第68話 クレアの甘々膝枕
豪華でありながら落ち着いた調度品、適度な踏み心地の絨毯、そして天蓋付きのベッド。ナツキは宮殿の一室にいた。
「うーん、豪華すぎて落ち着かない」
そう呟きながらベッドに腰かける。
あの後、アンナから
ナツキは外の宿で十分だと断ったが、アリーナから『それでは帝国が外交儀礼を知らぬ愚か者と罵られましょう』と言われ、やむなく宮殿の一室を借りることとなる。
今やナツキはただの少年ではなく帝国を解放した勇者なのだから。
そして大将軍である
「でも、ボクが帝国騎士になって勲章をもらうだなんて。何だか凄いことになっちゃったな。いまだに信じられないや。えっと、聖インペラートル金ぴか大勲章だったかな?」
聖インペラートル金翼騎士大勲章である。
「ボクが旅に出てからけっこう経ったよな。デノアの皆はどうしてるんだろ。ミアは元気かな。ふふ、ボクが騎士になったって聞いたら驚くだろうな」
誰にも期待されず一人で帝国に戦いを挑み、いつの間にか大将軍を仲間にしてしまう。そして、戦争を終結させるだけでなく、圧政に苦しむルーテシア国民まで救ってしまったのだ。
これだけの偉業を成し遂げながらも、当のナツキは威張るでもなく驕るでもなく、いつもと同じでマイペースである。呑気なものだ。
コンコンコン!
そこに、突然ノックの音が響き、ナツキは緊張しながらドアを開けた。
ガチャ!
「わたくしですわ」
バタン!
「ちょっと、閉めないでくださいまし!」
コンコンコンコンコン!
扉の向こうにクレアが立っており、ナツキは反射的にドアを閉めてしまった。そっ閉じならぬ即閉じである。
ナツキの脳裏に裸で戦うクレアの姿が鮮明に焼き付き、あれから二人っきりになるのを避けているのだ。
「何もしませんわぁ。開けてくださいましぃ」
「わ、分かりましたから、泣かないでください」
クレアが泣き出しそうになり、慌ててナツキは彼女を部屋に入れてあげた。
二人並んでベッドに座る。クレアと二人になるのは、あれ以来であり、ベッドの上で肩を寄せる状況は非常に危険に思えた。
「あ、あの時はどうかしていましたのよ。わ、わたくし気持ちが昂ってしまって……」
唐突にクレアが裸の件を話し出した。
「そ、そうなんですね。ははは」
軽く笑って流すナツキだが、心の中では滅茶苦茶緊張している。
うわぁああ……クレアさんのイケナイとこが頭から離れないよ。くううっ、ドキドキするぅ……。クレアさんの裸、あんなとこやこんなとこまで綺麗だった。
だ、ダメだダメだ!
結婚するまで……付き合うまでエッチは禁止って言ったはずなのに……もうクレアさんの裸で頭がいっぱいだああ!
悪いお姉さんのせいでナツキがエッチになってしまった。裸で大暴れするなど完全に変態であろう。本当に困ったお姉さんである。
そんなナツキの表情を察してか、落ち着かせようとある提案をするクレアだ。
「そうですわ。ナツキさん、お茶でも飲みましょうか? わたくしメイドに頼んでみますわ」
「は、はい。ありがとうございます、クレアさん」
暫くするとメイドが紅茶を運んできた。ゴロっと大きめ果実で柑橘系とベリー系のジャムが付いたセットだ。
「美味しそうですね」
「ふふっ、ルーテシアティーですわ」
ナツキがカップに手を伸ばそうとすると、それを制したクレアがカップを持ち微笑んだ。
「ナツキさん、わたくしが飲ませてさしあげますわね♡」
そう言ったクレアが、まだ熱い紅茶を『ふーふー』し始めた。
「ふーふー、まだちょっと熱いですわね」
「あの、自分で飲めますから」
「これくらいさせてくださいまし♡ ナツキさんには迷惑をかけてしまいましたのですから」
天使のような笑みで語りかけるクレア。今は優しいお姉ちゃんのようだ。
こんな天使のお姉ちゃんに言われたら逆らえないだろう。
「はい、熱いかもしれないから気をつけてねぇ♡」
「んっ、ごくごく……美味しい」
「ふふっ、こちらもどうぞ♡」
クレアの美しい指がスプーンを持ち、ジャムを一欠けらすくう。
「そうだ、ナツキさん、もっとリラックスして良いですわよ♡」
ぐいっ――
「うわぁ」
クレアに抱き寄せられ、その柔らかでスベスベの太ももの上に顔が乗ってしまう。いわゆる膝枕だ。
「はああぁ、柔らかくて良い匂いで気持ちいい……」
つい口から本音が洩れてしまう。
そのくらいクレアの膝枕の破壊力が凄いのだ。
「はい、ジャムをどうぞ♡」
「あーん……あむっ。うん、甘くて美味しい」
あのナツキがペースを握られている。クレアの甘やかし。恐るべきである。
このままではナツキがダメ人間にされてしまいそうだ。
「はい、紅茶ですよぉ♡」
「ごくごく……」
素直に甘やかされているナツキに、クレアもご満悦だ。
「わたくし、弟が欲しかったんですのよ」
「そうなんですか?」
「はい♡ でも、今はナツキさんがいますから」
「ボクが弟に」
「おもいっきり甘やかせてみせますのよ♡」
実の弟とはこんなプレイはしないのだろうが、クレアの欲しているのは弟みたいな年下男子の彼氏だろう。
ナツキの髪を撫でているクレアが、急にモジモジし始めた。太ももをスリスリとさせ、ナツキの顔が柔らかい脚に埋もれそうになる。
「そ、その……ナツキさん」
「はい?」
「あの時、言いましたわよね」
「えっと?」
「ほら、わたくしがエッチ奴隷役になって……」
「あっ、そうでした。後で埋め合わせするって話ですよね」
「そうですわぁ♡ 何でもしてくださるのですわよね?」
そう、あの時ナツキは『何でもする』と言ってしまった。これはクレアにイケナイコトされても文句は言えないだろう。
「あ、あの、何でもっていっても……」
「わたくしも彼女候補にしてくださいまし♡」
「えっ!」
もっとエッチなことを要求されると思っていたナツキはホッとする。てっきりエッチをさせられると思ったのだ。
「はい、クレアさんを彼女候補にします。クレアさんにはずっとお世話になってましたから。そ、それは、裸で戦い出した時はビックリしましたけど」
「もうっ、それは言いっこなしですわよ♡ でもうれしいですわぁ♡ これで晴てわたくしもナツキさんの彼女。これからは、うんと甘えてもらいますからね♡」
彼女候補のはずだが、やっぱりクレアも彼女になったつもりのようだ。
「そ、それで……わたくしも呼び方を変えて欲しいのですわ。皆さん、姉のように呼んでいますわよね」
他のメンバーの呼び方が特別感があって羨ましいクレアなのだ。
「はい、もちろん。何て呼び方が良いのかな?」
「クレアちゃん、でお願いしますわ♡」
「えええ……ちゃん? でも、年上ですし」
「歳のことは禁句ですわよ」
最年長なのを気にしているようだ。
「わ、分かりました。では、クレアちゃん」
「ぐっはぁあ~ん♡ 極上ですわぁ♡」
クレアちゃん呼びで天にも昇りそうになるクレア。弟系男子にちゃん付けされる夢が叶った瞬間である。
「で、では、わたくしはナツキさんを『なっくん』って呼びますわね♡」
「ええっ、なっくん……ちょっと恥ずかしい」
「ダメですの?」
「い、良い……です」
「きゃはぁあ~ん♡ なっくぅ~ん♡」
ちょっと人には見せられないデレ顔のクレアが蕩けている。
「なっくん♡」
「クレアちゃん」
「なっくぅ~ん♡」
「く、クレアちゃん」
「なぁ~っくん♡」
「クレアちゃ……まだやるんですか?」
「ずっとですわよぉ♡ なっくんなっくんなっくん♡」
「クレアちゃん。ううっ、恥ずかしい」
こうしてクレアが彼女候補六号になった。
◆ ◇ ◆
帝国では政変の残務処理が着々と進み、ナツキの叙任式の準備も整えられている。これも新しい議長に就任したアリーナの手腕によるものだろう。
臨時で議長となったのだが、アンナとしては正式に元老院議長にするつもりだ。
アリーナ・カトレア35歳、幼い子供をもつ一児の母だ。夫とは別れ女手一つで子供を育てるキャリアウーマンである。
と、言っても、ここ帝国は貞操逆転世界であり女性上位国家である為、そのような慣用句は存在しない。女房関白ルーテシア乙女たるもの、強い女なのは当たり前なのだ。
明るい茶髪をワンレンボブにした髪型。分けて額を出した髪の片方は耳に掛けているのが特徴だ。知的な雰囲気のメガネを、たまに指でクイっと上げるのがセクシーポイントである。
そんな彼女がアンナの片腕となり、帝国の不平等な法律や賄賂社会、差別問題や貧困問題に取り組み、急速に改革は進んでいた。
「はあぁ……男欲しい……」
目下、そんな才女である彼女の悩みは、夫と別れてから男日照りが続いていることであった。
◆ ◇ ◆
叙任式が近付くなか、
そう、一人だけラブラブできないレジーナである。
そんな官能小説愛読者で日々悶々としているレジーナが何もしないはずもなく――
遂に実力行使に出てしまうのは仕方がないのかもしれない。
コンコンコン!
レジーナがナツキの部屋のドアをノックする。最期の大将軍が本領発揮する時が迫っていた。
――――――――――――――――
災難続きでハレンチ専門ヒロインだったクレアが本領発揮。甘やかし系ヒロインの出番が増えますよ。
そして、レジーナは……
もし少しでも面白いとか、クレアちゃんかわええとか、アリーナさんにも期待とか思ってもらえたら……もしよろしければフォローや★を頂けるとモチベアップになって嬉しいです。たとえ星1でも泣いて喜びます。いいねやコメントやレビューもお気軽にどうぞ。
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