第93話 恋の炎で元気百倍!

 馬車は前線へとひた走る。敵の新型魔導兵器との決戦で絶望的な状況のはずなのだが、ナツキの乗る馬車の中は異様な熱気に包まれていた。


 ガタガタガタガタガタ――


 馬車の揺れに合せてナツキにもたれ掛る女兵士たち。もう寒い季節なのに、女たちの汗ばんだ肌が密着する。


 車内は女の汗の臭いと甘い香りでムンムンとして、その中心に座るナツキは完全に女体に埋もれていた。



「ううっ、ちょっと……近くないですか?」


 柔らかな女の体に埋もれながらナツキが呟く。いくら狭い車内とはいえ、全員から密着され熱く激しい吐息をかけられているのだから。


「狭いんだからしょうがないよね♡」

「帝国では普通だよ♡」

「そうそう、普通普通♡」

「女子が男子に密着するのは帝国の伝統文化だから」

「それな! 男子は黙って我慢だよ♡」


 興奮した女たちに抱きつかれ体中を撫で回される。ただでさえ昂っているのに、大将軍を堕とした噂の勇者が来たとならば、イケナイコトしたくなるのが女として当然だ。少なくともこの国では。



「だ、ダメです。伝統文化は尊重したいけど、ボクには彼女候補のお姉さんたちが。結婚するまでエッチは禁止です」


 初心うぶな反応を見せるナツキで、余計に女たちを興奮させてしまうのだ。


 この国では初心うぶな男や童貞は大人気である。他の国で男たちにとって処女や清純な女が人気なように、貞操逆転世界であるここでは女が童貞を狙っているのだ。

 童貞が無防備に街を歩いていたとしたら、イケナイお姉さんたちに速攻で捕まってしまうのは常識である。



「ううっ、ダメです! さ、触らないで! ボクには心に決めた姉妹シスターズがいるんです。他の人とエッチはできませんから」


 色々と危険なところに女たちの手が伸びてきて絶体絶命だ。ゲルハースラントと戦う前に、帝国乙女たちに吸い取られそうな気もする。


「ほらぁ♡ ちょっとだけよ」

「さ、先っちょだけ♡」

「大将軍の男をNTRとか燃えるんですけどぉ♡」

「それな! バレたらブッコロされそうだけど」

「バレなきゃ良いのよ。皆でやっちゃいましょ♡」


「ぐわぁああああっ! 逃げちゃダメだ!」


 いつものことだが、ナツキは生意気なメスガキっぽい幼馴染の言葉を思い出していた。似たような話なので内容は省略する。


「そうだ、逃げちゃダメだ! 大好きなお姉さんたちを裏切らない為にも、ここは毅然として悪い女兵士さんたちにお仕置きしないと!」


 どうしてそういう結論になったのか分からないが、毎度おなじみナツキの鬼畜お尻ペンペンが炸裂する。


「もうっ! これから街を守る戦いなのにダメじゃないですか! 悪い女兵士さんたちのお尻に気合注入です!」


 ペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペンペン――


「はぁああああ~ん♡ 許してぇ!」

「おっ、おほっ♡ ダメになるぅ!」

「ご、ごめんなさぁーい!」

「ゆるじでぇぇぇぇーっ! おごぉ♡」


 ズキュゥゥゥゥーン! ズキュゥゥゥゥーン! ズキュゥゥゥゥーン! ズキュゥゥゥゥーン!


 若く張りのある女たちの尻を団子のように並べて、容赦のない姉喰いペンペンが飛びまくる。こうして、前線までの馬車移動の間、次々とナツキのお仕置きで女兵士が堕とされまくる。それはもうナツキの勇者伝説を確かなものにしてしまうくらいに。


 まさに貞操逆転帝国にとって伝説の男である!




 ガラガラガラ――――


 ようやく最前線に到着した頃には、全員がナツキの虜にされていた。腰が抜けてしまった女兵士たちを、ナツキが奮い立たせる。


「お姉さんたち! 街を守るんですよね!? エッチなことをしてる暇は無いんですよ! しっかりしてください」


 これには女兵士たちも不満が爆発する。


「ちょ、誰のせいよ!」

「はぁん、もう他の男じゃ満足できないわぁ」

「勇者ナツキ無しじゃ生きられない体にされちゃった」

「う、噂には聞いてたけど、これすごっ♡」


「早く降りてください! 敵が迫ってるんですよ!」


 ペチペチペチペチペチ――


「ダメぇ! ペチペチしないでぇ♡」

「分かった、分かったからぁ♡」

「ナツキ様に従いますぅ♡」

「何でも言うこと聞くからぁ♡」


 急かすように女兵士のケツを叩きながら馬車から降りるナツキだ。ゲルハースラント軍が迫っている状況で遊んでいる暇は無い。



 国境線からかなり押し込まれているのか、街からは然程さほど離れていないように感じる。


 ナツキは塹壕ざんごうのような場所にいる女騎士に声をかけた。


「そこのお姉さん、戦況はどうなってるんですか」


 突然、少年から声をかけられた女が動揺する。


「えっ、あああっ! な、ナツキ様!」

「えっ、ボクを知ってるんですか?」

「いえ、その……」


 急にモジモジし始めた女騎士を不思議に思っていると、見たことのある女兵士が報告にきた。


「隊長、敵の新型魔導兵器が迫ってます……ええっ! この少年は……」


「あっ、犬のお姉さん……」


 ナツキは、その女兵士に見覚えがあった。前にアレクシアグラードに来た時に会ったのを思い出す。軍の収容所でナツキにイケナイコトしようとした看守役の女兵士だと。


 そして、女騎士の方は大男のガーレンをけしかけてきた隊長だ。



「そ、その、あの時は失礼しました……。ま、まさか大将軍閣下の彼氏とは露知らず……」


 以前の時とは大違いで、女兵士はナツキに頭をペコペコ下げている。


「もう悪いことはしてませんよね?」

「は、はい、それはもう……」


 そう答えながらも女兵士の目が泳いでいる。ちょっとは悪いことをしていそうだ。ナツキにバレそうなのを気にしたのか、話題を犬の話に変えた。


「あっ、あの時の犬は元気です。ハンペンと名付けました」


 犬が元気で何よりだが、今は敵が迫っている状況だ。女兵士も女騎士も、ナツキの姉喰いの一撃が忘れられないのか、さっきから妖しげな目でチラ見している緊張感のなさである。



「ワンコが元気なのは良かったけど。お姉さんたち! 積もる話は後ですよ。戦況はどうなってるんですか?」


 真剣なナツキの言葉で、チラ見していた女騎士も顔を引き締め説明をする。


「そ、それが、戦況は悪化の一途でして……。かなり内側まで押し込まれています。新型の動く鉄の要塞みたいなのが厄介で」


「新型魔導兵器が……。そう言えば、フレイアさんは何処にいるんですか?」


「フレイア様は我々に下がるように命じられ、今は本隊のところに――」


 女騎士がそう言ったところで、懐かしい声が聞こえてきた。まだそれほど経ってはいないのに、ナツキの心に染みわたるような、強く美しく威厳がある声である。


「何をしている。早く撤退の準備をせよ!」


 燃えるような真紅の髪をなびかせ、深い胸の谷間とムッチリした尻を揺らしながらフレイアが現れた。


「フレイアお姉さん!」


 ナツキの声を聞いたフレイアが、一瞬で声質が変わり甘々になる。


「な、なな、ナツキぃ~っ♡ はぁ~ん♡ もぉ、会いたかったんだぞぉ♡」


 デレぇっと顔を緩ませてから、ここが部下の前なのを思い出し顔を引き締めるフレイア。「コホン」とワザとらしく咳払いしている。



「んんっ、ナツキ少年、ここは危ない。部隊を後退させ、私は大魔法で新型魔導兵器を破壊するつもりだ」


「一人で大丈夫なんですか? 他のお姉さんたちは?」


「それが……敵は二手に分かれ、本隊は帝都を包囲する勢いで迫り、別動隊がここアレクシアグラードに来ているようなんだ。私はこちらの魔導兵器を破壊するよう命じられているんだけどね」


「帝都が包囲……」

 ナツキの顔が曇る。


「皆さんは大丈夫なんですか?」


「それが厄介なのよ。まだ全容が判明していないけど、帝都に迫っているのは凄い大軍で、新型魔導兵器も多数あるようなの」


「ええっ!」


「敵の別部隊がアレクシアグラードに向かっている情報が入り、私だけこっちに来たのよ」


「そんな、ゲルハースラントは大攻勢を仕掛けてきたってことですか。しかもヤマトミコが宣戦布告したタイミングで……」


 ナツキが気がかりに思うことはもう一つある。


「フレイアお姉さん、マミカお姉様は無事なんですか? 一人でミーアオストクを守ってるって聞きました」


 ナツキの顔が曇る。ここから遠く離れた極東ルーテシアでは、簡単に移動できる距離ではないからだ。


「ミーアオストクには援軍としてクレアとレジーナが向かったわ。安心なさい、あのマミカなのよ。簡単に負けたりしないはずよ」


「はい……そう、ですよね……」


 そう答えたものの、ナツキの顔は晴れない。大好きな姉なのだ。もしマミカが敵に捕まったらと考えたら、胸が張り裂けそうになる。



 その時、地平線の向こう側で鉄の爪が地面を掻き回すような騒音が上がった。


 ガタガタガタガタガタガタ――

 ドガガガガガガガガガガガ――



「この音は!」

「例の新型魔導兵器よ! 鉄の塊の要塞が車輪に巻いた無限軌道で移動するの」


 フレイアが指差した先には、巨大な動く要塞が見える。


「ナツキ、キミは他の兵士と一緒に後方に下がって。私は大丈夫。大魔法て軽く破壊しちゃうから」


 ナツキの目を見て微笑むフレイアだが、ほんの少し震えたのをナツキは見逃さなかった。


「フレイアさんはボクが守ります!」

「えっ、な、ナツキ?」


 そっとフレイアの手を握り、優しくギュッと包み込む。


「フレイアさんは伝説級の大魔法使いだけど、体は生身で普通の女の子なんですよ。あっ、普通じゃなかった。可愛くて綺麗で優しくて大好きな女の子でした」


 きゅぅぅぅぅーん♡ きゅん♡ きゅん♡


「ふえっ、ええぇ~っ♡」


 無意識にナツキが漏らした本心でフレイアが舞い上がる。もう愛の告白みたいなものだ。


「ボクの姉喰いで守ります! ロゼッタさんの力を使った跳躍脚ロゼッタドライブで。あと、最近はレジーナさんの力も使えるように――」


「えへっ♡ そ、そうなんだぁ♡ か、かわっ、かわいくて大好きとかぁ♡ うふふふっ♡ もぉ、ナツキったら正直なんだからぁ♡」



 危機が迫っているのだが唐突なラブコメ展開になる二人。


 震えていたフレイアのハートが、ナツキの言葉で恋の炎が燃え上がる。もう誰にも負けないくらい最強に勇気百倍で。

 今のフレイアは誰であろうと負ける気がしなかった。


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