」
横にいる揚羽が桐に問いかける。
「あ、揚羽様、あの少年は危険でござる。最強の大将軍より危険かもしれませぬぞ。そ、底が知れない。一人の男の中に複数の能力が混在し、しかもそれが結び合っている。世界に一人しか存在しない超レアスキルかもしれません!」
愕然としたまま話し続ける桐に、後ろからやってきたフロレンティーナも続いた。
「あれは、もしかして奇跡の勇者かもしれませんデース」
「なに、奇跡の勇者だと」
揚羽の黄金の瞳がフロレンティーナへと移る。
「突如として現れ、帝国の内乱を制した英雄。聞いた話だと年上好みで、気に入った女を堕としまくるとか……。ウサンクサイと思ってましたが、本当だったんデスネー」
「帝国の英雄……奇跡の勇者……」
「彼が大将軍と一緒にここに来たということは、帝国西部戦線でゲルハースラントを倒し、援軍として駆け付けたということかもしれないデース!」
「早すぎる! この短期間で大国ゲルハースラントを倒したと申すか!」
揚羽まで驚きの表情になった。
フロレンティーナの情報では、ゲルハースラントはヤマトミコの宣戦布告に合わせて侵攻したはずなのだ。それがまさか、大国同士の戦争を早期終結させ、返す刀で一気に極東まで駆け付けたというのか。
誰もが信じられない顔をするのも無理はない。
その場にいるヤマトミコ軍の誰もがナツキを注視する。
「もしや、我らは世界を変革する大英雄と時を同じくしておるのやもしれぬぞ」
ナツキを見つめる揚羽が、歓喜と迷いの入り混じった表情をした。
その目の先のナツキだが、恐れ知らずにも軍神ささめの正面に堂々と立っている。
上杉ささめは迷っていた。
目の前の少年は弱そうで、一撃で倒してしまいそうである。しかし、彼女の本能がナツキの中に何か不思議な力を感じ取っているのだ。
「少年……変なやつだな。弱そうなのに強そうな気がする。何だろう、私の中の男を見るセンサーがビンビンと危険信号を出しているぞ。だぞ!」
「ボクは大好きな彼女を守ります。ボクよりずっと強いお姉さんだけど、彼女を守るのは彼氏の役目ですからね」
「ふーん、幼く見えたけど、意外と男らしいところがあるんだな。私は神仏に仕え悪を倒す使命を帯びた乙女だぞ。本来なら少年を攻撃しないんだけどな。おまえが一人前の男だと言うなら少し相手してやるんだぞ! だぞ!」
ささめが話している途中なのに、ナツキは無防備に近づいて行く。あっさり彼女の間合いに入ってしまった。
「なっ! えっ、あれ?」
ささめほどの達人になると、殺気を持ったまま間合いに入られたら
「お、おい、何をする気なんだ?」
「えいっ!」
ズキュゥゥゥゥゥゥーン!
「ぐっはぁああああっ!」
何の前触れもなくノーモーションでナツキの姉喰いスキルが炸裂した。まるで熟練した
「へっ、ふぁあ? ひぐっ、ぐああぁ! 何だこれ! 何だこれ!」
天下無双、戦国最強、軍神と
「お、おのれぇ。ひぐっ、な、何だこの技は! 体に力が入らないぞ! だぞぉ」
「えっと、ヤマトミコのお姉さん。悪い人じゃないのは何となく分かります。でも、ボクの彼女に手を出した件は、キッチリお仕置きさせてもらいます。ボクは彼女を守る男ですから」
キリッ!
※誤解である。
「大切な彼女が泥だらけにされて黙っているなんて彼氏失格ですからね。ボクは大好きな彼女を守れる男になる!!」
ちょっぴりドヤ顔で宣言するナツキが輝いて見える。無意識なのか何なのか、『大好き』だの『大切』だのと連呼して、周りで見守っている彼女たちがキュンキュンしていた。
キュン♡ キュン♡
「あぁ~ん♡ ナツキぃ♡ アタシのこと大好きって」
「わ、わたくしに言ったのですわよね? なっくん♡」
「ふんすふんす♡ ナツキ君に守ってもらえるなんて♡」
「くぅ♡ 御主人様との熱く激しい初夜が待ちきれないのであります♡」
帝国最強の大将軍たちがデレッデレになっている最中、ささめは今までにないほどのピンチに陥っていた。
こんなに追い詰められたのは初めてである。
「くぅ、くはぁ……。何だこの少年。見た目は
くっ、ズバッ!
必死に姉喰いを耐えるささめが、右腕を前に突き出した。フルパワーなら山をも砕くといわれる
しかし、今の突きは弱々しい。
相手が少年で手加減しているのもあるが、そもそも足腰に力が入らないのだ。
シュバッ!
ささめに合わせてナツキも動いた。
「そうだ、初心忘れるべからずだ!
やっぱり余計なことをしてしまうナツキ。わざわざデノア王国の女教官から教わった、ちょっぴり間違った戦法を再度実践する。罪な男だ。
「たぁああああああ! 姉喰いスキル合成分解再構築。
ズキュズキュズキュズキュズキュゥゥゥゥーン!
「ふあぁああああああああ~ん♡ 何だこれ何だこれ! ダメになるぅううううっ!」
ささめの突きを
「…………っ、み、見事だ」
ナツキと組み合ったまま、ささめが静かに口を開く。
「ボクの勝ちですか?」
「ああ、この常勝不敗の私に土を付けるとはな」
カッコよく勝負がついたように見えるのだが、実はそうでもなかった。
組み合ったまま他の者から見えないところで、ナツキの手がささめの尻をペンペンしているのだから。
ペンペンペンペンペン――
「ふっ、勝者はおまえだぞ。よ、よくやった。んっ♡ だ、だぞ。ひぐっ♡」
「ボクが勝ったから、何でも言うこと聞いてもらいますね」
「ななな、何でもぉ! そ、それはダメぇ。ずっと独身で禁欲生活を送ってきたんだぞ。んあっ♡」
ナツキがささめの耳元に顔を寄せて変な発言をしているが。もちろんこれも誤解だ。ナツキは争いを止め仲良くして欲しいと思っているだけで、如何わしい意味は全く無い。
ただ、ささめは羞恥心やら背徳感やら倫理観が刺激されおかしくなりそうだ。歳の離れた少年にお尻ペンペンされたり、何でも言うこと聞かされるのはたまらない。
「んむぅ! だ、ダメだぞぉ! こんな年下に屈服させられるなんて、恥ずかしくてしんじゃいそうだぞぉーっ!」
「ダメなんですか? 残念です、もっと厳しく躾けないとならないなんて。できれば女性に手荒なことはしたくないのですが」
ペチンッ! ペチンッ! ペチンッ! ペチンッ!
ナツキの手つきが激しくなる。初対面の女性にスパンキングとか事案発生ものだが、ここは貞操逆転帝国なので仕方がない。
あくまでナツキは伝統文化を尊重しているだけだ。
「くぅうう~ん! もう限界ぃいいっ! こんな男は初めてだぞぉ! だぞぉ!」
「まだまだです! もっと執拗に徹底的にとことんやります! 許しません!」
皆が見ている前なのに、容赦無用とばかりに堕としにかかる。やっぱり鬼畜だ。
見た目はMっぽいナツキだが、実はドSなのかもしれない。
そんな二人に、目をハートにして見つめていたはずの、愛しい彼女たちの嫉妬が爆発した。戦いの最中に抱き合ったままモゾモゾしているのだから、彼女としては見過ごせないだろう。
「ちょっと、いつまで抱き合ってんだしぃ!」
「そうですわ、離れてくださいまし!」
「軍神殿、実はムッツリ好き者でありますか!」
「はぁああっ! 私のナツキ君を取ったら許さないからね!」
皆からボロクソ言われて、ささめがヘコんだ。
「うええええ~ん! もうヤダぁ! 頼まれたから助っ人に来たのに、年下男子に
ささめが泣き出してしまい、慌てたナツキが慰める。
「ああっ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったんです。泣き止んで」
「ふへえぇ、こんな強くて荒々しい男子は初めてだぞぉ! この私にペンペンするとか
「ボクはボクの信じた道を進むだけです。たとえエッチだと言われようと、戦いを止め皆が笑って暮らせる世界を創りたい! その為なら、どんなエッチでヘンタイなことでも徹底的にやっちゃいます!」
「あああぁ、言ってることは滅茶苦茶なのに、何故かカッコいい。もう決めたぞ。おまえの
ささめが子種を要求する。つまり結婚という意味だ。
しかし、
「えっと、子供をつくるのは愛し合い信頼し合ってからです。ボクは彼女がいますからダメですよ」
ガァァァァァァーン!
「そ、そんなぁ……」
軍神ささめ、大ショックで敗北を知る。数多の戦場で負け知らず、群がる男たちの見合い話を全て蹴り、誰もが憧れ畏れる美少女系アラサー女の初めての敗北であった。
そんな傷心ささめを優しく抱き座らせてから、ナツキは力強く揚羽の方へ歩みを進めた。
「ヤマトミコ征夷大将軍、織田揚羽さん! ボクと勝負してください! ボクが勝ったら何でも言うこと聞いてもらいます!」
相変わらず誤解を生みそうな発言をするナツキ。最強の軍神を倒した今、残るは揚羽と話を付け講和することだけだ。
ナツキによる、両国の経済まで利用した戦局大逆転の戦いが始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます