第63話 花開く時
壁一面に美しい彫刻が施された
その光と音は周囲を警備していた兵士たちの戦意を
「うふふっ、主砲発射、目標は完全に沈黙。死傷者無し。壁に穴が開いたけど後で修理ですわ。ヨーソローですわよ♡」
星を穿つ力とさえいわれる光の大魔法。最大出力で撃てば、それこそ一撃で大破壊を引き起こす最大最強の光魔法である。
だが、クレアは出力を調整し、被害が出ないよう手加減して放ったのだ。
「クレアさん凄いです! 目のやり場に困るけど凄いです!」
興奮したナツキが叫ぶ。
「愛ですわ!」
「愛ですね!」
「愛の
「はい! 例のプールですね」
よく分からないがナツキはクレアに合せている。もう息もピッタリだ。
玉座の間にいるダリアを始めとした親衛隊六人も、廊下を駆け抜けた大魔法の音を耳にした。
「何だ! 何が起きた、敵の襲来か!」
突然の轟音に驚いたウルスラの顔が引きつる。
「落ち着くのです! この威力、かなりの強者だと思われます。反乱軍の大将軍か」
そう言ってダリアが指揮を執る。
「フォーメーションを、敵が魔法使いならばウルスラたち四人の結界で防げるはず! それぞれ所定の配置について。デミトリーは奥で待機!」
「ああぁん、俺は待機かよ」
不満そうな顔で言ったデミトリーが、剣を構えたまま入口の方を見る。
両手足を枷で繋がれたマミカは、うなだれていた顔を上げた。
「ナ、ツ……キ? き、来てくれた。な、ナツキが来てくれたんだ」
悪夢に囚われ心が折れそうになっていたマミカに希望の光が灯る。それは冷え切った心と体を解かし、手足の指一本一本にまで活力をみなぎらせてゆく。
「ナツキぃぃぃぃーっ!」
ナツキの名を呼んだマミカに答えるように、廊下側からナツキの声が響いた。
「マミカお姉様ぁぁぁぁーっ! 助けにきましたぁぁああああ!」
次の瞬間、玉座の間入り口からナツキとクレアが突入した。それに合わせ配置についていた四人が結界魔法を張る。
主に精神魔法防御を得意とする四人だが、伊達に防御魔法レベル7の強者ではない。攻撃魔法防御に於いても、その力を遺憾なく発揮するはずだ。
「「「四重障壁結界陣展開! あらゆる魔法術式を解体し魔法無効の領域を! 術式解体! 魔法無――」」」
ウルスラたちが結界陣を展開する。同時にクレアも魔法術式展開に入る。素っ裸で。
だが、ナツキが一番最初に見たのは、枷で繋がれ床に倒れているマミカだった。
「うああああああああっ! マミカさぁぁぁぁん!」
叫んだナツキがとった行動は、入り口左側に立っていた防御魔法レベル7のフレンダ・アトリーの体に姉喰いを打ち込むことだった。
「たああああああっ! 姉喰い!」
ズキュゥゥゥゥーン!
「ぐはあぁっ!」
瞬時の判断だ。怒りに身を任せ突っ込んで行きそうなところを、一番近くにいる魔法使いに目標変更したのだから。
ナツキは思った。『無敵のお姉様が負けるはずない』と。つまり、四方向に陣取る魔法使いは、例の防御魔法使いなはずだから。
『攻撃するのは、先ずその四人なのだと!』
「ああぁ! くはっ、あふぁ」
姉喰いスキルが体内を甘い電流のように駆け巡ったフレンダが体勢を崩し、四重障壁結界陣が未完成となる。
「やりましたわナツキさん! 未完成の結界など恐ろるるに足らず! ですわっ」
愛の軌跡を描きながら玉座の間に飛び込んだクレアが躍動する。素っ裸で。
「行きますわよ。愛の魔法、
ペカァァァァーッ!
ドォオオオオーン!
「きゃああっ!」
踊るように舞うクレアの両手から慈愛の光が放射される。見た目の可愛らしさからは想像できない力で、受けたルクレースが吹っ飛んだ。
「ルクレース!」
ダリアが叫ぶ。
「ぐっ、ぶ、無事です」
やはりクレアが手加減しているようで、飛ばされたルクレースに怪我はないようだ。
「ウルスラ、ルクレース、ベル、フレンダ、全員で制圧して! デミトリーはそっちの少年を!」
的確に指示を出したダリアが支援魔法を展開する。四人の魔力を増幅しクレアに対処する為だ。
「スキル
シュパァァァァーッ!
「おーっほっほっほっほ♡ バフをかけても、わたくしたちの愛は止められませんことよぉ♡」
まさに愛の
「ぐあああっ、つ、強い! クレア様がこれほどまでとは! でも、何で全裸っ?」
神に愛されたかのように美しい肢体を躍動させるクレアに、攻撃をかわしながらウルスラが声をもらす。
「魔法が防御できぬのなら格闘戦で対処しなさい! 五人いれば何とかなるはずです!」
ダリアは最終手段に出た。
魔法使い同士の戦闘で、まさか取っ組み合いだ。
「たああああっ!」
「とりゃぁぁああっ!」
「ああぁ、クレア様の体がやわらかい」
「ちょっと、フレンダ! ふざけないで」
ダリアの指示で一斉にクレアに掴みかかる四人。姉喰いを受けているフレンダだけ変な気分だ。
「あぁ、くあぁん♡ わ、わたくし、こう見えて相撲の嗜みもありましてよ。格闘でも負けませんわぁ♡」
おかしな展開になり、くんずほぐれつ美女祭りのクレア。しかし、親衛隊五人を引き付けてくれていて、ナツキは真っ直ぐに奥で剣を構えたデミトリーのもとに向かった。
「マミカお姉様! 酷いっ! マミカさんをこんな目に」
部屋の隅で転がされているマミカを見たナツキが怒りで熱くなった。
「ひゃはははははぁあ! テメェが勇者かよ。弱そうな男だなぁ。まあいい、俺様がテメェをぶっ殺して英雄になってやんよ! テメェは俺様の肥やしになるんだよ! 弱いヤツは一生這いつくばって生きてろ! ひゃはああっ!」
一方、対するデミトリーは下品な笑みを浮かべナツキを値踏みする。弱そうだと判断した途端にイキり出した。
「許さない! ボクは、争いは嫌いだけど……でも、大切な人を傷つけられて黙ってはいない! 好きな人を守る為に戦う! ボクは、あなたを倒します」
「はあああぁ!? テメェが俺様を倒すだとぉ! バカ言ってんじゃねえぞガキが! どりゃああっ!」
カキンッ!
鋭い踏み込みからデミトリーが剣を振り下ろす。短剣で受けたナツキは勢いで体勢を崩される。
「ほらぁ! 弱ぇえ弱ぇえ! こんなんが勇者かよ! おらああっ!」
バキッ!
「ぐああっ!」
デミトリーが蹴りを出し、ナツキはたまらず床に転がった。
「ナツキぃぃぃぃーっ!」
繋がれているマミカが叫ぶ。
「だ、大丈夫です、マミカさん。ボクは必ず勝つ。勝ってマミカさんを守る! もう二度とマミカお姉様を悲しませたりしない。お姉様はボクが守るんだああっ!」
ズダダッ!
キンッ! ガシッ、カキィーン!
ナツキが短剣で打ち込むが、全てデミトリーがガードしてしまう。力の差は歴然だ。
「ひゃあぁああっ! 俺様は強い! こりゃ勇者を倒し名声を得るのは俺様だぁ。俺様が勝って手に入れてやる。富も名声も女も。そこのマミカも俺の女にして、毎晩泣かせてやんよ! 『デミトリー様、デミトリー様ぁ』ってなああ! ひゃっはあぁあ!」
ガキンッ! ガンッ! キンッ! ドカッ!
「ぐああっ!」
「おらおらおらぁ! 死ねやガキぃぃぃぃっ!」
強烈なデミトリーの剣を受けるナツキが、翻弄され飛ばされ倒れそうになる。だが、意地と決意で立ち続けナツキは倒れない。
「させない! 絶対にさせない! マミカさんは……マミカお姉様は……ボクの、ボクの彼女候補だああああああっ!
ズドンッ!
「ぐっはああああっ!」
剣を打ち合っている最中に開放したナツキの真のスキル。炎の弾丸を受けたデミトリーがたまらず膝をつく。
剣でガードしたがダメージを受けたようだ。
「ち、ちくしょう……こいつ、攻撃魔法を……」
「ボクは負けない! 守るって決めたんだ!」
「けっ、まぐれが当たっただけだ。もう油断しねえ」
「まぐれじゃない! ボクは勇者になるんだ!」
「うっせええぞ、ガキがああっ!」
ガンッ! カキィン! ガァン!
「おらっ、どうだ! ガキぃ! 俺様が本気を出せば、テメェなんか敵じゃねえんだよ! クソがぁああっ!」
ズガーン! ガキーン!
「ぐあああっ!」
「オラああっ! くらえ! 死ねっ!」
「負けない! 絶対に」
「どっしゃああああっ! 勝つのは俺様だああっ!」
ズガアアアアアアーン!
鋭い踏み込みの一撃でナツキが飛ばされる。そのままデミトリーは剣技スキルの体勢に入った。
「これで終わりだ! 俺様のスキルで串刺しにしてやんよおおおっ! スキル
「終わらせない! ボクは成し遂げてみせる。世界を救う勇者になる! そして大切な人を守る男になるんだ!
ズバババババッ! グガッ、ガガガッ!
「うがあっ、か、体が重い!」
デミトリーが剣技で突進したその瞬間、ナツキの姉喰いスキルで彼の動きが鈍くなった。
そう、マミカの精神掌握のオーラとナツキの姉喰いが
「クソがっ! この程度で俺様を止められると思うなよ!」
「止まらないのはボクの方だ! マミカお姉様にした報い、受けてもらいます!」
剣技スキルを全開にしたデミトリーがナツキを襲う。対するナツキは力が
姉喰い――――
それは心と心を繋ぐ、愛と性と心の繋がりのスキルなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます