第106話 勇者は帰還し騎士は何度でも立ち上がる
ギュルギュルギュルギュルギュル――
ボドリエスカを出発したナツキたちは、ネルネルの闇の
ゲルハースラントの包囲を抜けた林の中に、往路に使った穴を隠しておいた。復路は、その穴を使うので掘削する必要がなく、素早く戻ることができるのだ。
もちろん、戻る時は穴が見つからないよう埋めておくのも忘れない。
そんな訳で、今のナツキは触手で作った
むぎゅぅぅぅぅぅぅ~っ!
「くぅ……もうムリです……。こんな体勢でないとダメなんですか?」
いつになくナツキが弱音を吐いている。
戦いでは勇敢に立ち向かい、危険も顧みず大切な女を助けようとする。ベッドでもお外でも攻める時はつよつよなのに、肉食系姉ヒロインに攻められている時はよわよわなのだ。
今のナツキは、フレイアの大きく張り艶のある
「んあぁ♡ ナツキぃ、くすぐったいわ♡」
ナツキの息が胸の谷間にかかり、フレイアが色っぽい声を上げた。
「むふーむふー♡ ぐひぃ、こ、これはたまらないんだナ♡」
ナツキのうなじに顔を埋めたネルネルの息が荒い。汗ばむナツキのうなじをクンカクンカして興奮しているのだろう。
狭いスペースなので三人密着するのは仕方がないと思われるかもしれないが、これはわざと狭くしているのだ。
ネルネルの触手操作でもう少し広い空間も作れるのだが、ここは役得ということで敢えて狭くして楽しんでいた。
「はぁあっ♡ ナツキ少年の吐息を体に受けて蕩けちゃう♡ これ最高っ!」
「ぐひゃひゃぁ♡ ペロペロしちゃうんだゾっ♡」
フレイアの胸の谷間に玉のような汗が流れる。後ろからはネルネルのペロペロだ。二人の甘ったるい女の香りに包まれて、ナツキの色々な部分が限界突破寸前である。
「ぐああああっ! こんなの耐えられない! もうムリですぅううううっ!!」
カッコよく帝都に帰還するはずが、何故かエチエチ展開になってしまうのが姉喰い勇者らしい。
◆ ◇ ◆
勇者ナツキの帰還に、帝都ルーングラードは人々の歓声が沸き上がっていた。
敵に包囲され孤立した状況は、市民の不安と恐怖を呼び起こしていたはずだ。そこに、先の内乱で皇帝を救い出し帝国を解放した英雄の登場となれば、人々が歓喜するのも当然だろう。
「きゃああああっ! ナツキ様ぁ!」
「勇者ナツキ万歳!」
「救世主のご帰還だ!」
「これで勝ったぞ!」
「ナツキ様とイケナイコトしたいわ!」
宮殿へと急ぐナツキの乗った馬車に、人々の声援が飛ぶ。特に多いのはナツキに色目を使う黄色い声援だが。
「皆さん! 敵を押し返しますから、もうちょっと我慢してください!」
ナツキが声援に答えて手を振った。
ガタガタガタガタガタガタ――
帝都に戻って早々、帰還の報告と作戦の具申の為、宮殿に向かっているのだ。必ず戻るとアンナに伝えていたナツキだが、まさかこんな形で会うことになるとは思ってもいなかった。
「もう少しで宮殿ですね。アンナ様は元気にしてるかな……」
そう呟くナツキだが、一緒に馬車に乗っていたシラユキが、つい我慢できずにナツキに抱きついてしまう。
「ナツキぃ♡ ふわぁ、弟くんの匂いだぁ……って、他の女の匂いがする!」
久しぶりの再会で興奮していたシラユキだが、ナツキの首筋をくんかくんかしたところで叫んでしまった。
「あ、あの、シラユキお姉ちゃん?」
「だれ? もしかして、フレイアとネルネル……」
シラユキが、この場にいない二人の名を出した。戻って来た時に、とろんと蕩けた表情の二人の顔を見て不審に思っていたのだ。
「えっと、それは……触手ドリルの中が狭かったり暑かったりで匂いが移ったんです」
本当はムレムレで汗だくのフレイアの胸に埋もれたり、ネルネルと密着して匂いが移ってしまったのだ。
しかし、まだ結婚前なのにイケナイ感じにムラムラしてしまったのが恥ずかしかったり、シラユキが泣いてしまいそうなので言わないでおいた。
ちょっと鈍感なようでいて、意外と姉に気を配っているナツキだ。やればデキる子である。
「むぅ……ナツキと抱き合ってペロペロしたいのに」
「あ、後にしましょう。シラユキお姉ちゃん」
ペロペロするのはやり過ぎなのだが、
◆ ◇ ◆
ナツキが宮殿に入ると、小さな体で一心不乱に駆け出したアンナが飛び込んできた。
「ナツキぃぃ~っ! 余は会いたかったぞぉ」
「アンナ様」
ぎゅぅぅぅぅ~っ!
「うんとね、うんとね、敵がいっぱい攻めて来て、何度も何度も帝都に攻撃をされて……。怖かったんじゃぞぉ……」
ギュッと強くナツキを抱きしめながらアンナが言う。だいしゅきホールドのような恰好になっているが、そこはまだ幼いアンナなので変な意味はないはずだろう。たぶん。
「もう大丈夫ですよ。ボクたちが敵を退けてみせます」
「ナツキ、ううっ、カッコいい。やっぱり余の勇者さまじゃ」
幼女なのにウットリした顔でナツキの目を見つめるアンナ。もう貞操逆転帝国乙女の片鱗を覗かせているのかもしれない。
「そ、そういえば、ナツキ。よ、余の変な噂は聞いておらぬよな?」
唐突にアンナが噂の話を聞いてきた。例のゲルハースラントに流された
「噂? 何のことですか?」
「し、知らぬのなら良い。な、何でもないぞ」
「はい」
「余が想いを寄せておるのはナツキだけじゃからな」
愛の告白っぽい感じになったアンナの顔が、恥ずかしさで真っ赤になってしまう。
「ううぅ、余は恥ずかしいのじゃぁ♡」
「あ、アンナ様? あの」
離れていた時間が、より幼い恋心に火をつけてしまたのか、今のアンナは少しオマセさんだ。
二人で良い感じになっているところに、知的なメガネをクイっと上げながらアリーナが口を挟む。
「アンナ様、そろそろ。今後の作戦の話もありますので」
一寸の隙も無く知的な表情を崩さないアリーナだが、ナツキに会えなかった間は更にドロドロとした欲望が膨らんでしまい、もう淫らな尻を鞭で打たれたくてたまらなくなっていた。
「アリーナさんも久しぶりです」
「くっ、な、ナツキ様……む、鞭を打ちたい時は私に……い、いえ、何でもありません」
この非常時に不謹慎だと思いながらも、湧き出る欲望は止められないアリーナだった。
「はい、後で鞭を打ちますね。ボクは帝国文化を尊重しますから。でも、敵を退けるのが先ですよ」
正論を言いながらも平然と鞭打ちを肯定してしまうナツキに、さすがのアリーナも表情が崩れてしまう。上気して耳を赤くしながら挙動不審だ。
「も、もう、ナツキ様ったら。いけません、このような時に……」
冷静沈着で知的な顔をしたアリーナが、今は完全にメスの顔になってしまっている。恐るべし姉喰いスキル。
「ぐぬぬぬぬ、何か納得いかない……」
アンナやアリーナの反応に不満を漏らすシラユキだが、相手が神聖不可侵の皇帝とあっては強くは出られなかった。
アリーナ議長の方には、ちょっぴり極刑にしようとか思ってしまっているが。
そんな女たちの見えないバトルに気付かないナツキは、反攻作戦の具体案を説明する。
「なるほど、地中を掘って下から攻撃するのじゃな」
「良い案だと思います」
アンナもアリーナも作戦には賛成してくれている。
「ただ、この作戦には欠点があります。地中では方向が分り難いので、地表に潜望鏡を出し距離を計算しなくてはならないんです。バレないように地上で敵の目を引き付けてくれる人が必要です」
ナツキの説明にアリーナは誰を任に当てようと迷う。
しかし、ナツキは続けてこう言った。
「敵は超強力な魔導砲を撃ってきます。対処できるだけの強い人でないと兵士の被害が増えるだけです。ボクは、なるべく戦死者を出したくない」
超魔導砲をかわすだけの技量を持つ戦士といえばロゼッタが思い浮かぶだろう。しかし、敵の目を引き付けるには複数の兵が必要となるはずだ。
ちょうとそこに新たな来訪者の報告を受けた。
「なに、ユリアが……」
報告を聞いたアンナが驚いた顔をした。
許可を得て入室したのは元アレクサンドラ親衛隊隊長のユリア・クラシノフである。
「謹慎中の身でありながら陛下の御前に顔を出す無礼をお許しください。こうして私が謁見を申し出たのは、この帝都が危機的状況にあるなか、謹慎とはいえ何もせずいたずらに時を過ごすのが耐えられなかったからです」
「し、しかしじゃな……」
「このユリア・クラシノフ、陛下の為、国民の為、捨て石となる覚悟にございます。何なりとお命じください」
覚悟を決めたような表情のユリアに、アンナは困惑する。戦うよう命じたら、敵に突撃し死んでしまう気がしてならない。
「ユリアさんって、凄く強いんですよね」
突然、ナツキが声を上げた。
「だったら、作戦に参加してもらえませんか?」
ナツキが作戦内容を説明すると、ユリアは大きく頷いた。
「分かりました。この命尽きるまで戦い続け、見事作戦成功の捨て石となりましょう」
「それはダメです!」
真剣な顔をしたナツキが言う。
「死んじゃダメです、ユリアさん! あなたの忠誠心は素晴らしいかもしれない。でも、死んじゃったらそれで終わりですよ。アンナ様や国民の為に働きたいなのなら、生きて戻って何度でも立ち上がるべきです。それが本当の騎士の姿なんじゃないんですか」
ナツキの言葉を聞いたユリアの目から、大粒の涙が溢れ出た。
「ううっ……ナツキ様、敵であった私のような者にまで、そのような言葉をかけくださるのですか。目が覚めました。このユリア・クラシノフ、弱き者、心優しき者の剣となり、何度でも立ち上がってみせます」
こうして反攻作戦の計画は決定した。
元は敵であり謹慎中のユリアが仲間に加わることとなる。心なしか思い詰めていた彼女の表情が、少しだけ前を向いているように思えるのだった。
――――――――――――
いつもお読み頂きありがとうございます。
ナツキは帰還し、かつて敵だった騎士が仲間に加わった。
クレアちゃんの相撲は少しお待ちください。
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