第94話 新型魔導兵器を破壊せよ!

 ナツキとフレイアは部隊を後退させてから二人で前線に残った。今は荒野に掘られた塹壕ざんごうの中で、土と火薬のような臭いの中で二人っきりだ。


 むぎゅぅっ!


 フレイアを後ろから抱きしめたナツキがギュッと力を入れた。彼女の腰に回っている腕に力が入り、ムッチリと膨らんだ尻にナツキの腰が密着する。


「あんっ♡ な、ナツキ……そ、その、当たってる」


 敏感な腰回りに快感が走り、フレイアの体がビクビクっと震えた。


「フレイアお姉さん! ボクに任せてください。フレイアさんが怖くないように、ボクがしっかり支えていますからね」


「そ、そうじゃなくてぇ♡ はぁん♡ 当たってるの♡ う、嬉しいんだけどぉ♡」


 いつもは巨乳をナツキに当てまくっているフレイアだが、今はナツキの腰が彼女の尻に当たっているのだ。


「ダメぇ♡ こんな体勢だと色々想像しちゃう! もう、後ろからガンガン攻められてるみたいなの♡」


「フレイアさん、遊んでる暇は無いですよ。二人で新型魔導兵器を止めましょう」


 グイグイグイ!


「んあっ♡ だ、だからっ♡ もう我慢できなくなっちゃうからっ♡」


 ナツキはフレイアの恐怖心を取り除き安心させたい一心なのだ。決して如何わしい気持ちは無い。


 バックハグで抱きしめて腰が尻に当たっているのは偶然だ。無意識に意味深な体勢になっているのだが、フレイアばかりが色々想像してしまっていた。



「ほら、頑張りましょう!」

 グイッグイッグイッ!


「はぁぁ~ん♡ 相変わらず初心うぶな顔して積極的ぃ♡ やっぱりナツキ少年しゅきぃぃ~っ!」


 フレイアの目がハートマークになって陥落寸前だ。こんなに何度も堕とされていては、もうナツキ無しではいられない。何としても結婚して愛の暮らしを手に入れたくなってしまうものだ。


 それだけに、ここで死ぬわけにはいかない。生きて帰り幸せな結婚をしようと、かつてないほどフレイアの力と愛欲は漲っていた。



「んあぁん、ナツキぃ♡ 元気をありがとう。もう大丈夫だよ。巻き込まれないように少し離れててね」


 本当は離れたくないのだが、フレイアがそう言って魔法の体勢に入る。


「はい、気をつけてくださいね」


「そ、それでね、上手くいったら……後でいっぱい抱っこして欲しいな♡」


 年下男子に抱っこして欲しいとか恥ずかしいのだが、ナツキにデレデレなフレイアにとっては大好物なのだ。むしろ毎日して欲しいくらいだ。


「抱っこ? あっ、帝国式のご褒美ですね。はい、抱っこナデナデと、抱っこマッサージと、抱っこあーんと、抱っこ耳かきと、抱っこ添い寝のフルコースにします」


「ぐっっはぁああっ! ぶふっ♡ が、頑張っちゃうから♡」


 危うく興奮で鼻血を噴きそうになるフレイアだが、ギリギリのところで踏ん張った。最近かなり壊れ気味な彼女候補だ。


 そうは言っても余りデレっとしてはいられない。フレイアが塹壕ざんごうから上半身を出し構えると、その体から獄炎のようなオーラが立ち上る。


 ブオォン! ゴォオオオオオオオオッ!


「す、凄い、フレイアさん」

 ナツキが見惚れてしまう。


 いつ見ても獄炎のようなオーラだ。燃えるような真紅の髪が舞い上がり、宝石のように美しい黄玉トパーズのような瞳が煌く。大きく形の良い胸や肉感的な尻や脚も相まって、目が離せなくなる幻想的な美しさなのだ。



「全てを焼き尽くす深淵なる炎よ、我が力で顕現けんげんして敵を討て! 獄炎の矢ギーライーテ!」


 ゴバアアアアアアァァァァーッ!

 フレイアの魔法術式が展開し、直上に巨大な炎の矢が出現する。


「行きなさいっ!! 私の愛の炎!」

 ズバァアアアアアアアーン!


 一撃必殺の大魔法が放たれた。その瞬間、フレイアは勝利とナツキの抱っこスペシャルを確信する。


 はぁああ~ん♡

 これでぇ、抱っこしてぇ、ちゅっちゅしてぇ、ラブラブでぇ♡ もう、そのままベッドインしちゃったりしてぇ♡


 気が早くご褒美を想像するフレイアだが、敵陣からも同時に超強力な攻撃が放たれた。


 ギュワァアアアアアアアアーン! ババババッ! ズドドドドドドーン!


「あああっ! 相手からも凄いのが!」

 敵陣からの凄まじい閃光と轟音で、ナツキが叫ぶ。


「問題無い! 私の魔法が強い」


 フレイアが言ったのと同時に、獄炎の矢ギーライーテとパンツァーティーゲルの超魔導砲が衝突した。


 ズガガァアアアアアア! ズドオオオオーン!


 ギュンターがレベル10相当の魔法と同格と述べた超魔導砲だが、フレイアの一点収束させた超高温魔法、獄炎の矢ギーライーテの方が勝っているようだ。

 超魔導砲の高エネルギーを突き破って直進して行く。


「勝ったわ!」


 フレイアが勝利を確信したその時、鉄の移動要塞に当たったはずの魔法が、滑るように向きを変え明後日の方角に着弾した。


 ドゴォオオオオオオオオオオオオーン!



「えっ、あれっ…………?」


 フレイアはナツキと一緒に茫然とその光景を見つめる。攻撃は失敗だったようだ。




 対するゲルハースラント軍の方では、パンツァーティーゲルの対魔法使い防御が証明されて指揮官が大喜びである。


「やった! やったぞ! 魔導縮退機関をフルオーバードライブさせた超魔法防御と傾斜装甲により、敵の大魔法を跳弾ちょうだんさせたぞ! パンツァーティーゲルの避弾経始ひだんけいしは完璧だ! ゲルハースラントの技術力は世界一であるぅうう!」


 喜ぶ上官とは裏腹に、下仕官や兵卒は恐怖に震えていた。


 敵の魔法を防いだのは良いが、跳弾して落ちた場所はありえないほどの大爆発が起き超高温の炎で辺り一帯が消し飛んでいるのだ。

 あんな大魔法が自分たちの上に落ちたのを想像したら、とてもではないが戦う気力が削がれるというものだろう。


「お、おい、今の大魔法……」

「ああ、あれが噂のレベル10の魔法使いか」

「あんなので攻撃されたら一撃で全滅だぞ」

「パンツァーティーゲルに乗ってるお偉いさんたちは安全かもしれねえがよ」


 攻めている時は高揚感とギュンターの洗脳で恐怖など無かったはずが、いざ伝説級の大魔法使いを間近で見たら恐怖するのは仕方がないだろう。

 ギュンターのレベル7精神系魔法より、魔王のようなフレイアのレベル10獄炎魔法の恐怖が勝っているのかもしれない。



 そんな兵たちの気持ちなどお構いなく、指揮官は次なる命令を出す。


「よし、超魔導砲次弾装填! 目標は敵のレベル10魔法使いだ!」


「はっ! 圧縮魔法石充填。縮退機関圧力臨界。超魔導砲発射準備――」


 ギュワァアアアアアアアアーン! ババババッ!




 起死回生の一撃のはずだった大魔法がかわされ、フレイアはパニックになってしまう。


「どどどどど、どうしよぉおおおおっ! ナツキぃいいっ! 私の魔法が効かないよぉおおおおっ!」


 敵の魔導兵器四両から超大型魔導砲の光が収束する。こちらの攻撃発射地点が読まれ、全ての砲塔がナツキたちの方角を向いているのだ。まさに絶体絶命である。


「フレイアさんの大魔法を反射させた……。あれは魔法防御だけじゃない。えっと……跳弾? もしかして装甲の傾斜が。直進する魔法の運動エネルギーを分散させ逸らす仕組みに……」


 絶体絶命の中でもナツキは冷静に分析する。何としても大好きな姉を守りたいのだ。武力では姉妹シスターズに敵わないが、知識と判断でその差を覆そうとしていた。



「どうする!? 考えろボク! 策はあるはずだ」

「なな、ナツキぃ! どうしよぉ!」

「難攻不落の移動要塞。せめて動きを封じるには」

「はぁああん! もうヤダぁ、デタラメに撃って火の海にしちゃう!」

「そ、それです!」


 駄々をこねるフレイアにしがみ付かれながらナツキが閃いた。


「さすがフレイアお姉さん! 最初から分かっていてボクにヒントをくれたんですね!」


「へ?」


 ここでナツキの『さすがフレイアお姉さん』、通称『さすおね』発動である。フレイアは全く理解していないのだが、ナツキは全てフレイアのおかげだと思っている。


「地面ですよ、フレイアさん!」

「えっ?」

「敵魔導兵器付近の地面を超高温魔法で焼くんです」

「あっ!」


 フレイアも気付いたようだ。


「どんなに堅牢で超防御力の移動要塞でも、地面が崩れて傾いたら使えません。フレイアさんの超高温魔法で地面を融解ゆうかいさせ魔導兵器を使えなくするんです」


 ナツキの心強い言葉で、フレイアの闘志が復活した。再び心に熱い想いが甦ってくる。


 それと同時に、最初は頼りなく可愛いだけだった少年が、今では戦いでも頼りになる存在に成長しているのに気付いた。なくてはならない、心の支えとなる大切な人なのだと。



「ナツキ、私はやるわね! 見てて」

「はいっ! フレイアお姉さん」


 もう一度、塹壕ざんごうから上半身を出したフレイアが魔法術式を展開する。ナツキへの愛と勇気と共に。


「冥界の門を開け放ち顕現せよ! 地獄の悪魔マーレブランケの炎は万物を燃やし尽くせ! 土は煮えたぎり、空は墜ち、神羅万象は反転する! 獄炎殲滅の地獄ギーラミスカリオーネ!」



 世界最強の魔法使いフレイアの広範囲殲滅魔法により、天空に冥界の門が開く。


 その日、ゲルハースラント軍の兵士たちは、まるで爆炎地獄が顕現したかのような光景を見ることになる。一生忘れられない恐怖と共に。


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