第123話 剣聖vs軍神
何度か噂に出ていた軍神を、まさか揚羽が呼び寄せてしまったのだ。援軍として呼ぶ予定だった徳川軍と共に、上杉ささめも
その軍神と呼ばれる女だが、瞳の中にキラッキラの星が輝き無邪気な笑顔を浮かべている。
※実はこのマント、揚羽がプレゼントしたものである。敵に回すと都合が悪いので、いくつかプレゼントを送って友好的な関係を築いているのだ。
「おい織田、勝負はまだか。もう待ちきれないぞ。だぞ!」
悪気は無いのか、ささめが普通に揚羽を呼び捨てにしている。これには征夷大将軍である揚羽も苦笑した。
「あの、我は一応将軍なのだが……」
「おおっ! あそこの帝国人だな! 凄く強そうだぞ。一目で分るぞ。とんでもない力を秘めているのが分る。これは楽しみだな。だな!」
「……って、聞いてないようだな。先輩だから絡みづらいのだが。まあ仕方がない」
揚羽が言うように、ささめは彼女より年上だった。見た目では揚羽の方が年上に見えなくもない。
「そうだ、織田がプレゼントしてくれたビロードのマントも着てきたぞ。どうだ、かわいいだろ。へへっ、
「よ、良く似合っておるな」
「だろぉ! これが南蛮渡来のファッションか。織田も中々センスが良いな」
ささめがマントをはためかせクルッと一回転する。キラキラした印象の女と赤いマントが、これ以上ないほど似合っていた。
その光景を見ている帝国大将軍たちも心穏やかではいられない。完璧な勝利の計画が狂ったのだから。
ただ、レジーナだけは喜んでいるのだが。
「おおおっ! あれが噂の軍神でありますか!」
「ああぁん、アタシの計画が台無しだしぃ!」
軍神との試合を喜ぶレジーナとは対照的に、マミカは頭を抱えて叫んでいる。
「どうすんのよ、ヤマトミコ最強の女って言ってたわよね。アタシたちと同じレベル10能力者かもしれないわよ。レジーナ、あんた勝てるんでしょうね!?」
「はっはっは、相手が強ければ強いほど燃えるというもの。楽しみでありますなあ」
「レジーナさん、今回は剣の試合ではなく格闘戦ですわよ。本当に大丈夫なのかしら?」
細く綺麗な人差し指を口元に当てながらクレアが言う。
「はっはっは、ピンチでありますな」
「どどど、どーするし!」
「マミカ殿、大丈夫でありますよ。お互い同じ剣士でありますから」
「私は柔術と当身技も得意だぞ。だぞ!」
突然、ささめがマミカの後ろに現れた。
「きゃああっ! な、なにするしぃ!」
「何もしないぞ」
ビックリしたマミカがスキルを使いそうになる。しかし、先の先を取るようにささめが動き、一瞬でマミカと肩を組んだ。
「ひいいぃ」
「帝国の乙女は可愛い子が多いな。だな!」
怖がるマミカだが、ささめは何の邪心も無いような顔をしている。
「そんなに怖がらなくても良いのに。私が何がしようとしてたら、そこの剣士が必殺の一撃を入れていたはずだよね。よね!」
ささめがレジーナの方を見ながら言う。
「レジーナ・ブライアースであります。軍神殿」
「レジーナという名か。おまえ強いな。それも桁違いに」
「軍神殿も桁違いでありますな」
「それより今の闘気は凄いな。私に殺気があったら斬られてたぞ。だぞ!」
ささめがマミカに近付いた時に、レジーナはバトルオーラを彼女に当て牽制していたのだ。
「今のは軍神殿を守ったのでありますよ。マミカ殿が真のスキルを使ったら、軍神殿が即死していたかもしれぬであります」
レジーナの話を聞いたささめの威圧感が増す。
「へえ、このマミカって娘も凄く強いね。だね!」
「強いでありますよ。ますよ!」
「おい、レジーナ、真似するな」
「ふふっ」
「あはっ」
レジーナの冗談でお互い笑顔になった。最強の剣士同士、何か通じるものがあるのかもしれない。
そんなこんなでマミカの予定が狂ったまま試合が始まった。
揚羽が対戦選手を読み上げる。
「ルーテシア帝国、先鋒マミカ・ドエスザキ、中堅クレア・ライトニング、大将レジーナ・ブライアース。ヤマトミコ、先鋒徳川葵、中堅上杉ささめ、大将は我、織田揚羽だ。勝ち抜き戦であるから、先に三人倒した方の勝利である!」
これに異議を唱えたのは葵だ。
「あ、揚羽様、私も選手に入っているのですか? その、私は疲れておりますので別の者に――」
「葵、我が決めたことだ。つべこべ言わずやらぬか、ポンポコ娘!」
「うぐぅ……いつもながら理不尽な」
変なあだ名を付けられた葵が渋々闘技場に入る。
マミカも闘技場に入った。
「行ってくるわね」
マミカの背中にクレアとレジーナも声をかける。
「気をつけてくださいまし。マミカさん」
「御武運を!」
街中に設置された特設会場に二人の女が向かい合い。会場の声援も熱を帯びる。
殆どがマミカの応援だが。
「うおおおおっ! マミカ様!」
「よっ! ドS大将軍!」
「おまえ、それ禁句だろ」
「ヤバっ、マミカ様に逆らったら潰されるぞ」
ここミーアオストクはマミカの担当区域だけあって、市民も兵士も皆応援しているようなのだが、もしかしたらドSの噂を恐れているだけかもしれない。
「くっ、到着するなり試合とは、揚羽様も人使いが荒い。だが、私も武芸を極めしヤマトミコ乙女。奥義で見事勝利を収めてみせます!」
渋々闘技場に入った葵だが、右手を引き左手を正面に出す構えをとった。立ち姿からも分かるほど、かなりの腕前のようだ。
「勝負、始め!」
揚羽が軍配を振る。
「てやぁああああ! 奥義、
「甘いっ! マミカ流幻惑拳!」
ドォーン! ゴロゴロゴロ!
葵が奥義を出す前にマミカの
スキルで動けなくなった葵が闘技場の端まで転がってゆく。
披露できなかった
「勝負ありね! へっへへーん、アタシの勝ちぃ! 残念だったわね揚羽ぁ! べぇー」
わざと挑発するマミカに、出鼻を挫かれた揚羽の顔がピクピクしている。
「くっ……こ、こら、葵! 真面目にやらぬか、このポンポコ狸JK!」
「ひぃいいっ! 揚羽様、こ、これは油断してですね」
「問答無用!」
何も良いところを見せられず敗北した葵が、トボトボと戻り桔梗の隣に座った。
「ポンポコ狸JKは酷くない……?」
「徳川殿、拙者の
「あ、明智殿もですか……。お互い苦労しますね」
葵と桔梗が、二人で変なあだ名被害者の会でも結成しそうだ。
マミカが勝ち抜き、ヤマトミコ側は中堅の上杉ささめが闘技場に入る。
クルクルと腕を回し、準備も万端とばかりに。
「あっ、織田、ちょっとこれ持っててね。お気に入りのマントが汚れちゃうから」
「ああ」
揚羽に赤いマントを渡してからマミカの前まで歩いて行く。その顔は、先の試合で見た技は効かぬとでも言いたげな表情をしている。
「マミカ、あの徳川を一撃で倒すとか、やっぱり強いな。これは楽しめそうだ」
「アタシは計画が狂って楽しめないんですけど。あんた絶対レベル10能力者よね。手加減できそうもないから、どうなっても知らないわよ」
「望むところだぞ! だぞ!」
両者が見合い、揚羽が軍配を振ろうとしたその時。突然レジーナが声を上げた。
「ちょっと待ったぁああああああ!」
試合を止めたレジーナに、揚羽が抗議の声を上げる。
「何だ! 何事だ!」
「こちらは先鋒マミカ殿と中堅クレア殿は棄権であります。大将の私が残る二試合をやりますぞ」
とんでもないことを言い出したレジーナに、当然のようにマミカもクレアも抗議する。
「ちょっと! あんた一人で何かあったらどうすんだし!」
「そ、そうですわ。わたくしたちも出るべきですわよ」
「ああぁ、こんな美しいお嬢さんの体に傷でもついたらどうするんだ。きっとナツキ御主人様だって悲しむはずだよ。ふふっ、美しいお嬢さんを守るのは騎士であるボクの務めだと思わないかい」
久しぶりにレジーナが王子様系女子になった。髪を書き上げる仕草が歌劇の男役のようにキマっていている。
「あんた、そんなこと言って本当は自分が戦いたいだけでしょ」
「それもありますな。でも……危険な目に遭わせたくないのも本心でありますよ」
そう言ったレジーナが剣をクレアに渡して闘技場に入った。
マミカの肩に手を置いて囁く。
「マミカ殿もクレア殿も接近戦は専門外でしょう。ここで何かあったら、本当にナツキ御主人様に合わせる顔が無いのでありますよ」
「レジーナ……」
ぽんっ!
「ここは、この接近戦専門の私に任せておくのであります」
マミカと入れ替わったレジーナが、ささめの前に立つ。
「そういう訳で、私が相手であります」
「レジーナ、やっぱりおまえ、剣がなくても強そうだな」
「当然! 不肖このレジーナ、剣を極めし途中なれど、その闘気は全身を剣に変えるのであります!」
レジーナが気合を入れた。
「たああああああぁああっ! 天が呼ぶ、魔が呼ぶ、人が呼ぶ、天地鳴動して私を呼ぶ! 電光石火、一撃必勝、レジーナ・ブライアース推参! どっしゃぁああああっ!」
ズドドドドドドドドドドーン!
掛け声と共にレジーナから凄まじいバトルオーラが発生し、口上を述べるとバックに五色の爆炎が立ち上った。
完全にヒーローもの
「おおおっ! 凄いな。私もやるぞ! だぞ!」
ズババババババババババーン!
「オン・ベイシラマンダヤ・ソワカ! 私は毘沙門天の化身!
ささめの
ぶっ飛んだ二人による中二病バトル……ではなく最強バトル。ふざけているようで大真面目な二国間の決闘は、一気に佳境へと入ってしまった。
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