第111話 クレアちゃん、相撲と裸で無双する!

 天下無双槍の白梅を凌ぐ剣技を見せたレジーナに、揚羽たちヤマトミコ軍幹部は大盛り上がりだ。戦より決闘の方に興味が移っているのかのように。

 大陸から隔絶された島国だけあって、ちょっと変わった文化なのだろう。



「しかしあのレジーナという女、剣聖の名に恥じぬ強さであったな」


 感心したような顔で揚羽が言う。

 これに申し訳なさそうな顔をした白梅が応じた。


「申し訳ございません揚羽様。私の力が及ばず……」

「よい! 白梅の突きをかわせる者などそうはおらぬ」

「はい……」


 なおも沈んだままの白梅に、彼女と主との間でキョロキョロしている桐が口を開いた。


「そ、そうでござるよ白梅殿。あのレジーナ殿は例外というもの。あんな化け物の類が存在するとは、世界は広いですなぁ」


「そうですね……。落花入滅らっかにゅうめつを止められた時は肝を冷やしました。あんな剣士が存在したとは」



 二人の会話を聞いていた揚羽は、少し考えてからヤマトミコ最強レベルの剣豪の名を口にする。


「大将としては軍神上杉ささめ。一人の剣豪としてならば、雷神タケミカヅチの化身とも呼ばれる塚原つかはらみたま。あるいは生ける伝説の剣豪、上泉かみいずみ新陰片喰しんかげかたばみと同格か。欲しい! 我の部下に欲しい逸材だ!」


 揚羽がそのようなことを言うからか、彼女の部下たちにプレッシャーが圧し掛かる。一戦目で負けており次の勝負は必ず勝たねばならないのだから。



「よし、決めたぞ! 次の試合は相撲勝負だ」

「「「えぇぇぇぇー!」」」


 突然降って湧いた相撲勝負に桐たちが唖然とする。そう、揚羽は相撲が大好きなのだ。


 ◆ ◇ ◆




 そしてクレアが裸になる運命なのだが――――



 休憩が終わったところで揚羽から相撲勝負を告げられ、最近ナツキ欠乏症で不機嫌なマミカが毒を吐く。


「やーい! 剣で勝てないから相撲とか、揚羽のバーカ!」


 わざと挑発しているのだが、ちょっと子供っぽい喧嘩に揚羽の眉がピクピクしている。


 ヤマトミコでは第六天魔王と恐れられる揚羽に、こんな態度がとれるのはマミカだけだろう。揚羽を知る者ならば、逆らう者は容赦なく斬首されるという噂を聞いているはずだから。


「よかろう、相撲はヤマトミコで盛んであるからな。帝国が勝てぬと思うのも無理はない」


「は?」


「だから勝てぬのだろう。そちらが三人であるから、三対三で勝負でどうだ? まあ勝てぬと思うのなら不戦勝とさせてもらうがな」


「はあああ!? 勝てないなんて思ってないし! こっちにはクレアがいるんだから。クレアはね、一流の騎士五人を同時に相撲で相手して勝っちゃう女横綱クラスなんだから!」


 マミカが余計なことを言い出して織田家臣団に動揺が走る。次は絶対に落とせない勝負であるにも関わらず、相手が横綱クラスとあっては覚悟しなければならない。



 これにはさすがのクレアもマミカを止める。


「ちょっとマミカさん、誰が女横綱ですの。わたくし、あんこ型ではなくってよ」

「ほら、宮殿で五人抜きしてたじゃない」

「まあ、確かに相撲の嗜みはありますが……」


 マミカが言うのは、宮殿玉座の間での破廉恥美女相撲のことだろう。クレアが裸で暴走した。


「ほら、レジーナに良いとこ見せられてたら、ますますナツキがレジーナ好きになっちゃうし。今でさえ憧れてるみたいなんだから」


 元からナツキは最強の剣士であるレジーナに憧れているのだ。マミカが言うように、このままレジーナが無双し続けるとしたら、ますます彼女候補の中でレジーナが抜きに出てしまいそうだ。


「そ、それは一大事ですわよね」

「でしょ」

「わたくしたちも良いところを見せないと」

「そこで相撲よ。アタシとあんたで――」

「わたくし一人で大丈夫ですわ!」

「は?」


 ナツキに良いとこ見せてラブラブになる妄想で、クレアの恋愛脳が暴走し始めた。これは危険な兆候だ。


「おーっほっほっほっほっほ! わたくしが三人抜きして差し上げますわ! 溢れる愛の光は誰にも止められませんわ。愛の軌跡シュプールですわぁ♡」


 これにはマミカが「あちゃー」と言った顔をする。何処かで見た光景だから。

 まさか裸で暴走はしないだろうと思うのだが、そのまさかを一度やっているので安心できない。


 

「ふむ、ルーテシア帝国に横綱が居るとはな。これは本格的に土俵を作らねばならぬ」


 クレアの高笑いを聞いて、揚羽も本気になってしまう。どんどん話が大きくなっているようだ。


「そうだな、これから準備に取り掛かる。神事も行わねば。試合は後日にするぞ」


 そして第二次クレア全裸事件は起きるのだった――――


 ◆ ◇ ◆




「嫌ですわぁああああ~ん♡」


 というわけで、毎度のことながらクレアが恥ずかしい目に遭っている。


 試合前に相撲褌まわしを渡されたクレアは、訳も分からず装着したは良いものの、そのままふんどし一丁で土俵に上がってしまうという、露出狂のようなプレイをしてしまったのだ。


 もちろんヤマトミコ側は上半身にさらしを巻いたり着物を着ている。



「こ、こんなの聞いていませんわ♡ 大勢の男性が見ている前で――」


 そう、久しぶりの相撲開催にテンションの上がった揚羽が、大々的に告知し街の一大イベントにしてしまったのだ。

 土俵の周囲には観覧する座席が設けられ、街には軽食を売る屋台まで並んでいる。


 元々娯楽の少ない極東ルーテシアでは、イベントが開催されるとあって、これまでにないほどの多くの観客が集まっているのだ。



「その、クレアとやら……ごくり。そんな破廉恥な恰好で相撲を取るとは、よほど豪胆なのかドスケベなのか……。目でも我を楽しませるとは恐るべき女子おなごよ」


 揚羽が生唾を飲み込む。美し過ぎるクレアの裸体に圧倒されているのだ。


「ち、違いますわ! 本場の相撲は裸だと聞いておりましたから……」


「ああ、あれは男子だけだな。さすがに女子は隠しておるぞ。スッポンポンでは胸がバルンバルン暴れるではないか。まあ、そんなに美しい体を見せたいのならそのままでも良いが」


「良くありませんわぁぁああああぁ~ん♡」



 クレアの肢体に魅せられた揚羽が、そのまま試合を開始してしまった。レジーナの剣技のとりこになった彼女だが、クレアの魅惑的なヌードのとりこにもなってしまったようだ。




「第一試合、東ぃぃ~っ、桔梗ノ山ぁぁ! 西ぃぃ~っ、クレア海ぃぃ」


 桐が行司ぎょうじ役をやっている。適当だが、それっぽい呼び出しだ。



「あ、相手は横綱クラス……ま、負けられぬ。うぷっ」


 先鋒にされた桔梗ききょうだが、プレッシャーで吐きそうになっていた。

 戦では数々の策略と戦術を使いこなす冷徹クールな女であるが、相撲の経験は浅く実力は未知数だ。



「はぁああぁ~ん♡ 皆が見ていますわ♡ こ、こんな大勢の方の前で肌を晒すだなんて」


 一方、クレアといえば相変わらずの大人気で、街の空気を振動させるほどの大歓声が鳴り響く。


「きゃああああっ! クレア様ぁ!」

「美しいお体、女性が見ても憧れます!」

「でも、なんで裸なの!?」

「きっと理想の帝国乙女は裸になる自由を訴えるのよ」

「さすがクレア様、私たちにできないことを平然とやってしまうなんて」


 そしてボドリエスカや帝都と同じように、ここミーアオストクでも男性ファンを増やしまくる。


「すげぇ! 高貴なクレア様の裸だぞ!」

「なんてエロい女なんだ!」

「ドスケベクレア様、最高だぜ!」

「たまらねぇ、今夜は眠れねえぜ……」

「くううっ……何でクレア様は毎回オカズ・・・を提供してくれるんだ」



 重力に逆らうかのように突き出た形の良い胸を手で隠す仕草が色っぽい。ムッチリと張りがありキュッと上がったヒップに締め込んだふんどしは、動く度にグイグイ股に食い込み、もう放送禁止寸前だ。


 何より一番人々を惹き付けるのは、彼女の羞恥心で紅潮した体が、ほんのりピンク色に染まり上気していることだろう。元からしっとりスベスベで吸い付きそうな艶めかしい肌が、更にエロ度を増している。

 煽情的なことこの上ない。



「クレア、頑張って! もう全部出し切るのよ!」

 何を出すのか分からないが、マミカが応援している。


「さすがクレア殿、官能小説のようなプレイを実際にしてしまうとは。やるでありますな」

 レジーナに至っては、自分にできないような羞恥プレイをいとも簡単にしてしまうクレアを尊敬しているようだ。



「はっけよい、のこった!」

 クレアが手で胸を隠しているのに、無情にも試合は始まってしまう。


「どっせぇぇいいいいっ!」

 ガシッ!


 桔梗が怒涛の踏み込みでクレアのまわしを掴んだ。対するクレアは片手で胸を隠しているので圧倒的に不利な状況だ。


「クレア! 両手を使って! 相手のまわしを掴んで!」

「そうであります! 片手では不利でありますぞ!」


 マミカとレジーナが叫ぶが、クレアは必死に大事な部分を隠している。


「だ、ダメですわぁ♡ 見られちゃいます♡ なっくん以外の男性に裸は見せられませんわぁ♡ ひぐぅ」


 桔梗の猛攻を、クレアは片手で防いでいる。しかし、不利な状況は歴然で、土俵際まで押し込まれてしまった。

 そんな状況に、マミカが大声で説得を試みる。


「クレアぁ! 帝都でも丸出しだったじゃない!」

「はぁああん♡ これ以上他の人に見せるのはぁ♡」

「だ、大丈夫だし! ナツキはクレアの美しい体を見せたがってるんだし!(すっとぼけ)」

「ほ、本当ですの!?」

「本当よ!(知らないけど)」

「見せて良いのですのね♡」

「むしろ自慢の彼女を見せたいんだし(嘘だけど)」


 マミカの適当な作り話に、クレアの中でナツキへの想いと羞恥心やら背徳感が限界突破し恋愛大爆発を起こした。

 こうなったクレアは無敵である。


「おーっほっほっほっほっほ! これは愛ですわぁ♡ わたくしが恥ずかしければ恥ずかしいほど、なっくんが喜ぶのですのね! もう全て見せてしまいますことよ! 愛の軌跡シュプールですわ♡♡♡」


 そしてクレアは再び暴走した。


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