第96話 大好きな人を幸せにする決意
一旦アレクシアグラードまで引き上げたナツキたちは宿で一夜を共にすることとなる。一夜を共にするなどと言えば、まるで男女の関係のようであるが、この二人はそうではない。
ご褒美の添い寝だけなのだ。
帝都もミーアオストクも危機的状況だが、戦う為には睡眠や休息が必要である。今夜は休んで翌日早朝から帝都に向かう計画になっていた。
そんな二人だが、宿のベッドの上でフレイアはプンスカご機嫌斜めだ。
「もぉ、ナツキのイジワルぅ♡」
部下の前で羞恥プレイをさせられたフレイアが文句を言っている。ただ、怒っているというより照れている方が正しい表現だが。
「はぁん♡ 皆が見てる前でナツキに女にされたのがバレちゃったかも♡」
「フレイアさん! や、やってないですから。誤解が広がること言わないでくださいよ」
ナツキが否定する。お仕置きしただけでエッチなことはしていないのだから。
「既成事実つくちゃおっ♡」
「だ、ダメですって」
「もう皆、戦闘中にエッチしてたって思ってるよ」
「うわああ……ボクのイメージが、どんどんエッチに……」
本人は大真面目なのだが、無意識に姉を堕としてしまい、もう帝国での噂は凄いテクの勇者ということになってしまっている。今更手遅れだろう。
「早くぅ♡ ご褒美くれるって言ったでしょ」
両手を広げたフレイアが、抱っこスペシャルを所望する。
「約束しましたから頑張ります。帝都が心配だけど……」
「シラユキたちが守ってるから大丈夫だと思うけど」
「はい……」
頷いたナツキだが、一つだけ気がかりなことがある。しかし、今はそれをフレイアには言わないでいた。
「そうですよね。今日はもう遅いですし、帝国式ご褒美で休んで英気を養いましょう」
一先ず心配事を頭の隅に追いやったナツキは、クレアの甘々プレイで覚えた『甘やかし』を実践する。
クレアが特別甘やかし上手なだけなのだが、この勇者ナツキといったら姉に教えられたテクはグングン吸収してしまうのだ。七人の姉から帝国伝統文化だと教え込まれ、様々なエチエチテクを全て身につけてしまったのだから。
今やナツキは、恐るべき姉堕特化型モンスターである。
「はい、フレイアお姉さん。抱っこしますね」
グイッ! ぎゅっ!
「あっ♡ ええっ! な、ナツキ?」
フレイアが驚くのも無理はない。抱っこと聞いて、軽くハグするだけだと思っていたフレイアだが、ナツキのそれは数段ラブラブ度が高かったのだから。
ベッドの上で向かい合ったナツキは、フレイアの脚を抱えて自分の膝の上に乗せた。対面座位で抱き合う恰好である。
因みにこれは、愛の天使クレアちゃん直伝、『だいしゅきホールド抱っこ』という名前らしい。
彼女は何度もこの恰好でナツキを抱っこして、髪や背中をナデナデしていたのだ。こんなのされたら誰でもムラムラマックスでたまらない。
「フレイアさん、今日は頑張ったからご褒美です」
ぎゅっ! ぎゅっ! ぎゅっ!
「ふぇええぇ~っ♡ しゅごっ、しゅごぃぃ~っ♡」
優しいナツキの手が、フレイアの髪や頭や背中をポンポンナデナデする。まだお仕置きの余韻が残っているフレイアとしては、まさにトドメの一撃である。
「はぁぁぁぁ~ん♡ 幸せぇええええ♡ 好き好きぃ♡ ナツキだいしゅきぃ♡ こんなのされたら、もう一生ナツキから離れられなくなっちゃうよぉぉぉぉ~っ♡」
「フレイアさん、今夜は抱っこスペシャルですよ。まだまだ頑張ります」
ポンポンポンポンポンポン――
ナデナデナデナデナデナデ――
こんな感じに夜は更けてゆく。フレイアが幸せそうで何よりだ。
――――――――
「すぅすぅ――」
幸せそうな顔で静かな寝息をたてて眠るフレイアを見ながら、彼女の横に寄り添っているナツキは考えていた。
「今回はフレイアさんの炎魔法と相性が良かったから勝てたけど……。それに、やっぱりフレイアさんは良い人だ」
フレイアの赤い髪を撫でながらナツキは呟く。
「んぅんっ、ナツキぃ……むにゃむにゃ」
「もうっ、フレイアさんも甘えん坊になっちゃって」
ぎゅっ!
寝言を言うフレイアを優しく抱きしめた。
ナツキは思う。フレイアの広範囲殲滅魔法ならば、敵軍の真上に落とせば全滅させられたはずである。レベル10というバランスブレイカーのような希少スキルを持つ存在なのだから。
それをしなかったのは、たとえ敵であっても一般兵に無益な殺戮をしたくない現れであろう。悪魔だの凶悪な女などと評される彼女だが、本当は心優しい女性なのだ。
フレイアだけではない、きっとシラユキも、他の彼女たちも。
それと同時に心配事を思い出す。
「きっとシラユキお姉ちゃんも同じなんだ。敵の大軍が攻めてきても、本当は人を殺したくないはずだから。ボクが何とかしないと」
ナツキの心に不安が広がる。
「もし、包囲された帝都で新型魔導兵器を打ち破るには……」
敵の大軍を倒すには、シラユキの広範囲殲滅魔法で氷漬けにすれば効率的だろう。しかし、心優しい彼女が、その選択をするとは思えない。
その上で超魔法防御力の移動要塞を破壊するのは至難の業だ。今回のように地面を
大魔法を跳ね返し、その大魔法に匹敵する攻撃を放つ移動要塞が複数連携されたのなら、かなりの難敵となることが予想できる。
「ボクが守らないと。大好きで大切なお姉さんたちを」
フレイアを抱くナツキの腕に力が入る。
「きっと、本当は戦争なんかしたくないはずなんだ。平和な世界で美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、楽しくピクニックしたり……。そんな暮らしができたのなら」
抱きしめた体から彼女の温かさと鼓動を感じる。
「世の中から犯罪が無くならないように、きっと戦争も無くならないのかもしれない。それでも、ボクは平和な世界を夢見たい。戦争を終わらせて、皆が笑って暮らせる世界を創りたい。ボクはまだまだ勇者と呼ばれるにはおこがましいのだろう。でも、世界を平和にして、本当の勇者にボクはなるんだ」
ムッチリと柔らかで良い匂いのするフレイアの体を抱きしめながらナツキは決意を新たにした。ちょっぴり体の奥の方に、ウズウズとイケナイ感じに甘い疼きを感じながら。
彼女候補のお姉さんたちを争いから開放したい。その想いでナツキは突き進む。
ただ、純粋故のナツキの想いは、更に彼女たちを限界を超えて堕としまくり、もう一生離れられないドロドロデレデレにさせてしまうのだが。
◆ ◇ ◆
一方、大ピンチに陥ったマミカだが、ミーアオストクの城にヤマトミコ軍幹部を寝泊まりさせたまま落ち着かない日々を過ごしていた。
「おいマミカ、剣聖はまだ到着せぬのか?」
城の応接室でくつろぐ揚羽が言う。まだ朝日が昇ったばかりなのだ。早朝から起こされたマミカが不機嫌になる。
「もうすぐ来るし! てか、馴れ馴れしいのよ! 何で呼び捨て」
マミカが言うように、この揚羽ときたら豪胆なのかうつけなのか、敵の城に寝泊まりさせてくれと言い出す始末。挙句の果てに、まるで自分の家のように振舞い、相撲を取ったりスイーツを食べたがったりとやりたい放題だ。
「おぬしがヤスコという名が嫌だと申すからだ。ならばマミカで良かろう」
「馴れ馴れしいつぅーの! てか、敵の城の中でよくそんな気楽にしていられるわね。アタシがスキルを使ったら、あんた死ぬわよ」
マミカの目が鋭くなる。
「ふっ、ふふふっ。やはり気に入った。その瞳、その決意、その胆力。我の部下に欲しい」
「部下にはならないし!」
「まあ良い。剣聖が来てからだ。それに、我を殺したり操っても無駄だな。部下には我が敵の
自信満々に述べる揚羽だ。何やら戦国ロマンいっぱいで。その顔は、ちょっとだけ少年のようだ。
「もう、何なのこの人たち……」
「がははっ! 人間五十年、先のことを心配してもしょうがなかろう。それより街の治安を守っておるのだから感謝せよ」
確かに街の治安は守られている。戦争となれば略奪が横行するのが常であるが、この織田揚羽という女、マナーを守らぬ者には超厳しかった。
もしみだりに罪を犯す者がいたら即斬首と言い付けているくらいである。
恐怖と天性のカリスマにより部下を率いている人物なのだろう。
「よし、朝食前に相撲をするか!」
「しないし!」
「くんずほぐれつ裸の付き合いだ!」
ゾクゾクゾクっ!
「よ、余計にやらないし!」
獲物を狙うような揚羽の黄金の瞳を向けられ、マミカの体に悪寒が走る。
もう、早くレジーナが来るのを願うばかりだ。
「はぁああっ! もうっ、早くレジーナ来なさいよ!」
魔法伝書鳩で帝都ルーングラードに連絡をとったのだが、いまだ返事は来ていない。極東が遠く離れているのもあるが、ゲルハースラントの侵攻を受け混乱しているのかもしれなかった。
はぁ、ナツキに会いたい。
毎日添い寝して、毎日イチャイチャして、毎日ナツキの手料理を食べて、毎日一緒にいたいのぉおおっ!
何だかもうナツキ欠乏症のようになるマミカ。何かと気苦労が多いのだが、おかしなことに戦闘が止まっているのだけが救いである。
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