第85話 元教師なのにお仕置きされるマリー

 女教師マリー24歳彼氏いない歴イコール年齢。くすんだクリーム色の髪に濃いめのメイク。何とも言えないネットリとした獲物を狙うような目つきを隠すようなメガネの女。


 貞淑な女性が人気のデノア王国では、彼女のようなガツガツ行く超肉食系は好まれないようである。それが証拠に、これまで出席した合コンでは全戦全敗だった。


 ただ、彼女が問題なのは、大人の男には余り興味がなく、ちょっぴりショタ好きなところなのだ。デノア国内では事案発生である。大問題だ。


 しかし、ここルーテシア帝国では、ナツキの年齢は婚姻開始年齢を過ぎているのだ。つまり合法である。


 教師の職に辞表を提出し、『女性は斯くあるべし』などという風潮の堅苦しいデノアを飛び出し、遂にマリーは貞操逆転世界であるルーテシア帝国に入ったのだ。



「はぁああぁ~ん♡ ここが噂の貞操逆転帝国。どんなに女性がドスケベさんでも、どんなに女性が肉食系でも、ついでに男にセクハラしちゃっても許される女の楽園なのねぇ♡ っしゃぁああああっ!」


 と、いう感じに気合入りまくりだ。ナツキにセクハラする気満々である。


 デノアでは、『ちょっとマリー、はしたないわよ』とか『さすがに下品だわ』とか『メイク濃すぎ』とか『男にガッツキ過ぎ』などと言われてきた。

 しかし、ここでは我慢する必要もないのだ。


 今、マリーは水を得た魚のように伸び伸びしていた。



「はぁ、恐ろしい大将軍の皆様もいなくなったことですし、これはナツキ君とイケナイコトするチャンスですね。るんるんたらったらぁ~♪」


 変な鼻歌でスキップしながら、マリーはナツキの元へ向かった。




 グロリア・アリオスティ、23歳。小柄な身長に控え目な胸。水色の髪はツーサイドアップにして可愛らしい。


 少しだけ気難しそうな顔をしているが、自分に厳しく真面目過ぎるのと、周囲から舐められないよう気を張っているからだろう。飛び級で帝国大学を主席卒業したことからも、常に周囲から羨望と妬みを受けてきたことが想像できる。


 この帝国では珍しい清純で貞淑な女のグロリアは、マリーとは真逆の存在である。



「はぁ……不幸だわ」


 いつもの口癖を呟く。男が苦手で何かと気苦労が多い彼女は、いつの頃からかこの口癖が染み付いてしまったのだ。



 大将軍が不在となったカリンダノールの城で、この両極端の女によるバトルが勃発しようとしていた。




 城の執務室にナツキはグロリアと二人でいた。と言ってもナツキには特に仕事はないのだが。グロリアの作成した書類を見て確認したり予算に許可を出しているだけである。


 法律や経営の専門的な知識のないナツキには何の事やらチンプンカンプンだ。


 だが、もう一方のグロリアは、かつてないほど充実した日々を送っていた。経済特区立ち上げ。起業や開業の促進。会社設立しカレールーの製造販売。リゾート開発。


 どれもグロリアにとって最高に興味深くやりがいのある仕事だった。


 そんな充実した毎日を過ごしながら、グロリアは益々ナツキへの関心が高まっているようなのだ。



「ナツキ様、カレールーの材料となる香辛料ですが――」


 書類をナツキに見せながらグロリアが質問する。輸入する香辛料や調合方法を確認しているのだ。


「あっ、これはですね。これとこれを――」


 ナツキが手を伸ばして書類を指差そうとした時、グロリアの手と当たってしまう。


 ちょこっ!

「あっ」

「きゃっ、あっ、いえ……」


 慌てて手を引っ込めるグロリアの顔が赤い。


「あっ、すみません」

「も、問題ありません」


 ナツキが謝るが、グロリアはそっぽを向いたままだ。


「あの、まだ男性に慣れないですよね。ボク、無神経にボディタッチしちゃうみたいで。グロリアさんは帝国文化が苦手なんですよね。先日も怒らせちゃって……ごめんなさい……」


「い、いえ、ナツキ様に触られるのは嫌じゃないです。だから問題ありません。それに、私が変なんです。何だか最近、こう胸の動悸が……」


 いい年なのに初恋の少女みたいな顔をしながら話すグロリア。胸の動悸が何なのかよく分かっていない。


「えっ、胸の動悸って、何かの病気ですか? 何処か痛いですか? こことか?」

「えっ、ええっ、ええぇ~っ!」


 ぽんぽんぽん――

 もみもみもみっ――


 心配したナツキがグロリアを抱き寄せ触診する。胸をポンポンしたり心拍数を測定したり、たまにモミモミしたり。

 まるで、お医者さんごっこだ。


「あんっ♡ な、ナツキ様ぁ♡ ダメですぅ」

「ここかな? 心配です」

「だ、ダメぇ♡ 余計に動悸が早くなりました」

「ええっ! どうしよう、お医者さんを呼んだ方が?」

「はぁっ、はぁっ、はぁぅ♡」

「グロリアさん、しっかりして!」



 ドォォォォーン!

「ナツキくぅ~ん♡ 先生ねぇ、来ちゃったぁ♡」


 突然ドアが開きマリーが部屋に入ってきた。


 とても人には見せられない、お医者さんごっこの最中である。真面目で厳しいグロリアが、変な性癖でもあるのかと疑われても仕方がない状況だ。



「えっ、えええ……何をやっているのですか?」


 いつも変なマリーが真顔になってしまった。自分と歳が近いグロリアが、年下のナツキとお医者さんごっこをしている。それだけの衝撃を受けてしまったのだろう。



「マリー先生、大変です! グロリアさんが」

 ぽんぽん、ナデナデ、ぽんぽん、ナデナデ――


 マリーに助けを求めるも、グロリアの胸を触るのは止めないナツキだ。


 ロゼッタの爆乳やフレイアやクレアの巨乳には超動揺するナツキだが、ツルッとペタペタな彼女の胸には抵抗が無いのかもしれない。

 まるで、女性の年齢ではなく胸の大きさで判断しているかのように。



「はぁああぁん♡ 胸が苦しいです。やっぱり何かの病気かも」

「グロリアさん! しっかり! 今、医者を呼びます!」

「あひっ♡ も、もうダメかも♡ 胸が苦しくて体がゾクゾクしますぅ♡」


 それまで茫然と二人を見ていたマリーだが、お医者さんごっこではなく本気なのに気付いた。


「ちょっとぉ~っ! 何で先生のおっぱいは触ってくれないのに、その人の胸はベタベタ触りまくってるのよぉ!」


「はっ!」

「えっ!」


 医者さんごっこ……ではなく、本気で病気だと思っていた二人が同時に我に返った。抱っこして胸をポンポンしている姿は、どう見てもイケナイ感じだ。


「へっ……いっ、いやぁああああっ! も、もうっ♡ ここ、このドスケベエッチ勇者ぁ! ナツキ様のばかぁああああーっ! はぁ~ん♡」


 バチンッ!

「痛っ!」


 毎度おなじみグロリアの平手をくらって呆然とするナツキ。真っ赤な顔を両手で隠したグロリアは、勢いよく部屋を飛び出してしまった。



「あれ? ボク……またやっちゃいました?」


 そんな感じにナツキがつぶやくが、実際はやりまくっているようだ。あの清純派で生真面目なグロリアが影響されまくり、イケナイ感じになってしまっているのだから。


 こんなに心と体を乱された彼女は、きっと今夜も眠れないだろう。




 目の前でナツキの堕としテクを見せられたマリーとしては、もう待っていられない状況だ。邪魔する者も誰もいなくなり、ここが絶好のチャンスとばかりに足を踏み出す。


「ねえっ、ナツキ君♡ 先生ねぇ、もう体が熱くなっちゃってぇ♡ ナツキ君にフォーリンラァァーブ!」


 そう叫びながらマリーがナツキにダイブする。可視化できそうなほどエロいオーラを出しながら。もしかしたら彼女は、隠れたエッチの才能があるのかもしれない。


「うわぁ! 先生、ふざけてないで仕事してください」


 飛び掛かるマリーを、ナツキが必死に止める。


「仕事なんて後で良いでしょ♡」

「せ、先生は毎日遊んでばかりですよね」

「こ、ここは女のパラダイスなのよっ! 貞操逆転よ!」

「ああっ、元先生なのでやりづらいです!」



 幼年学校では教師と生徒の間柄だったこともあり、ナツキは彼女が苦手だった。先生と呼んでいた女性にエッチなことやお仕置きなどするははばかられるのだ。


「ああっ! もう先生をどうすれば良いんだぁああっ!」


 チェンジしたくてもできず、無下に扱うこともできない年上の女。この超肉食系マーキングヒロインの扱いに、ナツキはほとほと困り果てていた。


 くううっ……この変な先生……あっ、今は秘書だった。でも、やっぱりマリー先生だよ。先生に歯向かったりできないし。

 ああぅ、ボクはどうしたら良いんんだぁ!


 そうだっ! そういえば、前に幼年学校でミアが言っていたぞ。


 その時、ナツキの脳裏に生意気な幼馴染の顔が浮かんだ――――


『いいっ、ナツキ! たとえ言い難い相手であっても、時にはビシッと言うべきことは言いなさいよね!』


 胸にパシッと手を当てミアが言い放つ。


『何でさ。言い難い人には余計なことはしない方が』


『何言ってるのナツキ! 逃げちゃダメよ。男なら、ビシッと告白しないさよ! 凡庸ぼんようなクラスの女子じゃなく、高嶺の花の、ほ、ほら、あたしがいるでしょ』


『ちょっと意味が分からない……』


『い、意味なんてどうでも良いのよっ! と、とにかく、無理だなんて思わないで、当たって砕けろの精神で挑んでみなさいって言ってんのよ!』


 ――――――――そうかっ! 逃げちゃダメだっ!

 ミアが言ってたのは、そういうことだったのか。

 たとえ目上の人であっても立場ある先生であっても、悪いお姉さんには容赦なくお仕置きしろってことなんだね!


 ナツキが盛大に誤解した。



「ほらぁ、先生も準備万端よぉ♡」


 しっとり汗で湿ったマリーに抱きつかれたナツキが覚悟を決める。真面目な顔で元担任女教師の顔を見た。


「先生、ボクは決めました!」

「えっ、先生とイケナイコトするのを決めたの?」

「いえ、先生にお仕置きします!」

「ふえっ?」


 戸惑っているマリーをソファーに押し倒すと、ケツを高く上げさせた。


「悪い先生にはお仕置きです!」


 ペチーン!

「ぎょっほぉおおおおっ!」


 いきなりフルスロットルである。思い切り姉喰いを乗せたお尻ペンペンを強めに打ち込んでしまう。年下男子大好きなマリーには過酷過ぎる攻めであった。


 ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン、ペチン――


「えいっ! えいっ! 反省しましたか?」

「おっ、おほっ♡ こ、これなにっ♡ おかじぐなるぅ♡」

「まだ反省しないんですか? なら、マリー先生の技を使います」


 ダメ押しとばかりに腋ペロマリーアタックの連続攻撃だ。汗が多めだが気にせず立ち向かう。

 まさかの元ネタの先生に使ってしまった。


「どうです? もうしませんか?」

「ふひぃ♡ もっとぉ♡」

「ま、まだ反省しないだなんて……もう、あれをやるしか……」


 まさかの事態にナツキは最終手段に出てしまう。城の使用人たちが見ている前にマリーを連れて行き、皆の見つめる前で羞恥のお尻ペンペンだ。


 女秘書マリー24歳彼氏いない歴イコール年齢、使用人たちの前で堕とされてしまった。ナチュラルに鬼畜な攻めをしてしまうのは、さすがナツキである。


「先生、真面目に仕事してくださいね」

「はひぃぃぃぃ♡」


 マリーは思った。もっともっと悪さをしちゃおうと。完全に逆効果になっているのをナツキは気付いていなかった。


 ついでに使用人のメイドたちまで、主人のお仕置き欲しさに悪さをしようと考えるようになってしまう。貞操逆転世界である帝国では、まさにナツキの存在は別の意味でも英雄だった。






 ――――――――――――

 再び世界は混沌の渦にのまれて行くが、今日も今日とてナツキの仲間は平和にイチャコラ。果たしてこの二人どうなるのか?


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