第108話 反撃開始
作戦開始を前に、ナツキは計画の全容を説明する。
「先ず、フレイアお姉さんとシラユキお姉ちゃんの二人で魔法による牽制をします。これは敵を帝都に接近させない為です」
「任せてっ、ナツキ!」
「んっ、問題無い」
フレイアとシラユキが答える。
フレイアは満面の笑みで、シラユキは少し口を尖らせている。ナツキにご褒美を貰いたいのに後回しになってご立腹なのだ
「次にロゼッタ姉さんを先頭にユリアさんたちが陽動で正門がら出陣します。精鋭部隊を投入したと思われるよう、できるだけ目立つようにお願いします」
「うん、頑張るよ」
今日も惚れ惚れする肉体美のロゼッタが言う。この最強の女戦士が喋るだけで勝利が確信できそうなほどだ。
「承知いたしました」
元親衛隊を代表してユリアが返事をした。
「お願いします。あっ、そうだ、ダリアさん」
ユリアの隣で控えているダリアに気付いたナツキが声をかけた。このダリア・ゼレキンという女、モブっぽい顔で背景に溶け込み認知されにくいのだ。
「は、はい、何でしょうか?」
少しオドオドした感じでダリアがナツキの前に出た。内乱の時は敵としてナツキの前に立ち塞がったのを気にしているのか。
「ダリアさんは
「はい」
「でしたら前線に出る皆さんに掛けてあげてください」
「わ、分かりました」
次にナツキはウルスラの方を向く。
「ウルスラさんたちは防御魔法をお願いします。パンツァーティーゲルの魔導砲を受けたら大怪我……もしかしたら戦死してしまうかもしれない。少しでも防御力を上げたいので」
「分かりました。お役に立てるよう最善を尽くします」
ハキハキと答えるウルスラだ。前はベリーショートだったウルスラの髪が少し伸びていた。ちょっとだけナツキを見る目が妖しい。
更に妖しいのがフレンダだ。さっきからチラチラと上目遣いでナツキを見ていた。彼女は一度姉喰いスキルを受けている。
当然、フレイアとシラユキの目がジト目になった。ナツキに寄って来る女には厳しいのだ。
「最後にネルねぇ。触手ドリルに乗って、ボクと一緒に地中を潜行しパンツァーティーゲルを破壊します」
借りてきた
「全部ぶっ潰すんだナ」
ネルネルの発言に、ナツキは意外な返答をした。
「一両だけ無傷で捕らえましょう」
「ん?
ナツキの敵魔導兵器鹵獲発言で皆が驚いた顔をする。
「あの兵器はゲルハースラント以外には無い技術で作られています。おそらく世界初の発明かと。あんな強力な兵器を大量生産されたら、世界は炎に包まれ恐ろしいことになってしまう。無傷で手に入れて、技術や対処法を考えるべきだと思います」
幼いようでいて深く考えているナツキに、年上の女たちが感心したように目を見開いた。
「す、凄いんだゾ。ナツキきゅん、そこまで考えているんだナ。た、確かにゲルハースラントの革新技術。調べて見る価値はあるんだゾ」
ネルネルが素で感心している。この風変わりな女が他人を認めるのは珍しいのだ。恋愛感情だけでなく、ナツキを勇者として認め始めているのだろう。
「さすがナツキよね。まあ、この私を倒しただけはあるわ。夜もスッゴイし♡」
フレイアは目がハートマークになっている。完堕ちしているだけはあるのだが、夜は添い寝しているだけなので紛らわしい発言だ。
「もう教えることは何もない。もはや弟くんは大空を雄々しく飛ぶ
それほど教えているわけでもないのに師匠ぶるのはシラユキだ。きっと彼女の中では
「ふ、ふんす! ナツキ君、何だかキミ前より頼りになる男子になったよね。もう我慢できないよ♡」
ちょっと乙女心が刺激されちゃったロゼッタがグイグイ行く。
「皆さん、ち、近いです。そういうのは作戦が成功した後に……」
相変わらずムラッとしちゃった
◆ ◇ ◆
ヒュゥゥゥゥーッ! ズドドォォーン! ズドォーン! ヒュゥゥーッ! ヒュゥゥーッ! ヒュゥゥーッ! ズドドドドーン! ドドドドドーン!
突然、帝都を包囲するゲルハースラント軍の前方上空に冥界の門が開き、煉獄の焔で焼かれた無数の
それは兵たちのすぐ前の大地に落ち爆発炎上する。この場所に炎の雨が降るのは帝国内乱の時以来二度目だ。
フレイアの大魔法、
「うわああああっ! 何じゃこりゃ!」
「氷魔法だけじゃなかったのか!」
「熱い! さっきまで寒かったのに今度は熱い!」
「た、助けてくれぇええええ!」
「もう嫌だぁああああああっ!」
「マ゛マ゛ァーーーーッ!!」
ゲルハースラント軍兵士が口々に叫び隊列が乱れる。
定期的にシラユキの氷魔法による降雪で戦意が下がっているところへ、まさかの獄炎魔法の雨が降り出したのだからたまらない。
もう何でもアリなルーテシア帝国の攻撃にパニック状態だ。
「静まれ! 隊列を乱すな! パンツァーティーゲルで応戦しろ!」
指揮官が大声で命令するが、兵士たちのパニックは収まらない。
そこへ、部下が新たな情報をもたらした。
「帝都城門が開きます。敵部隊確認」
「なにぃっ! 我が軍に向け突撃するつもりか!」
「そのようです。戦士や剣士を確認しました」
「きっと選り抜きの精鋭部隊だ。超魔導砲で迎撃せよ」
「はっ!」
ゲルハースラント軍は前線を下げたままパンツァーティーゲルによる砲撃の準備に入った。
帝都城門から外に出たロゼッタが高らかと声を上げる。
「さあ行こう! 我々の役目は本来の目的を悟られないよう敵を引き付けることだ! 決して深追いしてはいけないよ。誰一人欠けず皆で一緒に帝都に戻り勝利の美酒でも飲もうじゃないか!」
「「「おおおおぉぉぉぉーっ!」」」
ユリアたちが一斉に叫んだ。
「スキル
ギュワァァァァァァァ――――!
ダリアが次々と支援魔法をかける。対象者のスキルと防御力が飛躍的に向上する。
「「「複合対魔導障壁結界陣展開!」」」
ウルスラたち四人が防御魔法を展開した。これによりダリアの支援魔法と合わせて強固な防御が完成した。
「スキル、肉体超強化! ぐおおおおっ!」
バチッ! ズババババッ! バチッ! バチッ!
更にロゼッタがスキルで肉体を超強化する。もはや無敵の戦士だ。
「行くぞぉおおおおおおおお!」
「「「おおおおおおおおおお!」」」
怒涛の進撃を見せるロゼッタを先頭としたルーテシア帝国軍突撃部隊を見たゲルハースラント兵は、更に恐怖と畏怖で動揺が走った。
戦場に於いてロゼッタの雄姿は、味方にはこの上ない勇気と希望を与え、敵には恐怖と絶望を与えるのだ。
「撃て! 撃つのだ! 早くせよ!」
超魔導砲の準備が整っておらず、指揮官が狂ったように怒鳴り散らす。
「先に弓兵と
命令を受けた兵士が一斉に矢と魔導銃を放つ。
ズシャズシャ! ズシャシャシャシャシャ! パン! パンパンパンパンパンパンパン!
雨のように降り注ぐ矢と弾をその身に受け、なおもロゼッタの進撃は止まらない。全ての矢と弾はロゼッタの防御力ブーストした肉体やバトルオーラで跳ね返されているのだ。
この世界最強の女戦士である彼女の究極肉体美は、通常兵器では傷一つ付けることもできないだろう。
「ひぃぃいいいいっ! 何だあれは! 俺たちは夢でも見ているのか!」
「ああああっ! 矢も弾も通さない女が存在するのか!」
当然のことながら、攻撃しているゲルハースラント兵は尋常ではいられない。伝説に語られる戦女神のような恵体女が突進してくるのだから。
「
ズバアアアアアアーン! ドドドドドドドーン!
ユリアも奥義を使い一撃で数百の矢を粉砕した。極限まで斬撃を極めたユリアの剣は、摩擦抵抗で炎を纏い爆炎と化すのだ。
今のユリアたちは、憧れの騎士ロゼッタと共に戦場を駆け抜け、その表情は生き生きとしていた。
「パンツァーティーゲル縮退機関圧力臨界! 超魔導砲いつでも撃てます」
少人数に圧され気味のゲルハースラント軍であったが、超魔導砲の発射準備が完了すると勢いを取り戻した。
「よし、撃て! 目標は前方の女戦士だ」
ギュワァアアアアアアアアーン! ババババッ! ズドドドドドドーン!
ロゼッタたちの前方に収束された眩いばかりの光りの束が轟音と共に向かってくる。パンツァーティーゲルの巨大砲身から発射された究極技術の
その弾頭速度は秒速560メートル、これまでの技術を遥か遠く引き離す超科学である。時速換算で2000キロを超える超音速であった。
「皆、避けて!」
ロゼッタが叫ぶが、彼女は自分の後ろにいる仲間の存在に気付いた。ロゼッタ自身ならば避けられるが、それにより他の仲間に当たる可能性があるのだ。
「今の私ならできるはずだ! うぉおおおおおおおおっ!
極限まで防御力を高めたロゼッタの体が肉弾特攻兵器と化す。防御力がカンストすると、それはもう巨大な剣と同等なのだ。
グガァン! ズドドォォォォーン! ドガァアアアアーン!
その瞬間、撃った側のゲルハースラント兵も仲間の皆でさえも、何が起きたのか分からず茫然と時が止まったかのようだ。
超音速で飛来する超魔導砲を、ロゼッタが体当たりで弾き飛ばしたのだから。
遥か上空へ軌道を変えた
これはロゼッタの
「ああ。あああ……あああっ! 世界一を誇るゲルハースラントの科学技術の粋を集めたパンツァーティーゲルの超魔導砲が……。素手で弾き飛ばしただとぉおおおおおおっ!」
そう叫んだゲルハースラント軍指揮官が崩れ落ちそうになる。人の身で超魔導砲に打ち勝つなど全く想定外なのだから。
更にここから、彼らゲルハースラント軍は悪夢を見せられることになるのだ。
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