第120話 ご褒美マッサージと愛の告白で限界のロゼッタ

 街のレストランで牛肉煮込みや肉と野菜の包み茹でなどをたらふく食べたナツキとロゼッタは、今夜を共にする宿へと向かっていた。


 どうしてもイケナイコトしたいロゼッタと、それを回避し健全な夜を過ごしたいナツキとで、二人の間に見えない攻防が続いている。



「な、ナツキ君、前に言ったよね? 彼女になったらエッチさせてくれるって」


 寄り添って歩くロゼッタがナツキの目を見ながら言う。繋いだ手を恋人繋ぎのように指を絡めながら。


「そ、それは……言いましたけど……」


 前にフレイアに迫られた時だった。それまでは結婚するまでエッチ禁止だと主張していたはずだが、何度も迫られているうちに恋人同士までと譲歩してしまう。

 その噂が姉妹シスターズの間に広がり、今では彼女になればエッチ解禁だと知れ渡っているのだ。


「バベリンでナツキ君は言ったよね。『ボクの大切な彼女だ』って」


「い、言いました……」


 ナツキ絶体絶命だ。そう、確かにナツキは言った。ボクの大切な彼女だと。

 もう完全に恋人同士なのだ。


 そもそも、ナツキは前から『大好き』だの『大切な人』だの『ずっと大事にしたい』だのと、無意識にプロポーズみたいなセリフを言いまくっていた。

 彼女たちの中では結婚するものだと思い込んでいるのだから今更だろう。



 ガチャ! バタン!


 宿の部屋に入りドアを閉めると、そこは二人だけの甘々空間スイートルームへと変貌する。もう誰も邪魔しない目眩めくるめく愛の世界なのだ。



 ガバッ!

「ナツキ君、い、いいよね♡」


 ベッドに並んで腰かけていたロゼッタが、ナツキに覆いかぶさるように密着してきた。


 少しだけボーイッシュな彼女の顔が、今は乙女チックに蕩けている。普段はフリフリと揺れるポニーテールを解くと、艶やかなダークブラウンの髪が背中から肩に流れた。

 髪を下ろした彼女は、予想よりも何倍も美しく魅力的だ。


「あの、ロゼッタさん。ダメです」

「ダメって言われると、余計にしたくなっちゃうよ」

「そ、そんな」

「ハァ♡ ハァ♡ や、やっとこの時が♡」

「ダメです。ううっ」


 ロゼッタの褐色の肌がテカテカと汗で輝き、肉感的な体がうねる度に魅力を増してゆく。


 筋肉質なはずなのに女性っぽい柔らかさも兼ね備えており、パツパツに張った胸や尻や太ももは暴力的な程の破壊力だ。腕やふくらはぎでさえ、触ってみたくなるようなムチムチ具合である。


 ロゼッタファンの男たちからは『一度で良いから抱かれてみたい』と密かに願っている長身グラマラスな体。間近で見るその肢体は、想像の何万倍も魅力的なのだ。

 もちろん触ることができるのはナツキ唯一人なのだが。



「あああぁ! ぼ、ボクも我慢できないぃ」

「が、我慢しなくて良いんだよ♡ わ、私がリードするからね♡」

「で、でも」


 圧倒的な質量とえちえちの肉体に乗られ、ナツキが陥落寸前になってしまった。


「ふんす! い、いただきまーす。ちゅー♡」


 ロゼッタのぽってりと柔らかそうなくちびるが迫る。まさにキスする5秒前だ。



 ムチムチの女体に包まれ限界突破しそうなナツキだが、頭の中では様々な想いが去来していた。


 あああっ! もう限界かも……。

 ずっと我慢してきたけど、お姉さんたちの伝統文化でどんどんイケナイコトしたくなっちゃってる。

 エッチは結婚してからって決めてたけど、恋人同士なら良いのかな? でも、彼女が七人とかイケナイ大人な気もするし……。


 まだ極東ではお姉さんたちが戦っているのに。

 このままじゃ――――


 その時、毎度おなじみナツキの脳裏に生意気なメスガキっぽい幼馴染の顔が浮かんだ――――


『いいっ、ナツキ! もし女子が本気でぶつかって行ったら、それを受け止める度量を持ちなさいよね!』


 胸にパシッと手を当てミアが言い放つ。


『何でさ。強引に女子に迫られたら受け止められないよ』


『何言ってるのナツキ! 逃げちゃダメよ。男なら、ビシッと女子の告白を受け止めなさいって言ってんの! ほ、ほら、高嶺の花の、あたしとか……って、なに言わせてんのよっ!』


『ちょっと意味が分からない……』


 そんなミアを、苦手な生意気でメスガキっぽい女子だと思っているナツキだが、こんなに何度も助言をくれていると思うと、良い幼馴染だと思えてくる。

 ただ、ミア本人は別の意図があるのだが、ナツキは全く気付いていなかった。



 ――――――――そうかっ! 逃げちゃダメだっ!


 ボクは真っ直ぐに好意をぶつけてくれるお姉さんたちを本気で受け止めていなかったんだ。本気のお姉さんには本気で返さないと。

 ついでに伝統文化のお仕置きやご褒美も本気で徹底的にやらないとダメだよね!


 ナツキが盛大に誤解……はしていないのだが、ちょっと極端な恋愛観に振り切ってしまった。



「ロゼッタさん!」

 ぎゅぅううううっ!


 ナツキがロゼッタの体を抱きしめる。それも強く激しく情熱的なハグだ。


「ふええっ♡ なぁ、ナツキくぅん♡」

「ロゼッタさん、好きです!」

「くあぁあっ♡ す、すすす、好きぃ!?」

「はい、今まで寂しい思いをさせてごめんなさい」

「んっすぅううっ! わ、私も大好きだよぉ♡」


 グイグイ攻める超肉食系女子のロゼッタが圧されている。突然積極的になったナツキにメロメロだ。


「そうですよね。ロゼッタさんは大切な彼女です」

「ふ、ふぅううぅんぅす♡ かか、彼女ぉ♡」

「ずっと拒んでばかりじゃ彼氏失格ですよね」

「あああぁああっ♡ ナツキ君がヤル気満々にぃ♡」

「でも、今は我慢してください」

「へっ?」


 ここまで盛り上げておきながら、ギリギリのところでおあずけ・・・・するナツキ。やっぱり鬼畜だった。


「まだ極東ではマミカお姉様たちが戦っているんです。だから僕たちだけエッチなことするのは申し訳ないと思うんですよ」


「そ、それはそうだけど……」


「戦争が終わるまで待ってください。今日は早めに休んで明日に備えましょう」


「そ、そうだね。休息は大事だよね。……とほほぉ」


 愛の告白までされ激しく情熱的なハグまでされたのに、ここでストップなんて性欲絶倫のロゼッタとしてはたまらない。もう、体の奥から沸き上がるナツキを欲する愛の炎が止められないのだ。


 しかし、以前、強引に迫る事案を起こしているだけに、ここで再び過ちを犯しては信用問題に関わってしまう。

 もう涙を呑んで狂いそうな愛欲を抑えるしかないのだ。



「うへぇええぇん。もう苦しくて切なくておかしくなっちゃいそうだよぉ……」


 火照った体をベッドに突っ伏しながらロゼッタが愚痴をこぼす。


「でも、ロゼッタ姉さんにはお世話になっているので、今夜はご褒美としていっぱいサービスしますね」


「ん!?」


 ふて寝しようとうつぶせになっていたロゼッタが顔を上げる。ナツキの『いっぱいサービス』というセリフでスイッチが入ったのだ。


「えっ、あ、あの、ナツキ君?」

「ほらロゼッタさん、服を脱いでください」


 戸惑うロゼッタの服をナツキが脱がし始める。


「ふああぁ♡ やっぱり積極的だぁ♡」

「ほらほら、ボクに任せて」

「え、えええっ! す、すごっ、そんなとこまで」


 ベッドの上で下着姿にされたロゼッタが、恥ずかしそうにモジモジしている。


「も、もしかして……ナツキ君がやる気に……」

「ロゼッタさん、ずっと走って疲れているはずだからマッサージしますね」

「…………だ、だよね。健全だよね」


 再び初夜の期待を爆上げしたロゼッタだが、やはりナツキの寸止めプレイでおあずけ・・・・をくらう。こんなに感情を揺さぶられてはたまらないだろう。


 ただ、その健全マッサージは想像を絶する恐ろしさだったのだが。



「ぐっはぁああああぁ~ん♡ だめだめだめだめだめぇ~っ♡ おかしくなっちゃうからぁああああぁ~ん♡」


 元からおかしいのだが、更におかしくなったロゼッタが絶叫する。


 それは、クレア直伝極上マッサージなのだ。


 姉たちが帝国伝統文化だと教え込んだ女を堕とすテクニックの数々。その全てをナツキは吸収し、更に持ち前の器用さで何ランクも上のテクに昇華させる。

 それを姉喰いスキルに乗せて使っているのだ。


 こんな姉堕必殺技を使われては、いかに一騎当千の世界最強女戦士であっても堕とされないはずがない。



 モミモミモミモミモミモミモミモミ――


「くぁああぁああふぇあぁん♡ もう限界だよぉ♡ 許してナツキくぅん♡ 何でもするからぁああぁ!」


「まだです! 太ももと腰は疲れているはずだから念入りにマッサージしますね。ボクは伝統文化を尊重します。もっともっと、じっくりたっぷり執拗に徹底的に容赦なくやります。頑張ります!」


「ほごぉおおおおおおぉ~っ! すきぃ♡ ナツキ君だいすきぃいいいいぃ♡ もう一生離れないぃいいいいぃっあぁ♡」


 ※健全なマッサージです。エッチなことはしていません。



 こうして二人の夜は更けてゆく。ロゼッタが何でも言うこときく姉にされながら。


 ◆ ◇ ◆




 翌日、宿を出た二人が街を歩いていると、周囲から変な噂が聞こえてきた。


「おい、あれって噂の?」

「奇跡の勇者ナツキと大将軍ロゼッタ様だよな」

「そうだ、間違いねえ」

「あの最強戦士のロゼッタ様がエッチ奴隷にされたのは本当だったんだ」


 ロゼッタの目立つ風貌から、この街に大将軍の彼女が来ているのは噂になっていた。そこで、昨夜の宿屋での変な声が噂が噂を呼び、すでに街中の人々からナツキは一目置かれる存在なのだ。


「最強の女を堕とすなんて、勇者は凄い男だぜ」

「ああ、この女性上位社会の帝国で女を堕としまくるとは」

「まさに男にとって希望の星!」

「男の中の男! 益荒男ますらおだぜ!」

「あいつがアンナ様と結婚しトップに立てば、この国の男の地位も向上するかもな?」

「ああ、違いねえ」

「そうだそうだ、男性の地位向上だ!」

「「「勇者ナツキ万歳!!」」」



 そんな男たちの声も聞こえているのかいないのか、当のナツキはそれどころではなかった。


「むふぅ♡ ナツキくぅ~ん♡ もう一生離れないからな♡ せ、責任取ってもらうからね♡ こ、こんなに好きにさせたんだから♡」


「ロゼッタ姉さん、ち、近いです」


 ロゼッタの抱きつき攻撃でナツキの足が地面から離れ浮かんでいる。ぎゅうぎゅうと抱きしめられ絶体絶命だ。

 魂の根源まで堕とされ愛の奴隷状態になったロゼッタなのだ。もう責任を取って嫁にするしかないだろう。


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