第62話 愛の軌跡もしくは変態の軌跡
ナツキたちは下水道を進む。酷い臭いの中を! 汚水に汚れるのも気にせず! たまに飛び出るネズミにも負けず! しかもクレアが裸のままで!
「急ぎましょう!」
「おうなんだナ」
「待ってくださいましぃ」
目の前に分岐した下水道が見える。
「どっちに行けば」
「方向からいって右なんだナ」
「はい!」
ナツキとネルネルが先頭で走り、後からクレアが追いかける。
「はあっ、はあっ、待ってくださいましぃ♡ 走るのは苦手ですわぁ♡」
ばるんっ、ばるんっ、ばるんっ――
そう、空気抵抗が少なく揺れる乳もないナツキとネルネルは問題無いが、クレアの巨乳が走る度にばるんばるんと暴れまくり大変なのだ。(※ネルネルは大きくはないけど、ちゃんとあります)
普段はブラで固定しているから良いのだが、今は何故か全裸で走っているのだから当然だろう。
「クレアさん、もう少しですから」
心配したナツキが振り向くが、すぐ視線を逸らしてしまう。暗い下水道の中でも、白く揺れるクレアの巨乳がバッチリ見えてしまったから。
「くううっ、こんな非常事態なのに、クレアさんがエッチ過ぎて集中できない。ボクはまだ修行が足りないのか!」
クレアのせいで、またナツキの中にウズウズとエッチな欲望が膨らんでしまう。やっぱりクレアも悪いお姉さんだった。お姉さんたち、ナツキに悪い影響を与えすぎである。
「マミカお姉様! 今助けに行きますから。待っていてください。だああああああっ!」
気合を入れ直し、クレアのおっぱいの映像は一時置いておき、ナツキは突き進む。マミカのもとへ!
そこから少し走ると、下水道がターミナルのようになった場所に出た。この下水道の構造からいって、上に大きな建物があるのかもしれない。
「ここを上ると何かありそうですよね?」
ナツキが上を指差すと、ネルネルは闇の触手を伸ばした。
ぐにょぉぉぉぉ~っ!
「たぶん、この辺りが宮殿かもしれないんだナ」
「上ってみましょう」
カンカンカンカンカン――
ナツキが壁に固定された
「ナツキきゅん。先頭は危険なんだゾ。わたしが魔法で天井に穴を開けてみるんだナ」
ニュルニュルニュル――
壁を這うように触手を伸ばし、ネルネルが器用に壁を登る。そのままナツキを追い越して先頭に出た。
コンコンコン!
ネルネルが天井を叩く。
「上に重い石の
「ネルねぇ、気をつけて」
「うん、任せろなんだナ」
カンカンカン――
「やっと追いつきましたわぁ♡」
下からクレアが梯子を上ってくるのが見えた。
ナツキは、順番が逆じゃなくて良かったと感謝する。もし、クレアが自分より上にいたら、大事な部分が丸見えで上を向けないから。
下からクレアのお尻を見るなんて刺激が強過ぎるのだ。
「
ズドオオオオオオーン!
ネルネルが強烈な突き技を出し、天井の石に大穴が開いた。
触手を何本か合わせてから捻じりドリルのようにして突く技だ。
ヒョコッ!
ネルネルが地上に顔を出す。やっと新鮮な空気が吸えると思ったのも束の間、そこは宮殿裏の兵士の大軍が控えている場所だった。
ネルネルと兵士たちが見つめ合い、お互いに沈黙する。
「ネルねぇ、どうですか?」
首を外に出したまま固まっているネルネルを心配して、ナツキが声をかけた。
「う~ん、成功のような失敗のような……どっちもだナ」
はっきりしないネルネルだが、ナツキが上まで行くと意味が分かった。
「侵入者だああああああっ!」
「こ、攻撃開始ぃぃぃぃ!」
「わああああああっ!」
突然地面を突き破り登場したナツキたちに、外の兵士たちが大騒ぎだ。
「敵は一万ほどいそうだゾ」
「どうしましょう?」
「ここはわたしに任せるんだナ。ナツキきゅんはクレアと先に行くんだゾ!」
「はいっ!」
しゅたっ!
マンホールから飛び出たネルネルが、一斉に闇の触手を展開する。その一本一本が恐るべき殺傷力だ。
「
ズシャァァァァーッ! シュバシュバシュバシュバ!
「ネルねぇ! 殺しちゃダメです! 皆はアレクサンドラさんに命令されてるだけですから」
シュババッ! シュババッ! シュババッ!
「難しいんだナ……努力はしてみるゾ」
触手で兵士を掴み投げ飛ばしながら返事をする。ネルネルの魔法ならば一度に多くの兵を串刺しにするのも可能だが、今はナツキに嫌われないよう手加減していた。
「ナツキさん、ネルネルさんが暴れているうちに行きましょう。二人の愛の
シュタッ! シュバッ! ビシッ!
クレアがいつものキメポーズをする。素っ裸で。
「クレアさん! 裸で足を上げないでぇぇーっ!」
サッ!
ギリギリのタイミングでナツキが手を伸ばし、クレアの大事な部分を隠した。今までで一番速い動きをしたかもしれない。
「愛の戦士、ナツキ
クルッ! シュタッ!
「クレアさん、見えまくってます。隠してぇ!」
サッ! サッ!
必死にナツキがクレアの胸やお尻を隠すが追い付かない。もう手だけでは間に合わず顔も使っている。ナツキ本人には見えまくっているが、もうきっとバッチリ脳裏に焼き付いて離れないだろう。
「うわあっ、こ、こうなっていたのか……」
何処とは言えないが、ナツキが何かの感想を溢す。
クレア……一番悪いお姉さんかもしれない。
突然現れた裸のクレアがサービススケベしまくりで、兵士たちの戦意が削がれた。何故か前屈みになる兵士続出だ。
「うおおっ! 麗しのクレア様がすっぽんぽんだと!」
「くうっ、何で毎回クレア様はオカズを提供してくるんだ」
「わざとなのか? わざとやってるのか?」
「くそっ! もうクレア様で頭がいっぱいだぜ」
そんな男兵士に女兵士もご立腹だ。
「ちょっと男子っ!」
「私たちの憧れクレア様の裸を見るなぁ」
「そうよ! クレア様は全裸健康法をやってんのよ」
「そうよそうよ! やってんのよ……多分」
大混乱になる兵士たちだが、一部ではクレアの破廉恥のおかげで戦闘も収まっている。
「もしかして、クレアさん。自分が裸になることで戦闘を止めさせようと……。ごめんなさい! ボクは勘違いしてました。クレアさんの変態は、ただの変態じゃないんですね。平和の変態だったなんて」
やっぱりナツキが誤解した。もう通常運行だ。
さすがクレアさん。通称『さすクレ』いや『さすおね』である。
「さあっ! 行きますわよ! わたくしたちの未来の為に! さあっ! さあっ!」
聞いているのかいないのか、裸のクレアはノリノリだ。もう誰も彼女の変態を止められない。
こうしてナツキとクレアは宮殿裏口から内部に突入した。クレアに言わせれば、二人の愛の
若干、変態の軌跡な気もするが。
◆ ◇ ◆
宮殿、玉座の間――――
外の様子が気になるダリアが、一度室外に出て部下の報告を受けていた。戦局が混乱していて、いまいち状況がつかめないのだ。
「どうだったのダリア?」
室内に戻ったダリアに、ルクレースが声をかける。
「それが……正面前広場は混乱しているようです。近衛軍が反乱軍と戦闘中にレジーナ様が暴走されたそうで……」
そこでダリアが言葉を止める。
「ああ……つまり大混乱というか大混戦と言いたいのね」
ウルスラが口を挟む。あの地上最強である剣聖のデタラメっぷりは、帝覧武闘大会の時に何度も見ているのだから。
「はっ、あんたたちなんて、ナツキ
話を聞いていたマミカが口を開く。
すかさずデミトリーが罵声を浴びせた。
「おい、てめぇ! なに勝手に喋ってんだコラッ! 助けなんか来るわけねーだろ! 誰が他人の為にわざわざ危険を冒して来るってんだよ」
「ふーん、ナツキなら来てくれるもんね!」
「ぎゃっははははっ! 来るわけねーだろが! お前ら大将軍も仲悪かったしな。誰も自分が一番なんだぜ。他人の為に命を懸けるなんてあり得ねえ! けっ、笑えるぜ。来ない助けを待ってるなんてよ。助けは来ねえ! マミカぁ、お前は見捨てられたんだよ! ひゃっはははははっ!」
「ぐっ…………来る……絶対来るもん……うっ……」
デミトリーの言葉で、マミカが過去の傷を思い出してしまう。それは頻繁に見ていた悪夢。ナツキと一緒だった時には癒されていた傷だった。
『やーい、お前、親に棄てられたんだってな』
『うっわーっ、かわいそっ!』
『誰もマミカなんか必要としてないんだよ!』
『そうだ、お前はゴミ女だ。やーいゴミ女』
幼い頃の記憶が甦る。
「来る……絶対来るし……うううっ……アタシは見捨てられてなんかない……アタシは……ぐすっ、ううっ……」
涙を流すマミカを見たデミトリーが、更に調子に乗ってしまう。典型的な
「うひゃひゃひゃあ! 泣きやがったぜ。恐怖の女王が涙かよ。こりゃ最高だぜ! 泣け! もっと泣け! あひゃひゃはははははっ!」
シュバァァァァババババババババババ!
ズドドドドドドドドドドーン!
その時、廊下側で眩い閃光が走り、何かを吹き飛ばす爆音が轟く。
その音は奇跡の勇者の到来を告げる鐘の音か、はたまた、全裸の痴女のレーザービームか。至高の宮殿玉座の間に役者は揃ったのだ。
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