第69話 問題姉レジーナは縛られたい

 これまで個性豊かな姉系ヒロインを堕としてきたナツキ。だが、最も厄介な姉が迫っていた。その年上女性を無意識に必堕させるナツキでも手こずる問題姉。

 そう、帝国が誇る剣聖にして地上最強の剣士、レジーナ・ブライアースである。



 コンコンコン!

 ノックの音でナツキがドアノブに手を伸ばす。そして、ドアを開けた瞬間にそれは起こった。


 シュパッ!

 突然、一陣の風が巻き起こったかと思った瞬間、既にナツキの背後にはレジーナが立っていた。


「は? えっ? あれっ?」


 ナツキは何が起きたのか理解できなかった。ほんの少し扉を開いただけなのに、一瞬のうちに背後を取られているのだから。


「はははっ、勇者ナツキ様。油断大敵であるぞ」

「えっ、ええぇ……」

「戦士たるもの、いつ如何なる時であっても敵の襲来に備えておくべきであります」


 レジーナの行動は意味不明だが、その考えはナツキの心に刺さったようだ。


「た、たしかに……レジーナさんの言う通りかも。一瞬の油断が命取りになるのですね。平時でも油断しないで備えておくのは大切です」


 ナツキが納得してしまう。部屋に侵入されたのにも関わらず正当化されてしまった。


「ふはははっ! その通りだぞ、勇者ナツキ様」

「あの、様って呼び方やめてください」

「嫌なのでありますか。では、ナツキ御主人様と呼ばせてもらおうぞ!」

「もっと嫌です」


 つかみどころのないレジーナに戸惑うナツキだ。今までの姉と違うタイプに思える。


「ふっ、ナツキ御主人様はわがままでありますな。私は勇者に敬意をこめているのでありますよ。あと、私のことは『おい、レジーナ!』とののしってくれて結構であります」


「えええ……さすがにそれは」


 御主人様呼びも変なのだが、年上女性であるレジーナを呼び捨てしたり罵れなどハードルが高過ぎる。ますますナツキが困惑する。


「そ、そうですね、えっと……そ、そうだ! レジーナさんって大会で優勝するほど強いんですよね。ボクに剣を教えてくれませんか?」


 とりあえず困ったので、ナツキは話しを逸らした。興味がある剣術の話に。


「はっはっは! そんなのお安い御用さ。ナツキ御主人様、ボクが手取り足取り縄取り教えてあげるからな!」


 唐突にレジーナが王子様女子にキャラチェンジする。


「あ、ありがとうございます。縄取りって何ですか?」

「細かい事は気にしない気にしない。それで何を教えて欲しいんだい?」

「はい、基本的な剣技を。体の構えや足さばき。攻撃やガードを」


 レジーナが剣を構えた。世界最強の剣技を見られるとあって、ナツキの目がキラキラと輝く。


「こう、ずばぁああぁんっと構えて。どりゃぁああああっと攻撃する。敵がずびびびびーっと来たら、どっせいっとカウンターをだな――」


 滅茶苦茶教え方が下手だった――


「えっ、えええっと……」


 ずばぁああぁんって何だ?

 何かの暗号かな。もしかして高位術式とか。高度過ぎてボクには分からないぞ。だ、ダメだ……。天才の技は天才にしか理解できないのか。


 ナツキは挫折した。レジーナの教え方が超下手なのに気付いていない。



「よし、実戦訓練であります。杏子あんずるよりうめが安しと言うからな」


 この場にクレアがいてくれたら、きっと『そこは案ずるより産むが易しですわ!』とツッコみを入れてくれるはずである。

 しかし、ナツキはレジーナが高度なギャグを言っているのか素で間違えているのか判別できず、聞かなかったことにしてスルーした。


「さ、サー、イエッサー!」

「さあ、何処からでも打ち込んできたまえ」


 そう言って、レジーナが自分の剣をナツキに渡す。

 素手で構えるレジーナを不思議に思いながらも、ナツキが見様見真似で打ち込んでみた。


「たああっ!」

 ブンッ!

 キィィィィーン!


「えっ、ええっ! す、凄い……」

 信じられない現象が起き、ナツキが絶句する。


 ナツキが上段から振り下ろした一撃を、レジーナは素手で払いのけ、そこから一歩踏み込んで手刀を寸止めで入れた。必殺の間合いである。

 それを流れるような動作で行い寸分の狂いも無駄もなく的確に打ち込んでいる。


「どうだい、御主人様?」

「凄いです! カッコいい」

「そうだろうそうだろう」

「速くて見えなかったです」

「これぞ縮地しゅくちを使った技、虚空突破ペネトレイトゼプト!」

「うおおおおっ! 超カッコいいです」


 一瞬でナツキの心を掴んでしまったレジーナ。男子は超速奥義やそれっぽいネーミングセンスに弱いのである。


「もっと教えてください」

「よかろうよかろう。今度、広いところで実践でありますよ」

「ありがとうございます」


 世界最強の剣聖に弟子入りできるとあって、ナツキの心も弾む。さすがレジーナさん。通称『さすレジ』、いや、やっぱり『さすおね』である。



 初心うぶな少年に懐かれて良い気になったレジーナは、本来の目的の為に縄と鞭を取り出した。

 それをナツキに手渡す。


「よし、次はこの縄で私を縛るのだ。そ、それもキツくしてくれて構わない」

「サー、イエッサーって……縛るんですか?」

「そうとも、手足をキツめにな。こう体にもグイっと」

「これは……修行と無関係では?」

「御主人様! 縄取りも重要な修行でありますぞ!」

「はっ、で、ですよね」


 ナツキは思い出した。デノアで軍事訓練を受けた時のことを。あの名も知らぬ鬼教官の言っていた、腰取りや夜の特訓も重要だったのだ。きっと縄取りも修行の一環なのだと。


「分かりました。キッツく縛ります」

「分かればよろしい」


 シュルシュル――ギュッ!


 ナツキがレジーナの体に縄を這わしてゆく。背が高くスリムに見えるが、出るとこは出ていてエッチな体だ。パンツスタイルの騎士服の為か、体のラインがバッチリ出ていてたまらない。


 神速の踏み込みを可能にするムッチリとした尻や脚に、ナツキはドキドキしながら縄を回していた。


 ううっ……凄いエッチだ。

 修行なのにエッチな気分になっちゃうなんて、ボクはまだ修行が足りないな。で、でも、このお姉さん、タイツみたいなズボンでお尻の形が丸見えなんだけど……。


 ギュッ! シュルッ! ギュギュッ!


「んあっ♡ そ、そうだ、くっ、肌に食い込む感じがたまらんぞ♡」

 レジーナの息が乱れている。


「おっ♡ こんな年下の男子に縛られ、玩具のように扱われる私……んああぁ♡ なんて背徳的なんだぁ♡」


 変な声を上げるレジーナに、徐々にナツキの顔がジト目になってゆく。


「あの、もしかしてふざけてます?」

「くっ、もしかしなくてもふざけているさ。もっとゴミをみるような目で見降ろしてくれたまえ」


 簡単に暴露してしまうレジーナ。むしろナツキを怒らせて、先日のようにお仕置きをくらいたいのだろう。


 端正な顔が上気して赤く火照り、艶やかな黒髪が乱れているレジーナ。その美しく凛々しい眉が快感で歪んでいる。ムッチリとした体にはキツく縄が食い込んでいて、この上なくイヤラシイ感じになってしまっていた。


「レジーナさん……お仕置きです」

 ズキュゥゥゥゥーン!

「うっひぃぃっ♡ きたきたぁーっ!」


 これを待っていたのかレジーナが大喜びだ。最近、姉への躾には厳しいナツキが、容赦のない姉喰いスキルを打ち込みまくる。


 ズキューン、ズキューン!

「おほっ♡ こ、これはなかなか」

「まてぇぇーっ!」


 体を跳ねさせながら逃げるレジーナをナツキが追いかける。まるでプロレスごっこで戯れる姉弟のようだ。レジーナの緩み切った顔を除けばだが。


 コンコンコン!

 丁度その時、来客の合図であるノックの音が響いた。しかも運悪く逃げたレジーナがドアを開いてしまう。


 ガチャッ!

「あっ、ナツキ様。叙任式の日程ですが――」


「待て待てぇぇーっ!」

 ズキュゥゥゥゥーン!

 ぼよよぉん!


 ドアから顔を出した女性に間違って姉喰いがクリティカルヒットした。しかも胸の辺りに。


「くっ…………」


 怒りなのか眉をピクピクさせているその女性。明るめの茶髪をワンレンボブにしてメガネをかけている。耳にかけている髪がハラハラと顔に落ち、大人の色気を醸し出していた。

 そう、議長になったアリーナである。


「あ、あの、ごめんなさい……」

「くっ…………」

 ナツキが謝罪するがアリーナは無言のままだ。


「えっと……あ、アリーナさん……」

「こ、コホン」


 一つ咳払いをしてからアリーナは話し出す。


「ナツキ様、叙任式の日程が決まりましたのでお知らせにまいりました。一週間後の午前に執り行われます。詳細については追って連絡いたします」


「は、はい……お願いします」


 終始冷静でクールな顔を崩さないアリーナだが、耳が真っ赤になっている。体が熱を帯びているのかネクタイを緩める動作をした。


「では、私はこれで」

 ドアを閉めようとしてから再び開けたアリーナが言う。

「あの、もしよろしければ、後日一緒にお食事でも……い、いえ、今のは忘れてください」


 カチャ!

 今度は本当にドアを閉め戻って行くアリーナ。その顔は真っ赤に染まりピクピクと羞恥に震えている。


「あああ……私は何をしようと……。陛下が結婚相手に選んだ相手を誘うだなんて……」


 そう呟いたアリーナ。元人妻でありながらNTRに目覚めてしまいそうな自分が怖くなる。




 一方、部屋に残された二人だが――――


「ふははっ、私の狙い通りであります。さあ、御主人様、もっとキツいお仕置きを」

「もうっ、レジーナさん!」

「良いぞ、その表情。もっとだ、もっと罵ってくれたまえ」


 ふざけたレジーナにナツキもご立腹だ。


「レジーナさんのバカぁ!」

「うはぁ♡ イイっ! 年下男子に攻められるの」

「こらあああっ!」

 ズキュゥゥゥゥーン!

「うっひぃ♡ お仕置きしないと、もっとイタズラするからな」

「おいこらレジーナぁ……さん」

 ズキュゥゥゥゥーン!

「ぐはあっ♡ そう、それだよ御主人様ぁ♡ 鞭も使ってくれたまえ」


 鞭を掴んだナツキが、ムッチリしたレジーナの尻をペンペンする。


 パシーン!

「ぐっはぁああっ!」

「お仕置きです! お尻ペンペンです!」

 パシーン!

「んっほぉおおっ♡ これを待っていたのであります!」


 レジーナ・ブライアース、年下男子に攻められる夢が叶った瞬間であった。



 レジーナのせいで、またしてもナツキが悪い影響を受けてしまう。ちょっと変な趣味まで身につけ、この最強の姉堕勇者の攻撃力が益々恐ろしいことになってしまった。


 そんな悪いお姉さんたちとイチャコラする日々は過ぎ、遂に叙任式の日を迎えナツキは騎士となる――――


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