第76話 新たな姉堕技とヤマトミコ征夷大将軍
ミアを怒らせマリーを女秘書にしてしまったナツキだが、相変わらず今日もマイペースだった。自宅に遊びに来たマミカとネルネルに男子飯を振舞っているところだ。
「もう少しで完成しますから、ちょっと待っててくださいね」
呑気に料理を作っているナツキの後ろ姿を眺めながら、二人の大将軍が顔がにやけたり恋の火花を散らしていた。
「はあぁ、健気に手料理を作るナツキの姿が最高だしぃ♡ やっぱ料理男子は良いわね」
料理を食べる前からマミカの顔が美味しそうだ。料理の前にナツキを食べそうな勢いに見える。
「ぐひゃ、な、ナツキきゅんがエプロン姿に。料理もナツキきゅんも、どっちも美味しそうなんだナ♡」
今にも涎を垂らしそうな顔でグヘグヘしているのはネルネル。美少女に
帝国では女子に手料理を振舞う男子が大人気なのだ。ただ、貞操逆転女性上位世界であるルーテシアでも、それほど手料理を振舞ってくれる男子は多くはない。
デノアでは男らしくないだの何だのと言われてきたナツキだが、帝国乙女にとっては理想の男性像に見えているのだろう。
甲斐甲斐しく料理を作ってくれたり、一見清純派男子なのに意外と攻め攻めなところはドストライクだったりする。
「はぁ、結婚したい♡」
もうマミカの本音がダダ漏れである。
前は好きなのも否定していたのに、今では隠そうともしていない。
あの時宮殿で助けられてからというもの、もう寝ても覚めてもナツキナツキナツキである。
「ナツキきゅんと結婚するのはわたしなんだナ。マミカには渡さないんだゾ♡」
ネルネルも負けていない。わざとマミカに聞こえるよう宣戦布告だ。
「はあ? アタシのナツキなんだしぃ!」
「わたしなんだナ」
「アタシだって言ってんでしょ!」
「わたしが同棲して手料理を作ってあげるだゾ」
「あんた料理作れないでしょ」
「マミカも作れないゾ」
「「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」」
不毛な喧嘩に突入する二人。
派手な容姿で
「ふ、ふーんだ! アタシは一緒に旅をして、もう色々しちゃってるんだしぃ♡」
「な、ナツキきゅんは、わたしの触手でアソコも開発済みなんだナ」
「は? はああああっ!? ななななな、何ですってぇええっ!」
ネルネルの爆弾発言でマミカがブチ切れた。大げさに言ってはいるが、例の特訓と称した触手プレイのことだろう。
アソコがどの部分か分からないが、何となく大事な場所な気はする。
「ど、何処を開発したのよ! 教えなさいって!」
「秘密なんだナ」
「おしえなさい!」
「ぐへぇ! 羞恥と快感に耐えるナツキきゅん最高なんだゾ」
「ぎゃああああああっ! アタシのナツキがぁ!」
途中から取っ組み合いの喧嘩になってしまう。
この二人、実は抜け駆けしてナツキに会いにきたのだが、偶然にも重なってしまいこの状態なのだ。
「もうっ、何やってるんですか! 喧嘩するなら料理は食べさせてあげませんよ!」
テーブルに料理を運んできたナツキが二人を叱る。悪いお姉さんには料理抜きだ。
「ち、違っ、ほら、仲良しだし」
「そ、そうだゾ。相撲ごっこなんだナ」
「はっきょよい」
「「のこったのこった」」
かなり無理がある言い訳で相撲をとりはじめる二人。だが、実際に組み合っている二人は仲が良さそうに見えるから不思議だ。
「うーん、仲が良いのか悪いのか……」
「仲良しだしぃ」
「だゾ! だゾ!」
「そういえば、喧嘩するほど仲が良いって言いますよね。というか帝国で相撲流行ってるんですか?」
相撲が流行っているのかどうかは分からないが、とりあえずナツキが納得した。
結局、三人仲良く料理を食べるナツキたち。ナツキと知り合う前はギスギスしていた大将軍の二人なのに、今では随分と打ち解けたものだ。
これもナツキ効果だろう。
「はぁあ、ナツキの手料理美味しぃ。毎日食べたいかも」
「ピリッと香辛料が効いていていて美味しいんだナ」
「南国の香辛料を使ったカレーという料理です。香辛料は、海の向こうの大陸から輸入してるんですよ。お二人は食べたこと無かったですか?」
「帝国には無いわね」
「初めて聞いたんだナ」
マミカもネルネルも食べたのは初めてのようだ。北方にはない料理なのかもしれない。
「そうだ、帝都では皆さんにお世話になったから、今日はボクがいっぱいサービスしますね」
急に気を利かせたのか、ここでナツキの姉堕技が炸裂してしまう。
「はい、マミカお姉様っ」
グイッ!
「えっええっ!」
ナツキがマミカを引き寄せ自分の膝に乗せると、バックハグのように抱っこしたままカレーを乗せたスプーンを彼女の口元に持ってゆく。
「はい、あーん」
これぞ『あーん』の進化系『抱っこあーん』である。クレアがナツキにした『膝枕あーん』から着想を得た、新たな姉を
「んっくぅぅ~っ♡ 超ハズいけど嬉しい。もう限界だしぃ♡ でも、あーん……あふぅ」
抱っこあーんでマミカが限界突破だ。これ以上ないくらい顔が赤くなっている。
これに火がついてしまったのはネルネルだ。さっきからソワソワとナツキの横で落ち着かない。
「な、ナツキきゅん?」
「はい、ネルねぇもどうぞ」
ギュッ!
今度はネルネルを抱っこしてスプーンを持ってゆく。
「はい、あーん」
「あーん、もぐもぐ……」
あのネルネルが何の抵抗もできず抱っこされている。部下が見たら信じられない光景だろう。
「ぐひゃぁ、こ、これはたまらないんだナ♡ わ、わたしたちは、とんでもない怪物を生み出してしまったかもしれないんだゾ」
大将軍の七人がそれぞれナツキに姉を蕩けさせる技を仕込んだ結果、真綿が水を吸い込むように、ぐんぐんエチエチ技を吸収しこうなったのだ。
もう誰も止められない。
「ボクも帝国伝統文化に馴染んできましたね」
本人は伝統文化を尊重しているつもりだった。
とても正視に耐えない恥ずかしいプレイで二人の姉を堕としたナツキは、上機嫌で食器を片付けている。
マミカとネルネルといえば、ソファーでぐったりしているだけだ。本人は女子力を上げて尽くしたいとは思っているようだが、こう何度もトロトロに堕とされては、足腰も立たずどうにもならないのだろう。
「そういえば、お姉さんたちはいつまでデノアにいるんですか? アリーナさんが戻って来いって言ってそうですけど」
洗い物を終えたナツキが話しながら戻ってきた。
そう、ナツキが言うようにアリーナは困っているのだ。
歓迎式典から一週間以上経つのに、いまだバーリントンに滞在している大将軍たち。
少しの間だけナツキと共にデノアに凱旋するはずだったのだが、いつまで経っても帰る気が無いように見える。これではアリーナのイライラも積もるばかりだろう。
「ううっ、それを言われると困るのよね。アタシの任地ってミーアオストクだし」
口を開いたマミカから出た言葉は大陸の東端、極東ルーテシアにある港町の名だ。海を隔てたすぐ向こうには、女人国と
「ミーアオストクって、ずっとずっと東にある街ですよね。マミカお姉様、任地を留守にしたままで大丈夫なんですか?」
心配するナツキに惚けたふりで誤魔化すマミカだ。
「んん~~っ、あれは
マミカが口を尖らせて拗ねてしまう。さすがに恋する乙女の彼女が、ナツキと別れ一人遠く離れた任地に行くのは酷というものだろう。
「そういえば、ヤマトミコの内乱が収まったという噂を聞いたんだナ」
それまで心地良い余韻に浸っていたネルネルが、突然口を開いた。
「内乱? ヤマトミコで内乱が起きていたんですか?」
興味深い顔をしたナツキが身を乗り出す。
「うん、そうなんだゾ、ナツキきゅん」
「
ネルネルに続いてマミカも口を挟む。
「ヤマトミコは姫巫女と呼ばれる女性が代々国を治めているんだけど、軍事全般を取り仕切るのはその征夷大将軍ってわけ。実質の権力者だから、有力な武家の者たちが競い合ったりするわけよ」
極東の守りを任されていただけあり、マミカは情勢にも詳しいようだ。
「物語に描かれる戦国時代みたいですね」
「そう、ヤマトミコの戦力は強いわよ。約四百年前のダイバンドラ帝国の大侵攻を尽く食い止めた張本人だし。総数約四十万人軍船五千隻の大艦隊という、史上類を見ない世界最大規模の大艦隊が敗北したのだからね」
「そ、想像できない規模ですね……。そんな大艦隊を用意できるダイバンドラも凄いけど、一体どうやって……」
気が遠くなりそうな顔をするナツキ。想像を絶する大規模な軍同士が戦えば、被害も甚大な規模になるだろう。
そこでネルネルが気になることを呟く。
「きな臭いんだナ……」
「えっ、ネルねぇ、何かあるんですか?」
「帝国がヤマトミコと不可侵条約を結んでいたのは、双方の思惑あってのことなんだゾ。内乱状態のヤマトミコが外国からの侵攻を防ぎたいのと同時に、帝国もフランシーヌなど西や南に軍を向けていて、極東に割ける兵力が足りなかったんだナ」
「つまり、両国の戦争が終わったから平和に――」
ナツキがポンっと手を鳴らす。
「戦争の終わりは新たな戦争の始まりなんだナ」
「ええええ……」
現実は厳しかった。ナツキの顔が曇る。
「大丈夫っ。陛下が他国に武力侵攻なんかしないでしょ。それに、もしものことがあってもアタシたちがいるし。安心してナツキ」
ナツキを安心させようと、マミカが優しく抱きしめる。ただ、先程の抱っこあーんの余韻が残っている体が、益々ウズウズとしてしまい彼女の欲望を掻き立ててしまうのだが。
「お姉様……」
「あふぅ♡ えっちな気分になっちゃったしぃ♡」
「えええ……」
季節は冬に入ろうかという憂いに満ちた曇天の下。見えないところで事態は刻一刻と悪化していた。
温暖で肥沃なヤマトミコに進出せよという意見も多い極東ルーテシアに、大陸の脅威を掃う為に打って出よというヤマトミコ。
この強力な軍事力を持つ二つの国が戦う時は近付いている。
だがしかし、ナツキたちがピンチになるのは極東ではなく、全く別の方角からなのだが。この時の彼らには知る由もなかった。
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