第121話 勇者ナツキの大逆転! ついでにロゼッタも陥落

 極東ルーテシアのミーアオストクで開催されている決闘は、第五戦までもつれ込んでいた。

 最初は揚羽の思い付きで始めた道楽だったが、いつの間にか街をあげての一大イベントと化しているのだ。


 まさかの展開に、大将軍の三人も戸惑うばかりである。いや、一人レジーナだけは楽しんでいるようだが。




 その数日前――――


 全裸事件を起こしたクレアが相撲褌まわしを巻き直し大将戦の舞台に上がった。相手は相撲大好き織田揚羽である。

 もちろん上に着物を羽織り胸を隠すのは忘れない。


「はぁああぁ、愛しいなっくんだけの体なのに……。多くの男性に見られてしまいましたわぁ……」


 どんより沈んだ表情のクレアが自己嫌悪に陥っている。裸の時は謎の高揚感で昂っていたのに、服を着て冷静になるとナツキへの申し訳の無さでいっぱいになってしまったのだ。


「クレア、大将戦よ! 気合入れて!」


 土俵の下からマミカが声をかけるも、当のクレアは腑抜ふぬけたままである。


「はぁ、なっくんに何て言えば良いのかしら……」

「ナツキなら大丈夫だし!」

「そうかしら……?」

「ナツキなら怒ったりしないわよ。もし怒ったら、お、お仕置きはアタシが受けてあげるから」


「お、お仕置きでありますか!」

 どうでも良いところでレジーナが反応した。


「あんたは黙ってて!」

「私もお仕置きを受けたいのでありますが」



 そんなこんなでクレアは実力を出せないまま揚羽の寄り切りで土俵を割ってしまった。


「どりゃああああっ! これで二戦目相撲勝負は我らの勝利である! ふふっ、おぬしら三人が我の部下になるのも時間の問題だな」


 揚羽の黄金の瞳がマミカを射抜く。完全にお気に入りだ。


「ああああぁあっ! これどうすんのよ。マジでヤバいんだし! ナツキに会いたいしぃ」


 ナツキと一緒の時は無限に力が湧いてきそうなのに、離れ離れになると途端に寂しさと不安でこんな調子だ。

 マミカも完全にナツキ欠乏症かもしれない。




 第三戦は将棋勝負となり帝国側のストレート負けである。そもそもルールを知らなくては話しにならない。


 第四戦は腕相撲勝負だ。これはマミカが三連勝し勝負を振り出しに戻した。

 スキル精神掌握セイズマインドを使ったマミカ流腕相撲術幻惑拳(即席技)を使っているのだから無敵だろう。


 ――――――――そして現在に至る。




「ちょっと揚羽! あんたが全部決めてズルいでしょ! 最後くらいアタシに勝負内容を決めさせなさいよ!」


 最終戦で負けたら貞操の危機と、マミカが食って掛かった。少しでも有利な勝負に持ち込む為である。


 例え百合であったとしても、ヒロインが寝取られるのは大問題だ。それだけは防ぎたいところだった。



「うむ、我は構わぬぞ。但し、第四戦までとは違う競技ならばな」


 上機嫌の揚羽が許可した。

 マミカは少しでも有利な戦いにするべく思案する。


「えっと、やっぱり純粋な戦闘系よね。なら……」

「早くせぬか。ぬるぬる女相撲にするぞ」

「ちょっと待ちなさいよ! 考えてるんだから」


 揚羽が変な競技の名を出している。ぬるぬる女相撲ではクレアが放送禁止になりそうなので避けねばならない。

 クレア本人もそれを気にしたのか、マミカの後ろから心配そうな声を上げた。


「マミカさん、早く決めてくださいまし」

「ぬるぬる女相撲の響きが気になるでありますな」

「なりませんことよ! レジーナさん」


「ちょっと二人共うるさい。今考えてるんだし」


 レジーナの好みは華麗にスルーしたマミカが意を決して口を開く。


「格闘技戦にするわ。無制限一本勝負三対三勝ち抜き戦」


「ほう」

 意外そうな顔をした揚羽だが、すぐに眼光を鋭くした。


「ルールは単純よ。武器の使用は禁止。降参か戦闘不能で一本。相手を三人倒したら勝利ね。どう、揚羽!?」

「面白い! まさか武力で挑むとはな」

「決まりね」


 してやったりとほくそ笑むマミカ。単純に戦闘力ならば最強の大将軍である帝国側に有利だと。

 ただ、揚羽は何やら意味深な含みを持たす言葉を残し戻って行った。


「勝負は後日、競技場を用意しておこう。ふっ、こちらにも秘策があるのでな。楽しみだ……」


 ◆ ◇ ◆




 その頃、あり得ないほどのスピードで大陸を横断したナツキとロゼッタは、あれから二日で商業都市ガザリンツクに到着した。

 まさに東奔西走の活躍ぶりである。



 ただ、ロゼッタは以前と全く違う街の雰囲気に戸惑っていた。


「あれ? ここガザリンツクだよね。前と全く違う街みたいだよ……」

「ロゼッタさんが言っていた街の雰囲気とは違いますね」

「うん、前はもっと寂れた街だったはずだよ。極東は開発が後回しにされてたから」


 二人が話しながら通りを歩いていると、何やら香ばしいソースの匂いがしてきた。


「並んだ屋台や店から美味しそうな匂いがしてきます。あれって、もしかしてヤマトミコの?」


 街ゆく人々の中にヤマトミコ服を着た者が紛れているのにナツキが気付いた。普通にルーテシア市民と会話している。


「援軍の兵士やクレアたちはどうなったんだろ?」

「ロゼッタさん、城に行ってみましょう」

「そ、そうだね。ナツキ君」


 二人はガザリンツクの城へと向かった。


 ◆ ◇ ◆




 城の中や周囲にはガザリンツクを守る兵士と、援軍として送られた1万5千の兵がひしめいていた。少し手狭に感じるほどに。



「ええええっ! 領主が政権転覆を図り捕らえられ、ヤマトミコの経済侵略で街が乗っ取られて、クレアちゃんとレジーナが敵の幹部とミーアオストクに向かったんですか!」


 ナツキが驚き三連発で声を上げた。さすがに情報量が多すぎだ。


「はい、我々は一時停戦の命を受け、お互いに睨み合ったまま敵を監視しているところです」


 女騎士隊長がナツキたちに説明する。


「今のところ相手も停戦を守っており戦闘にはなっておりませんが、こうしている間にも続々と街が買収されヤマトミコ化が進んでいる次第でして……」


 女騎士の説明を聞いたロゼッタが腕を組み考える。


「うーん、そんな簡単に買収が進むものなのかい?」


「ロゼッタ様、それが法と契約を盾に巧妙に進められておりまして……。捕縛された領主との間に証文まで作成され、契約と称してどんどん街が様変わりしております。街の人々も、商売で街が潤うと敵に協力する者が続出するという状況なのですが……」


「な、なるほど。力ではなく経済と文化で攻められているわけだね。ちょ、ちょっと、それって凄くマズくないか! えっと、何かあれだよね」


 今までと全く違う攻め方をする敵の登場で、だいたいアバウトなロゼッタの頭もオーバーフローしそうだ。

 武力に於いては他の追随ついずいを許さない最強の彼女だが、こと小難しい経済戦争や策略は苦手であった。



 チラッ! チラッ!


 ロゼッタが救いを求めるようにナツキの方を見る。背が高く年上のお姉さんなのに、年下のナツキに頼りたい乙女心なのだ。


 このところ連日の愛の囁きと、ご褒美マッサージ&ご褒美添い寝&ご褒美ポンポンなど、容赦ない徹底的なナツキの躾により身も心も魂さえも堕とされたロゼッタの瞳が潤む。

 もう大好きなナツキに絶対的な信頼を置いていた。



「なるほど……これは凄い計略かもしれません」


 横で熱い瞳で見つめるロゼッタを知ってか知らずか、考え込んでいたナツキが口を開く。


「だよね。経済戦争だよね」

「それです、さすがロゼッタさん!」


 いつものオヤクソク、ナツキの『さすおね』が発動した。もう何でもアリだ。

 戸惑うロゼッタの横でナツキが話し始めた。


「ボクは本で読んだことがあります。戦争は武力だけでなく経済利害の戦いもあるのだと。通常は経済封鎖や貿易の妨害などですが、ヤマトミコの戦法は更に進んでいる」


 ギュッ!

 話しながら無意識にナツキの手がロゼッタの腰に回った。ロゼッタの体がビクッと跳ねる。


「んあっ♡ な、ナツキ君?」


「そうか、左遷先のように扱われてきた極東の人たちに、珍しい料理や娯楽や仕事を与え市民を取り込むんですね。それは中央政府への怒りを加速させ、ヤマトミコから与えられた文化や報酬により求心力とする。まさに戦わずして勝つ兵法」


 ポンポンポンポン――

「うごっ♡ な、ナツキ君、人前で……」


 これまたナツキが無意識にロゼッタの腰やお腹をポンポンする。


「でも、これは好都合かもしれません。開かれた経済、新しい文化や商売、他国からの資本による起業。これらを利用して一気に逆転させれば、むしろ極東の人たちの利益にできるかもしれない」


 ナツキが逆転の秘策を思いついた。


 そもそも織田揚羽や羽柴桐が進めている楽市楽座は、ナツキがカリンダノールでやろうとしている経済特区と似ているのだ。

 その自由貿易や経済特区をナツキ主導で国際的に広げられたら一石二鳥だろう。



 ポンポンポンポンポンポン――

 なでなでなでなでなでなで――


「やっぱりロゼッタさんも凄いなぁ。ボクが気付くようにアドバイスをくれたんですよね。さすがです」


 ナツキの手つきが激しくなり、ロゼッタのムッチリした体を撫で回したりポンポンしまくる。

 連日の健全なマッサージやポンポンで堕とされながらも、エッチはしてくれないという焦らされまくりの彼女としては限界だろう。


「うひぃ♡ おっ♡ おっ♡ おっほぉごぉおおっ♡」


 ついに世界最強の女戦士ロゼッタの腰が崩れ膝をついた。そして、身長差がなくなった彼女の耳元にナツキが愛の囁きをする。


「ロゼッタさん、大好きです。いつもありがとう」


 ズッキュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーン!

「あふぅ♡ もうダメぇ♡ ナツキくぅん♡」


 人前だと言うのにロゼッタが陥落した。


 あの日、ナツキが恋人同士だと認めた時からこうなのだ。元々思い込みが激しく何事も一生懸命なナツキの恋愛観が、とんでもないレベルで振り切ってしまったのだ。


 今のナツキは、恋人に対して滅茶苦茶甘々で滅茶苦茶お仕置きする恋愛モンスターだった。

 大将軍七人の帝国文化と称したナツキへのイチャラブ攻撃が、室内でも外でもお構いなく姉を堕としまくる姉堕モンスターを作り出してしまったのだ。



「ああ、帝国最強のロゼッタ様が……」

「人前でエッチ奴隷にされるなんて」

「はぁあ♡ さすが勇者ナツキ様」

「大将軍ロゼッタ様が言いなりに」

「なんて恐ろしいテクの勇者なんだ!」


 部下の女騎士や兵士たちが口々に言う。

 クレアやフレイアに続き、ロゼッタまでエッチ奴隷にされたとの噂が飛び交うことになってしまった。






 ――――――――――――――――


 やっぱりちょっと鬼畜なナツキ君。無意識にボディタッチしたり愛の告白をしたりと、年上ヒロインを堕としまくりだ。


 進めナツキ、世界を救う為に!

 でも、姉とのイチャイチャはTPOをわきまえるんだ。



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