第112話 なっくんの為なら脱ぎます

 土俵際まで追い込まれたクレアがギリギリのところで残っている。桔梗に相撲褌まわしを掴まれ、グイグイかぶり寄られている状態だ。

 まさに絶体絶命である。


 しかしここでクレアが限界突破した。


 溢れるナツキへの想いと、皆に見られている羞恥心と、ナツキ以外の男に恥ずかしいところを見せる背徳感とで、彼女の頭の中が恋愛大爆発なのだ。



「愛の!」

 ガシッ!

奇跡シュプールですわ!」

 ギュッ!


 クレアがたわわな胸を隠していた手を除けると、丸出しのまま桔梗の相撲褌まわしを掴んだ。

 がっぷり四つである。


「お、おのれぇ~っ!」


 桔梗が驚きの声を上げる。

 それもそのはず、魔法使いのはずなのに、クレアの力は意外と強いのだから。


「愛の戦士となったわたくしは、誰にも負けませんことよぉぉぉぉーっ!」


 ぎゅぅううううっ!


 桔梗の差し手の上から相撲褌まわしを掴んだクレアの腕に力が入る。


 このクレア・ライトニング、神に愛されたような美貌でありながら、世界最強の光魔法レベル10の才能を持ち、学業の成績まで良いときた上に、性格まで良く皆に慕われるという完全無欠の女だった。

 しかもスポーツまで得意となれば、一体天は何物を彼女に与えてしまったのだと文句も言いたくなる。


「愛の! 愛の軌跡シュプール! ライトニング回転地獄車上手投げですわぁああああ~ん♡」


 ドッゴォオオオオーン! ゴロンゴロン!


 クレアの上手投げが炸裂し、桔梗が土俵下まで転がって行く。同時に、完璧な曲線を描くクレアの大きな胸も露わになり、割れんばかりの歓声が上がった。


「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」

「クレア様のおっぱい!」

「ありがたやありがたや」

「クレア様、なんてエロいお方なんだ」

「高貴で可憐なクレア様が、皆のオカズに……」


 観客の男たちが興奮と衝撃で目が離せない。本来なら話すことすら叶わない社交界の華であるクレアを、こともあろうに美しい肢体をガン見できるのだから。



「やりましたわ~っ! わたくしの勝利ですわ♡ これで、なっくんも喜んでくださいますわよね♡」


 更に両手を広げて見せまくるクレア。この場にナツキがおらず、誰も隠す者がいない。困ったものだ。



「あああぁ……これ、どうしよ。だ、大丈夫よね。ナツキって意外とズレてるし。きっと伝統文化で赦してくれるわよね」


 茫然と、その光景を見つめながらマミカが呟く。予想以上にクレアが暴走してしまい、もう誰にも止められそうにない。


 クレアが完全無欠の女と噂されるのだが、実はそれは嘘だ。

 完璧超人に見えるクレアだが、ここ最近はエッチ奴隷になったり、羽箒はねぼうきでくすぐられるのがクセになったり、皆に裸を見せて高揚したりと、とても人には言えないヘンタイさんであった。

 もう、完全にくっころ・・・・要員だ。



 喜ぶ帝国側とは反対に、負けて帰った桔梗に揚羽の怒りの声が飛ぶ。


「こら桔梗! 何をやっておるか! この金柑きんかんデコ委員長!」


 何となく委員長っぽい見た目からなのか、揚羽が新たなあだ名を付けてしまった。しかも禁句の金柑だ。


「ぐっ、ぐぐっ、も、申し訳ございません……。ぐぎぎぎっ……。ときは今、天が下しる五月さつきかな」


 五月でもないのに五月の歌を詠む桔梗。変なあだ名が嫌で謀反を起こしそうになってしまったのかもしれない。




 第二試合、副将戦が始まり土俵の上には柴田小鳥が上がる。


 ドスンッ! ドスンッ!

「ふんっ! こんな折れそうに細い娘など恐るるに足らず! 完膚なきまでに叩き潰してやるわ」


 小鳥が四股しこを踏みながら言い放つ。


 彼女が言ったように、二人の体格差は歴然だ。腕は小鳥が何倍も太く、脚に至ってはクレアのウエストよりも太そうだ。

 ただ、クレアのスリムで一切の無駄な脂肪のないスタイルながらも、出るとこはムッチリとエロく突き出た完璧なプロポーションに嫉妬しているだけかもしれない。


「相撲も柔術も、柔よく剛を制すですわ♡ わたくしの愛しいなっくんへの想いは止められませんわぁぁぁぁ♡」


「くぅううっ! そ、その、ぷるんぷるん揺れるものを隠せ。こ、こちらまで恥ずかしくなるではないか」


 上気した顔で堂々と胸を揺らすクレアに、鬼小鳥でさえ正視できないほどだ。

 元から裸の付き合いが多く風呂も基本混浴のヤマトミコであるが、クレアの全身エチエチな規格外なほど煽情的な体は別なのだろう。



「はっけよい、のこった!」

 ズドドドッ!


 試合開始と同時に、百キロは超えていると思われる小鳥の巨体が突進する。並みの者ならば弾き飛ばされてしまいそうなぶちかましだ。


 ガシッ!

「はぁあぁん♡ 負けませんわ! わたくしの愛の軌跡シュプールは誰にも止められませんことよ♡」


 二倍以上の体格差があるのに、クレアが小鳥の巨体を受け止めている。

 これは絶妙な体重移動と、崩しと呼ばれる高度なテクニックにより可能にしているのだが、そんなことよりもクレアの裸がエッチ過ぎて誰も頭に入ってこない。



「ぐうっ、その細腕でこのパワーだと!」

「魔法使いだと侮るなかれですわ。筋トレも嗜んでいましてよ」

「お、おのれ、可愛いのに強いとかズルいぞ!」

「か、可愛いは関係無いですわ」


 小鳥がいら立つのも無理はない。会場の声援は、ほぼ全てクレアを応援しているのだから。


「きゃああああっ! クレア様ぁ!」

ふんどし姿も美しいです!」

「たまらねえ! クレア様最高だぜ!」

「くううっ! クレア様の裸が目に焼き付いて離れねえ」

「勇者ナツキの女を視〇できるなんて、これってNTRだよな」

「ああ、間違いねえ。新手のNTRだぜ」


 ※注意:ナツキにNTR趣味はありません。



「クレア殿、そこであります! もう相手のスタミナが限界でありますぞ!」


 レジーナの声援が飛ぶ。

 対して揚羽も大声で小鳥に指示を出す。


「そこだ! 攻めろ小鳥!」



 白熱する取り組みの最中、その事件は起こった。


「いきますわ! 愛の為なら衆人環視の中で裸になろうとも! ライトニング回転天狗投げ下手投げですわぁああああ~ん♡」


 すっぽぉぉぉぉ~ん!


 豪快な下手投げが決まり、小鳥が土俵下に転がされたかに見えた。だが、その前にクレアの相撲褌まわしが外れて丸出しになってしまう。

 まさかの全裸である。


 クルッ! シュタッ! ビシッ!

「おーっほっほっほっほっほ! 愛の勝利ですわね!」


 いつものように足を大きく上げキメポーズをするクレア。勝利とナツキを想う興奮のあまり自分が全裸なのに気付いていない。



 さすがにこの恥ずかし過ぎる光景には、観衆の意見も様々で――――


「く、クレア様……さすがにそれは」

「ああ、そんなに足を上げたら……」

「さすがにやり過ぎです」

「おおおおっ! す、すげぇ……」

「神か……女神なのか……」

「おい、アソコに謎の光りが射して見えねぇぞ」

「それは自主規制の光りだ。R15版では仕方がねえ」


 全部見えてしまったら放送禁止になってしまうところだ。偶然にも謎の光りが射し助かったのかもしれない。



「クレア! 見えてる! 全部見えてるし!」


 血相を変えたマミカが必死のジャスチャーでクレアに伝えている。これ以上見せまくるのはさすがにヤバいと思ったのか。


「く、クレア殿……皆の前で脱ぐなど……。私の想像を超えるドエロい女だったのでありますな……」


 あのレジーナが引き気味だ。変態趣味のあるレジーナでさえ、大勢の人前で裸になることはしないだろう。


「えっ、見え……脱ぐ……?」

 クレアが視線を落とし、自分の体を見た。


 わなわなわなわなわな――――

「いやぁああぁ~ん♡ ダメですわ♡ なっくん以外の人に全部見られるわけには♡ こんなの許されませんわぁぁぁぁ~♡」


 帝都でも全部見せていたのだが、ここミーアオストクでは大勢の観衆にまで見せてしまっている。もう、この街の男たちの全員がクレア推しと言っても過言では無いだろう。


 いや、帝都全土の男がクレア推しなのかもしれない。ただ、その美しい体に触れたり、彼女の甘やかしを受ける栄誉にあずかることができるのは、世界中でナツキ唯一人だけなのだが。



「お取込み中にすまぬが、おぬしの負けである」

「クレア殿の『モロ出し』で反則負けでござるよ」


 追い打ちをかけるように、揚羽と桐がクレアの敗北を宣告する。

 クレアとしては、裸を見られた上に反則負けとあって踏んだり蹴ったりだ。


「えっと、クレア……。さすがに下まで脱ぐとか無いわぁ……」

「クレア殿……そこまでするとは。私もナツキ御主人様の為に脱ぐべきでありますか……」


 大事なところを手で隠し体をくねらすクレアに、マミカとレジーナが声をかける。全くフォローになっていないが。


「あああぁ……。はぁあああぁん♡ こ、こんな恥をかいてしまって……。もうお婿をもらえませんわ。げ、限界ですわ♡ なっくんに責任をとって結婚してもらうしか♡ もう一生なっくんに愛してもらうしなないのですわぁ♡」



 ちょっと危険なレベルでナツキへの愛が暴走しているクレアだ。ますますドロデレ感が高まってしまった。

 早くナツキが来てくれないと、誰も彼女の暴走は止められないだろう。


 急げナツキ! 早く彼女を嫁にして幸せにするのだ。


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