第99話 予想外の事態

 アレクシアグラードに侵攻していたゲルハースラント軍を退けたナツキとフレイアは、街の守備を部下たちに任せ二人で帝都に向かっていた。


 みっちりとナツキに躾けられたフレイアは、元気百倍とばかりにハイテンションになっている。今なら万倍の敵でも相手できそうなほどに。


「やるわよ、ナツキ! 私が敵をやっちけちゃうから、そしたらご褒美いっぱい頂戴よね!」


 大きな胸をぷるぷると揺らしながらフレイアが言う。一瞬だけ胸をチラ見したナツキは目を逸らした。


「ご、ご褒美は良いですけど、無理はしないでくださいね」


 エッチな姉たちから帝国文化を教え込まれているナツキとしては、伝統文化を尊重したい気持ちはあれど、フレイアのような大きな胸で迫られるとムラムラとした気持ちが湧き上がってしまうのだ。


 エッチは結婚するまでダメだと決めていたはずなのに、もう完全に姉たちの術中に陥っている気がする。


 見ちゃダメだ!

 見ちゃダメだ!

 見ちゃダメだ!


 ああっ、エッチなのはダメなのに、フレイアさんのおっぱいから目が離せない。 ボクはどうしちゃったんだ。


 こんな感じで、もう完全にフレイアの色気に悩殺されていた。姉をお仕置きしている時はつよつよナツキなのに、受けに回るとグイグイ攻め込まれてしまう。



「もぉ、ナツキぃ♡ こっち見なさいってばぁ♡」

「ち、近いです、フレイアお姉さん」

「毎晩一緒に寝てるのに今更なのぉ♡」

「そ、添い寝だけですよね!」

「うへへぇ、我慢できるのぉ?」

「んんん~~~~っ!」



 そんな会話が馬車の中から聞こえてきて、馬の手綱を引いている女兵士たちはたまらない。


「ああっ、フレイア様、羨ましい」

「毎晩一緒に寝てるとか聞こえたな」

「はぁ、私も勇者ナツキ様としたいわ」

「あんな初心うぶな顔して、意外と鬼畜プレイらしいからな」

「先日も戦闘中にエッチしたとか聞いたわね」

「ああ、あのフレイア様が公開調教されたとか」

「はぁああっ、勇者ナツキさまぁ♡」

「くうっ、私も我慢できないぞ♡」


 こんな調子である。




 ナツキたちが帝都の手前にある街ボドリエスカに入ると、街の様子が以前とは一変していた。誰もが荷物を抱え逃げ出そうとしているように見える。

 圧倒的防御力を誇る帝都だが、それだけ敵に押し込まれている表れだろうか。



 軍の施設に入った二人は、街の守備隊から帝都の状況を確認する。


「戦況はどうなっておる」

 ナツキと話す時とは違って、凛々しい声のフレイアだ。


「はっ、戦闘開始時ゲルハースラント軍は25万の兵でしたが、その後も増え続け現在は60万になっております」


 ボドリエスカを守る隊長の話を聞き、ナツキが声を上げる。


「ろ、60万! そんな、どうやってそんな大軍を」


「敵は総力戦の体制をとっているようでして。噂では更に徴兵をし、ゲルハースラント本国にはいまだ300万の兵がいるとのことでして……」


「そんな……」


 ナツキが絶句する。とんでもない人的資源を投入し殺し合いをしようとしているのかと。


「そんなの間違ってる! 大勢の人を道具のように使って。大きな国が正面からぶつかり合えば、数え切れない人が戦死することになるのに。それだけの犠牲を払って敵国の領土を奪ったとして何になるんですか」


「ナツキ……」

 フレイアがナツキの肩を抱く。


「大丈夫、私たちで戦争を終わらせるわよ」

「フレイアさん」


 再び女騎士の方を向いたフレイアが状況を確認する。


「それで戦況はどうだ?」


「はっ、一時は包囲状態になった帝都でしたが、大将軍シラユキ様の魔法で敵の前線を下げることに成功しました。現在は膠着こうちゃく状態が続いているとのことです」


「新型魔導兵器は?」


「情報によるとパンツァーティーゲルと呼ばれているようなのですが、現在八両が投入されております。圧倒的な攻撃力で、一般兵士どころか大将軍であっても前に出るのは危険とのことでして……」


 話を聞き終えたフレイアはナツキに向き直る。


「マズいわね。帝都の戦力は60万だったけど、現在はアレクシアグラードに5万、ミーアオストクに1万5千を送っている。それに要の大将軍も分散され兵力は劣っているはず」


「フレイアさん、ボクたちも帝都に向かいましょう」


「敵に包囲されているのなら、その包囲網を抜けて帝都に入るのは至難の業かもしれないわね。私が外から大魔法で攻撃して……」


 そこまでフレイアが言ったところで、ナツキが彼女の体を抱きしめた。


「ダメです。前回は魔導兵器……パンツァーティーゲルが前に出ていたから作戦が使えましたが、今回は外側からの攻撃です。これはボクの我儘かもしれませんが、フレイアさんに多くの人を殺させたくない」


「でも、これは戦争で……」


「それでも、嫌なんです。人を殺せば……いつか良心の呵責に苦しむかもしれない。いつか後悔する日が来るかもしれない。フレイアさんには、いつも笑っていて欲しいから。大好きな人だから!」


 ズキュゥゥゥゥーン♡

「は、はわわっ♡ だだ、だいしゅき♡」


 無意識に本心が漏れまくるナツキ。真っ直ぐな気持ちをぶつけられたフレイアは、心と体が恋愛大爆発を起こしている。部下が見ているというのに、もう今のフレイアにはナツキしか見えない。


「だだだ、大好きなんだぁ♡ しょ、しょうがないなぁ♡ まっ、ナツキの彼女一号は私だからね♡ もうナツキの言うこと何でも聞いちゃうから♡ ぐへへぇ♡」


「フレイアさん、くっつき過ぎです」


 フレイアのムッチリとした体でギュウギュウと抱きしめられ、ナツキが顔を赤くする。



 見てはいけないものを見てしまったと言いたげな顔をした女騎士が後ろを向く。イチャイチャしている二人を羨ましそうにチラ見しながら。


 大将軍といえば、常に凛々しく威厳がある存在だったが、勇者ナツキの前では恋に堕ちデレッデレなのだと再確認した。


「う、羨ましい。勇者ナツキ様といえば、あのお美しいクレア様をエッチ奴隷にしたのは有名でしたが、まさかフレイア様まで完堕ちさせるだなんて……」


 貞操逆転女性上位社会であるルーテシア帝国であるが、最強の女である大将軍をここまで堕とすナツキに、帝国乙女たちは皆興味津々だ。ここボドリエスカの女兵士たちの誰もが、勇者ナツキの寵愛を受けたいと願うくらいに。


 益々ナツキの勇者伝説が広がってしまった。



 当のナツキは周囲の女たちの舐めるような視線にも気付かず、帝都を解放する作戦を考えていた。早く帝都の戦闘を止め、極東のマミカの許へも行きたいのだから。


「多分、あれを使えば……。ヘンタイで……。大きくて硬いアレで穴をホジって……」

「ちょっとナツキ? あ、あれで穴って……♡」


 ※ナツキは真面目に作戦を考えています。


 突然に意味深ワードを口走ったナツキに驚くフレイアだが、真面目な顔をした愛しい男を見て顔を引き締める。


「先ず帝都にいるお姉さんたちと連絡が取れれば」

「それなら魔法伝書鳩があるわよ、ナツキ」

「それです! やってみましょう。ネルねぇに伝えたいことがあるんです」


 こうして二人は帝都内の姉妹シスターズと連絡を取ろうとする。ナツキの奇想天外な作戦を伝える為に。


 ◆ ◇ ◆




 当初の10万の予定から大幅に削減された帝国極東派遣軍。ゲルハースラントの帝国領内大侵攻により1万5千まで減らされたのだ。

 ミーアオストク守備隊であるマミカの部下が3万、そこから少し内陸部の都市ガザリンツクに5千の兵がいる。


 全て合わせて5万である。この5万で制海権を取られ続々と上陸するヤマトミコ軍と戦わねばならなかった。


 ただし、ルーテシア帝国側には世界最強のレベル10能力者である大将軍三人がおり、いまだ勝負の行方は分からないところであった。



 派遣軍に先行して、クレアとレジーナはガザリンツクに入った。敵陣となったミーアオストクで孤立しているマミカを救出する目的と、戦況を確認する為である。


「えっと、レジーナさん、わたくしの目がおかしくなったのかしら?」


 変わり果てた街の状況を見たクレアが、呆然と立ち尽くしたまま口を開く。


「クレア殿、目の錯覚ではありませぬぞ。ヤマトミコに侵攻され、ほんの数日で街が様変わりしてしまったのでありますよ」


 二人が驚くのも無理はない。以前は少し寂れた商業都市であったはずのガザリンツクが、今はヤマトミコ語の看板が立ち並び活気があるのだ。

 まるでヤマトミコに取り込まれてしまったかのように。



 メインストリートには『たこ焼き』だの『お好み焼き』だの『たい焼き』だのストリートフードの店が並び、以前はルーテシア料理だった店が『うな丼』だの『寿司』だのと変わってしまっている。



「そんな……帝国は負けてしまったのですの? マミカさんはどうなったのかしら……って、レジーナさん!」


 呆然とするクレアを他所に、レジーナは店でたい焼きを買い食いしていた。


「はむっ、もぐもぐ……うむ、美味でありますな!」

「レジーナさん! 馴染んでる場合ではなくってよ!」

「腹が減っては戦はできぬでありますよ」



 ミーアオストクで停戦していたはずが、既に着々と侵略が進んでいる極東ルーテシア。この状況を作り出したのが、サルっぽいモフモフ系天才戦略家と、敢えて敵を呼び込んでしまった元領主たちクーデター派の誤算の結果だとは、クレアたちは知る由もなかった。


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