第122話 軍神
ヤマトミコの首都
自らを
彼女が戦場に立てば、矢もタネガシマも避けて通り抜け。彼女が剣を振るえば、天が割れ地が裂けるとの伝説になる。
そんな軍神乙女だが、天下を取ることには興味がなく、義を重んじ
ただ、悪と決めた者に対しては容赦しないのだが。
そんな軍神乙女が、ヤマトミコ海軍旗艦
「あああっ! あれが大陸か。大きいな! だな!」
やたらハイテンションのこの女。名を
「おい、徳川、テンション低いぞ! もっと上げて行こうよ! 世界最大の帝国に行くのだぞ! だぞ!」
ささめが隣に立つ女に声をかけた。
何かと揚羽に無茶振りをされ、気苦労が絶えなかったりする。
「う、上杉殿、いつも元気ですね。わ、私は急遽入った軍の編成などで疲れておりまして……」
「うおぉおおおおっ! 何か燃えてきた! ほら、徳川も一緒に。えいえいおーっ! だぞ!」
「つ、疲れる……。私、この人って苦手なんですよね。だいたい、揚羽様が上杉ささめ殿を連れてこいなんて言うから……。急いで北国に使者を出したり軍を編成しなおしたり……。ホント疲れるわ」
小声で愚痴をこぼす葵を、ささめの地獄耳は聞き逃さなかった。そう、ささめイヤーは微細な音さえも聞き取る地獄耳なのだ。
「ちょっと! 全部聞こえてるんですけど! 今、私のことディスったよね! よね!」
「い、いえ、滅相も無い。そんなつもりでは」
「ふんだっ! せっかく織田が助けてほしいって言うから来たのに、そんなこと言うなら家出しちゃうけど! けど!」
「そそそ、それは止めてください。上杉殿が行かないと、私が揚羽様に叱られてしまいます。てか、船の上で何処に家出するんですか」
この上杉ささめ、最強の武将と名高いが、人の頼みを断れない性格で、『助けてほしい』と頼まれると自分のこともそっちのけで助っ人に行ってしまうお人好しだ。
しかし、機嫌を損ねると家出して山奥に引きこもってしまう困ったちゃんでもある。
「船の上でも家出はできるぞ! 海の上を走って行けば良いのだ。ほら、沈むより早く次の足を出せば問題無い! だぞ!」
ささめが格闘技漫画のようなことを言い出した。
「あなたが言うと冗談に聞こえないのが凄い」
「冗談じゃないぞ! 本気だぞ! だぞ!」
「そ、そうですか。やっぱり疲れる……」
そんな正反対の二人が、ヤマトミコ大陸派遣軍第二陣としてミーアオストクに向かっていた。
◆ ◇ ◆
ガザリンツクの城を出たナツキたちは、ミーアオストクに向かう途中でヤマトミコ軍の駐屯地に立ち寄っていた。
「ナツキ君、危険だよ。敵の陣地に一人で行くなんて」
一人で敵陣に入ろうとするナツキをロゼッタが止める。
「大丈夫ですよ。ちょっと情報を聞きに行くだけです」
「で、でも……」
「ロゼッタ姉さん、ちょっと待っていてくださいね」
ぎゅっ!
「はわわぁああ♡」
ナツキに優しくハグされたロゼッタがフニャフニャになった。もうラブラブ過ぎて手遅れかもしれない。
「じゃあ行ってきます」
ロゼッタをその場に残して、ナツキは少し離れたヤマトミコ駐屯地に入って行った。
「こんにちはー」
突然現れた少年に、ヤマトミコ軍の女武者たちが騒然となる。帝国と同じく女兵士主体で編成された軍なのだ。飢えたお姉さんが群れている場所に、
「何だ何だ! この少年は」
「お姉さんとイケナイコトしたいのかしら?」
「くっそムラムラしちゃうでしょ!」
「皆で食べちゃおうか?」
オヤクソクのように食べられそうになるナツキ。本人に自覚は無いが、年上女性の欲情を誘う独特の
「おい待て! 問題を起こしたら揚羽様が激怒するぞ」
「そ、そうだったわ。規律違反は斬首よね」
「危ない危ない」
「何なのもうっ! これハニートラップでしょ!」
兵士たちが恐れるように、揚羽は規律に超厳しかった。地元民とトラブルでも起こそうなものなら、どのような罰があるか分からない。
「何をしに来た少年? ここはおまえのような者が来るところではないぞ」
隊長らしき女武者がナツキの前に現れた。絵物語に描かれているようなヤマトミコ式
胸の部分が強調されセクシーだ。
「ちょっと聞きたいことがあります。征夷大将軍の織田揚羽さんについてです」
ストレートにナツキが揚羽の情報を聞き出そうとする。いくらなんでもストレート過ぎだ。
「そんな情報を教えるわけないだろ。帰れ帰れ!」
「お姉さん、その鎧カッコいいですね」
「おっ、そう見えるか。ふふんっ、これは特注品でな」
「凄い装飾です。お姉さんカッコいい」
「そうだろうそうだろう。よし、特別だ。何でも聞け」
一瞬で隊長が陥落した。
ストレートに情報を聞き出そうとするナツキも何だが、おだてられて情報を漏らす隊長も大概だった。
「揚羽さんってどんな人ですか?」
「そうだな。相撲と
聞かれてもいないことまで隊長がベラベラ喋り出してしまう。これも無意識に年上女性の心を開かせてしまうナツキの特技だろう。
後で揚羽にバレたら怒られそうだ。
「
「まあな。ヤマトミコは比較的多彩なスキルがあるようだが。そうだ、この後暇かな? 奥の休憩室で私としっぽり……じゃなかった、ゆっくりしないか?」
どさくさに紛れて隊長の女がナツキを別室に連れ込もうとする。完全にイケナイコトモードだ。
「あっ、ボク彼女がいるのでご休憩は無理です。ごめんなさい」
ガァアアアアーン!
「そ、そんなぁ……押せばイケると思ったのに」
ハッキリとナツキがお断りした。女隊長が大ショックだ。
今のナツキは彼女を大切にする男なのだ。悪いお姉さんについて行ったりはしない。
ただ、無意識に姉属性女性を堕としてしまうが、良いところで
「ありがとうございました。あっ、お姉さんたちは、織田揚羽さんの命令には従うんですよね?」
最後に確認してからナツキは陣を出た。
今、ナツキの頭の中では、戦局大逆転の構想が浮かんでいるのだ。相手が経済を乗っ取ったのなら、むしろそれさえも利用してみせると。
ロゼッタのところに戻ったナツキが声をかける。
「ロゼッタ姉さん、行きましょうか」
「ナツキ君、何もされなかった?」
「はい、ボクには彼女がいますからね」
そう言ってナツキが微笑む。ちょっとだけ自慢気に胸を張っているのが面白い。
「やはりヤマトミコ兵は征夷大将軍である揚羽さんの命令に従うみたいです。本で読んだことがあるんですよ。サムライは将軍の命令には絶対服従だって」
「そうか、織田揚羽さえ倒して要求を呑んでもらえば……」
「ボクが揚羽さんと勝負をします。ボクが勝ったら何でも言うこと聞いてもらいます!」
「言い方ぁ!」
ナツキの『何でも言うこと聞かす』発言にツッコむロゼッタの顔が赤い。
彼女を大切にするナツキを信じているが、他の女が彼氏に色目を使うのはモヤっとしてしまうのだろう。
「急ぎましょう、ロゼッタさん。戦いが終わったら、たっぷりご褒美しますから期待してくださいね」
「むはははぁああああっ♡ が、頑張っちゃうよ!
色々言いたいことはあるのに、ナツキの御褒美でヤル気満々になってしまった。やっぱりロゼッタもチョロいヒロインかもしれない。
◆ ◇ ◆
紆余曲折あった帝国対ヤマトミコの試合だが、遂に最終戦の日がやってきた。
またしても街の一大イベントとばかりに、メインストリートに面する広場に簡易的なスタジアムが設置されている。
「きゃははっ! アタシたちの勝利も近いわね。行くわよ、クレア、レジーナ。一気に格闘技戦全勝して帝国の勝利だし!」
「おおぉーっ!」
「おおぉーですわ!」
こぶしを突き上げ言い放つマミカに、他の二人もそれに倣う。
「はははっ、楽しかった試合も最終戦でありますか」
相変わらず能天気なレジーナだ。
「楽しんでる場合じゃないし!」
「そもそも、わたくしたちって……何で試合しているのかしら?」
「それは……」
クレアが根本的な疑問を呈す。
いつの間にか揚羽に乗せられて試合をしているが、当初の目的では援軍が来るまでの時間稼ぎだったのをマミカが思い出した。
「そうだった。ヤマトミコを足止めする為に時間稼ぎしていたのに、いつの間にか試合自体が目的になってたような……? ってか、とにかく試合に勝ってこいつらを追い出せば解決よ!」
マミカが言うように、世界最強の大将軍三人が揃っているのだ。単純に武力での戦いならば負ける要素は皆無に思えた。
「待たせたなマミカ。こちらも役者が揃ったぞ!」
ゾロゾロと仲間を引きつれ揚羽が会場に現れた。いつもの側近とは違う見知らぬ顔も数人いるようだが。
「遅いじゃない! さっ、始めるわよ揚羽」
「くくっ、我らも最強のメンツを揃えさせてもらったぞ。悪く思うなよマミカ」
「は?」
「わっはっはっははー! ここか、最強の敵がいる
まさかのヤマトミコ最強の軍神がミーアオストクに降臨した。最強対最強の激突必至だ!
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